発想とITの力で人々の日常に新しいワクワクを創造するCTOが語る開発組織とは?

辻 亮佑氏|株式会社エアークローゼット  執行役員CTO

上智大学卒業後SIerとしてキャリアをスタートし、インフラやDB、バックエンド、フロントエンドなど多岐にわたる開発に従事。2012年より楽天株式会社(現 楽天グループ株式会社)にて、フロントエンドに特化して新規立ち上げサービスの設計、開発を担当。2015年株式会社エアークローゼットへCTOとして入社。全社における技術戦略を統括。

株式会社エアークローゼット について

当社は、『“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ』をビジョンに、発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造することをミッションとして掲げています。当社のビジョンやミッションには、「ワクワク」というキーワードが含まれており、私たちはその価値を重視しています。

その中でも私たちが提供したい価値は、時間の価値を向上させることです。時間は誰にでも平等に与えられていますが、それぞれの人が時間を異なるように感じます。例えば、私の場合はランニングが趣味であり、その時間は非常にワクワクするものであり、テンションが高まります。

私たちは、このようなワクワクする瞬間が時間の価値が高いと定義し、日常の中で多くのワクワクする瞬間を創造することを目指しています。当社のエアークローゼットの事業は、女性向けのお洋服をサブスクリプション型でレンタルできるサービスですが、単にお洋服をレンタルすることが目的ではありません。このサービスは、日々の日常にワクワクする瞬間を創造する発想から生まれました。

はい。このエアークローゼットのサービスにはいくつかの要素があり、それぞれに理由があります。EC上でお洋服を自宅でも購入できるのは便利ですが、実際にお洋服を選ぶ段階が一番大変だと考えます。色々なブランドや自分に合うお洋服を探すのは時間がかかる上、トレンドも追いかけるのが難しいです。その結果、お洋服選びがワクワクする瞬間ではなくなってしまうことがよくあります。そこで、自分で選ぶ時間がない場合でも、プロのスタイリストがお洋服を選んでくれる体験を提供します。

また、一点ずつお洋服を購入すると費用がかさむため、できるだけ多くのお洋服に出会える機会を提供することが可能なレンタルという手段を用意しています。さらに、サブスクリプション型のモデルも導入しており、エアークローゼットが日常生活に当たり前のように溶け込み、毎回レンタルするお洋服を自身で選択することなくワクワクや新たな出会いを楽しめるサービスを提供しています。

辻さんのキャリア

子供の頃は、目立つことが好きなタイプでした。学級委員や委員長など、率先して担当したり、スポーツも小学校時代は陸上と水泳、中学時代はテニス、高校ではラグビーをやっていました。一方で、テレビゲームもとても好きでした。何にでも興味を持つ子でしたね。また、目立ちたがりの中でも天邪鬼な気質もあり、私の周囲で流行っていることはやらないなど、人とは違う自分でいたいタイプでした。

大学時代は、法曹を目指しており、法律の勉強に加えて政治学にも興味を持っていました。特に日本以外の国の政治経済に関心を寄せ、バックパッカーとして海外にも足を運ぶ機会を得ました。海外の経済発展を見ると、新しいビジネスが生まれることで内需が向上し、好循環が生まれる様子に触れ、ビジネスに対する興味を強く感じました。法曹を目指していながらビジネスに興味を持ちはじめると、法律とITの論理性や創造性の共通点に気づくことができ、自身の最初のキャリアにIT業界という選択肢が生まれました。

とはいえ、就職活動をしていた当時は具体的なビジネスが見えなかったので、まずは誰と一緒に働くかでファーストキャリアを考えることにしました。様々な会社の話を聞いた中で、この人たちと一緒だったら毎日働くことが楽しそうだ、そして楽しく働けるから成長できるだろうと思えた会社が偶然にもITの会社だったため、その会社に入社しました。

当時は、ソフトウェアエンジニアとして3年ほどのキャリアを積んだ後、ITコンサルティングや上流工程に携わる方面でのキャリアを考えていました。そのような考えを持ってエンジニアとして働いていましたが、一社目の会社の時に非常に優秀な他社のエンジニアの方と同じプロジェクトで出会う機会がありました。当時、周りの人と比較をした際に、ある程度できる方だと私自身、天狗になっていたのですが、その方を見てへし折られましたね。圧倒的なレベルの差を痛感しました。中途半端ではいられない。まだまだエンジニアとしてのキャリアを積んでいかなければいけないと決心しました。

その結果、エンジニアとしてのキャリアを深められるところに転職の軸を置きました。楽天さんを選んだ理由は、技術的な面だけでなく、将来的に海外やスタートアップでのキャリアも考えていたため、英語を公用語とする点も魅力的でした。

前述の1社目の時の人との出会いも影響として大きかったのですが、楽天さんでの経験が印象に残っています。楽天さんでは、横串で色々なサービスに携われる部門に配属され、複数のビジネスモデルの経験を積めたことがよかったです。

特に楽天totoのサービスは、上位1%のユーザーで全体の80%ほどの売上となる特徴的なビジネスモデルでしたので面白かったです。加えて、楽天さんは事業会社なのでエンジニア職以外の専門領域の方々がおり、ビジネスに関わる色々な役割を知れたことも経験となりました。

元々代表の天沼も楽天さんの出身で同じ部署でした。ただ300名近くいる部署だったため、普段の業務では全く関わりはありませんでしたが、お互いの存在は認識していました。当時の社屋には最寄り駅が二駅あり、本社に向かうルートが2つあるのですが、天沼も私も同じルートでしたので、良く顔を合わせていたり、グループの飲み会でも最後の二次会や三次会まで二人とも残っているというような間柄でしたね。

お互いのキャリアの話自体は、その時は一切することはなく、天沼が楽天さんを辞めるタイミングで初めて今後についての話のために飲みに行きましょうという流れになりました。私自身も楽天さんに入社した当時からずっと同社に残り続けるという選択肢ではなく、海外かスタートアップにチャレンジしようと考えていました。

加えて、エンジニアとしても、部分的に期待される何かを作るというよりは、自分で設計したシステムを一から全部作り上げる経験もしたいと思っていたので、天沼の話を聞いて一緒にやりたいと思いました。エアークローゼットのサービスの原型の話、ビジョン、仕事への価値観、キャリアなど双方で話をして非常に盛り上がりましたね。そこから、最初はお手伝いという形でインフラ側の相談を受けたり、ティザーサイトを一緒に作りました。

このような形で取り組んでいくうちに、お互いに一緒にやりましょうという自然な流れでオファーもいただき、正式にジョインすることになりました。

株式会社エアークローゼット 入社後 

外注していたシステムの仕様を把握しつつ、目の前のやらなければいけないところから対応していました。お客様が利用するサービスサイトのシステム、裏側のお客様情報を管理する管理画面、スタイリストの方々がお洋服を選ぶための画面が元々一つのシステムに統合している状態でした。

しかし、セキュリティの観点から考えると、このシステムは絶対に分ける必要があったため、スタイリストの方々が使用する管理画面をいち早く別のシステムで作ることにしました。勿論、一人では全部を対応できないため、業務委託のエンジニアや友人に依頼しながら進めました。ひたすら開発していましたね。

エンジニア組織に限らず、全社的に上場前後で特に大きな変化はありませんでした。勿論、上場の前の段階でシステム監査対応などを考える必要はありましたが、上場する2,3年前から準備していたので、上場前後のタイミングではむしろ運用面が整っており、大きな課題はありませんでした。監査対応を始めた時は、2人月ほどの工数を取られていたので、そのころが一番大変でしたね。

採用2-3割。一つ一つのプロジェクトも含めて開発の方針を策定することに4-5割。組織について1割程度。中長期の開発に1割程度です。

現在のエンジニア組織について

現在の開発組織は、業務委託を含めて約25名です。本来ならチームを複数に分割したいという考えがありますが、現時点では一つのチームで開発を進めています。このチーム内には、マネジメントレイヤーや全体の品質向上を担うメンバーがいます。来季にはチームを分割できる状態を作っていく予定です。

会社全体として、ウェットなコミュニケーションが取れるメンバーがたくさんいます。この文化は採用選考段階での見極め事項になっていることもあり、当然の結果とも言えます。

例えば、実際のプロジェクトを進行していく中では都度、さまざまな疑問が生じます。特にエアークローゼットのシステムでは、倉庫の作業員やスタイリストがシステムに対して入力を行うため、システムをリリースするだけでは完結しないことがよくあります。業務過程ではヒューマンエラーも発生します。このような場合、都度コミュニケーションを取ることが重要視されています。

備忘としてSlackなども活用されていますが、課題発生の都度、その場で話し合い、解決することが最もスピーディーです。このような意識を持ったエンジニアが多く、実際に実践されていることは弊社の強みであり特徴と考えています。そのため、弊社では全員がフル出社の形式を取り、スピード感や連帯感をウェットなコミュニケーションで実現しています。

緊急事態宣言中は原則としてリモートワークを実施していましたが、一部のメンバーは出社していました。お洋服を扱う部門もあり、自宅では作業ができない場合もあるためです。緊急事態宣言が解除された後は、基本的に全員が出社する形となりました。

弊社では、出社を奨励していることが退職に繋がった例はありませんでした。また、モチベーション調査も導入しており、ここ数年間、偏差値70以上(AAA)を維持しています。
 

反対に、最近の課題としては、モチベーション調査でも非常に高い数値が示されていますが、このスコアは期待と満足の差によって決まります。つまり、期待と満足が一致していても、期待が低い状態があるかもしれません。期待と満足の数値自体は一致していますが、まだまだ期待が低いことが課題と考えられます。自社に対する期待を高め、それに対して満足できる状態を築いていく必要があります。

やはり、サービスのローンチのタイミングが最も印象的でした。エアークローゼットにジョインする前は、例えば楽天さんなどの大規模なシステムの一部を担当していましたが、エアークローゼットの場合、私一人しかいない状態で始まり、24時間365日稼働し続ける月額制のサブスクリプションサービスですので、動き始めたら止められない。その感覚の中で、一番最初に登録していただいたお客様が初めてお洋服を選ぶ瞬間は非常に印象的でした。天沼(代表)と前川(副社長)と私の3人でその瞬間を迎えました。実はローンチのタイミングで、対応してくださるプロのスタイリストの方が別の仕事があり、沖縄の離島にいまして、一番最初に登録されたお客様の情報を我々が個別で連絡し、スタイリングコメントのやり取りなどを行っていたこともあり、記憶に残っています。

それに加えて、最初の頃はお洋服を選ぶ画面もサイズの検索機能もなく、お洋服自体も一点一点並んでいるようなシステムで、同じお洋服でも写真がそれぞれ異なるため、写真の中のシワなどで判断しながら選んでいました。その結果、10数点選ぶのに2時間以上かかっていましたね。これは絶対に改善しなければという思いで取り組んでいました(笑)。 

今後の目標

エアークローゼットでの職責を果たすことが何より第一ではありますが、今後も様々なサービスに関わり、自分自身が実現したいと思えることを実現していきたいという想いがあります。

そのためには、CTOとしての自分がいなくなってても黒字を生み出し続けられるビジネスを築くことが重要です。特に私が担当しているITやシステム・開発体制がしっかりと整い、社内で絶えず生まれてくる新たな挑戦に対応できる準備が整うところまで作り込むことが、今も昔も変わらない目標です。(まだまだ道は半ばだと思っています。)

「3:インベンター」ですね。エアークローゼットは、世の中になかったサービスを形にしているため、必要な機能は何が正解かわからない中で生み出していかなければなりません。機能としては勿論、レンタルという仕組みを考える時に、例えば、倉庫のシステムでも従来のECシステムだと数だけ管理を行うのみで良かったのですが、レンタルとなると送った商品が戻ってくるので1点1点個別に管理する必要があります。システム的に循環型の物流のイメージでこのようなシステムは世の中にまだ数は少なく、今後循環型の社会になっていくと想定した際に、仕様として正解がないものを作っていく必要があるので、そういうことにチャレンジしたいと思える方に入社いただきたいです。

一方、弊社の組織では、「4:ガーディアン」タイプの方はあまりマッチしないですね。

どの職種にも通じることですが、自分たちがやりたいという気持ちを大事にしてほしいと、日頃から経営陣やマネジメント層からメンバーに対して発信しています。勿論、やるべきことの完遂はその前提ですが、自由にアイデアを出したりするなど、一人ひとりのメンバーがやりたいことを実現するために頻繁にディスカッションも行っています。

もちろん、技術が好きな方と一緒に仕事したいですが、それよりも、自身がやりたいことのためにその技術が手段として捉えられている方と一緒に働きたいと思います。一緒に世の中にないサービスを新しく作っていきましょう。