猫様やワンちゃんの異変にいち早く気づきたい。そして、一緒に暮らす毎日をもっと楽しみたい。RABOは、猫様向けの「Catlog」「Catlog Board」、ワンちゃん向けの「Pawlinq」を通じて、動物たちの暮らしをデータで可視化しています。
プロダクトづくりを担うCPOの伊豫健夫氏が大切にするのは、一人の飼い主としての実感です。「自分が欲しいもの」を起点にしながら、猫様とワンちゃんそれぞれの暮らしに合わせたUXや、個体ごとの変化を捉える独自AIを形にしています。
人事からエンジニアへ転身し、リクルート、メルカリ、メルペイを経てRABOへ。キャリアの原点から、実装まで踏み込むプロダクトマネジメント、成長戦略としてのデザインまで、伊豫氏のものづくりの考え方を伺いました。
株式会社RABO CPO 伊豫 健夫 氏
新卒で松下電器(現パナソニック)に入社し、HR領域を担当。野村総合研究所でアプリケーションエンジニアとして大規模システム開発に携わった後、リクルートで求人事業の商品企画を担当する。メルカリではプロダクト開発や組織づくりに携わり、その後メルペイへ。RABOには創業前から関わり、2023年4月に執行役員CPOとして正式参画。プロダクトの企画・開発からマーケティング、事業開発まで幅広く担う。自身も2匹の猫様と暮らす。
株式会社RABO

※本記事では、猫を大切な家族として尊重するRABOの姿勢と同社の表現に合わせ、猫を「猫様」、犬を「ワンちゃん」と表記しています。なお、「Catlog」および「猫様」は、株式会社RABOの登録商標です。
猫様とワンちゃんの暮らしを可視化し、異変への気づきを支える
── 現在展開している事業について教えてください。
もともとは猫様向けの事業からスタートしました。スマート首輪の「Catlog(キャトログ)」と、トイレの下に敷くボード型デバイスの「Catlog Board(キャトログボード)」を通じて、猫様の生活にまつわるさまざまなデータを取得しています。そのデータから愛猫の日々の過ごし方を可視化し、健康管理を支えるサービスを展開しています。
2026年2月には、ワンちゃん向けに「Pawlinq(パウリンク)」というスマート首輪をリリースしました。
── 猫様やワンちゃん、そして飼い主のどのような課題を解決するプロダクトなのでしょうか。
一言でいうと、「異変に気づく」ということです。ワンちゃんも猫様も、「しんどい」「ここが痛い」と言葉で伝えることはできません。だからこそ、飼い主さんには、異変にいち早く気づいてあげたいというニーズがあります。そこに応えることが、私たちの提供価値の最も大きな部分です。
一方で、皆さんは健康管理をするためにペットと暮らしているわけではありません。日々の生活がデータとして見えるようになることで、一緒に暮らす中で感じるかわいさや愛らしさが、さらに増していくと思うんです。そうした価値も、副次的に提供していると考えています。
HR領域からエンジニアへ。企画からものづくりに関わりたい

── ITやソフトウェアに興味を持ち、エンジニアの道に進んだきっかけを教えてください。
新卒では松下電器、現在のパナソニックに入社し、HR領域に配属されました。もともと文系で、ソフトウェアなどに興味はあったものの、専門的に勉強していたわけではありません。
当時はソフトウェアやインターネットが盛り上がり始めた頃で、自分もITの仕事に関わってみたいと思いました。SIerが多くの人を採用し、新卒に近い立場の人にも門戸が開かれていたこともあり、その後、野村総合研究所にアプリケーションエンジニアとして入社しました。
そこで大規模なプロジェクトの開発に取り組み、さまざまな課題をソフトウェアで解決していく面白さを知りました。そこからは、ずっとソフトウェアに関わっています。
── その後、リクルートへ転職されたのは、どのような思いからだったのでしょうか。
野村総合研究所(NRI)には4年ほど在籍しました。クライアントワークを続ける中で、自然と自社サービスに関わってみたいと思うようになったんです。
お客様の要望を形にする仕事にはやりがいがありました。一方で、ものをつくる立場で関わるうちに、「サービスの企画そのものから考えてみたい」という気持ちが少しずつ強くなっていきました。
上司にも相談しましたが、企画から自分で手がけたいのであれば、事業会社でサービスをつくる側に立つのが一番の近道だと考えるようになりました。
それなら商品を企画する側に進んでみようと検索し、見つけたのがリクルートの商品企画の募集でした。それが、入社のきっかけです。
自分とは違う世界に進む面白さを選び、メルカリへ
── リクルートでの経験から、メルカリへの転職には、どのようにつながっていったのでしょうか。
リクルートでは8年ほど、主に求人事業の商品企画を担当しました。スマートフォンの登場など、エンドユーザーを取り巻く環境の変化を一通り経験する一方で、新しい環境に挑戦したい気持ちが強くなっていました。
それまで大企業を歩んできた中で、スタートアップという存在を耳にするようになったんです。2015年前後のことで、大企業からスタートアップへの転職は、まだそこまで一般的ではありませんでした。
また、求人事業を担当しながら、自分はメディアをつくる側で、求職者としてサービスを使う機会がないことにもジレンマを感じていました。転職を考え始めたとき、それなら自分も使ってみたいと思い、スタートアップの求人を集めたメディアを見たんです。
掲載されている会社も創業者も全く知らない中で、2社ほど選んで応募しました。そのうちの1社がメルカリでした。
── 最終的に、メルカリを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
もう1社は、Googleなどの大手企業出身の方々が集まってつくった会社でした。出身が近いこともあって話が合い、「スタートアップといっても、そこまで特殊ではないんだな」と感じました。
一方、メルカリでお会いした当時の経営陣の皆さんは、自分とはまったく違う視座で物事を見ている人たちだったんです。
この年齢で転職するなら、そちらのほうが面白そうだと思いました。私がメルカリに入社したのは、まだ社員が100人もいない頃です。数千人、数万人規模の従業員を抱えていた大手企業しか経験がない私からすれば、「最悪、会社がなくなるかもしれないな」という気持ちで入社しました(笑)。
── 入社後は、どのように役割が広がっていったのでしょうか。
最初は一人のメンバーとして入社しました。当時は人事制度も今ほど整っていませんでしたし、OKRといった体系立った目標管理もありませんでした。いろいろな仕事をしているうちにマネージャーを任され、その後はプロダクト担当の執行役員になりました。
システム開発の経験があったので、ほかのプロデューサーと比べると、ものづくりには強かったのかもしれません。当時は役割が細かく分かれていなかったので、技術用語を使ってエンジニアと直接やり取りし、一緒に開発を進められることには、一定の価値があったのだと思います。
その後、メルペイが立ち上がり、さらに成長させ、メルカリとのシナジーを生み出す必要がありました。別会社として、外部から加わった方々を中心につくられていたこともあって、メルカリとメルペイの連携をより強化するために、メルカリ側から参加した形です。

創業前から関わっていたRABOに、自然な流れで合流
── 2023年4月に、RABOの執行役員CPOに就任されています。正式に参画された経緯を教えてください。
メルカリ、メルペイには、合わせて8年ほど在籍しました。一方で、RABOについては創業前から多少サポートをするようなこともありました。代表の伊豫愉芸子は私の妻でもあり、私はプロダクトに関することを取りまとめたり、エンジニアの方々と一緒に開発を手伝ったりするような関わり方です。
具体的な時期は決めていませんでしたが、「いずれは合流するよね」とは、どちらからともなく言っていたと思います。
前職では次々に大きなミッションが来るので、何かが一段落したわけではありません。ただ、RABOもある程度立ち上がりを終えていましたし、いずれ合流するのであれば、そろそろいいタイミングかもしれないと思いました。明確なきっかけというより、自然な流れでした。
── 当時、事業の可能性をどのように見ていましたか。
ペットにお金をかける人が増えていることについては、自然な流れだと思っていました。そこにテクノロジーが入ることで、飼い主さんの暮らしはもっと豊かになるはずだという期待がありました。
代表は当初から「必ずそうなる」と確信していて、私は「どう形にしていくか」を考える立場でした。実際にプロダクトを届けてみると、お客様からの反響も大きく、今はその可能性をより強く実感しています。
── 参画当時の開発体制と、CPOとしての役割を教えてください。
当時の開発メンバーは10人に満たないくらいで、バックエンド、クライアント、機械学習、フロントエンドのメンバーに、プロダクトマネージャーとして私が加わる体制でした。
役割は、プロダクトの開発と、その成長に関わることを一通り担うというものです。今も変わらず、企画、開発の進行、QA、マーケティング、ビジネスディベロップメントに加え、PLに関することなど、経営や事業企画にも携わっています。

飼い主としての原体験を、プロダクトの個性にする
── 言葉で要望を伝えられない猫様やワンちゃんの課題やニーズを、どのように捉えているのでしょうか。
一番大きいのは、自分自身の体験です。うちには、RABOのCCOでもある、ぶり丸とおでんの2匹がいるので、一人の飼い主として、自分が欲しいものを素直に考えるようにしています。その意味では、今のCatlogの機能には、私の発想に偏っている部分もあると思います。
幸い、うちの猫様は2匹とも大きな病気をしていません。ですから、Catlogには「健康な猫との毎日を楽しむ」という雰囲気が、比較的強く出ていると思います。
そのようなアプリだからこそ、広く受け入れてもらえた可能性もあると思っています。皆さんは健康管理をしたくて動物と暮らしているわけではありませんから、それが結果的によかったのかもしれませんね。
── ご自身の体験が変われば、プロダクトも変わる可能性があるのでしょうか。
あると思います。「こういう気持ちになるんだな」「こういう機能が必要なんだな」と感じれば、開発に向ける気持ちが、そちらに動く可能性はあります。
私は、プロダクトマネージャーも、もっとそうであっていいのではないかと思うほうです。リサーチや顧客への直接的なヒアリングなどをもとに客観性をもってものをつくることは、特にBtoBのSaaSなどでは合理的なのかもしれません。ただ、エンドユーザー向けのプロダクトには、どこかに創業者の「いい意味での偏り」が必要な気がしています。そうしたものがないと、どこか引っかかりのあるプロダクトにはならないのではないかと思うんです。
── チームのメンバーの体験や意見は、どのように取り入れていますか。
たとえば、私はワンちゃんと暮らしていないので、Pawlinqについては、ワンちゃんを飼っているメンバーによく意見を聞きます。飼い主さんに共通する気持ちや自分なりの仮説は大切にしながら、具体的な機能や見せ方には、実際にワンちゃんと暮らしている方の声を取り入れています。
技術は共有し、猫様とワンちゃんそれぞれの暮らしに合わせてUXを変える

── Pawlinqを始めた背景を教えてください。
一番大きかったのは、猫様向けに培ってきた技術が成熟してきたことです。データが増えて精度も上がり、技術的な改善を重ねてきました。
社内でも「いよいよワンちゃん向けにも展開できるのではないか」という話があり、事業として次の大きな成長を考えたときに、着手すべき時期だと考えたんです。メンバーもそろい、人を増やさずに今の体制で横展開できそうだという見通しが立ったので、意思決定から実行までは比較的早かったですね。
当時、カスタマーサポートのメンバーに、十数匹のワンちゃんと暮らしている方がいました。彼女からは「いつかワンちゃん向けもやってほしい」と、ずっと熱い声をもらっていて、社内で発表したときには号泣していました。ほかのメンバーも、みんな喜んでいましたね。
── CatlogとPawlinqでは、どの部分を共通化し、どの部分を個別に設計しているのでしょうか。
共通する部分が多いのは、センサーで行動を捉えるセンシングの技術です。ワンちゃんも猫様も四足歩行で、食事をする、水を飲む、歩く、走るといった行動や、それに伴う首元の動きには、似ているところが多くあります。
もちろん、ワンちゃんは犬種による体格のばらつきが大きいですし、吠える行動や、ハアハアと呼吸する「パンティング」など、猫様とは異なる行動の特徴もあります。ただ、ワンちゃんも猫様も行動がよく知られている動物なので、見た目の動きから仮説を立て、共通点や違いを比較しながら進めやすいんです。
むしろ、考え方を大きく変える必要があるのは、アプリケーションのつくり方です。
── アプリでは、どのような違いを持たせているのでしょうか。
私は、猫様との暮らしには「ファンタジー」のような要素が多分にあると思っているんです。家の中に猫様という存在が同居していて、人間とつかず離れず暮らしている。Catlogは、ある意味そうした世界観を持たせながらつくっています。
一方、ワンちゃんの飼い主さんの話を聞くと、親子関係のようなイメージを大切にしている方が多いように見受けられます。「うちの子」という感覚が強く、「○○ちゃんのママさん、パパさん」と呼び合うような関係性がある。その感覚は、猫様との暮らしとはかなり違うと思いました。
例えば、Catlogの最初の画面は、あえて写真ではなく、猫様を模したアニメーションで構成しています。一方、Pawlinqは、まず大きく写真が表示されるUIにしました。それぞれへの向き合い方を、最初の画面にも反映しています。
また、ワンちゃんとの暮らしには散歩がありますし、猫様と比べると留守番が苦手な子も多いそうです。Pawlinqでは、そうした日々の暮らしの文脈に沿って使えるようにしています。
元気スコア(AIが総合的に解析し、日々の元気度の変化を数値化して毎日更新する機能)やバイタル(睡眠の質、安静時呼吸数、体温変化など)に関する機能など、裏側には共通するものも多く、同じサーバー上で同じアプリケーションが動いています。ただ、飼い主さんへの見せ方やUXの設計は、大きく変えています。
── ワンちゃんとの暮らしへの理解を、どのように深めていったのでしょうか。
今回は、ワンちゃんと暮らしている、前職の同僚でもあるデザイナーに手伝ってもらいました。
彼女の日々の体験や、「ワンちゃんの飼い主はこういうものですよ」という声を信じて、そこに私の予測や仮説を組み合わせながらつくっていきました。もともと、デザイナーと一緒にものをつくることが好きなんです。
さらに、開発の過程では約200匹のワンちゃんとその飼い主さんにご協力いただきました。犬種や体格、暮らし方もさまざまなワンちゃんたちのデータや、飼い主さんからの率直なフィードバックがあったからこそ、一人の声から立てた仮説を、多くのワンちゃんとの暮らしの中で確かめながら形にすることができました。
「その子のいつも」との違いを捉える、独自AIの開発
── デバイスから得られるデータを、健康状態の変化への気づきに、どのようにつなげているのでしょうか。
基本的には自分たちでモデルを構築しています。その上で、健康管理において大事にしているのは、その子特有の変化を捉えることです。
人間でも、一定の基準値を超えているかどうかで判断することはありますが、もともとの体質によって数値が高い人もいます。その場合に大切なのは、その人の普段の数値から、さらに上がったのか、下がったのかという変化です。私たちのAIも、そうした個々の変化を見逃さないように学習することに、力を入れています。
基本となる行動分類も行っていますが、大切なのは、複数の行動の情報を組み合わせて、どのような変化が体調の変化の兆候となり得るか、そのパターンを持つことです。
生き物なので、たとえ同じ子のデータであってもばらつきもあれば、誤差もあります。そんなばらつきや誤差があっても、その子の普段の範囲から外れた変化を捉えられるようにする。それが、私たちのAIの基本的な考え方です。
── 独自AIに加えて、生成AIはどのように活用しているのでしょうか。
私たちのプロダクトは、AIそのものを価値として提供している点に特徴があります。独自につくったAIをお客様に使っていただき、その対価としてサブスクリプションの料金をいただいています。
それとは別に、データをお客様に伝える部分では、生成AIも使っています。
例えばPawlinqでは、散歩や留守番の後に、その子が語りかけるような「〇〇(愛犬の名前)より」というメッセージが届きます。また、ホーム画面の「昨日の〇〇」では、前日の食事・運動・睡眠を振り返り、気になる変化があればケアのヒントも添えています。グラフになじみのない飼い主さんにも、愛犬のようすが自然に伝わるようにしています。
── 技術面では、どのような難しさがありますか。
個体差があることと、AIの学習や評価に必要な正解データを、どう得るかということです。すべての飼い主さんから、判定が正しかったかを教えてもらえるわけではありません。
「精度は何パーセントですか」とよく聞かれますが、すべての正解がわかっていれば、「私たちのプロダクトは何点です」と答えられます。ただ、実際には、すべてを把握できるわけではありません。その中で、何を正解データとし、どう評価するかを自分たちで定めていく必要があります。そこが、一番難しい部分だと思います。
全体の統計ではごくわずかなケースでも、生き物にはばらつきがあり、誤判定も起こります。そうした難しさに、終わりなく向き合っている感覚ですね。
── モデルの検証や改善は、どのように進めているのでしょうか。
例えば、対象を1,000匹と決め、その飼い主さんたちからフィードバックをいただき、モデルの判定が合っていたかを確認する。基本的には、そうした検証を繰り返していくしかないと思っています。
お客様が増えれば、検証の対象も大きくできます。100匹で試すよりも、1万匹で試して評価するほうが、精度を確かめる上でも得られるものは大きくなります。より多くのデータやフィードバックをもとに検証でき、それが精度の改善につながっていく。今は、そうした流れに乗っていると感じています。
実装まで踏み込み、複数の開発を組み合わせて「全部やる」
── ハードウェアからアプリまで、開発の優先順位をどのように考えていますか。
短期的には、出たばかりのPawlinqに少し重きを置いています。Catlogと比べると、まだ足りていない部分が多いので、その改善に取り組んでいます。
また、ペットテックは新しい領域なので、事業として成長するためには、新しいお客様に使ってもらう必要があります。そのため、お客様の目を引く機能の開発には、かなり知恵を絞っています。
一方で、サブスクリプションの事業なので、継続してもらわなければ意味がありません。既存のお客様が不満に感じていることも、細かく改善する必要があります。ですから、両方を優先するという考え方です。
── 両方を進めるために、どのような工夫をしているのでしょうか。
私は社内では、できるだけ「優先順位」という言葉を使わず、「全部やる」と伝えるようにしています。ただ、自分の中では優先順位を持っています。
例えば、小さな改善の中には、実装のコストはそれほどかからなくても、お客様への影響が大きいものがたくさんあります。「これは喜ぶ人が多そうだ」「2人のお客様から同じ声が出ているということは、ほかにも同じように感じている人が多いのではないか」といったことは、自分の中で判断しています。
その上で、開発や実装のことを理解していれば、「この実装とこの実装の間に余地があるので、ここにこの改善を入れられそうだ」と、一つひとつ組み合わせていけるんです。
社内に「今期の優先順位はこれです」と示すと、それ以外のことをやらなくなってしまいがちです。それはあまり好きではないので、いつも取り組む案件の一覧を見せています。開発メンバーからも、「どちらが大事ですか」と聞かれることはあまりありません。
── その進め方を実現する上で、プロダクトマネージャーとして何を意識していますか。
案件を並べて要件を伝え、その先はエンジニアリングディレクターなどに任せるのであれば、確かに優先順位をつけなければ進められないと思います。
私は前職の頃から、「これはこう実装すると楽にできそうなので、要件をここまで絞りましょう。そうすれば、その後にこの案件を入れられますよね」といったところまで、一緒に考えるようにしていました。
自分がパズルを組み合わせる主体になれば、優先順位を聞かれることも、それほどありませんでした。メルカリでは多くのチームがあったので、それぞれのチームのリードに、私からそうした話をしていました。
── 同時に動く案件の全体像を、どのように把握しているのでしょうか。
気合いです(笑)。自分自身が忙しくなったり、扱う情報が多くなったりするのは、仕方がないと思っています。今も毎朝、動いている案件を一度、すべて頭の中でおさらいしています。そうしないと忘れてしまうので。
私の考えですが、エンジニアは仕事をしたくないわけではありません。案件を最もよい形で組み合わせてくれるプロダクトマネージャーがいれば、それに越したことはないですし、効率よく仕事ができると思います。
日々、考え続けることにはなりますが、もともと、ものづくりが好きなんです。
専門性を深く持つ、自立したメンバーが集まる組織
── 現在の開発組織について教えてください。
現在は14名で、バックエンド、フロントエンド、Web、Android、機械学習のメンバーがいます。会社全体としては、明確に組織やチームを分けるというより、マーケティング、エンジニア、デザイナー、PdMといった職種で、緩やかに分かれている感覚です。
── どのようなメンバーが多く、組織にはどのような方が合うと感じますか。
それぞれの専門性が高く、自分の領域でしっかり経験を積んできた人が多いと思います。エンジニアであれば、エンジニアリングマネージャー以上の役割やCTOを経験している人が多いですし、若手でも一つのテーマを深く掘り下げてきた人が多いですね。マーケティングも、大きな企業やプロダクトで経験を積んできたメンバーです。
ジェネラリストというより、一人ひとりが自分の専門領域を深く持っている組織です。日中のオフィスも比較的静かで、それぞれが集中して仕事に向き合う、落ち着いた雰囲気です。結果として、そういうタイプの人が合うのかもしれません。
── 日常の交流にも、その特徴は表れていますか。
月に1回ほど、社内のカフェスペースで飲み会をするのですが、にぎやかに飲んでいても、仕事の話はあまりしないんです。それくらい、それぞれが自分の職域で独立している感覚があります。
一緒に暮らしているワンちゃんや猫様の話は多いですし、あとはプライベートの話ですね。「あの案件がさ」といった話は、あまり出てきません。そういう社風なのだと思います。
デザインで暮らしの価値を伝え、世界に届ける

── デザインを成長戦略そのものと位置づけている理由を教えてください。
私たちがそうした形でデザインを捉えているのは、まだ新しい領域だからです。ペットにスマート首輪をつけて日々の行動や体調の変化を継続的にデータとして捉える。そのデータをもとに、その子の変化に合わせたケアや商品を届ける。さらには、動物病院やフードメーカー、保険など、ペットに関わるさまざまな産業がデータを生かせるようにする。私たちが目指しているのは、動物たちの生活とヘルスケアのデータを起点に、動物と人の繋がりと一生を支えるインフラになることです。ただ、一般のお客様にとっては、まだ考えたことのない世界だと思います。
それでも、スタートアップとして事業を続けていくには、新しいものをいち早く世の中に浸透させる必要があります。そのときに、データや早期発見について、言葉で説明するだけでは伝わらないと思うんです。
私たちが話しているのは、飼い主さんにとって、目に入れても痛くないほど大切な存在のことです。だからこそ、もっと気持ちに訴えたほうが、響く人は多いと思っています。
ペットとの別れ、特に後悔の残る別れは、飼い主さんに共通するつらさだと思います。一方で、伝えたいのは悲しいことではなく、一緒に暮らす楽しさです。そうしたことを直感的に理解してもらうために、重要なのがデザインです。
創業当時から、オフィスもWebサイトも、プロダクトのパッケージも、デザインにこだわってきた最大の理由はそこにあります。まず、その世界を感じてもらうことが一番の近道だと思っています。
理屈だけで考えると、「うちの子はまだ元気だから」と、使い始めないこともあると思います。それよりも、「一緒に暮らす毎日が、もっと楽しくなるかもしれない」と伝えるほうがよいと思うんです。そうした意味で、デザインは極めて戦略的に使っています。
── これまでの経験と比べて、この事業ならではの魅力をどのように感じていますか。
世界共通のプロダクトになり得ることです。米国の猫様の飼い主さんも、日本と同じように猫を家族として大切にしています。世界中の人たちにサービスを届けられる可能性があることに、事業として魅力を感じています。
もう一つは、とても感情に関わるプロダクトであることです。これまで携わってきたマーケットプレイスやフィンテックとは、全く違います。合理性だけでは捉えられない世界で開発しているので、不思議な感覚があって面白いんです。知的好奇心をくすぐられるという意味でも、とても楽しい事業だと思います。
── 最後に、今後どのような展開を目指しているのか教えてください。
世界中の人に使ってほしい、ということに尽きます。
ペット向けの製品では、世界的に知られている海外のプロダクトが数多くあります。私たちも、日本発でそうした存在になれたらいいなと思っています。それが、まず見据えていることです。



