池上 俊介氏|エステートテクノロジーズ株式会社 取締役CTO

慶應義塾大学総合政策学部卒。2014年に東証マザーズに上場したデータセクション創業メンバーで取締役CTO。ビッグデータ、機械学習、自然言語処理を用いたシステム開発を得意とし、自然言語処理を用いたtwitter分析、自動文章生成を行うAI記者など開発案件多数。2019年、ビッグデータやAI技術を用いて不動産業界の変革を志し、エステートテクノロジーズ創業と同時にCTO就任。

エステートテクノロジーズ株式会社について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

弊社はいわゆる不動産テックと言われる領域で事業を展開しております。私たちは、AIによるビッグデータ解析を強みに、BtoB、BtoC両面で透明な情報提供に注力し、個人の資産形成の拡大、不動産流通市場の活性化、ひいてはグローバルにおける日本の不動産の価値向上を目指しています。

池上さんのキャリア

──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

小学生のときは水泳に取り組み、週6の練習をしていました。体力やストレス耐性はこの頃の水泳で鍛えられたと思います。加えて、本やマンガを読むのが大好きで、それらで得た知識やアイディアを学校の学級新聞や生徒会活動に活かすのが楽しかったです。中学校では日刊の学級新聞を発行し、紙面上で中学校を舞台に悪魔と戦うテーブルトークRPGの連載が大好評。クラスの文化祭の出し物にもなりました。文化祭や体育祭の実行委員、生徒会長も務めました。

高校では水泳とマンガを描くことに熱中していました。当時はスクリーントーンを削り、オリジナルの短編マンガを描いていましたが、今読み返すと何もかも未熟で恥ずかしいばかりです。なんちゃってではありましたが、何かをつくることが好きなのはこの頃の創作活動に由来していると思います。

── 慶應義塾大学総合政策学部に進学してから1社目の株式会社PFUに入社するまでの経緯とどのような取り組みを行ったか教えてください。

大学では慶應義塾に進学し、プログラミングに触れる機会が増えました。元々自宅にあった父のパソコンでプログラムを書いたりしていましたが、大学の授業やアルバイトで本格的にプログラミングを学びました。1998年当時はインターネットが普及し始めた時期で、ホームページ作成やCD-ROMコンテンツの制作を行う仕事を仲間と分担して進めていました。この経験はとても楽しかったです。

就職する際には、プログラミングよりも企画や営業に興味を持ち、富士通系のPFUに営業職として入社しました。しかし、そこでの業務は書類作成や納品書作成が多く、自分がこのような業務をきっちりこなすことが苦手であることに初めて気づきました。そこで1年で退職し、フリーランスとして活動することを決意しました。

フリーランスとして活動したのは1年ほどでした。その間、ホームページ制作や横浜のイベント情報を提供するサービスを運営していました。具体的には、映画館の上映情報やみなとみらいでのイベント情報を手入力し、iモードという携帯端末で現時点のイベント情報を閲覧できるようにしていました。このサービスはビジネスにはなりませんでしたが、神奈川Webコンテストで賞をもらうことができました。

── その後、創業メンバーとしてデータセクション株式会社を設立した経緯とどのような取り組みを行ったかを教えてください。

知り合いに誘われ何気なく行ったイベントで、当時購読していて大好きだったメルマガの発行者の方に偶然会い、今度、データからコンテンツをつくる会社(データセクション)を設立するけれど一緒にやろうと声をかけていただき、4人の設立メンバーの一人として参画することになりました。

データセクションは、メルマガや本を書いたりする人たちが集まって作られた会社です。初期の目的は、これらの人たちが集めたコンテンツを再利用できないかというところから始まり、当初は類似性に注目した検索エンジンの開発に取り組みましたが、なかなか収益を上げることができませんでした。その開発過程で当時ブログデータを収集したり、慶応大学石崎研究室で聴講させていただき学んだ自然言語処理やテキスト分類を行う機械学習などのAI技術を用いた開発業務を数人で行う苦しい時期を6年ほど過ごしました。

当時の顧客で後のデータセクションとエステートテクノロジーズ社長の澤がブログやtwitterデータを解析したトレンド予測の研究開発業務を発注してくれていましたが、リーマンショックのタイミングでプロジェクトが閉鎖されることになったのですが、それならばとデータセクションに社長としてジョインしてくれることになりました。澤はベンチャーキャピタルから資金を集め、大企業への提案を行いデータセクションを急成長させ、上場に至ることができました。彼のビジネススキルとリーダーシップにより、会社は大きく飛躍しました。

── これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。

印象に残ったのは、どんなに頑張っても成果が出なかったのに、澤が入ってきて少し売り方を変えたり、顧客の目線で企画を見直したりするだけで、同じサービスや技術でも顧客の反応が大きく変わったことに驚きました。

当時、私は技術やAIを活かした企画もできる技術者のつもりでしたが、、ビジネスの視点を持つ人と組むことの重要性を強く感じました。技術だけではなく、ビジネスの視点を持つ人と一緒に働くことで、より大きな成果を上げることができるのだと学びました。

──  創業メンバーとしてエステートテクノロジーズ株式会社を設立するまでの経緯を教えて下さい。

そうですね。データセクションがだんだん回り始め、0から1の仕事よりも10を100にするような仕事が増えてくるようになると管理的な業務が増え、企画を立てても収益性が求められ、面白いことがなかなかできなくなってきました。振り返ってみると私自身は特に20人から30人くらいの規模の頃が大変でしたが、リソース不足の中、知恵を絞って新しいものを生み出す瞬間が一番面白かったため、もう一度小さな組織からやりたいなと思ったんです。

澤もデータセクションを後継者に譲り、次に何をやろうかと考えていたときに、もう一度一緒にやりたいということで一致しました。技術はAIの知識やデータの知識があるので、どの分野が良いかと話し合いました。データがたくさんあり、あまり浸透していない業界はどこかと考えたとき、不動産業界が未だに電話とFAXが主流であることが分かり、そこに参入の余地があるんじゃないかと思いました。

データセクションのときは技術そのものを売っていましたが、今回はサービスとして提供できるようなことをやってみたいということで、不動産テックの領域に入ることにしました。

──  ちなみにそれ以外に候補として検討していた業界やサービスはありましたか?

そうですね。当時、自動文書生成に取り組んでいたので、それをベースにしたビジネスも検討していました。今でこそLLMなどの文章生成技術がありますが、当時はまだその分野は発展途上でした。もしそちらに進んでいたら、ChatGPTにひっくり返されて大変な状況だったかもしれません。不動産テックに進んだのは正解だったと思います。

エステートテクノロジーズ株式会社 創業

── 創業当時は、どのようなことに取り組みましたか。

そうですね。やはりAIデータを集めることが非常に重要なので、データ収集の体制を整えるプログラムなどに注力していました。。

── 創業当時は、何名でしたか?

代表の澤と私の2人で始めました。開発周りは副業で手伝ってくれる方もいましたが、開発に関して技術的な部分はほとんど私1人でやっていました。

── 苦労したことや良かったことはありましたか

苦労した点は、会社を創業して1年ほどでユーザーが自分の希望条件を登録すると最適な物件を配信するサービスを作ったのですが(当社の基幹事業であるAI物件レコメンド)、なかなかユーザーが集まらなかったことです。以前のデータセクションの時は、新しいサービスを始めるとすぐにユーザーが集まったので、同じようにすぐに集まると思っていたのですが、不動産業界では大手企業の広告が非常に強く、ユーザ獲得に苦戦しました。

── 現在の池上さんの業務内容を教えて下さい。

直近では、2024年4月までデータウェアハウスの導入や入れ替えを行っていたため、かなり手を動かすことが多かったです。現在はそれが落ち着いてきたので、このデータ基盤を活かした営業提案の機会を増やしており、全体の約40%を占めています。

お客さんから「〇〇のようなデータがあるので、うまく活用して面白いことができないか」という相談がよく来るため、それに対応して手を動かす作業が全体の40%を占めています。残りの20%は採用や計画策定、会議などに充てています。

── 営業提案活動は新規のお客さんに対して行っていますか?

はい。新規のお客様も既存のお客様もいますが、最近は新規のお客様に対して、営業担当と一緒に知恵を絞って提案をしています。

── エステートテクノロジーズ株式会社の事業の魅力をお聞かせください。

そうですね、当社の事業領域である不動産テック領域はまだ確立されていない部分が多く、データを集めることで大きな強みを持っています。このデータを活用して様々な提案やサービスを展開できる可能性が十分にあります。そのため、みんなでアイデアを出し合ったり、「このお客さんにはどういう提案をしようか」と一緒に考えたりすることが多いです。

決まった業務をこなすというよりは、次のステップをみんなで考えながら進めていくことが好きな人には非常に向いている環境です。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

現状、開発チームは約10名の体制です。各メンバーがメインで担当しているプロジェクトを持っています。プロジェクトを進める中でリソースが不足した場合は、メインの担当者が判断して他のメンバーにサポートを依頼し、フレキシブルに対応できるような体制を整えています。

また、弊社のメンバー構成ですが、シニア層は私一人で、他はミドル層から若手の方々です。特に若い人材の育成に力を入れており、一番若いメンバーは高校を卒業して当社に入社してくれています。若手を積極的に迎え入れ、育てていくことに注力しています。

── 現在の開発組織は、どのようなことに取り組んでおりますか。

昨年から、組織運営の一環としてスクラムを導入しています。これにより、プロジェクトの進行がより効率的になり、チーム全体の連携が強化されました。また、社内で定期的に勉強会を開催し、知識の共有やスキルアップを図っています。

さらに、他の部署とのコミュニケーションや協力体制の強化にも取り組んでいます。部門間の連携をスムーズにし、情報の共有を円滑にすることで、全社的なプロジェクトの成功に繋げています。

── 現在のエンジニア組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)がありますか。

メンバーがやりたいと言った技術や進め方を、可能な限り一緒に相談しながら進められる点は、当社の良いところだと思います。各メンバーが自分の興味や意欲を持って取り組むことができる環境を整えているため、モチベーションが高く、積極的な姿勢が見られます。

しかし、現状の課題として、ノウハウが個人に止まってしまっている点があります。スキルや知識が特定のメンバーに集中してしまうことがあり、これを防ぐために、今後はスキルを上手く分散させていきたいと考えています。ノウハウの共有を促進し、チーム全体でのスキルアップを図ることで、組織全体の強化を目指します。

今後の目標

これまでは、クライアントに対してどのようなサービス提供が需要があるかを模索し、さまざまな試行錯誤を行ってきました。その結果、手応えを感じるようになり、現在はこれをさらに拡大して展開していく段階にあります。今後数年の間に、この成果を基に上場を目指していきたいと考えています。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)

私の部署としては、『1:サイエンティスト』や『3:インベンター』を非常に必要としています。会社としては、管理や計画通りに進められる『5:ストラテジスト』のタイプも必要ですね。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

やはりベンチャー企業は、新しい技術を積極的に取り入れ、組織も拡大しながら急速に進化していきます。そうした環境を機会と捉えて楽しむことができる人と一緒に働きたいと思っています。