鈴木 愛美 氏|フリーランス人事 / 「組織の左腕」人事戦略コーチ
立ち上げ、コンサルファームのバックオフィス・教育研修専任、人材紹介・採用・教育・文化醸成など、多様なキャリアを経て人事領域に軸足を移す。
その後、EV充電インフラのベンチャーで一人目専任人事を経験し、2023年5月にフリーランスとして独立。現在は中小企業〜スタートアップ向けに採用・人事の伴走支援を行うとともに、「組織の左腕」にて一人目人事を育成する「一人目人事コーチング」を担当している。
人生のテーマは「人生は仲間づくり」。
現在の活動について
── まずは、現在のご活動について伺ってもよろしいですか。
今、フリーランス3期目になります。主に中小企業、ベンチャー、スタートアップ向けに、採用や人事領域の支援をしています。
支援スタイルは大きく二つです。一つはRPOのように、その企業の人事担当者として戦略から実務まで幅広く入り込む形。もう一つは、いま私が所属している「組織の左腕」にもつながりますが、人事として動ける人材を“コーチング”という手法で育てる形です。この二軸で活動しています。
「組織の左腕」への参画背景と、新規事業誕生
── 「組織の左腕」には、どのように関わっているのでしょうか。また、参画の経緯も伺えますか。
フリーランスとして3年間一人で動いてきた中で、工数的に限界を感じていました。ベンチャーの人事は、人を採るだけでなく、カルチャーづくりまで含めて深く入り込む必要があります。仕組みだけ整えて「後は社内で回してください」では現場は動かない。その一方で、「もっとやりたいのに自分一人では足りない」というもどかしさも抱えていました。
そこで、自分が背中を預けられるパートナーと組むことで、より深く支援できるのではと考え、「組織の左腕」への参画を決めました。
実は「組織の左腕」はまだ2期目の会社で、代表の桑田さんのコーチングサービスを始められた頃からYouTubeで拝見していました。ただ、初期コーチの応募条件が「大卒・コンサルorコーチング経験・年収1,000万円以上の実績」などかなり高くて…。私は高卒なので、そもそも応募要件を満たしていなかったんです。
そこで正面突破ではなく“裏門”を探しました。1年ほどかけて辿り着いたのが、桑田さんの個人チャンネルで行われていた「秘書オーディション」。その企画の中で、「組織の左腕」に入り込むチャンスを掴んだ形です。
── その経験が、現在の新規事業につながっているのでしょうか。
そうですね。今年10月にリリースした「一人目人事コーチング」という新サービスがその第一歩です。
支援先として多いのは、社長の下に横並びでメンバーがいるなど、まだ綺麗な組織のピラミッドができていない規模の会社です。本来、社長はトッププレイヤーとして事業づくりに集中したい。でも人も増え、組織づくりの重要性が高まってジレンマが生まれる──そんなフェーズですね。
そこで、社長のマインドや会社の方向性・未来の構想を理解したうえで、人事として内側から組織をつくれる人材を育てる。それがこのコーチングプログラムの目的です。
破天荒な小学生時代と、「人が笑う場」をつくる感覚

── ここからはキャリアを少し遡らせてください。小学生の頃はどんなお子さんでしたか。
かなり気が強くて、破天荒でした(笑)。やりたいと思ったことは絶対やるタイプで、クラスのイベントごとは基本的に率先して前に出て仕切っていました。
ただ、自分が目立ちたいというよりは「人が笑っている場をつくる」のが好きでした。文化祭や体育祭など、自分が場をつくって、そこで人が笑い合っているのを見ると、すごく幸福感が高いんです。この感覚は今も変わっていません。
高校卒業後、エステの世界へ
── 高校卒業後はエステティシャンになられていますが、進路はどのように決まったのでしょうか。
仲の良かった友だちがみんな美容系の専門学校に進学したことがきっかけです。私自身も美容には興味がありましたし、「勉強がとにかく嫌い」だったので(笑)、早く現場に出て働きたかったんです。
美容の中でもエステを選んだのは、「人の体に触れることが苦じゃなかったから」。小さい頃からおじいちゃん・おばあちゃんの肩もみをしていて、目の前の人の体が楽になって「ありがとう」と言ってもらえるのがすごく嬉しかった。友だちの中には「知らない人の体に触るのはちょっと…」という子もいて、「これは私の得意なことなんだ」と気づきました。
美容専門学校に行く選択肢もありましたが、学校で学んでも結局就職後に一から研修があると聞いて、「それなら最初から現場で学びたい」と思い、18歳で直接エステサロンに就職しました。
エステとキャバクラで鍛えられた対人スキル
── エステ時代についても少し教えてください。
エステは3年ほど続けました。その間、キャバクラとの掛け持ちも1〜2年ほどしていました。正直、コミュニケーションという意味ではキャバクラの方が学びは大きかったかもしれません。
1日に10〜20人の新規のお客様と話すことを、週6ペースで続ける。そこで「相手が何を求めているかを察する力」や、「初対面の人と話す耐性」がかなり鍛えられました。この経験は、今の採用面接や1on1にも確実につながっています。
介護フランチャイズ本部での新規事業立ち上げ
── 次のステップとなる介護領域では、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
仕事を通じて出会った方が、介護施設をフランチャイズ展開する会社の会長で、そのご縁で転職しました。私は会長秘書と、新規事業「介護フットサル」の立ち上げを担当しました。
フットサルというスポーツを通じて、介護業界で働く人たちの“横のつながり”と、若い世代との“縦のつながり”をつくるイベント事業です。最初のイベントが「正直、全然おもしろくなかった」ので(笑)、「絶対私がやった方が面白い!」となり、企画・集客・運営をすべて自分でやるようになりました。
平日はフットサル、週末は大きめのイベントと、毎日のように走り回る日々でしたが、「人を巻き込んで場をつくる」ことが本当に好きなんだと改めて実感しました。

25歳の転機:介護現場からコンサルファームへ
── そこからコンサルファームへ移られたきっかけを教えてください。
介護領域はやりがいがある一方で、とにかくハードワークでした。25歳の頃、「結婚したい」「出産もしたい」と初めて自分のプライベートを真剣に考えたとき、「この働き方では叶わない」と感じて体調を崩してしまったんです。
そこで一度立ち止まって、「結婚・出産も大事。でも経営にも興味があるし、経営者と話したり、自分で物事を動かすのも好き」という自分の本音に気づきました。その両方を活かせる場所を探して、たどり着いたのがコンサルファームのバックオフィスでした。
入社時に社長と、「私はこういう働き方をしたい」とゴールを握っていたので、「前例のない女性の働き方をつくる」というテーマも含めて入社しました。そこでは総務、社長秘書、部門アシスタントなど、バックオフィス全般を経験しました。
人事キャリアのスタートと、「地獄の1on1」
── 人事キャリアのスタートはどのタイミングだったのでしょうか。
会社が新卒採用に力を入れ始めた頃、3期連続売上横ばい・従業員数も増えない、という壁にぶつかりました。議論を重ねた結果、「教育環境が整っていないこと」が原因だと分かり、「教育研修をちゃんとやろう」という話になったんです。
「会社のことをよく分かっていて、文化づくりもできる人がいいよね」ということで、教育研修専任に抜擢されたのが、人事キャリアのスタートでした。その後、「入り口もやらせてください」と採用にも手を広げ、人材紹介・採用・教育研修・文化醸成まで、トータルで7年間勤めました。
── その7年間で、特に印象的な出来事はありますか。景を教えてください。
COOとの毎週の1on1ですね。私は「地獄のミーティング」と呼んでいました(笑)。
毎回、「組織って何のためにあるんだろうね?」「人生って何だろうね?」といった正解のない問いを投げかけられるんです。それまで自分の人生や価値観について深く考えたことがなかったので、最初は本当に答えに詰まりました。でも、答えなきゃいけないから考える。
その繰り返しの中で、「自分はどういうときに幸せを感じるのか」「どんな人生にしたいのか」「そのためになぜこの組織を選んでいるのか」と、自分と向き合うようになりました。結果として、「人事として、みんなにどんな価値を提供したいのか」を言語化できたんです。ここで自分の人事観が形づくられたと思っています。
EV充電インフラ・ベンチャーでの一人目人事
── そこからEV充電インフラのベンチャーに転職された理由は何だったのでしょうか。
前職のコンサルファームが80名規模になり、人事部も4〜5名体制に増えて、採用・教育・労務などがきれいに縦割りになってきたタイミングで、「もっと全部を網羅して知りたい」という欲が出てきました。
そこで、「もう一度ベンチャーに行こう」と決め、一人目人事としてEV充電インフラの会社にジョインしました。決め手は「人」と「次の世代の未来をつくる事業」です。
その会社は、電柱のような無機質なインフラではなく、木材を使ったデザイン性のある充電器をつくっていて、「人が続けたくなる未来をつくろう」というミッションにも共感しました。実際に入社してみても、ポジティブで未来志向のメンバーばかりで、採用・労務・制度運用まで幅広く経験させてもらいました。
フリーランス独立と、働き方・仕事観の変化
── その後、2023年5月にフリーランスとして独立されています。なぜ独立を選ばれたのでしょうか。
当時、経理のアウトソーシングはかなり普及していた一方で、「人事のアウトソーシング」はまだそこまで多くありませんでした。でも、一人目人事として企業の中に入る中で、「この経験には市場価値がある」と実感していたんです。
会社ではなく「個人」としてどこまで戦えるのか試したかった、というのが一つ。もう一つは子どもの小学校入学を控え、自分の働き方を自分でコントロールできるようにしたかった、という理由です。
── 実際に独立してみて、いかがでしたか。
正直、良かったことしかないですね(笑)。
1社目のクライアントは前職からの業務委託で、そのままお仕事をいただいたので、いきなりゼロからのスタートではありませんでした。クライアント運も良く、「ありがたい」の一言です。
一方で、「会社に属していれば、自分の領域外の仕事も“成長機会”として与えてもらえるし、お給料も出る」という感覚は完全になくなりました。フリーランスは、「自分が今できること」に対して企業がお金を払ってくれる。だからこそ、「自分からできることを広げにいく」意識がすごく大事だと感じています。
フリーランスとしての案件数と、工数の考え方
── これまで、フリーランスとしてはどれくらいの企業とお仕事されてきましたか。
4社です。最大でも同時進行は3社まで。それに加えて、個人で人事をやっている方々のメンターのようなポジションでフォローに入ることもあります。
── 工数や役割の分担はどのように考えていますか。
全部を自分がオペレーターとしてやってしまうと、工数の限界が来ますし、「もっとやりたいこと」に時間を使えなくなります。
なので、「仕組みを一気に作る → それを回せる仲間を集める → オペレーションを任せる → 自分は構築側に工数を使う」という流れを意識しています。
私は人事領域の経験は幅広いですが、一つひとつは“浅く広く”。横串でプロジェクト全体を回すのが得意なので、そこに各領域のプロを配置してもらうイメージです。最初から100点を目指すのではなく、「まずは50〜60点でいいから形にする。そこからプロと一緒に100点にしていく」感覚で動いています。
得意領域:採用・面接・1on1・退職面談
── 改めて、ご自身の得意領域について伺えますか。
業界の縛りはあまりなく、得意なのは採用領域です。特に、面接・入社後の1on1・退職面談など、「人とじっくり話す場」が一番得意です。
レイヤーでいうと、メンバー〜マネージャークラスが多いですね。CXOレベルは経営層にお任せし、私はトスアップまで、ということが多いです。
クライアントからよく求められるのは、面接官の教育と面接代行。最初はオペレーション部分の代行から始まり、「面接もお願いしたい」「面接官の観点を整えてほしい」といったニーズが出てきます。
また、ATSや人事・労務システムの導入支援も多いです。業務フローを理解したうえで「どこにどうシステムをはめるか」を設計しないと、現場には浸透しないので、そこを一緒に設計していきます。
ウェットなコミュニケーションで制度を根付かせる

── システムや制度の導入時に意識されていることはありますか。
「ウェットなコミュニケーション」をすごく大事にしています。
新しい制度やシステムを「これやります」とアナウンスして終わり、というケースは多いですが、それだけだと現場はほぼ動きません。重要なのは、その制度によって「その人自身の未来がどう良くなるのか」を一緒に描くことです。
まずはキーパーソンに対して、
「なぜこのシステムを導入したいのか」
「導入しない場合、組織にどんなデメリットがあるか」
を丁寧に伝え、“自分ごと”にしてもらいます。
同時に、操作が苦手な方に向けてマニュアルやフォロー体制を整え、「面倒だ」と感じるポイントを減らす工夫も欠かせません。一見すると非効率に見えるかもしれませんが、制度を現場に根付かせるうえで、こうしたウェットなやり取りはとても重要だと思っています。
フリーランスとしての案件選びと、相性の良いフェーズ
── フリーランスとして活動する中で、案件選びの軸はありますか。
一つ目は、相手が困っていること・課題に対して、自分の「今できること」で価値を提供できるかどうか。これは大前提です。
もう一つは、その方たちとパートナーを組んだときに、自分自身が何を学び、どんな成長ができるかを明確にイメージできるかどうか。ここもかなり重視しています。私は毎回「違うテーマで成長したい」と思っているので。
── これまでどのような企業を、どの層に対して支援されてきましたか。
従業員数でいうと20〜30名、最大で130名程の企業様を担当してきました。売上でいうと5〜10億、10〜30億、その先、という3つくらいのゾーンに分かれる感覚があります。
一番相性が良いのは20〜30名規模の会社ですね。信頼してある程度権限を任せていただきやすく、スピード感も出しやすい。一方で、従業員数が多くなるほど巻き込む範囲も広がり、何かを変えようとした時の影響範囲も大きくなるので、難易度は上がっていきます。
── 一緒に働く上で、大切にされているポイントはありますか。
素直で、元気で、前向きな人たちと一緒に働きたいですし、自分もそうありたいと思っています。
仕事以外で大事にしている時間と、興味関心
── お仕事以外で、大切にしている趣味や関心事はありますか。
二つあります。一つは「朝の散歩」です。リフレッシュの時間であり、内省の時間にもなっています。「今日は何をやる?」「それは何のためにやるんだっけ?」と、自分に問いを投げかける時間ですね。
もう一つはサウナ。かなりのスマホ依存症なので(笑)、強制的にスマホから離れられる空間がサウナなんです。運動に近い感覚で、一度そちらに意識がバーッと向くことで、頭を一度真っ白にできる感覚があります。
── 仕事に関わる分野で、最近特に興味のあるテーマはありますか。
コーチングと、採用領域におけるAIの活用ですね。特にAI面接のような仕組みが増えてきているので、自分の強みである「人と話すこと・面接」との関係性をどう変化させていくかは、今後も追いかけていきたいテーマです。
PR・今後について
── ご自身の強みは、どんな点だと思われますか。
「推進力」だと思っています。ウェットなコミュニケーションを通じて周囲を巻き込み、物事を前に進めていくこと。これまでのエピソードも、どこかで必ず推進力が必要な場面ばかりでした。
企画やアイデアだけで終わらせず、「実現」まで持っていく。その最後の一歩をやり切るところが、自分の強みかなと感じています。
── 今後の目標について、「組織の左腕」でのキャリアと、その先の構想を教えてください。
長期的なことはあまりガチガチに決めすぎず、1年単位で変化に柔軟に対応できる自分でいたいと思っています。
短期的には、「一人目人事コーチング」を通じて、人事の視点・ノウハウ・マインドセットと、経営者のマインドセット、その両方を持った人材を育てること。その人たちが自社の魅力を社内で活性化させていくプロセスを、伴走していきたいです。
その先として、「人事になりたい人のキャリア支援」をやっていきたいと考えています。社内で人事に興味があっても異動できない人や、未経験で人事を希望しても門前払いになってしまう人はまだまだ多い。
一方には、一人目人事として実装を進める中で「工数が足りない」企業がいて、もう一方には「人事としてファーストキャリアを積みたい人」がいる。この二者をマッチングさせるようなサービスを、次のフェーズでつくっていきたいです。
人事に向いている人・向いていない人
── 「人事になりたい人には、みんななってほしい」とのお話が印象的でした。一方で、向き・不向きもあると思います。それぞれどのように考えていますか。
理想の人事像は「人と情報が自然と集まる人」です。組織の中で「話しかけやすい存在」であることがすごく大事だと感じています。
そのために必要な要素を三つ挙げると──
1つ目は社交性。
人事だけで完結する仕事はほとんどなく、様々な部署と関わるので、人を巻き込む力が求められます。
2つ目は未来志向。
目の前の課題だけに囚われず、「目的に対してどう進むべきか」を考え、とりあえず一歩やってみることができる人がいいなと思います。
3つ目は共感力。
組織は最終的には「個人の集合体」です。他人の感情や価値観に寄り添って、その人以上にその人の幸せを考えられる人だと、人事として大きな力を発揮できると思います。
逆に、この三つに強い抵抗がある場合は、人事としては少ししんどいかもしれません。「人と向き合うこと」に抵抗が強いと、つらくなってしまうと思います。
読者へのメッセージ──人生のテーマは「仲間づくり」
── 最後に、この記事を読んでいる方に向けてメッセージをお願いします。
私の人生のテーマは、「人生は仲間づくり」です。仕事も、その仲間をつくるための手段だと思っています。
ここでいう仲間は、「昔話を共有する相手」ではなく、「これからの未来を一緒につくっていける人たち」。そういう人たちと出会い続けるためには、自分自身もレベルアップし続けなければいけないし、パートナーとして選んでもらえる存在であり続ける必要があります。
だからこそ、ポジティブで、未来志向な人たちと、仕事でもプライベートでも、いろんな形で関わっていけたら嬉しいです。「面白いこと、一緒にやっていきましょう」とお伝えしたいですね。
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