橋本 将吾氏|千株式会社 執行役員 VPoE

SIer→楽天株式会社→株式会社Speee→auコマース&ライフ株式会社を経て2020年千株式会社へ入社。同社の執行役員VPoEとして開発組織の大きな成長を実現させた立役者。

千株式会社について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

弊社は、創業期から「はいチーズ!」というインターネット写真販売サービスを提供しています。今年8月で20期を迎えますが、順調に事業拡大しており、幼稚園・保育園にまつわる様々なDXサービス、周辺サービスを展開しています。

橋本さんのキャリア

── 子供のころからインターネットの魅力にどっぷりハマっていたそうですが、橋本さんは当時はどんな子供でしたか。

今まで公の場で語る機会がありませんでしたので、このような機会を通じて、私の背景について本音で語りたいと思います。私の実家は兼業農家であり、幼少期から農作業を手伝うことが日常でした。その中で、農業機械に触れる機会がありました。機械が人の手作業をシステム上で代替する仕組みに興味を抱きました。なぜ機械がそのような作業を実現できるのか、その仕組みにも興味を持ち、機械の世界に魅了されました。

中学2,3年生の頃、両親と交渉し、パソコンとインターネット回線を導入することに成功しました。その過程で、自ら申し込みや設定も行いました。

── 子供の頃から仕組み自体にも興味を持っていたのですね。

はい。パソコンに触れたのは小学校高学年の頃で、当時はまだ一部のマニアの方しか所有していない時代でした。しかし、担任の先生がパソコンを置いてくれたことで、実際に操作する機会を得ました。キーボードに文字を入力すると画面に表示されたり、マウスを動かすとカーソルが動くなど、その仕組みに興味を持ちました。朝7時から学校に通い、熱心にパソコンに打ち込んだことを覚えています。そして、そのパソコンを使って地元の話題を集めた記事を作成し、教室に貼り出す活動も行いました。

高校時代は、モノ作りが好きで機械科に進学し、ハードウェアについて学びましたが、部活動でテニスに熱中していた時期でもありました。その中で、パソコンに対する興味は常に持ち続け、プライベートの時間を利用してその知識を深めることに努めていました。

── 高校時代には、既にITエンジニアになりたいといったハッキリとした目標があり、高校卒業後は情報専門学校へ進学。そしてSier企業に入社されておりますが、目標に対してのプロセスなど当時はどのように考えておりましたか。

高校1年の時点で既にエンジニアとしてのキャリアを考えていましたが、本格的に決意したのは高校3年の時でした。モノづくりに興味を持って工業高校に進学し、コンピューターに関する知識を深めるために情報専門学科に進学し、将来的に就職することを考えていました。専門学校では、熱心に学び、同じく情熱を持つ仲間たちと共にウェブサービスの開発やプロダクトの企画、チーム開発などの活動に取り組みました。就活においては、インターネットの就活サイトが普及する前の時代でしたので、東京に行けば何とかなると考えており、東京への上京が就活までのプロセスでした。結果として、最終的にはSIer企業から内定をいただき、プロセス通りでした。

── 起業は考えなかったのですか。

起業をするという発想は当時はありませんでしたね。優秀な仲間と共にサービスの開発やコンテストに参加し、九州で2位になるなどの経験を積んでいたにも関わらず、自分たちで起業するというアイデアは浮かびませんでした。エンジニアとしては、自分たちの作りたいものを作ることに焦点を置いており、ビジネスとしての展望にはそれほど意識が向けられていなかったためです。周りの人も同様の考え方を持っていたので、大学で経営に対する興味を持った人と出会っていれば、起業という選択肢も考えられたかもしれませんね。

── その後、Sler/SES企業から楽天、Speee、auコマース&ライフとキャリアを歩んでおりますがそれぞれの節目のタイミングや入社の経緯を教えてください。

最初の仕事は、特定の企業を選ぶのではなく単に『東京の会社』という理由でSler企業に入社しました。約3年間、官公庁の行政、総務省、郵政などのシステム開発に携わってきました。全てのプロジェクトは長期的であり、教科書通りのウォーターフォール開発で進められていました。

私は現場のニーズを考慮し、作業効率や実際のユーザーの利便性を考えながら、積極的に提案を行っていました。しかし、SI企業での経験から、現場のニーズと開発のギャップを感じるようになりました。SI企業では、実際の現場をイメージした発注には限界がありました。また、プロジェクトの期間も1年単位であったため、このタイミングで自社開発企業に転職しようと考えるようになりました。

楽天に入社した経緯は、自身も楽天市場のユーザーとしてそのサービスを利用しており、「良いサービス」と感じていたからです。面接では、『楽天市場』のサービスに関わりたいと公言しました。また、偶然にも1次面接の担当者が楽天市場のマネージャーだったため、入社後にその方と「やっぱり入社してくれたんだ」という会話を交わすことがありました(笑)。

実際に楽天市場では、店舗系システムの中で商品ページや商品登録を担当するチームに配属され、非常に良い経験ができたと思います。楽天市場は複数のチームに分かれており、新しい仕組みを導入する際には必ず店舗側のニーズを考慮して設計を行う必要がありました。そのため、システムの設計の起点となる役割を担うことができ、楽天の巨大なシステムの設計の上流から携わることができました。楽天市場だけでも当時の流通額が5000億円から1兆円ほどまで伸びており、毎日サーバー負荷との戦いがありました。そのような環境はエキサイティングでしたね。

2011年頃、楽天が全社的に英語を公用語にするタイミングで、楽天のような社会的に意義のあるサービスを0から作りたいという気持ちが芽生え、転職を決めました。起業という選択肢もあったものの、私は誰かのアイデアを具現化することが得意であり、起業家よりも縁の下の力持ちとしてパフォーマンスを発揮できる会社を探していました。Speeeに決めた決め手は、第三者割当がない会社であり、当時4、5期目でモバイルSEOで一定の成果を出していたこと、また自分たちでサービスを作りたいというフェーズで一番マッチしていたことです。Speeeでは、約5つのサービスを立ち上げ、そのうち1、2つは事業譲渡や事業撤退の経験もしました。その中で現場が回るようになったこともあり、自分が関わらなくても業務が進むようになったので社会的意義のあることにもっと挑戦したいという思いが強くなり、Speeeを離れて新たなプロジェクトに取り組むことを決意しました。

auコマース&ライフはどちらかというとお手伝いのような形でジョインしました。1年半ほどでしたが、良い経験でした。

── どの企業(4社)での取り組みもキャリアに良い影響があったと思います。その中でも最も印象的な出来事はありますでしょうか。

強烈なインパクトが2つあります。まず、楽天時代の強烈なインパクトについてですが、楽天スーパーセールの立ち上げに携わった際には、想定をはるかに超えるトラフィックが押し寄せ、フロア全体にアラート音が鳴り響きました。通常の週に1回程度のアラート数とは比べ物にならないほどの数で、当時26、27歳の私にとっては秒間に10万人ものアクセスがある世界を経験することは、忘れられない体験でした。代表の三木谷さんもその場にいて、(アクセスに対して)ニコニコしていたのが印象的でした(笑)。

次に、Speee時代の強烈なインパクトについてです。キュレーションサービスの立ち上げに関わり、事業責任者とエンジニアと共に取り組みました。1年後にはユニークユーザーが1000万人、2年後には2000万人にまで成長しました。このプロジェクトは、良い意味でも悪い意味でも大変な挑戦でしたが、事業計画からスモールチームでも運営可能な設計システムを構築し、開始から2年半後には月間1億PVのサービスに成長しました。狙い通りに成果を出せたことは、私にとって大きな成功体験でした。

── その後、現職の千株式会社に入社されていますが、入社に至るまでの経緯、VPoEになるまでの経緯を教えて下さい。

千に出会ったのは、Wantedlyで当時の経営層からスカウトがきたのがきっかけです。

実は、当時私は保育のサービスには疎く、幼稚園・保育園業界に全く意識はありませんでした。業界や市場分析を行なっていく中で幼稚園・保育園業界の課題が分かりました。この業界には、楽天やサイバーエージェントのような世の中のスタンダードになる企業がなかったため、未だに幼稚園・保育園業界の先生たちは大変でDXが進んでいませんでした。だからこそこの業界を変えることも子育て環境に対して大きな価値を提供できると感じました。開発組織として伸びしろがある組織、利益相反にならないプロダクトを展開していることもあり入社を決意しました。

当時は開発組織がまだ伸ばせずにいたので、私がトップとして入りましたがCTOではなくVPoEとして入りました。勿論、技術を伸ばすということも一つありますが、開発組織の構造改革や教育プロセスの改善がメインでしたので私は組織改革をする人ですというメッセージの意味でVPoEを提示し、経営層も開発組織を変えるために私に任せると言ってくれましたね。

千株式会社 入社〜現在まで

── 橋本さんが入社された『16期目から20期目にかけて大きな成長を支えることができた』という記事を拝読しました。課題に対しての取り組みとして費用対効果計測・ステコミ・デトックス活動と3つのキーワードがありました。それぞれ詳細を教えてください。

入社した当時は、課題のインパクトと価値提供の優先順位(ロードマップ)が十分にコントロールされておらず、費用対効果の見極めが不十分な開発が多く行われていました。具体的には、新卒からの若手エンジニアが多く、営業から上がってくるクライアントの要望に応じてただひたすらに開発を進める、いわば社内受託のような受け身の状態でした。その結果、必要性やユーザーのニーズを考慮せずに開発が進められ、作られた機能が負債となったり、ユーザーが一人しかいない機能が生まれるなどの問題が発生しました。これらを改善するために、費用対効果の計測を実施しました。具体的には、エンジニアに自分の成果が給料に反映されることを理解させ、開発前に見積もりと振り返りを行いました。

次に、ステアリングコミッティ(ステコミ)を導入しました。事業を進める上でロードマップの優先順位が明確でなかったため、事業戦略からプロダクトの戦略、案件タスクまでの流れを確立する必要がありました。そのため、月に1回、事業責任者、経営者、開発責任者が集まり、事業戦略とプロダクト戦略を照らし合わせて今後の方針をアップデートしました。同時に、費用対効果計測の振り返りも行いました。

最後に、デトックス活動を行いました。過去に無駄なプロジェクトが多かったため、必要なものに集中することを意識しました。例えば、『はいチーズ!』のECサービスでは、Amazonや楽天のような複雑な機能を排除し、シンプルな決済のみを提供することで、無駄な開発工数を削減しました。

── それぞれを実施するにあたって障壁となることはありましたか。

いくつかの障壁がありました。これまでに、自社の事業と他社との比較を定量的・論理的に行っておらず、計画性を持った意思決定を行うことに慣れていなかった背景がありました。そのため、ステコミなどの会議では最初は感情や思い込みが先行し、議論の中で折り合いがつかない状況がありました。元々会社全体としてもこの方向性で舵を切っていたことはありましたが、このような意思決定の必要性が高いことに気づいた事業責任者が増え、共通の言語として捉える人が増えたことは大きな追い風となりました。

── 現在の橋本さんの業務内容を教えて下さい。

事業開発に5割、開発組織に2-3割、採用に2割の割合で業務に取り組んでいます。特に採用の部分は非常に重要ですね。今後は、この3年間で採用や教育を通じて事業開発や開発組織の面で成長したメンバーに業務を任せることができるようになったため、事業開発や開発組織の割合を減らし、採用の割合を増やしていく予定です。

現在のエンジニア組織について

── 現時点のエンジニアの組織体制や人数を教えて下さい。

ちょうど組織変更のタイミングですね。

現在の三つのグループを顧客ごとにより詳細に分類することを検討していますね。現在の開発体制は、先生と保護者向けの開発を行うグループが15人程度、社内システムやビジネス開発を担当するグループが15人程度、そしてインフラやQAなどを支える横断開発のグループが10人程度の計40人です。

これまでは保護者と先生を一つのグループに統合していましたが、これら二つのステークホルダーを個別に考慮することが必要であると判断しました。そのため、保護者と先生でステークホルダーを明確に区別することにしました。たとえば、先生向けの『はいチーズ!システム』と『はいチーズ!フォト』がそれぞれのグループで管理されていたので、これらをステークホルダーごとに統合することで、より顧客に適したサービスを提供できるようになると考えていますね。

── 現在のエンジニア組織の良い点と課題点はありますか。

良い点では、ミッション、ビジョン、バリューに沿ったメンバーが多いことですね。『社会的意義のあることをやる、お客様のために、笑顔になるために』と意識を持っているところは非常に良い企業文化だと思います。

課題の面では、まだまだリーダーやマネージャーが不足しています。かつては、リーダーやマネージャーがいなくても成り立っていた開発組織でしたが、現在は戦略、戦術、プロジェクト計画を意図的に進めているため、その意図を理解し、メンバーを率いる人が必要です。

今後の目標

これからは本当に先生や保護者の課題を解決するフェーズになってきたと思います。中長期的には、千株式会社のサービスが、世の中的に幼稚園や保育園、そして保護者の課題を解決し、子育てとして『はいチーズ!』が入っていることが主語になるようにしていくことが目標です。

── どのような人と一緒に働きたいですか。

少子化問題は、私たちが直面する重要な課題であり、その影響は業界全体に及ぶと考えています。幼稚園・保育園業界は、この問題に対処するための最初の入り口であり、業界を発展させることで子供を生みやすい環境を作り出せると信じています。

この業界に関心を持ち、現状に満足せずに積極的に取り組んでいただける方、技術を駆使して解決策を提案したい方、またサービスを提供したい方、この三つの志を持って果敢に取り組んでいただける方々を歓迎します。