栗林 健太郎氏|GMOペパボ株式会社 取締役CTO

東京都立大学法学部政治学科卒業後、奄美市役所に入職。2008年、ソフトウェアエンジニアに転じ、株式会社はてなにWebアプリケーションエンジニアとして入社。2012年、株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)に技術基盤整備エンジニアとして入社する。2014年以降はマネジメントを担い、技術責任者、執行役員を経て、2017年に取締役CTOに就任。技術経営および新技術の研究開発・事業創出に取り組む。日本CTO協会理事。情報処理安全確保支援士(登録番号:013258)。2020年より北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程に在学する社会人学生でもある。

GMOペパボ株式会社について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

我々はGMOペパボ連結企業集団として、主に4つの事業を展開しています。ホスティング事業、EC支援事業、 ハンドメイド事業、そして、金融事業です。昨今は、AIによってDXを推進する事業なども始めています。一見すると、異なる分野に手を広げているように見えるかもしれませんが、すべての事業はミッションである「人類のアウトプットを増やす」のもと、クリエイターやものづくりをする人々の自己表現をテクノロジーで支援し、発信の機会を増やすことに焦点を当てています。

創業サービスであるホスティング事業は、20年以上前に始まりました。当時はインターネット黎明期で、ホームページを作るには高価なサーバーが必要でした。我々はそれを簡単かつ安価に提供することで、多くの人々が発信できる環境を作りました。

その後、オンラインで物を売るためのEC支援事業や、ものづくりを支援するハンドメイド事業など、技術の進化に伴って表現の幅を広げながら、アウトプットを増やすという基本方針を貫いています。最近では、画像1枚をアップロードするだけで3Dモデルを作成・販売できる「SUZURI byGMOペパボ」を通してVRで表現する人々の支援も行っています。

栗林さんのキャリア

──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

子供のころから家には本がたくさんあり、いつも本に囲まれていました。とにかく本が好きな小学生で、子供向けの本はもとより、親の本棚にあった村上龍や夏目漱石の全集なども読んでいました。

もちろん、すべてを理解していたわけではありませんが、本が身近にあったので自然に読むようになりました。逆に、漫画は親が買ってくれなかったので、『少年ジャンプ』なども買えず、友達が月曜日の朝に話している話題にはついていけませんでした。

友達はいたものの、どちらかというと一人で本を読んで過ごすことが多かったです。両親がその環境を意図的に作っていたのかはわかりません。ただ、漫画は積極的に買ってもらえず、本は欲しいと言えば買ってくれました。 ファミコンも一応買ってくれましたが、やりすぎると親が怒ってハンマーで壊されたこともあります(笑)。

本を読むことはずっと続けていて、特定の本がというわけではなく、読書体験そのものが今のキャリアや考え方 に影響を与えていると感じます。

──   東京都立大学での経験についてお伺いします。奄美大島から東京に行かれたとのことですが、どのような経 緯で東京の大学に進学されたのですか?

奄美大島は離島で、どこかに行きたくても、行ける場所が限られていました。また、4歳ごろまで東京に住んでいたため、進学の際は自然と東京に進学することを考えていました。

進学先は、合格の見込みがあって、費用があまりかからないところを選びました。当時は平成の初期で、キャンパスを郊外に移転させる大学が多かった時期でした。東京都立大学も郊外に移転したばかりで、周囲に何もな いことに驚きました。入学式でフランス文学の先生が「大学は文化を学ぶ場所だが、このキャンパスは郊外で文化を学ぶ機会が少ない。大学に来るよりも街中の書店やギャラリーに行って文化を享受してください」といった祝辞を述べたのが印象的でした。実際、私はその言葉を受け入れて、街中で文化を楽しむように過ごしました。

── 大学卒業後、奄美市役所に就職されたとのことですが、その経緯について教えてください。

大学を卒業してからは、しばらくフリーターをしていました。卒業まで奨学金で生活していたこともあり、自分で働いてお金を稼ぐという実感がなかったのです。

しかし、家賃が払えないという現実に直面し、実家に戻らざるを得なくなりました。奄美大島は田舎なので、私のような頭でっかちで運動も苦手な人に合う仕事はあまり見つかりませんでした。結局、公務員しか選択肢がなく、 試験に合格して市役所で働くことになりました。

── 前職の株式会社はてなに入社するきっかけを教えてください。

当時は働きながら趣味でプログラミングをしていて、自分の作ったものやオープンソースのプロジェクトについて ブログに書いていました。そんな時、MSNメッセンジャーを通じて、スーパープログラマーとして名を馳せていた宮川 達彦さんから声をかけられました。それを機に、書籍に寄稿する機会をいただき、Perlコミュニティの人々との交流も始まりました。

はてなに入社するきっかけは、2008年の初めに京都に移転する話が持ち上がったとき、ネット上の友人で数年前に入社していた舘野さんから「一緒にやろう」と誘われたことでした。趣味のプログラミングを仕事にできるなら挑戦してみたいと思い、入社を決めました。

── はてなではどのようなことをしていましたか?

約4年間、多くのプロジェクトに関わりました。はてなブックマークの新機能を開発したり、新しいサービスを作っ たり。また、サイトの国際化プロジェクトにも参加しました。

── これまでのキャリアで印象に残っている出来事・出会いはございますか?

はてなもGMOペパボも知人の紹介で入ったので、人のつながりでWeb業界に来たことが一番大きいですね。

GMOペパボでは、私の前任にあたる方が2011年に「会社でエンジニアのキャリアパスに関する仕組みを作っ た」ということをブログに書いていて、その内容にとても興味を持ちました。すぐに連絡を取って、京都からその人に会いに行きました。実際に会って話をすると、お互いに共感できるところがあって盛り上がりました。

── GMOペパボへの入社はブログでの連絡がきっかけだったとのことですが、具体的な経緯を教えてください。

当時、Web業界自体も今ほど成熟しておらず、エンジニアのキャリアパスも限られていました。エンジニアがキャリアを進めるにはマネージャーになるしかない状況で、独立した技術専門職やエンジニアリングマネージャーといった役割が整備されていなかったのです。

そんな中、先ほどのブログには「GMOペパボでは強いエンジニアを育て、彼らが出世できるような制度を作り、 サービスを効率的に展開するための横断的な組織を構築する」というビジョンが書かれていました。この考えに 非常に共感し、「これだ!」と思い連絡をしました。

GMOペパボ株式会社 入社

── GMOペパボに入社してからの取り組みについて教えてください。入社後、最初にどのようなことを行い、それ に対してどのような苦労や良かったことがあったか教えてください。

最初に取り組んだのは新卒研修です。私が入社した2012年は、初めて新卒のエンジニアを採用した年で、研修プログラムが整っていませんでした。そのため、同日入社のもう一人のエンジニアと2人で研修メニューを作りました。

具体的には、研修のカリキュラムを作成し、教材を選定し、実際に指導を行いました。各事業部にコミットするというよりは、全体を見て「今はここをやるべきだ」というミッションを持って取り組みました。当時は、新卒をしっかりと育てることが会社全体の課題であり、その循環を作ることが重要でした。

この研修プログラムは、現在も教材やカリキュラムの一部が使われています。もちろん、今ではやることが広がり、教科書も増えましたが、当時の基盤が今でも残っているのは嬉しいことです。

── 現在の栗林さんの業務内容を教えてください。

私の肩書きとしては、取締役CTO、CTO室室長、事業開発部部長、全社のセキュリティ責任者、そしてカスタマーサービス部門の管掌役員です。

さらに、ペパボ研究所の所長も務めています。それぞれの役割に対して具体的な割合を示すのは難しいです が、組織的な面は各事業部に設けた「事業部CTO」に委譲しています。

そのため、現在は新規事業開発に半分の時間を使い、残りの時間は、会社全体のオペレーションや先見的な 取り組みに充てています。

── 複数のポジションを見るようになった経緯について教えてください。もともとは新卒の研修から始まったとのこ とですが、どのようにして現在の役割に至りましたか?

入社当時は、エンジニアとして新卒研修や全社の技術基盤の整備を担当していました。具体的には、デプロイの仕組みやコード管理の仕組みの改善、アジャイル開発プロセスの導入などを行いました。この時期はまだ一 人のエンジニアとしての業務が中心で、直接的な部下を持つわけではなく、プロジェクトベースで他のエンジニアと協力して進めていました。

2014年に、前任の技術責任者が退職したため、私がその役割を引き継ぐことになりました。このころからマネジメント業務が増え始め、技術部のインフラ管理を担当するようになりました。会社全体のインフラ効率化のために、プライベートクラウドを構築し、それまで各サービスで個別にサーバーを管理していた非効率を解消しまし た。

この過程で、インフラに関するエンジニアたちと直接協力することが増え、次第にマネジメントの役割も拡大していきました。さらに、ペパボ研究所の設立、カスタマーサポートをサービスインフラの一環として捉え、その管理も担当しました。また、CTOとしてのセキュリティ責任も担うようになり、業務の幅が広がっていきました。

── GMOペパボ株式会社の事業の魅力をお聞かせください。

私たちの事業は、一見するとさまざまなことをやっているように見えるかもしれませんが、実は一つのミッションに沿っています。それは、表現したい人やアウトプットをしたい人をテクノロジーで支援し、そのアウトプットを広げたり、大きくしたり、届けたりすることです。難しいことを簡単にし、誰もができるようにする、これが私たちの事業の核心だと思っています。

20年ほど前は、個人の力をネットで拡張し、さまざまな表現が可能になるという理念の会社が多くありましたが、 現在では超巨大なプラットフォームに集約されることが増えました。例えば、SNSは大規模なプラットフォームが主流で、独立したオルタナティブな表現のプラットフォームは少なくなっていますよね。

GMOペパボはその中で、表現を支援するという理念を貫く珍しいポジションにあると思います。 そして、クリエイターを支援するという理念を広い意味で捉えています。例えば、ECサイト構築サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ 」で物を売ることも、ある種のクリエイションだと考えます。商 品を売ることは、単に物を売るだけではなく、その背後にあるコンテキストや自己表現を含むからです。

このように、さまざまなジャンルにおけるクリエイターを一貫して支援し続けていることが、GMOペパボの事業の魅力であると考えています。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

エンジニア組織は現在、約120名程度です。基本的には事業部ごとにエンジニアが所属しています。また、横断的にインフラや技術基盤を担当するエンジニアもいます。事業に直接関わるアプリケーションやサービスを作るエンジニアが縦のラインで、その下回りを支えるインフラエンジニアが横のラインにいるという構造です。エンジニア組織の基本的な構造はこれがベースとなっています。

エンジニア組織の基本的な構造

特徴的なのは、先ほどもお話した「事業部CTO」です。事業部CTOは各事業部の部長に直属しており、技術的な責任を負っています。一方で、全社的な技術責任者も存在し、技術面のラインを統括しています。事業部長のラインとCTOの技術ラインがマトリックス構造となっており、事業部CTOがその両方を繋げる役割を果たしています。

この構造により、事業成長を支えるために事業部長との連携が必要であり、技術の専門性を向上させるための技術ラインも維持しています。

評価の仕組みとしては、9項目に対してそれぞれ5点満点で評価を行う仕組みがあります。技術ラインがエンジニアの専門性を評価し、事業ラインが事業の成果を評価することで、どちらの視点も取り入れた公正な評価を行っています。

エンジニア職位制度の全体像

── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。

私たちの開発組織の特徴の一つは、エンジニアの昇進制度にあります。通常の企業は、上長が評価をして昇進を決定しますが、GMOペパボでは立候補制を採用しています。あるレベル以上のポジションに立候補する場合、事業部CTOへのプレゼンとディスカッションを行い、立候補者がそのポジションにふさわしいかどうかが決まります。このプロセスを経ることで、社内のエンジニアコミュニティ内でも、その人に一定の力があることが認められます。また、この評価やプロセスは誰からも見える状態にあることも特徴です。

課題としては、この制度によって伸びてきた専門性を事業成長にどのように反映させるかが挙げられます。専門性が高くても事業にインパクトを与えなければ意味がありません。だからこそ、各事業部のトップを事業部CTOと位置づけ、メンバーの専門性と事業成長のバランスを取ることに努めています。

今後の目標

私の強みはテクノロジーにあるので、テクノロジーの専門家としてだけでなく、テクノロジーをうまく活かした次の売り上げの柱を作って事業を大きく成長させることができる人間になりたいと考えています。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。

8つのコンピテンシーはどれも必要だと思います。私は新しいことをバンバンするタイプですが、逆に言えばそれしかできないので、守ってくれる人がいないとだめなわけですよね。私みたいな人ばっかりいてもしょうがないので、バランスとしか言いようがないですが(笑)。

一つだけ選ぶなら「成果を出す能力」(7番)です。成果と言っても業績だけじゃないものがいろいろあると思います。何事もやりきって、お客様や社内の関係者を動かす力が重要ではないでしょうか。

逆に、あまり必要でないタイプとして挙げるなら、「理想通りにしか動かない」(8番)です。「理想とすること以外は 嫌です」だと困りますし、「上司の指示通りに行動したい」(4番)も、指示通りのことしかできない場合は厳しいかなと思います。自発的に動き、状況に応じて柔軟に対応できる人材を求めています。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

弊社ではよく「やっていき」「のっていき」という話をします。「やっていき」は、いわゆるリーダーシップ、「のっていき」はフォロワーシップです。どんなにリーダーが強くても、周りが無視しては何も進みません。逆に、フォロワーシップだけがあっても、リーダーがいなければ組織はバラバラになってしまいます。だからこそ、どちらも必要なのです。

私はCTOですが、私だけが「やっていき」をするわけではなく、メンバーが「こういうことをやりたいです」と言ってくれたときに、「いいじゃん、やろう!」とサポートすることも大切だと思っています。お互いに「やっていき」「のっていき」の気持ちが高い状態が理想です。そのように、リーダーシップとフォロワーシップのバランスが取れた人 と一緒に働きたいですし、弊社にはそのような人がたくさんいます。