企業のデータ基盤構築から分析・活用、生成AIの業務実装までを一貫して支援する株式会社MBKデジタル。2025年4月、三井物産傘下の株式会社Legolissと株式会社Hogetic Labの統合によって誕生しました。
執行役員CTO兼事業本部長を務める岩尾一優氏は、富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)でソフトウェア開発とデータ活用を経験し、ディー・エヌ・エーでは大規模データ基盤と組織づくりを牽引。その後、Hogetic Labの取締役CTOを経て、現在は約60人の事業組織を率いています。
今回は、岩尾氏のキャリアの原点から、技術と事業をつなぐCTOの役割、AI時代の組織・プロダクト戦略までを伺いました。
株式会社MBKデジタル 執行役員CTO兼事業本部長 岩尾 一優 氏
九州大学大学院修了後、富士ゼロックス株式会社に入社し、ネットプリントサービスやデータ基盤の開発に従事。2018年に株式会社ディー・エヌ・エーへ入社し、BigQueryのコスト改善やデータ品質・セキュリティの強化を推進した。最終的には、データエンジニアとデータアナリストが所属する40〜50人規模の組織を統括。その後、株式会社Hogetic Labの取締役CTOを経て、2025年4月の株式会社Legolissとの統合に伴い、株式会社MBKデジタルの執行役員CTOに就任。現在は事業本部長も兼任する。
株式会社MBKデジタル

データとAIで、企業の意思決定を支援する
── まずは、御社の事業内容について教えてください。
企業向けのデータ基盤構築やデータ分析・活用、生成AIの業務実装などを手がけています。AIやデータに関する事業を幅広く展開している会社です。
2025年4月には、三井物産傘下の株式会社Legolissと、私たちの株式会社Hogetic Labが統合しました。統合から約1年が経ち、PMI(統合後の組織・業務の融合)も順調に進み、一つの会社として軌道に乗ってきたタイミングです。
数学が好きだった少年時代と、自然に担ったリーダー役

── 岩尾さんのキャリアについて伺います。北九州のご出身ですが、現在につながるような幼少期の原体験はありましたか。
幼少期の経験が、そのままエンジニアとしてのキャリアにつながっているわけではありません。ピアノや英語、水泳など、いろいろなことを経験させてもらいました。
勉強は比較的得意で、特に算数や数学などの理系科目が好きでした。父親に算数を教えてもらった記憶もあります。問題が解けたときに面白さを感じていたことが、好きになった理由かもしれません。
高校は小倉高校に進学し、理系を選びました。中学校では生徒会長、高校ではバレーボール部のキャプテンを務めています。ただ、自分から積極的に立候補したというより、先生や周囲から勧められて引き受けることが多かったですね。
── 高校卒業後は九州大学へ進学し、その後、同大学院へ進まれています。
小倉高校から九州大学へ進む人が多く、地元の大学ということもあり、身近な選択肢でした。電気情報系の学部に進み、その頃から情報分野に漠然とした興味を持っていました。
研究テーマは認知科学です。3画面ほどのドライビングシミュレーターを作り、運転の熟練者と初心者について、視線の動きや首の回転角、アクセルやブレーキの踏み方などを分析しました。
ただ、当時から現在のキャリアを明確に思い描いていたわけでも、プログラミングが特別に得意だったわけでもありませんでした。大学院への進学も、周囲の多くが進学していたため、自然な流れで選んだという感覚です。
富士ゼロックスで、ものづくりからデータ活用へ
── 新卒で富士ゼロックスへ入社されています。どのような理由で選ばれたのでしょうか。
正直に言うと、「この会社でこれを成し遂げたい」という明確な意思があったわけではありません。残業時間や給与、平均勤続年数などを見て、「働きやすそうだな」と考えていました。
大学や研究室からの推薦で、自動車関連やメーカーなど、さまざまな選択肢がある中から精密機器メーカーである富士ゼロックスを選びました。振り返ると、この頃までは自分のキャリアについて、十分な意思決定ができていなかったと思います。
── 入社後は約8年間、コンビニ向けのネットプリントサービスなどの開発に携わられています。
この仕事を通じて、初めて本格的にソフトウェアを作る面白さを知りました。
入社当初は先輩に教えてもらいながら、iPhoneアプリの開発をリードしたり、ネットプリント上でコンテンツを販売するWebサイトを開発したりしました。コンビニの複合機では、ヤマハさんの「ぷりんと楽譜」やゼンリンさんの住宅地図など、さまざまなコンテンツを購入できます。そうした複数のサービス開発に携わりました。
自分が関わったものが世の中に出て、実際に使ってもらえることがとても面白かったですね。一方で、ユーザーにとって使いやすいサービスをどう作るかには難しさもありました。
アプリやWebサイトで、目的の操作まで何ステップでたどり着けるのか。ボタンの位置は分かりやすいか。コンビニの複合機も含めて、ユーザーが迷わず使えるかを一つひとつ検討しました。
── その後、データ活用が現在のキャリアにつながる転機になったそうですね。
富士ゼロックス時代の後半になると、自分なりの考えを持ち、「こういうことをやりたい」と提案する機会が増えました。
例えば、当時のネットプリントは会員登録が必須でした。しかし、データを見ると、会員登録の段階で利用をやめてしまうユーザーが一定数いることが分かりました。
そこで、機能を少し絞ってでも、会員登録なしで使えるサービスがあった方がよいのではないかと提案しました。当時「ネットプリント lite」と呼んでいた仕組みを作ったところ、多くの方に利用していただけるサービスになりました。
データを根拠に社内を説得し、リリースまでつなげられた経験です。その後、Google CloudのBigQueryが日本リージョンに対応したタイミングで、さまざまなデータを集約・分析できる基盤も整備しました。
この経験から、より本格的にデータを扱いたいという思いが強くなりました。私は分析者というより、分析を支える基盤を作る方が得意です。そこで2018年にディー・エヌ・エーへ転職し、ペタバイト規模のデータを扱うようになりました。
DeNAで磨いた、データ基盤と組織づくりの力
── ディー・エヌ・エーを選んだ理由を教えてください。
当時からディー・エヌ・エーは、BigQueryを全社的に導入するなど、データ活用に力を入れている企業として目立っていました。面接や面談を通じて、優秀で人柄のよい方が多いと感じたことも、入社を決めた理由です。
── 約4年間在籍し、最終的にはデータエンジニアとデータアナリストが所属する組織の部長を務めています。印象に残っている取り組みはありますか。
最初に取り組んだのは、BigQueryのコスト改善です。当時、本来必要な量以上にコストが膨らんでいることに気づき、改善策を提案して実行しました。結果として50%近くのコスト削減を実現し、Google Cloud Nextなどでも事例を発表しています。
この取り組みをきっかけに、入社から数カ月という段階ではありましたが、徐々にリーダーシップを発揮する機会が増えました。7月に入社し、翌年2月頃にはマネージャーになりました。
最初は3人ほどのチームでしたが、採用を進め、より大きな成果を出せる体制を作っていきました。コスト改善だけでなく、データの欠損や重複を検知する品質管理、誰がどのデータを閲覧できるのかを管理するセキュリティ、データパイプラインの設計など、データマネジメント全体を担いました。
組織も5人、10人、20人と拡大し、最終的にはデータアナリストを含めて40〜50人ほどになりました。
── キャリアに影響を与えた出会いはありますか。
Cuval Mediaでも取り上げられていた、株式会社ALGO ARTISのCPOである半田さんとの出会いは大きかったですね。
半田さんは、私の前任の部長です。エンジニア出身でありながらデータアナリティクスにも精通し、社内でも高く評価されていました。私はエンジニアリングを得意としていましたが、半田さんが私を見つけ、引き上げてくれる形で、一緒に部門を作っていきました。
当初は半田さんが部長、私が副部長を務め、その後、半田さんが退職するタイミングで私が部長を引き継ぎました。この経験を通じて、技術だけでなく組織づくりにも深く携わるようになりました。

プロダクトで課題を解決するため、Hogetic Labへ
── 統合前の株式会社Hogetic Labには、どのような経緯で参画されたのでしょうか。
Hogetic Labは、もともとディー・エヌ・エーのメンバーが、副業のような形で立ち上げた組織でした。現在、MBKデジタルの取締役副社長を務める大竹が代表をしていました。
ディー・エヌ・エーでは社内事業のデータを分析していましたが、その知見や価値を社外にも提供できるのではないかと考えたことが立ち上げの背景です。私は誘ってもらう形で参画し、最初は業務委託として関わりました。その後、2021年4月頃から正式にCTOとなり、取締役となりました。
── 参画を決めた理由を教えてください。
私はそれまで、プロダクト開発とデータ分析の両方を経験していました。社外の企業から課題を聞くと、複数の企業が同じような悩みを抱えていることが分かりました。
それならば、一社ずつ個別に支援するだけでなく、プロダクトを作ることで、より広く課題を解決できるのではないかと考えたんです。
最初に形になったのが、現在「Collectro(コレクトロ)」として提供しているサービスです。当時は、Twitter(現X)のデータを分析したい企業が、それぞれ独自にクローラーを開発していました。そこで、私たちがクローラーと提供基盤を作り、月額で利用できるようにしました。それまで準備に時間がかかっていたデータ分析を、最短で翌日から始められるようになりました。
現在提供している「BI Suite」も、お客様の課題から生まれたものです。既存のBIツールには、高機能である一方で非常に高額なものと、無料ではあるものの機能が不足しているものがあり、選択肢が両極端でした。
そこで、その中間ほどの価格帯で、十分に機能が充実したBIツールを作ろうと考えました。生成AIによって開発を効率化しやすい環境が整ってきたことも、プロダクト開発を後押ししました。
三井物産グループ入りと、MBKデジタルへの統合
── Hogetic Labの創業期には、どのような課題がありましたか。
特に苦労したのは採用です。創業メンバーが元ディー・エヌ・エーであっても、立ち上げたばかりの会社ですから、「この会社は大丈夫だろうか」と見られるのは当然です。
前職や大学時代の知人に声をかけ、リファラルを中心に少しずつ人を増やしました。それでも、求める人材を一般の採用市場から獲得するのは非常に難しかったですね。そのような時期に、M&Aの話をいただきました。
── 三井物産グループ入りを決めた理由を教えてください。
三井物産としては、データやAIを扱う会社をグループに迎えることで、本体や関連会社、取引先の事業をさらに成長させられるという期待があったのだと思います。
一方、私たちにとっても、総合商社である三井物産が展開する事業の幅は大きな魅力でした。データ分析やAI活用の出口となる事業が多く、メンバーの経験やキャリアも広げられます。
三井物産の方々と何度かお会いする中で、人柄や組織の雰囲気にも好印象を持ちました。そうした要素が重なり、話がまとまりました。
── 統合によって、どのような変化がありましたか。
三井物産本体や関連会社、ほかのグループ企業から相談をいただく機会が大きく増えました。
以前はGoogle Cloudを中心とした案件が大半でしたが、三井物産グループのお客様との取引が増えたことで、Microsoft Azureを使う機会も増えています。事業領域だけでなく、エンジニアが扱う技術の幅も広がりました。

技術と事業をつなぐCTOの役割
── 統合と同時に、執行役員CTOへ就任されています。
Hogetic Labでは、私が取締役CTOを務めていました。ほかの役員は主にビジネス領域を担い、私がエンジニアリングを担当する体制でした。旧Legolissでは、技術領域全体のリーダーシップを担う役割が明確に置かれていなかったため、統合後は私が会社全体のCTOを務めています。
── 現在、どのような役割や責任を担っていますか。
私にはCTOと事業本部長という二つの役割があります。
CTOとしては、会社全体の技術的なリーダーシップを担います。AIを社内へどう導入し、活用するのか。どの技術を採用し、生産性をどう高めるのか。そうした技術戦略に加え、社外への情報発信を通じた技術ブランディングや、エンジニアの採用戦略にも携わっています。
一方、事業本部長としては約60人の組織を率い、事業計画の達成に責任を持ちます。事業計画と現状のギャップを埋めるために、どこへ予算を投じ、どのような施策を進めるのかを考えています。
── CTOと事業本部長の役割を、将来的には分けたいという考えはありますか。
今のところ、分けたいとは考えていません。データやAI、エンジニアリングに詳しいからこそ、自社の技術をどのような事業につなげられるのかを考えられます。
データ基盤事業であれば、どのようなお客様から、どのような案件を受注し、いくらの売上を目指すのか。AI領域であれば、どの技術を使ってAIエージェントを開発し、社内の生産性もどう高めるのか。事業と技術を結びつけながら戦略を練られることに、大きな面白さを感じています。
60人から100人へ、成長を支える組織づくり
── 現在の事業組織と開発組織について教えてください。
私が管轄する事業本部には約60人が所属しています。データアナリストとエンジニアが合わせて約55人で、人数はほぼ半々です。残りの約5人がセールスを担当しています。
エンジニアには、データ基盤の構築に特化したデータエンジニアもいれば、AIエージェントやアプリケーションを開発するフルスタック寄りのメンバーもいます。統合時に15人前後だった開発組織は、現在では約30人になりました。
案件は、数百万円規模のPoCから数千万円規模の本番開発までさまざまです。相談をいただいた段階で、マネージャーを中心に必要なチーム構成を検討します。
データアナリストとデータエンジニアを組み合わせたり、PMとエンジニアを配置したりと、案件に応じて編成します。稼働状況だけでなく、それぞれの得意分野や今後のキャリアも考慮します。チームの規模は2〜3人から、多い場合には7〜8人ほどです。
── 組織としての魅力は、どのようなところにありますか。
教育やヘルスケア、エネルギー、インフラなど、幅広い領域の課題に向き合えることです。お客様の事業を理解し、課題を捉えたうえで、その解決にどの技術を使うべきかを考えます。
案件によっては、九州や四国、北海道などへ出張することもあります。日常の勤務はフルリモートが可能ですが、より大きな価値を提供するために必要であれば、直接現地へ伺います。
事業と技術の両面で選択肢が多いため、「このような仕事に挑戦したい」「このようなキャリアを築きたい」というメンバーの希望も実現しやすい環境だと思います。
── 現在の課題を教えてください。
組織が急成長しているため、マネジメントを担える人材を増やす必要があります。特に、部長クラスの役割やリーダーシップを担える人がいなければ、継続的に組織を拡大するのは難しくなります。
セールス人材も不足しています。当社の営業は、決まった製品を販売する仕事ではありません。一社一社の課題を捉え、AIやデータサイエンス、データアナリティクス、クラウドなどの知識を使いながら、技術面を含めた提案を作る必要があります。ソリューション営業の経験と技術への理解を持つ人材が必要です。
短期的には、現在の約60人から、1〜2年後に100人ほどの組織へ拡大したいと考えています。全国に拠点を持つお客様から、「10人ほどの体制を組めないか」と相談をいただくこともあります。
お客様との信頼を積み重ね、より大きな相談をいただいたときに、優秀な人材を十分に配置できる状態を作らなければなりません。現在は、対応できる規模を上回るほどのニーズがあり、人数の面で十分に応えきれていない状況です。
AIを前提に学び続ける組織と、求められる人材
── 組織のカルチャーについて教えてください。
前向きで、新しい変化に積極的なメンバーが多いですね。新しいAIモデルやプロダクトが登場すると、まず自分で試し、「このような使い方ができるのではないか」と発信するメンバーがいます。
業務でAIを使うことも、現在では当たり前になっています。Google Workspaceをはじめ、ChatGPTのビジネスプランやClaudeのチームプランなど、業務利用を前提とした複数のサービスを契約しています。
社内では、「この使い方で工数を削減できた」「このように活用すると認知負荷を下げられた」といった情報が日常的に共有されています。2週間に1回、AI勉強会も開催し、組織全体で知識をアップデートしています。
── AIがさらに進化しても、組織の人数を増やす必要はあるのでしょうか。
一つの仕事に必要な人数は、少なくなっていくと思います。ただし、基盤となるAIモデルは、私たちの会社やお客様の内部事情を知りません。
AIに適切なコンテキストを与え、目標の達成に向けて導く人は、今後も必要です。物事を俯瞰しながらプロジェクトをリードできる人材は、むしろ重要性が高まっています。
一方で、「指示を受ければ動く」「実装要件を渡されればプログラムを書く」という役割だけでは、AIに置き換えられる部分が増えていくでしょう。
当社には多くのお客様から相談が寄せられています。その接点に立ち、課題を捉え、プロジェクトを導ける人を増やす必要があります。そういう意味では、今後も人材が必要です。
── どのような方が、御社のカルチャーに合いますか。
一人ひとりの強みを生かすことを大切にしています。あるプロジェクトで十分に力を発揮できなかった人が、別のプロジェクトへ移ると非常に活躍するケースを、これまで何度も見てきました。担当する仕事や一緒に働くメンバーとの組み合わせによって、発揮できる力は変わります。
そのうえで重視しているのは、自走力です。仕事を渡す際には、単なる作業としてではなく、上位のミッションや目的と結びつけて伝えます。その目的を理解し、細かく指示されなくても、自分で考えて課題を乗り越えられる方が合うと思います。
ハードスキルや業界知識は、AIによって以前より習得しやすくなりました。分からないことを何度でも質問し、自分が理解できる表現までかみ砕いて説明してもらえます。
未知の領域でも必要な知識を自ら学び、AIを活用しながら前へ進める。そうしたメタスキルを持つ方は、当社の環境に向いていると思います。
対話型データ分析と、AIが理解できるデータ基盤
── AIの進化によって、データ活用はどのように変化していますか。
「対話型のデータ分析」が一つのトレンドになっています。
AIと会話しながら分析を深掘りし、結果に対してさらに疑問を投げかけると、AIが新たな分析結果を返してくれる。完成されたデータダッシュボードを見るだけでなく、AIとの対話を通じて思考を深める形です。
ただし、AIは企業が保有するデータを最初から知っているわけではありません。どのようなデータがあり、どのような方法でアクセスでき、データ同士がどのような関係にあるのかを正しく教える必要があります。
集計結果をどう解釈するかという分析ルールも、企業や事業によって異なります。こうした情報を整備し、実際の業務で使える状態にして提供するには、高い専門性が求められます。
── 御社では、どのように対応していますか。
地道に取り組んでいます。データの内容を説明するメタデータや、指標を定義するセマンティックレイヤーは、以前から重要だといわれてきました。指標の定義が統一されていなければ、人間でもデータを正しく解釈できません。AIに渡す場合も同じです。
最近では、データ同士の関係性を示す「オントロジー」という考え方も注目されています。こうした概念を丁寧に学び、正しく実装することを意識しています。
さらに、AIの回答精度を測定することも必要です。模範解答と照らし合わせて、どの程度近い結果が得られているのか。人が確認したとき、実際の業務で使える内容になっているのか。業務への適応性も含めて評価しなければなりません。
AIの精度を高め、測定し、さらに改善する。この一連の取り組みを、実際のプロジェクトで進めています。

PoCの段階で、本番展開後の価値まで設計する
── AIやデータ活用のPoCが、本番導入まで進まずに止まるケースも多いのでしょうか。
当社の案件では、PoCで止まるケースはそれほど多くありません。重要なのは、PoCのゴールをどのように設計するかです。
「このゴールを達成できれば、ほかの領域へ横展開することで確実に価値を生み出せる」と判断できる設計にしておく必要があります。
PoCで設定したゴールを達成し、追加投資によって得られる効果が明確になれば、お客様も本番導入を判断しやすくなります。反対に、PoC後に改めてゼロから設計し直さなければならない進め方では、次の段階へ移行しにくくなります。
予算について、お客様と率直に話せるかも重要です。「この目標を達成できれば、次の投資へ進めますよね」という認識を事前に共有する。必要に応じて直接お会いし、PoC後の展開まで合意して進めることが、本番導入につなげるポイントです。
AIに代替されにくい価値を見極め、事業の柱を育てる
── 今後、どのような未来を見据えていますか。
受託事業だけに依存する「一本足」の経営は、リスクが高いと考えています。そのため、複数の事業を組み合わせ、ポートフォリオとして育てていくことが重要です。
誰でもできる仕事や、AIで代替できる領域だけに依存していると、モデルの性能が向上したとき、いずれ置き換えられる可能性があります。短期的には事業として成立しても、中長期的なリスクを考えなければなりません。
例えば、SQLを書くことや、文法的に誤りのないSQLを生成・レビューすることは、AIが担えるようになっていくと思います。
一方、そのSQLが業務上の意味として正しいかを判断するには、お客様の事業や業務に関するコンテキストが必要です。その情報をAIへ正しく与え、結果を評価する仕事は、置き換えられにくい領域です。
当社には受託事業に加えて、BI Suiteなどの自社プロダクトがあります。また、Google Cloudに関するライセンス販売や導入後のサポートも行っています。
自社の強みと、お客様から寄せられる相談を組み合わせながら、受託、自社プロダクト、ライセンス販売、サポートなどの事業をバランスよく育てていくことが重要だと考えています。
AIの進化とともに、組織とプロダクトも強くなる
── 最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
私が意識しているのは、AIモデルが賢くなったときに、私たちも同時に強くなれる組織やプロダクトを作ることです。
プロダクトにAIを意味のある形で組み込んでおけば、基盤となるAIモデルが進化することで、プロダクトの価値も自然に高まります。クライアント案件の設計や、組織におけるAI活用についても同じです。
一つの例が、BI Suiteに搭載しているAIレポート機能です。
一般的なデータダッシュボードでは、数値やグラフを見た人が、「このデータから何が分かるのか」「次にどのような行動を取るべきか」を考えなければなりません。
BI Suiteでは、ダッシュボードの内容をAIが分析し、データから読み取れることや、取るべき行動をレポートとして提示します。AIモデルが進化すれば、より深い分析ができるようになり、機能の価値も高まります。
さらに、分析結果をグラフィックレコーディングのような形式で表示する機能も開発しています。AIによる分析が詳しくなっても、長い文章では読まれない可能性があります。そこで、4コマ漫画を見るような感覚で、要点を直感的に理解できるようにしています。
AIの進化によって分析の質が高まり、その結果を人が理解しやすい形で届ける。この機能は、「AIが進化するほど、プロダクトの価値も高まる」という考え方を体現しています。
AIの進化を前提に、その恩恵を組織やプロダクトの成長へつなげられる構造を作る。それが、私たちがこれからも大切にしていきたい考え方です。



