大野木 達也 氏|READYFOR株式会社 執行役員 CPO
制作会社のUIデザイナー・ウェブディレクターを経て、りらいあコミュニケーションズでチャットボットプラットフォーム事業の立ち上げを担当。2018年にメルカリに転職し、CS Productマネージャー、サービス管理・マーケット監視ツール領域のプロダクトオーナーを歴任。その後、Chatworkでプロダクトマネジメント部長。2023年3月READYFORにVP of Productとして参画し、同年7月より現職。
READYFOR株式会社 について
── 御社の事業内容を教えて下さい。
READYFORは、日本で初めてクラウドファンディングサービスをスタートした会社です。
そのため、クラウドファンディングをやっている会社というイメージが強いと思いますが、現在は「みんなの想いを集め、社会を良くするお金の流れをつくる」というパーパスを掲げて複数の事業を展開しています。
例えば、「遺贈寄付サービス」というシニアの遺言を通じた寄付をアレンジする事業や、「フィランソロピーアドバイザーサービス」という社会貢献をしたい篤志家の向けの事業など、社会をよくするお金の出し手となる方々のサポートを行う事業などをこの数年で立ち上がりました。
また、クラウドファンディングから進化した「ファンドレイジングサービス」では、社会課題を解決する担い手となる方々へのコンサルティングを提供しています。
「資金を出す側」「資金を活用する側」の双方のペインを解決するような事業を展開している最中です。
大野木さんのキャリア
── 当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。
小学校の頃、どんな子供だったかを改めて考え直してみました(笑)。思い返してみると昭和らしい小学生だったなと思います。竹やぶで秘密基地を作ったり、釣りをしたり、友達の家で遊んだりして過ごしていました。
何かを作ることが好きで、一人で篭って何かを作ることも多かったです。家では漫画やゲームを買ってもらえなかったので、クリスマスプレゼントはいつもレゴでした。レゴでよく遊びました。
高校の時には、建築かデザインを学びたいと思っていました。しかし、建築の仕事をしていた父に相談したところ、かっこいいものを作る建築家は儲からないと言われました。そこで、自分で服を作って店で売ることを始め、それがきっかけで海外の大学でデザインを学びたいと思うようになりました。
当時はインターネットが普及しておらず、海外留学の方法がわからなかったのですが、いくつかの有名なグローバルなアートスクールを知っていました。たまたま金沢にそのうちの一つのニューヨークの大学の分校があったので進学したのですが、その後、ロンドンの芸術大学の編入試験にも受かったので、最終的にはイギリスに進学しました。
── 留学中、学びたいことは想定通り学べましたか?
そうですね、途中までは想定通りだったのですが、家の事情があって途中で帰国しました。その後はフリーランスのデザイナーとして大阪で6〜7年ほど活動していました。当時はまだWebがあまり普及していなかったため、グラフィックデザインやショップの商品デザインなどを請け負っていました。
その後、ちょうど紙媒体の仕事が減ってきた時期に、Webやモバイルのプロダクトデザインに興味を持ち、FLASHというソフトを使ってモバイルのUIデザインや携帯のメニュー、モバイルゲームを作る仕事にシフトしました。これがきっかけでインターネット関連の仕事に移行しました。
── その後、りらいあコミュニケーションズ、メルカリと複数のキャリアを歩まれておりますが、それぞれの経緯と取り組みを教えてください。
まず、りらいあコミュニケーションズの前にベンチャー企業で対話システムを作る事業に携わっていましたが、当時は「AIの冬の時代」と呼ばれる時期で、うまくいかずに事業は解散となりました。その事業をりらいあコミュニケーションズが継承することになったため、一旦別の会社に移りましたが、当時の上司に呼び戻されてりらいあコミュニケーションズに入りました。
そこで、チャットボットの事業を立ち上げたり、カスタマーサポートの改善コンサルティングを行ったりしました。親会社の三井物産では、当時はAIに関する知見がある方が少なかったため、海外のAI関連のデューデリジェンスなども担当していました。
その後、toC事業をやっている会社の中でサービス開発に携わりたいと考えて、2018年2月にメルカリに入社しました。執行役員の方とも意気投合し、入社を決めました。メルカリでは、カスタマーサポートのプロダクト連携をする組織の立ち上げ、権限管理やマーケット監視のプロダクト開発などをメインに担当し、上場前後で3年ほど在籍しました。
── ChatWorkに入社されましたが、その経緯について教えてください。
メルカリが上場する前後の3年間で、社員数が500人から2000人規模に拡大し、大企業化していく過程を経験しました。その経験を生かし、もう一度全体を見通せる規模で組織を作りたいと思っていたところ、ChatWorkから3年間で50人から300人規模の開発組織を作り上げにしていく中でプロダクト側の組織と方針を作る責任を担ってほしいというオファーを受け、興味を持って入社しました。
── これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。
そうですね、間近で一番印象に残っているのは、やはりChatworkでの経験です。メルカリでプレイヤーやミドルマネージャーとして急速な組織拡大を経験する中で得た経験や知見が、似たフェーズで再現性があることが多く、、それまでの経験知見を踏まえた上でどう解決するかを考えながら組織を作るという経験は、非常に面白かったです。もちろん細かい部分で異なることも多くあるのですが、何となく起こることへの耐性がついているので構えられるという感じでしょうか。
── その後、READYFOR株式会社に入社するまでの経緯を教えてください。
正直に言うと、ChatworkChatWorkを辞める気は全くなかったんです。ただ、もともと情報収集の一環として、いろん色々な会社のCPO/CTOや事業責任者役員と機会があれば話をするようにしていて機会があって、READYFORもその一つでした。当時のCTOともカジュアルな面談をした際に話が盛り上がり、READYFORがクラウドファンディングの会社というくらいの認識しかなかったのですが、社会課題解決を目的とした寄付や支援を軸に置いていること、この先はさらに現在の事業方針を知りました。そして、この人たちと一緒に働いて事業の成長を見届けたいと考えるようになり、転職を決意しました。
── 実際に入社を決めるまで、どれくらいの期間がかかりましたか?
話し合いを重ねて、4ヶ月ぐらいですかね。
── その期間にいろいろと考えられたのですね。最終的な決め手は何でしたか?
内定ではVP of Productのオファーをもらいましたが、その期待が非常にわかりやすく整理されていました。「こういうことをやってほしい」という具体的な内容がきちんと整理されている会社だという点に惹かれました。ChatWorkやメルカリでやってきたことを活かして、事業と接続したプロダクトとそのための組織を作る責任を持ってほしいと言われ、その部分に共感して入社を決めました。
READYFOR株式会社 入社
── 実際に入社後、どのようなことに取り組まれたましたか?
私がプロダクト責任者をCTOから引き継いだ際に、最初に取り組んだのは何に責任を持つかというコミットメントです。最終的にプロダクト&エンジニアリングでは直接的なPL責任を持たないようにしたいという認識を経営陣とすり合わせることでした。
事業の前提がいろいろある中で、例えばプロダクトで実行者がセルフサーブできる領域のPL責任を持つというような選択もあったのですが、一部だけに責任を持って、その改善のためにリソースを優先する意志を持つことになるので、、これは避けたかったのです。
READYFORではセールスやキュレーターという役割もあり、関係を作って、より大きな社会課題解決につながるプロジェクトを作っていくということも事業の大きな部分を占めます。
その領域でプロダクト開発としてやるべきことも多くある中で、制限を持つということはあまり意味がないと考え、プロダクトは事業全体の観点で成長につながる仕組みをつくることに注力したいと考えました。その方針を経営陣に了承してもらい、戦略を立て始めました。
── 実際に苦労したところはありましたか?
そうですね、メルカリのようなCtoCマーケットプレイス的なビジネスに近いと考えて入ってきたのですが、プロジェクトを作って公開して支援を集めていくことはより複雑な部分もあり、CtoCマーケットプレイスの指標設計をそのまま転用することはできませんでした。そのため、指標設計をどうするかという点はかなり時間もかかって苦労しましたし、引き続き更新し続けています。また、引き継いだタイミングが組織変革の時期とも重なったので、その中でプロダクト戦略を立てることも大きなチャレンジでした。
── その課題をどうやって乗り越えたのですか?
基本的に、プロダクト責任者が全ての戦略戦術を自分で描いて実行していくわけではないという考え方を持っています。タタキ案を作りながら、プロダクト・ビジネスサイド・エンジニアリングの各々の思いを前提として引き出して、戦略が変にサイロ化しないように、ステークホルダーとしっかりコミュニケーションを取り、戦略を詰めていくことに力を入れてきました。その過程でも説明をちゃんと行い、フィードバックをもらって詰めていける関係性を築くためには多く時間をかけてきました。
── 現在の大野木さんの業務内容を教えてください。
一つは、前任のCTOが作ってくれたプロダクト開発組織が非常に良い組織だったことです。私は現在CPOとしてプロダクトとエンジニアリングを管掌していますが、はやい段階からエンジニアリング側はVPoEに、施策推進はPMに安心して任せられたので、自分が期待されていたプロダクト方針や戦略に頭を絞ることができました。
また、経営陣も非常にフラットで賢く、建設的なコミュニケーションが取れる環境です。前進するための話し合いができるので、非常に働きやすいと感じています。
── 入社して良かったことはありますか?
組織としては、私が見ているのはプロダクト&エンジニアリングの部門で、PM(プロダクトマネージャー)、デザイナー、エンジニア、QA(品質保証)チームです。それに加えて、支援者マーケティングのチームも3名ほど見ています。 私の業務内容としては、経営の一員としてプロダクトの戦略とそれを実行していくことができるプロダクト&エンジニアリングの組織を作っていくことが大きな部分を占めています。特にこの1年は中長期の方針を整理することに注力してきました。それに加えて、プロダクトをどう改善していくかの基本設計や、中長期にも耐えうる指標構造の策定も進めてきました。 また、プロダクトマネジメントと開発チームが円滑に動くための体制を整えるために、組織の構造を見直し、より動きやすい形にするための変更を行ってきました。
── READYFOR株式会社の事業の魅力をお聞かせください。
READYFORに掲載されているプロジェクトは主に社会課題解決に焦点が当たっている活動で、寄付性が高いことが特徴です。
この「寄付性が高い」というのはひとつの大きな制約で、ビジネスとしてもすごく難易度も高い選択ですが、プラットフォームとして非常に尊い取り組みだと思いました。
特に興味を持ったのは、READYFORのサイトを見たときに、本当に多くの社会課題があることを知ったことです。私が知らなかった課題に対して、資金を集めようとしている人たちのプロジェクトがあり、大きな金額の支援が集まっていることを知り、とても面白いと感じました。世の中の課題を知ることができ、そのようなプラットフォームに関われるのは、自分の人生にとって非常に良い経験だと思いました。
今はクラウドファンディングだけでなく、日本の寄付インフラを構築しようとしているので、そのチャレンジができるのが非常に楽しい仕事だと感じています。
── 御社の社員の方々も実際にサービスをユーザーとして使われたりするんですか?
そうですね、社員の中には実際に使っている人もいます。特にクラウドファンディングの伴走支援を提供するキュレーターとして関わっている人たちは、プロジェクトを立ち上げたり支援したりすることがあります。組織外からも関わっている人がかなりいると思います。
私自身も最近、友人の現代アートのプロジェクトをクラウドファンディングで支援するために、プロジェクトを立ち上げて公開中です。
現在のエンジニア組織について
── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。また、なぜそのような組織体制にしているか、その理由もご説明いただけますか。
現在、プロダクト&エンジニアリングの組織体制は全体で25名ほどです。PM(プロダクトマネージャー)とテクニカルプロダクトマネージャーが3名、プロダクトデザイナー2名、エンジニア領域の責任者として熊谷がいて、エンジニアリングマネージャーが2名、その他がエンジニアという体制です。プロダクトの開発チームは3チームあり、それとは別にアプリケーション基盤の開発やSRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)のチームもあります。大きくはプロダクト開発の3チームが機能開発を担当するという体制です。
このような組織体制にしている理由は、各チームが専門的な領域に集中できるようにするためです。プロダクト開発チームはユーザー向けの機能開発に特化し、基盤開発チームはインフラや共通機能の強化に集中することで、全体の効率と品質を向上させています。
── 現在の開発組織で主に取り組んでいることについて改めて教えてください。
特に中期では、支援者が継続的に利用できるプラットフォームを目指して取り組んでいます。1回限りの支援ではなく、社会課題に興味を持ってもらい、長く使い続けてもらえるようなプラットフォームにするための機能開発に力を入れています。
── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。
開発組織の良いところは、信頼できる人が多いという点です。多くのメンバーが社会課題やREADYFORのプラットフォームに対する強い思いを持って入社しており、インシデントが起きた際にも主体的に動いてくれる人が多いです。プロダクトとしてサービスを良くしたいと思っている人が多いのが非常に良い点だと思います。
改善点としては、開発効率を高めるために、four keyやfive keysを用いて開発効率化を図っていますが、プロダクト戦略に関しては、もう少し早い段階でディスカバリーを行い、やるべきことを決める必要があります。PMが開発だけでなくディスカバリーに時間を使えるようにすることで、事前に複数の施策を検討し、その中から最適なものを選ぶという理想的な状態を作りたいと考えています。この状態を実現することで、開発もより効率的に進められると考えています。
今後の目標
先ほどもお話しした通り、中長期の方針をブラッシュアップしてきたので、それをできる限り実現していくことが一番の目標です。
── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。
一緒に働きたい人でいうともちろんスーパーヒーローを求めたいですが、サイエンティストとデリバラーも重要です。反対にあまり合わないのは、協力しながらモノづくりをすることを重要視しているため、セージのような方です。
── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。
やはり、自分の背中を預けられる人というのが大きいです。「これを任せられる」という信頼を持てる人ですね。また、前に進める上で、良い課題を持ってきてくれる人がいることで、続けて良い課題を解決していけると思います。