大塚 雅和 氏|Nature株式会社 CTO
香港生まれ、ロサンゼルス育ち。慶應義塾大学 理工学部で自動運転の基礎研究に従事したのち、パナソニックにてカーナビ開発に携わる。その後、面白法人カヤックで多数のWebサービス・新規事業の立ち上げを経験。フリーランスとして赤外線リモコンデバイス「IRKit」を開発し、ハードウェアとソフトウェアの両面からものづくりに取り組む。2015年にNatureへ参画。現在はCTOとして、ソフトウェア全般の統括と開発現場のリード、組織づくりに携わっている。
Nature株式会社

事業内容について
── まずは、御社の事業内容から伺ってもよろしいでしょうか。
Natureは、ハードウェアIoTプロダクトを起点に、家庭のエネルギー機器をつなぎ、電力の使い方を最適化していく会社です。
多くの方に一番知られているのは、Wi-Fi接続型のスマートリモコン「Nature Remo(ネイチャーリモ)」だと思います。エアコンやテレビ、照明といった家電を、スマートフォンアプリやスマートスピーカーから操作できるようにする製品です。
もう一つの柱が「Nature Remo E(ネイチャーリモイー)」シリーズ。太陽光パネルや蓄電池、EVへの充電など、家庭内のエネルギー機器を制御するためのデバイスで、電気代の削減や自家消費率の向上を支えるプロダクトです。こうしたコンシューマー向け製品を束ねることで、「家庭にある機器を通じて電力需要をコントロールできるプラットフォーム」として、法人のお客様にも提供しています。
家の中の機器を通じて、電力インフラの使い方そのものを変えていく──そんなイメージの事業ですね。
キャリアの原点──香港・ロサンゼルスで育まれた“ものづくり好き”

── 幼少期はどのようなお子さんでしたか?
少し変わった経歴なのですが、日本ではなく香港で生まれて、その後すぐロサンゼルスに移り、小学3年生までを向こうで過ごしました。日常会話は英語で、友達と外で遊びまわるような活発な子どもでしたね。
ゲームも好きでしたが、それ以上に「何かを作る」ことが好きでした。木の塊を削って車を作り、坂から転がしてスピードを競う工作イベントで賞をもらったことをよく覚えています。
小学4年生から日本に戻り、公文で算数を鍛えつつ受験をして、慶應義塾のSFC高校に進学しました。そのまま慶應義塾大学の理工学部へ進み、「将来は科学者かエンジニアのような仕事をするんだろうな」というイメージは、子どものころからなんとなく持っていました。
── 大学時代はどのように過ごされていたのでしょうか。
テニスやスキーなどのサークル活動もしていましたが、オンラインゲームにもかなりハマっていました。ギルドを組織したり、オンライン上の仲間とリアルで会ったりと、インターネット上の“小さな社会”を経験できたのは、後々のWebサービス開発にもつながっていると思います。
研究では、ラジコンにカメラを取り付けて自動運転の基礎研究のようなことをしていました。カメラから得た情報で簡易的な地図を作り、その上を走行させるという内容です。その延長で自動運転領域や車載機器に興味を持ち、「車メーカーか、カーナビを作っている電機メーカーか」という選択肢の中から、最終的にパナソニックを選びました。
パナソニック時代──カーナビの「位置情報エンジン」を磨く
── パナソニックではどのような業務を担当されていたのでしょうか?
最初に配属されたのはカーナビの部署で、車の位置情報を計算するエンジンの開発を担当していました。衛星からのGPS情報に加え、加速度、回転、タイヤの回転数など、さまざまなセンサーデータを使って「今この地図上のどこにいるのか」を推定する部分です。
その後は、車載ディスプレイでの映像表現などにも携わりましたが、仕事を続ける中で、自分の興味関心が徐々にインターネットの世界へシフトしていく感覚がありました。業務外の時間を使ってWebサービスを自作し始めたのが、大きなきっかけです。
新しいレストラン情報をメモして星をつけられるサービスや、写真を「色」で検索できるサービスなど、趣味で作ったものが海外のブログで紹介され、大きなトラフィックが来たこともありました。「自分の作ったソフトウェアが、世界中の人に一気に届く」という体験は、かなり衝撃的でしたね。
そこで「この方向で、自分の力を試してみたい」と思うようになり、インターネット企業への転職を考え始めました。
カヤックへ──“BM11(ブッコミイレブン)”で新規サービスを量産
── 次のキャリアとして、面白法人カヤックを選ばれた理由は何だったのでしょうか。
インターネット企業をいろいろ調べる中で、一番「面白そうなことをやっている」と感じたのがカヤックでした。ユーザーが投稿したTシャツデザインを、一定数の購入希望者が集まると生産するサービスなど、当時としてはかなり新しい仕組みをどんどん世に出していて、「ここは面白い」と。
「面白法人」と自称している文化にも惹かれて、オフィスを訪ねたところ、そのままフラットに面談のような流れになり、入社が決まりました。CTOの貝畑さんと話したときに、「ここでなら、自分のものづくり欲求を存分に発揮できそうだ」と直感的に感じたのを覚えています。
── カヤック入社後はどんな仕事を?
入社後まもなく、新規事業専門のチームが立ち上がりました。そこに配属されて、1年間で77個の新サービスを作る、というかなりチャレンジングな目標に取り組むことになります。
11人で77個なので、短期間でサービスを作ってはリリースし、手応えのあるものだけを少しずつ育てていく。とにかく数を出して“事業の種”を見つけるのが、そのチームの役割でした。
とてもハードではあるのですが、「まず動くものを作って世に出し、ユーザーの反応から学ぶ」というスタイルは、今のスタートアップでもかなり役立っています。
IRKit──「体験を丸ごとつくる」ためのオープンソースハードウェア
── カヤックからフリーランスへ転身し、IRKitを開発されています。その背景を教えてください。
カヤックで新規サービスの開発を続ける中で、「ブラウザやアプリだけでは、どうしてもできることに上限がある」と感じる場面が増えていきました。体験を本当に変えたいなら、ハードウェアから作る必要があるのではないか──そう考えるようになったんです。
そんな中で取り組んだのが、赤外線リモコンデバイス「IRKit」です。赤外線リモコンの信号を学習して、家電をインターネット経由で操作できるようにするデバイスで、オープンソースハードウェアとして設計情報も公開しました。
「もし家電の回路図が公開されていれば、自分で修理して、そのノウハウをWebにシェアできる。そうなれば“モノの作り方がわかる人”が増え、世の中はもっと良くなるのではないか」──そんな思いもありました。
カヤックの理念である「つくる人を増やす」にもつながる発想で、ソフトだけでなく、ハードも含めて“体験を丸ごとデザインする”世界に一歩踏み出した感覚がありました。
Natureとの出会い──「電気の問題を解決したい」という一通のメール
── Natureとの接点はどのように生まれたのでしょうか?
IRKitを世に出して1年ほど経ったころ、「次の世代のハードウェアをつくるのか、このプロジェクトを一旦畳むのか」を考えていたタイミングで、塩出(Nature代表)からメールをもらったのがきっかけです。
「IRKitを使って電気の問題を解決したい」と。最初はアイデア段階でしたし、正直に言うと「ビジョン以外には何もない」ようにも見えたので、最初はお断りしていました(笑)。それでも何度も声をかけ続けてくれて、話すうちに「この会社なら、自分の時間を使う意味があるかもしれない」と感じるようになりました。
私自身、パナソニックの松下幸之助さんの“水道哲学”や、カヤックの「つくる人を増やす」といった理念に影響を受けていて、「自分の1日8時間を使うなら、事業が伸びるほど社会が良くなるロジックを持った会社で働きたい」と考えるようになっていました。
電力やエネルギーの課題を解決することで社会を良くする──Natureには、そのロジックがありそうだと感じ、最初は片手間で手伝うところから関わり始め、2015年に正式ジョインしました。
創業初期のNature──アメリカ立ち上げと深センでの量産
── 参画当時のNatureを振り返ると、どのようなフェーズだったのでしょうか?
当時のNatureはアメリカで登記していて、塩出のアパートに泊めてもらいながら、ニューヨークの暖房事情にフォーカスしたプロトタイプを作っているような状況でした。電気負荷の大きな機器をコントロールし、電力会社と連携していく構想があり、そのコンセプトを投資家に説明して回っていました。
資金調達は試行錯誤しつつ、最終的にはクラウドファンディングのKickstarterで「Nature Remo」を発表することになります。IRKitの経験を活かしつつ、より大きなロットで本格的なコンシューマ向けプロダクトとして量産する方針を固め、中国・深センの工場で生産することにしました。こだわったのは、「リビングに置いても違和感のない“白いプロダクト”」にすること。当時、赤外線を通す白い筐体は前例がほとんどなく、素材の組み合わせを工夫しながら対応できる工場を探すのに苦労しました。
それでも最終的には量産までたどり着き、IRKitとは比べものにならない規模でNature Remoを世に出すことができました。
「ハードとソフトを一体で設計し、生活のなかに溶け込むプロダクトを出せた」という手応えは大きかったですね。
一度離れ、再び戻る──業務委託からCTO復帰まで
── 一度Natureを離れ、再び戻られています。その経緯も教えてください。
当時は少人数のハードウェアスタートアップのCTOをしながら海外で暮らすのは難しかったため、家庭の事情を優先して、一度はNatureを離れました。その後、別の会社に関わっていたのですが、自分のキャリアの方向性を改めて考えたタイミングで、「次の場所をどうしようか」と考えたときに、やはりNatureが頭に浮かびました。
その頃には、世の中の働き方が大きく変わりつつあり、リモート前提で組織を動かすことも現実的になっていました。「今ならリモートのCTOでも機能するのでは」と感じ、最初は業務委託という形で開発に関わり始めました。
正直、一度辞めた自分が再びCTOとして戻ってくることには引け目もありました。そこでエンジニアメンバー一人ひとりと時間をかけて話し、「CTOという役割が今のNatureに必要か」「自分がその役割に入ることをどう感じるか」を丁寧に聞いていきました。その上で、「これなら大丈夫そうだ」と思えたタイミングで、CTOとして正式に復帰した、という流れです。
現在の役割──“つくる現場”に立ち続けるCTO
── 現在の大塚さんの業務内容を教えてください。
大きく分けると4つあります。
1つ目は、ソフトウェアエンジニアとしてコードを書くこと。今でも日常的にPull Requestを出しています。
2つ目は、新しいプロダクト開発における技術面からの企画・推進です。新サービスや新機能の構想に対して、「このやり方なら実現できる」「ここはリスクが高い」といった観点で具体化していきます。
3つ目は、ソフトウェア領域全体の統括。ファームウェア、アプリ、バックエンド、クラウドなど、さまざまな領域のエンジニア組織を横断的に見ています。
4つ目が、採用や組織づくり。エンジニア採用はもちろん、ホラクラシー組織としてどう役割を設計していくか、といった議論にも関わっています。
「統括するだけ」の役割ではなく、自分自身も“つくる現場”に立ち続けながら組織をつくっていく──そんなスタンスを大事にしています。
Natureの事業の魅力──ハードから体験まで“全部つくれる”
── Natureの事業の魅力を、あらためて教えてください。
一番大きいのは、「ハードウェアから自分たちで設計し、体験全体をデザインできること」です。Webやアプリだけを作っていると、どうしてもプラットフォームの仕様に縛られてしまいます。「本当はこうしたいけれど、OSやAPIの制約でできない」という壁にぶつかることも少なくありません。
一方で、ハードウェアから作ると、「どんな体験を提供したいか」から逆算してプロダクト全体の仕様を設計できます。もちろんコストなどの制約はありますが、自由度はかなり高いです。
コンシューマー向けであることも大きな特徴です。Natureでは、お客様のコメントやレビューがSlackのチャンネルに日常的に流れてきますし、ユーザーインタビューも頻繁に行っています。エンジニアがインタビューに同席して、自分の作った機能について直接フィードバックを聞き、そのまま開発に反映することも多いです。
昨年は大きな資金調達も行い、大手パートナー企業との協業も進んでいます。何十万、何百万人というユーザーにサービスを提供する話も現実味を帯びてきていて、「Natureがエネルギーの調整力を提供することで、自然由来のエネルギーの利用比率を高める」という、社会的インパクトのある取り組みが少しずつ動き始めていると感じています。
組織体制とホラクラシー ──サークル構造と職能横断チーム
── 組織の体制や特徴についても伺いたいです。ホラクラシー型で運営されていると聞きました。
Natureの組織は大きく、「プロダクトサークル」とコーポレートに分かれています。私が主に関わっているのはプロダクト側です。
プロダクト側には、ホームオートメーション領域の「Nature Remo」と、エネルギーマネジメント領域の「Nature Remo E」という2つの縦軸があり、それぞれにサークルが存在します。一方で、ソフトウェアエンジニアやデザイナーなど、職能別のサークルも横断的に存在し、日々の実務を支えています。
ソフトウェアエンジニアは全体で約15名。バックエンド、アプリ、ファームウェア、SREなど、職種ごとに小さなグループがあり、実際のプロダクト開発では、各プロダクトサークルのなかに職能横断のチームが組まれる形です。
Natureの特徴として、毎年いくつか新しいハードウェア開発プロジェクトが立ち上がります。その際にはソフトウェアに加えて電気・メカのエンジニアもチームに入り、既存ソフトウェアの改善とは別に、新しいプロダクトの開発が並行して進んでいきます。
ホラクラシーであることもあり、上からの“号令”で物事が決まるというよりは、それぞれのサークルが自律的に動き、役割に基づいて意思決定が進んでいくのが特徴です。

組織の良いところと課題──オープンさと“厚いスタック”
── 現在の組織の良い点や課題感があれば教えてください。
良い点としてまず挙げられるのは、「オープンさ」です。Natureでは多くの情報がパブリックで、「自分が望めばどの情報にもアクセスできる」という文化があります。知らないところで何かが突然決まる、ということが起こりにくいんです。
もう一つは、エンジニアのオーナーシップが強いこと。製品の設計は日本側で行っていて、「自分たちのプロダクトだ」という感覚が強い。ソフトウェアエンジニアも仕様決定に深く関わっていて、プロジェクトリーダーを務めることも多いです。
一方で、プロダクトオーナーやプロジェクトマネージャーのような“マネジメント専任”の人数はまだ多くありません。Natureはまだ小さな会社なので、お互いの役割の境界を越えて協力し合う文化があります。
よく「フルスタックエンジニア」と言いますが、Natureの場合はソフトウェアだけでなく、電気・メカも含めた“さらに厚いスタック”の上でプロダクトが成り立っています。そのまたがった領域で活躍したい人にとっては、とても面白い環境です。
課題としては、事業として「ここからさらに成長していける」未来が見えている一方で、その成長スピードに採用が追いついていない点ですね。ここをどう解消していくかが、今の大きなテーマです。
リモート前提で働くということ──距離を感じさせない仕組み
── 今は基本リモートワークとのことですが、エストニアから働く大塚さんは、距離のハンデを感じることはありませんか?
時差の面では、むしろ都合がいいくらいです。エストニアにいるとき、日本の午後がだいたい私の午前中にあたるので、その時間帯にミーティングなど同期的なコミュニケーションをまとめて入れています。日本側から見ると、午前中は集中して作業に使えて、午後にミーティングが入ってくるイメージですね。
ホラクラシーで自律分散型の組織であることもあり、「誰かの承認がないと物事が進まない」という構造にはなっていません。時間や場所が違っても、仕事がそこで止まることはあまりないんです。
会社全体がフルフレックスで、朝型の人もいれば午後から働く人もいる。そもそも「時間も場所もばらけていて当然」という前提が共有されているので、距離をあまり意識しない文化になっています。
私自身も年に3回ほど日本に行き、春・夏・秋にそれぞれ1ヶ月程度滞在しています。年間で約3ヶ月は日本にいるので、対面で会う機会もそれなりにあります。ソフトウェア開発の中心がGitHubベースのテキストコミュニケーションで、「ちゃんと文章で伝える文化」が根付いているのも、距離を感じさせない理由のひとつだと思います。
今後の目標──“バーチャル発電所”を社会実装する
── 今後のNatureとしての目標を教えてください。
私たちがやりたいことを一言で表すなら、「バーチャル発電所をつくる」ことだと思っています。Natureがエネルギーの調整を行うことで、物理的な発電所の一部を代替できるような調整能力を、社会に提供するイメージです。
現時点でも「発電所何基分に相当する」といった議論はありますが、まだ解釈次第な部分も多く、「Natureがいたからこれだけ社会が変わった」と誰の目にも分かるレベルには到達していないと感じています。
これからはより具体的で大きな数字として価値を示せるようにしていきたい。そのためにも、ユーザー規模をさらに広げつつ、電力会社やパートナー企業との連携を深めていく必要があると考えています。
Natureにフィットする人物像──ものづくり好き、技術好き、ミッション共感
── 最後に、Natureで一緒に働きたいのはどのような方でしょうか?
今まさに求めているのは、テックリードやシニアクラスのエンジニアです。AIの進化によって、“1人のリーダーのもとに複数のエージェントが並走する”ような新しい開発の形が現実味を帯びてきています。だからこそ、自分の意思でリードし、環境をうまく使いこなせる人に来ていただきたいと考えています。
Natureが取り組む電気・エネルギー分野は、家計にも地球環境にも直結するテーマです。ソフトウェアエンジニアが日々の実装を通じて、ここまで直接的に社会課題の改善に関われる場は多くありません。「自分が使う時間が、社会や環境の改善につながることに価値を感じる人」にとっては、非常にフィットする環境だと思います。
そしてNatureは、根っこに“技術が好きな人”が多い会社です。電気・メカのエンジニアがすぐ隣で作業していて、工場向けの検査ツールを自作する人もいれば、EV充電用リレーの物理的な耐久回数を前提にソフトウェアの設計を考える人もいる。ハードとソフトが絶えず影響し合う現場なので、Webアプリだけを作る環境では得られない刺激や学びがあります。
ものづくりに没頭したい人。技術に対して誠実でありたい人。ハードとソフトの境界に魅力を感じる人。そして、Natureのミッション──電力・エネルギーの課題を解決し、社会を良くするという大きなテーマ──に共感できる人。
そういった価値観を持った方であれば、自然とこの環境に馴染んでいけるはずです。
Natureはまだ発展途上の組織で、だからこそ自分の手で事業もプロダクトも組織も形づくっていける余白があります。ハードとソフトの両側面に触れながら、エネルギーの未来を一緒に切り拓いていける仲間に来ていただきたいですね。



