西尾 慎祐 氏|株式会社ビビッドガーデン 執行役員CTO
山梨県出身。山梨大学で機械工学から情報系へ転学科し、大学院まで情報分野を専攻。新卒で SIer に入社し、Ruby・C# を用いた新規開発や大規模リプレース案件を担当、技術選定・要件定義まで担うフルスタックエンジニアとして経験を積む。
一次産業の課題とエンジニアリングの親和性に魅力を感じ、ビビッドガーデンへ一人目の正社員エンジニアとして参画。「食べチョク」の立ち上げ期からプロダクト開発と基盤整備を牽引。
2022年より執行役員CTO。現在は技術に加え、食べチョク事業全体の戦略や組織づくりも担当し、「農家が安心して頼れるインフラをつくる」ことをミッションに一次産業のアップデートに挑む。
株式会社ビビッドガーデン

── 御社の事業内容から伺ってもよろしいでしょうか。
弊社は、一次産業の課題を解決することをミッションに事業を展開している会社です。
メイン事業は、オンラインの直売所サービス「食べチョク」です。生産者さんが農作物などを出品し、ユーザーが直接購入できる EC サイトで、生産者と消費者をつなぐ直販プラットフォームになっています。
一次産業の課題解決を掲げているため、「食べチョク」を中心としつつ、流通領域に関する複数のサービスも展開しています。例えば、農産物を使った冷凍加工品サービス「Vivid TABLE」、ネットスーパー「食べチョク ドットミィ」などです。
さらに、官公庁向けのサービスも提供しており、農業・漁業を中心とした一次産業全般に関わるビジネスを広く展開しています。
キャリアの原点について

── どのようなお子さんだったのか、その頃のお話を伺えればと思います。
正直に言うと、あまり真面目なタイプではなかったと思います(笑)。
家には小学生の頃からパソコンがありました。両親が研究職のような仕事をしていて、プログラミングにも触れていたので、その影響で小中学生の頃から少しコードを書いていました。ただ、勉強に使うというより、オンラインゲームにどっぷりはまっていて、パソコンは“ゲーム機”という感覚でした。
── 高校の段階では、すでに情報系の道を意識していたのでしょうか?
いえ、高校は普通科で、プログラミングは趣味の範囲でした。ゲームが好きで「自分でも作ってみたい」という気持ちがあり、その延長でコードを書いていた程度ですね。
大学進学と転機(機械工学から情報学へ)
── 大学・大学院ではどのようなことを学ばれていたのでしょうか。
地元が山梨で、「近いから」という理由もあり山梨大学に進学しました。最初は機械工学科に入り、将来像もあまり描けていませんでした。
大学1年から製図など機械系の基礎を学んでいましたが、そこまで興味が持てずにいたとき、印象的な出来事がありました。授業中に先生が「この中で車を分解したことがある人はいますか?」と聞いたところ、何人も手が挙がったんです。
その瞬間、「このまま興味の持てない分野を続けていいのか」と強く考えさせられました。大学は“学びたいことを学ぶ場所”だと実感し、「自分が本当に好きなものは何か」を改めて考えるようになりました。
小中の頃から触れていたプログラミングやパソコンの方が、自分にとって自然だと感じ、先生に相談したところ「転学科してみたら?」と背中を押してもらいました。試験を受け、1年生の末に情報系の学科へ移ることにしました。
── 情報系へ移ってみていかがでしたか?
すごく良かったです。興味のある分野は、やっぱり面白いんですよね。
専門的な内容が増えていく中で、「コンピューターってこんな仕組みで動いているんだ」といった発見が毎回あって、純粋に学ぶことが楽しくなりました。
── 大学院に進まれた理由も教えてください。
4年生から研究が始まるのですが、1年間だけでは短いと感じていました。もっと深く勉強したいという気持ちと、大学院進学が一般的な環境だったこともあり、「せっかくだし続けよう」という感覚で大学院まで進みました。
SIerへの就職とそこで得た学び
── 大学院修了後は SI 企業に就職されています。入社のきっかけは何だったのでしょうか。
学生時代、自分で技術書の解説記事を作ってウェブ上で公開していたのですが、その技術情報共有サービスを運営していたのが、後に就職するSI企業でした。今でいうZennに近いサービスです。
その会社には自分が知っている有名な技術者も在籍しており、サービス自体もGauche という技術で作られていました。「こんな尖った技術を使う会社があるんだ」とワクワクしたのを覚えています。使っていたサービスへの親近感と、技術的に強そうな印象が重なって、その会社を選びました。
── 入社後はどのような業務を担当されていましたか。
サービス運営では尖った技術を使っていましたが、会社全体は SI がメインで、Ruby や C# を用いた開発が多かったです。約6年間在籍し、ゼロからの新規開発と、既存システムのフルリプレース案件を中心に担当しました。
入社3年目からはリーダーとなり、要件定義や技術選定にも携わるようになりました。
── SI 時代に得た学びで、特に印象的なものはありますか?
一つは「技術選定を自分たちで自由に決められたこと」です。要件定義の段階から関わるので、どんな技術を使うのか自分たちで考えられる。技術者として非常に楽しい環境でした。
もう一つは「多様なビジネスに触れられたこと」です。SNS のようなサービスから業務システム、長く関わった動画配信サービスまで、幅広い領域の開発を経験しました。
動画配信のフルリプレース案件では、アーキテクチャ設計から細かな技術課題まで幅広く担当し、とくに字幕まわりは情報が少なく、専門会社に話を聞きに行きながら手探りで実装を進めました。
さまざまな業界の裏側に触れ、「ビジネスってこういうふうに動いているんだ」と体感できたことは、大きな財産になっています。
ビビッドガーデンとの出会い
── ビビッドガーデンとの出会いについて教えてください。
当時は30歳手前で、強く転職を考えていたわけではありませんでしたが、別の会社さんから GitHub 経由でメールをいただいたのがきっかけでした。
その会社は、まさにこれからサービスを立ち上げていくフェーズで、「ここからどう作っていくか」を考える段階にありました。それが面白そうで、「ここに転職しようかな」と思い始めたんです。
ただ、一社だけで決めるのもどうかと思い、同じようなアーリーフェーズの会社をもう一社見てみようと探したときに、インターネットの紹介ページでビビッドガーデンを見つけました。会社が立ち上がって間もないタイミングで、自分から応募して話を聞きに行きました。
なぜビビッドガーデンを選んだのか:一次産業×ITの可能性
ビビッドガーデンに興味を持った一番の理由は、一次産業の課題解決を掲げていたことです。他の会社と比べても、「解くべき課題」が非常に明確だと感じました。
特に農業は「農家さんが儲からない」という構造的な問題がわかりやすく、IT が介在する余地も大きい。実際に話を聞きに行って、「この領域は面白そうだ」と強く感じました。
当時、「エンジニアが一次産業に関わる」というイメージはほとんどありませんでしたが、農作業そのものではなく、エンジニアリングで支援できる余白が非常に大きいと感じました。課題が多く、困っている人も多い。その中で自分が貢献できる余地が大きそうだと思い、最終的にビビッドガーデンを選びました。

一人目エンジニアとしての入社と最初の開発フェーズ
── 一人目の正社員エンジニアとして入社されたとのことですが、当時の体制について教えてください。
入社前は、基本的に業務委託の外部エンジニアの方々に開発してもらっている状況でした。
私が入社したのは、食べチョクの立ち上げから1年経っていない頃で、「ユーザーが買える最低限の機能はある」という段階。ただ、裏側の仕組みはほとんど整っておらず、初めて画面を見たときは「よくこれで動いているな…」という印象でした。
── 入社後はどのような業務からスタートしたのでしょうか。
最初の頃はほとんど開発です。外部の方と一緒に、ひたすら機能を整え、増やし、安定させていく作業でした。
その後、正社員エンジニアが2名ほど加わり、少しずつチームらしくなっていきました。当時は EC として基礎的な機能がまだ足りておらず、カート機能ひとつとっても、既存設計では対応しづらい部分が多く、裏側の設計から見直す必要がありました。
── 入社当時、特に印象に残っていることはありますか?
人が少ない中でビジネスの根本から考える役割も担わなければならず、その点はかなり苦労しました。
SIer 時代は、基本的にクライアントから要件をいただき、その範囲でどう解くかを考える仕事でしたが、ビビッドガーデンでは「そもそも何を解くべきか」から一緒に考える必要がありました。
入社後すぐに、飲食店向けサービス「食べチョクPro」の立ち上げがありました。農家さんの課題は明確ですが、飲食店側が何に困っているのか、どうすれば使ってもらえるのかを理解するところから始める必要があり、そこが最初の大きな壁でした。
一方で、飲食店の方や農家さんの中には初期から非常に協力的な方が多く、オフィスに来て壁打ちに付き合ってくださるなど、支えてもらった部分も大きかったです。
アーリーフェーズでジョインしたことで、サービスや組織が大きくなっていくプロセスを間近で見られたのは、今振り返っても貴重な経験だと思います。入社当初は「1日に注文が1件入るかどうか」だったものが、少しずつ増え、いつの間にか当たり前のように多くの注文が入るようになっていきました。
CTO就任の背景と心境の変化
── 2022年5月に執行役員 CTO に就任されていますが、その経緯や当時の心情について伺えますか。
当時、会社には執行役員や CTO といった役職はなく、2022年頃に「経営体制を強化したい」という話が持ち上がりました。そのタイミングで、私を含む数名が執行役員に就任することになりました。
私はもともと技術領域を見ていたこともあり、「技術的な視点を持ちながら経営にも力を入れてほしい」と打診を受けましたが、最初は正直かなり悩みました。
── どのような点で悩まれたのでしょうか。
大きかったのは、役割が変わることへの不安です。
手を動かすことが好きで、技術的にもキャッチアップを続けたいという思いがあったので、経営寄りになることでプレイヤー比率が減り、技術から遠ざかってしまうのではないかという心配がありました。「このまま長く続けて、技術者として大丈夫だろうか」という迷いもありました。
── 最終的に就任を決められた理由は?
「良いチャンスだ」と思えたからです。
SI 時代もいろいろなビジネスに触れることが面白かったのですが、経営はまた別の視点や知識が必要になります。それを学べる機会として魅力を感じましたし、「チャレンジしたい」と言って得られる役割ではないとも思いました。
やってみないと分からないことも多いので、一度飛び込んでみようと就任を決めました。
現在の役割:技術からビジネス全体へ
── 現在の役割や業務内容について教えてください。
CTO という肩書きではありますが、ここ1年ほどで役割は大きく変わっています。
以前は技術・プロダクト寄りの業務が中心でしたが、今は 食べチョク全体のビジネスを見る役割が中心です。事業計画の策定、予算編成、組織体制の設計といった「事業をどう伸ばすか」を考える仕事が7〜8割を占めています。
開発チームも見ていますが、技術的な実務に使える時間はかなり減りました。一方で、手が足りないところは今でも自分でコードを書くこともあり、完全に開発から離れているわけではありません。
事業の魅力:課題の明確さと「役に立っている実感」

── ビビッドガーデン(食べチョク)事業の魅力をどのように感じていますか。
一番の魅力は、課題が非常に分かりやすく、貢献の実感を得やすいことです。
農家さんが十分に儲からないという構造的な課題は明確で、それを IT の力で改善できたときのインパクトも大きい。
また、生産者さんとの距離が非常に近い会社です。オフィスに来てくださる方もいますし、オンラインコミュニティでも頻繁にやり取りがあります。「売上が伸びて助かった」といった声を直接いただくことも多く、自分たちが作った機能が誰かの収入や生活の安定に直結していることを実感しやすい環境です。
技術者として、とてもやりがいのあるビジネスだと思っています。
現在の組織体制
── 現在の組織体制について教えてください。
会社全体としては、大きく3つの事業部があります。
1つ目が私が見ている 食べチョク事業部、2つ目が 新規事業の事業部、3つ目が 自治体向け事業部です。この3つの「縦のライン」に加えて、横断的に プロダクト組織 や支援部門が存在しています。
プロダクト組織は、各事業部をまたいで機能を提供する横串のチームです。食べチョク事業部はビジネス側も含めて約20名で、そのうちプロダクト関連が約10名ほど。PdM も含めると12名前後の規模です。
── 事業部ごとにエンジニアを配置するのではなく、横断組織にしている理由は?
人員が潤沢ではないこともありますが、新規事業や自治体向けプロダクトは、立ち上げ時には工数がかかる一方で、常にフルで人をアサインするフェーズではないことが多いからです。
一方で、軸となるのは食べチョクのプロダクト開発です。そこを中心にしながら、横断的に人員をアサインした方が、全体として効率の良い体制になると考えています。
── プロダクト組織として、いま特に注力していることは何でしょうか。
最近は 生産性改善 をテーマに、AI の活用に力を入れています。AI ワーキンググループを立ち上げ、業務効率化やプロダクト改善にどう取り入れるかを検討しています。
文章生成は AI が得意な領域なので、すでに一部ではユーザー向けにも実装しています。例えば、生産者さんとお客様とのやりとりの文章作成をサポートしたり、商品の魅力を伝える商品ページの説明文を AI が補助したりといった形です。
これからは、外部向けの AI プロダクトも立ち上げていきたいと考えています。
プロダクト組織の魅力:想いの強さと共創姿勢
── 組織としての魅力や特徴、また改善したい点があれば伺えますか。
魅力は、「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持ったメンバーが多いことです。
一次産業の課題はわかりやすく、生産者さんやユーザーさんの“困りごと”に直接向き合える領域なので、そこにやりがいを感じる人が自然と集まっています。エンジニアも、技術が好きなだけでなく「技術を使って誰かの課題を解決したい」というタイプが多いです。ビジネスサイドも含めて、サービス全体をより良くするための提案がしやすい環境だと思います。
── 一方で、課題に感じている点はありますか。
良い面の裏返しですが、「誰かに寄り添いたい」「役に立ちたい」という想いが強い分、事業数字とのバランスが難しくなる瞬間があります。
スタートアップとしては、当然ビジネスを伸ばす必要があります。寄り添う気持ちを持ちながら、「それが事業としてどんな価値を生むのか」もあわせて見ていくことが大事です。
食べチョク事業部では、私とマーケのリーダーが中心となって数字も見ていますが、ここは今後も組織として取り組んでいきたいテーマだと考えています。
今後の目標・採用について
── 今後の目標について教えてください。
私が今担っているのは食べチョクという事業ですが、まだまだ規模としては小さく、社会全体から見ると“吹けば飛ぶ”くらいの存在だと思っています。だからこそ、もっと大きく、安定したサービスに育てていく必要があると感じています。
特に現在は、「収入のほとんどを食べチョクに依存している」という農家さんも多くいらっしゃいます。ありがたい一方で、もしサービスがなくなったらどうなるのかという不安も当然あるはずです。
日頃から生産者さんはとても協力的で、オフィスに遊びに来てくださったり、コミュニティで積極的に交流してくださったりします。だからこそ、この方々に不安な思いをしてほしくない。もっとサービスを大きくし、安定させて、安心して頼れるインフラにしていきたいという思いが強いです。
── 「大きくする」という点で、どの指標を重視されていますか。
一番わかりやすいのは、農家さん一人あたりの売上をどれだけ伸ばせるかだと思っています。
生産者さんの登録数はありがたいことに増えていますが、消費者側のユーザーが増えなければ一人あたりの売上は下がってしまいます。初期から使ってくださっている農家さんが「ずっと売れ続ける状態」をつくるためにも、購入者を増やし続けることが何より重要です。
もう一つ大切にしたいのは、ユーザーが農家さんのファンになり、継続して買い続けてくれる関係性を生むことです。
食べチョクを使い続けてもらうこと以上に、生産者さん自身にファンがつく状態が理想だと思っています。そこをサポートできるプロダクトづくりに、今後さらに力を入れていきたいです。
── 最後に、どのような方と一緒に働きたいか伺えますか。
我々の事業領域でも、技術的な分野でも、どちらでも良いのですが、何か一つでいいので圧倒的な情熱を持っている人とは、ぜひ一緒に働きたいと思っています。
情熱のある人と仕事をしていると、こちらも刺激を受けますし、実際、今のメンバーにも「農業をどうにかしたい」という強い想いを持って入ってきた人がたくさんいます。そういう“熱”のある視点は、プロダクトづくりにもすごく効いてくるんですよね。
「あの人に相談したらきっと良いアイデアが出るだろうな」と感じられる存在がチームにいると、とても心強いですし、私自身もそういう方から刺激をもらえるのが嬉しい。
だからこそ、何でもいいので、自分の中に強い想いを一つ持っている人であれば、ぜひ一緒に働きたいなと思っています。



