平井 祐樹氏|株式会社FOODCODE CTO

iOS Engineer/iOS ALL STARS。クラスメソッド社を経てリクルートマーケティングパートナーズ。アプリ開発の内製組織を立ち上げ。技術サイトへの寄稿やDevイベントへの登壇数多数。

株式会社FOODCODE について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

私たちの事業内容を一言で言うと「カレー屋さん」ですが、実はそれだけではありません。私たちは「テクノロジーの力で食の新しいスタンダードを作る」というミッションを掲げています。

飲食業界では、お客さんが長い列に並んだり、実際にどんな料理が出てくるかわからないまま高い金額を払ったりすることがあります。また、アレルギーや体調に合わせた食事が必要な場合もあります。こうしたシーンに対して、テクノロジーの力を使って解決策を提供しています。例えば、並ばずに食事を楽しめるシステムや、健康的な食生活をサポートするサービスなどを開発しています。

さらに、働く方々にも新しい環境を提供したいと考えています。飲食業界には「安い、汚い、つらい」というイメージがありますが、私たちはそれを変えたいと思っています。具体的には、キャッシュレス化を進めることで、煩雑な業務を減らし、より快適で効率的な職場環境を提供しています。スターバックスのように、働くことが誇りに思える場所を目指しています。

ユーザーには新しい食体験を提供し、働く方々には快適でやりがいのある環境を提供する。これが私たちの目指しているところです。

── なぜカレーを選んだのか、その理由について教えていただけますか。

ざっくり言うと、市場規模が大きいという点が一つの理由です。日本でいうと、ラーメンやカレーが大きな市場を持っています。例えば、ニッチな分野ではサラダなどもありますが、マーケット全体を見たときに、大きな市場であるカレーから変えていくことで、他の分野にも波及効果が期待できると考えました。

もともと、会社を立ち上げたメンバーの西山と渡辺がカレーに深い愛着を持っていました。特に渡辺は、10年以上前からカレーを探求しており、その情熱がビジネスのアイデアとなりました。

当時はスマホも普及しておらず、カレーをビジネスにするという考えもありませんでした。しかし、15年以上経った今、スマホの普及とともにカレーをデジタル化することが可能になりました。さらに、西山も衣食住に関わるサービスをやりたいという思いがありました。

私自身もアプリを開発し、起業して何か新しいことをやりたいという思いがあったので、これらの要素がすべて合致して、カレーをビジネスの中心に据えることになりました。

平井さんのキャリア

──  本日は、6月にオープンした新店舗で取材を行いました。この日、CTOの平井さんは一日店長でした。

新店舗場所:芝大門店舗
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目7−12
都営地下鉄大江戸線・浅草線「大門駅」徒歩2分、JR「浜松町駅」徒歩8分、都営地下鉄三田線「御成門駅」徒歩5分
──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

地方出身なんですが、地方にいると、流行の洋服や新しい情報がなかなか入ってこないので、漠然と「東京で成功したい」という憧れがありました。その憧れを強くさせたのが、首都圏でシステム開発をしていた叔父の存在です。叔父の姿を見て、「都会でITで起業して成功するのはかっこいい」と強く思うようになりました。この思いが私の原動力となり、いつか東京でITの分野で成功したいと幼少期から考えていました。

プログラミング自体に興味を持ったのは、大学受験の時でした。特に目標や方向性が定まっていなかったのですが、理系でシステム開発に関わる分野に将来性があると感じました。そこで先生と相談し、茨城大学の情報工学科に進学することに決めました。

大学でのプログラミングの授業がきっかけで、その面白さに気づきました。特に2年生の前期にリレーショナルデータベースシステムを作る課題があり、それをやり遂げたことでプログラミングの楽しさに目覚めました。その後、システム開発会社でのアルバイトを通じて実践的なスキルを学び、さらには大学院生と一緒に起業する機会にも恵まれました。

──  学生時代にエンジニアとして活動したきっかけとどのような取り組みを行ったか教えてください。

大学1年生の時、初めてプログラミングに触れました。最初はC言語から始めたのですが、Linuxの環境設定などが苦痛で、「なんでこんなところに入ってしまったんだろう」と感じていました。1年生の時は4単位しか取れず、卒業できるか不安でした。

しかし、2年生になって家族に相談すると「諦めるな」と励まされ、もう一度頑張ってみることにしました。2年生の前期にC言語でリレーショナルデータベースシステムを作る課題があり、それをやり遂げると非常に面白く感じました。プログラムが正しく動くと達成感があり、それがきっかけでプログラミングの楽しさに目覚めました。

その後、自分で作ったシステムを実際に使ってもらいたいという気持ちが強まり、叔父のシステム開発会社でアルバイトを始めました。そこでWebシステムの開発を経験し、大学の勉強だけでは身につかない実践的なスキルを学びました。

2年生の後期には、大学院生の方が起業する際に声をかけてくれて、起業の立ち上げに関わることになりました。大学卒業手前の段階でフリーランスになったのですが、それまではその会社に関わっていましたね。今でもその会社は続いています。

── その後、クラスメソッド社に入社した経緯を教えてください。

実は、クラスメソッドの前に叔父の会社に入って2年間ほど働きました。叔父の会社は20年以上の歴史がありましたが、私が入った時点ではなかなか売り上げが上がらず、厳しい状況でした。そのタイミングで家族会議があり「お前は外に出た方が良い」という話が出ました。自分で立て直したい気持ちも強かったのですが、現実的な生活や結婚を考えると、残るという判断ができませんでした。

その後、転職を考え、クラスメソッドを含むいくつかの会社に応募しました。クラスメソッドについては、以前からWebデザイン関連の書籍やサイトで取り上げられているのを見て知っていました。結果として、クラスメソッドが一番魅力的に感じ、入社を決めました。

クラスメソッドでは、モバイルサービス事業部の立ち上げに関わり、多くのiOSアプリを開発しました。実は、入社当初に元々叔父の会社でObjective-Cを使ったアプリの開発経験を伝えたところ、社内にObjective-Cを使えるメンバーがいなかったため、アプリ開発を積極的に任せてもらいました。

── リクルートマーケティングパートナーズ社へ入社の経緯はどうでしたか?

当時、私自身に提案する力が足りていなかったこともあり、いろいろなプロジェクトに携わる中で「もっとこうした方がいいのでは?」とか「なぜこれをやらなければならないのか?」といったフラストレーションが溜まることがありました。それを解消するためには、自分でサービスを提供している会社に行くのが一番だと考えました。そこで、自社サービスを展開しているリクルートマーケティングパートナーズを選びました。

入社後は、スタディサプリグループのアプリ開発に携わりました。具体的には、スタディサプリの英単語を覚えるためのアプリのiOS開発エンジニアを担当しました。ゲーミフィケーションの要素を取り入れたアプリで、楽しく単語を覚えられるように工夫しました。

その後、リクナビ進学(現在のスタディサプリ進路)のiOSリードエンジニアも担いました。

── これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。

一番印象に残っている出来事としては、クラスメソッドを辞める際のことです。当時、いくつかの受託案件に携わっており、そのクロージングの際にクライアントの方々に辞めることを伝えると、個別に応援の言葉や感謝のメッセージを多くいただきました。それが非常に嬉しかったですし、エンジニアとしてのやりがいを強く感じました。

同時に、もっとユーザーから直接フィードバックをもらえるようなプロダクト作りをしたいという思いが強くなりました。自分がなぜその仕事をしているのか、その意味を再確認させられた出来事でした。

── その後、株式会社FOODCODEに入社するまでの経緯を教えてください。

元々前職リクルートで一緒だった代表の西山との繋がりが大きなきっかけです。リクルート時代に休憩中、私はアプリを作っては人に見せるのが好きで、よく「これかっこよくないですか?」と同僚に見せていました。西山はその時から私にとって偉い立場の人間でしたが、彼にも気軽に話しかけていました。私は自分で作ったアプリを西山に見せて「これ絶対成功すると思うんですよね」と自信満々に話していました。

その姿を見た西山は「こいつはどんなことでもバンバン作って持ってくるし、しかも作っているモノもかっこいい」と感じ、いつか私を誘いたいと思ってくれていたようです。そのことを後に彼から聞き、私もそういったことをちゃんと評価してくれる方なんだと感じました。この信頼関係があったので、この人と一緒に仕事をしたいと思っていました。ちょうど西山から誘われて正式に入社することとなりました。

株式会社FOODCODE 入社

── 最初は、どのようなことに取り組みましたか。

主にアプリ開発を担当していました。初めは、アプリストアに配置するアプリを全て作成するという形でした。具体的には、私はフロントエンドとアプリのデザインを担当し、もう1人のメンバーがサーバーサイドを担当していました。

最初にリリースしたのは、非常にミニマムなオーダーアプリでした。カレーの注文を受け付けるシンプルなアプリで、最初は注文内容をGmailでメール送信して処理するというものでした。そこから徐々に改善を重ね、現在の規模にまで成長してきました。最初はユーザー認証もなく、ただシンプルに注文を受け付けるだけのものでしたが、必要な機能を追加していく中で、使いやすいWebアプリも作成しました。

── キャッシュレスの構想はいつから考えていましたか?

最初からキャッシュレスでアプリを軸にした販売方法を目指していました。例えば、アメリカのSweetgreenや中国のLuckin Coffeeの成功事例を参考にし、私たちも同様のアプローチを取りました。これは自分の開発する出番だと感じ、最初からこの戦略を選びました。

── 良かったことや苦労したことなどあれば教えてください。

良かったこととしては、必要に応じてミニマムなシステムを作るというアプローチが非常に効果的だったことです。最小限の機能から始めて、徐々に必要な機能を追加していくことで、迅速に対応できたのが良かったです。

一方で苦労したことは多かったです。特にコロナ禍では大変でした。キャッシュレスでやるぞと始めたところで緊急事態宣言が出て、オフィス街の店舗は一気に人がいなくなりました。そのため、テイクアウト専用のアプリを作るというミニマムなアプローチから、デリバリー機能を追加する必要が出てきました。

技術的な話で言うと、最初はiOSネイティブとAndroidはFlutterで開発していました。しかし、これが二度手間だと感じたので、2020年頃に全てのアプリをFlutterに統合する決断をしました。この決断は非常に怖かったですが、結果的にはこの一本化が成功し、現在の柔軟な対応が可能になっています。

特に、当時はFlutterを採用している企業も少なく、リスクもありましたが、今では非常に良い方向に進んでいます。過去の苦労が実を結び、現在のシステムの基盤となっています。

── 現在の平井さんの業務内容を教えて下さい。

現在の業務内容は、ほぼ9割が開発に集中しています。現場から上がってくる声や、自分自身が現場に出て気づく改善点などに対応しながら、開発を進めています。我々の目標は、カレーを売ることに突き抜けることであり、そのために必要な開発を全力で行っています。

並行して、プラットフォームの展開についても話があります。現行システムをプラットフォーム化することを念頭に置きながら開発を進めています。今、新しいユーザー向けのアプリの開発を進めていますが、既存の盛り付け用のWebアプリのフルリニューアルも行っています。新しいことにチャレンジしながら、既存システムの改善も同時に進めています。

その他、私自身もCTOとして開発に9割の時間を割いていますが、残りの1割は経営やコミュニケーション、戦略的な業務に充てています。

── 株式会社FOODCODEの事業の魅力をお聞かせください。

まず第一に、プロダクト自体が非常に優れているという点です。つまりカレーがとても美味しいということです。美味しいカレーをどう届けるかが重要で、そこにシステムやテクノロジーが関わってきます。

例えば、受託開発のときはプロダクトそのものに対して選択の余地がないことが多いですが、私たちの場合は、まず美味しいカレーという強力なプロダクトが前提にあります。その上で、システムとしてどうサポートするかを考えることで、必ずユーザーに満足していただける自信があります。

さらに、我々の採用制度にもこだわっており、クルーたちの接客も非常に素晴らしいです。キャッシュレス化を進め、短期間の研修で店頭に立てるようにするなど、学習コストを低く抑える工夫をしています。接客や盛り付けの指示もiPadを使って効率化しています。

その結果、クルーたちはシステムに従って業務を行うだけでなく、プラスアルファのサービス提供も行っています。アルバイトの方々が多く、現在では200人以上が働いていますが、全員が素晴らしい接客を実現しています。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

現在の開発チームは3人です。少数精鋭で集まっており、本当に少人数で回しています。最初は「少数精鋭だ」という考えから始まりました。イーロン・マスクのテスラの開発手法に感化された部分もあり、以前の職場では人員を増やしても効率が上がらないことが多かった経験から、少人数での開発を選んでいます。特に前職では、人を増やしてチームビルディングに時間を割くよりも、少人数でプロダクト開発に集中する方が効果的でした。

しかし、将来的にプラットフォームの展開を考えると、人員の増強が必要になると考えています。

── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。

まず開発組織の良い点ですが、私たちの強みはスピード感と柔軟性です。よくあるケースとして、既存のオペレーションに合わせて開発を行うことが多いですが、私たちはエンジニアの視点からオペレーション自体を改善することに力を入れています。現場のニーズに対して、エンジニアが積極的に提案し、最適な解決策を見つけるプロセスを大切にしています。

このアプローチは、現場にとっても受け入れやすく、効率的なシステム運用が可能になります。現場のフィードバックを大切にしながら、エンジニアの提案を取り入れていくことで、全体として高いパフォーマンスを発揮できるのが我々の強みです。

一方で、課題点としては、少数精鋭で運営しているため、もっと多くの人手が必要だと感じる場面も多いです。特に、今年はハードウェアの開発にも力を入れたいと考えています。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアの開発にも取り組むことで、オペレーション全体の改善を目指しています。

ハードウェア開発には、より多くの専門的な人材が必要です。現状ではソフトウェアに強いメンバーが多いですが、ハードウェアの分野でも得意な部分を増やしていきたいと考えています。そのため、採用活動にも力を入れております。もちろん、ハードウェア以外にもWebフロントやアプリ開発に強い人材も求めています。

今後の目標

会社としての今後の目標は、まずは「東京と言えばTOKYO MIX CURRYだよね」と言われるぐらいに東京を染めたいと思います。具体的には、例えばスターバックスのように広く認知されることを目指しています。多くの方に私たちのカレーを知ってもらい、食べてもらうことが第一の目標です。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。

直感的にですが、私たちが求めているのは「デリバラー」ですね。一方で、「ガーディアン」タイプは、当社のカルチャーには合わないかもしれません。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

具体的に言いますと、まず「ノリがいい」というのは重要ですが、それだけではなく、世の中に価値を提供するサービスを積極的にリリースしたいというモチベーションを持った人と一緒に働きたいです。とにかく、人々に使ってもらえるサービスを生み出し、実装し、リリースしていくことに情熱を持っている人が理想です。

また、私たちの会社はトライアンドエラーを重視しています。失敗を恐れずに、新しいアイデアをどんどん試し、形にしてリリースする。そして、その結果をフィードバックとして受け取り、さらに成長していけるような人が求められます。つまり、ポジティブで前向きな姿勢を持ち、チャレンジ精神がある人と一緒に働きたいと思っています。