社会課題に向き合い続ける──。
その覚悟を、プロダクトと組織の両面から貫こうとしているのが、株式会社エスマットだ。
「モノの流れを、超スマートに。」というビジョンのもと、在庫管理を起点にサプライチェーン全体の変革に挑む。Cuvalでは、同社取締役 兼 上級執行役員の松生泰典氏に、プロダクトの再定義から組織再設計に至るまで、その舞台裏を聞いた。
松生 泰典氏|株式会社エスマット 取締役 兼 上級執行役員
京都大学大学院修了後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。金融・消費財・サービスなど幅広い業界で、事業戦略立案や組織改革に従事。
その後、Amazon Japanへ転職。プロダクトマネージャーとして、グローバルプロダクトの日本へのローンチ、Fundamental面での改善(品揃え、価格など)、そして日本発の企画をグローバルに提案・推進するとともに、オンライン中心の事業環境下でオフライン施策や顧客体験設計にも携わる。
2022年、株式会社エスマットに執行役員CPOとして参画。
プロダクトの再定義、製造業への事業シフト、ロードマップ設計の刷新を主導し、あわせて組織再設計や生産性改善にも深く関与。現在は取締役 兼 上級執行役員として、プロダクト、エンジニアリング、カスタマーサクセス、営業組織までを横断的に管掌。「モノの流れを、超スマートに。」というビジョンの実現に向け、事業・組織・価値創出を一体で推進している。
株式会社エスマット

事業内容について
── まずは、御社の事業内容から伺ってもよろしいでしょうか。
株式会社エスマットでは、「SmartMat Cloud(スマートマットクラウド)」という IoT×SaaSプロダクトを展開しています。現在は、このプロダクトを軸とした単一事業に集中しています。
スマートマットクラウドは、通信機能を備えた体重計型のIoTデバイスを活用したサービスです。デバイスの上に物を載せるだけで重量データを取得し、在庫数を自動算出。そのデータをクラウドに送信し、在庫管理や最適化を支援します。
近年では、在庫管理にとどまらず、製造業の製造工程の一部に組み込まれるケースも増えており、モノの流れを整流化するような活用領域が広がっています。
幼少期・学生時代の原体験

── 幼少期はどのようなお子さんでしたか?
小学生の頃に一度、転校を経験したのですが、その影響もあるのか、当時は周囲とすぐに打ち解けるタイプではなく、少し距離感を保ちながら人を観察するような子どもでした。
中高一貫校ではサッカー部に所属し、競技には真剣に取り組んでいました。一方で、特定のグループに強く属するというより、常に周囲をよく見て行動するタイプだったと思います。
やると決めたことはやり切る性格で、サッカーと並行して高校一年生の頃から大学受験勉強にも早くから真剣に取り組んできました。振り返ると、かなり真面目なタイプだったと思います。
── サッカーは今も続けていらっしゃるんですか?
最近は一緒にやるメンバーと予定を合わせるのが難しくなり出来ていません。代わりに一人でできるスポーツとしてボクシングを続けています。もう20年ほどになりますね。体を動かすこと自体は昔から好きです。
京都大学で情報学を選んだ理由
── 京都大学を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
成績や偏差値を踏まえ、先生や塾の講師から勧められたのが大きいですね。あとは実家との距離感です。一人暮らしはできるけれど、遠すぎない。その条件で京都大学を選びました。今思えば、かなり自己中心的かつ安直な判断だったと思います。
── 情報学を選ばれた背景を教えてください。
文系科目が苦手だったので、理系一択でした。父が建築関係の仕事をしていた影響で建築にも興味はありましたが、当時すでに業界が成熟していると聞いていました。
一方で、コンピューターサイエンスは今後伸びる分野だと感じており、「よりビジネスに近い領域」を学びたいと考えて情報学を選びました。
── 大学ではどのような研究をされていたのでしょうか。
デジタルライブラリー、いわゆる情報図書館学の研究室に所属し、データベース構築や検索アルゴリズム、検索結果の可視化などに取り組みました。学部4年から修士までの約3年間、この研究を続けていました。
── 学業以外では、どんなことに力を入れていましたか?
企業インターンはほとんどせず、その代わり塾講師のアルバイトに力を入れていました。関西では有名な浜学園で、小中学生向けの受験指導に約5年間携わっていました。
新卒でBCGを選んだ理由
── 大学院修了後、新卒でBCGに入社されていますが、なぜコンサルだったのでしょうか。
学校推薦によるメーカー勤務などが周りに多かったのですが、私の関心は技術そのものよりも「社会や組織がどう成り立っているか」にありました。
研究でプログラミングには触れていましたが、専門性を深めるより、人や企業、価値観の構造に強く惹かれていたんです。
大学時代も企業インターンより、塾講師として子どもや親御さんと向き合う時間を多く取っていました。その中で、人の意思決定や人間関係に強い興味を持つようになりました。
結果として、特定領域を極めるより、業界横断で事業や組織に関われるコンサルが自分に合っているのではないかと感じ、この道を選びました。
── 実際にBCGに入られて、いかがでしたか。
一言で言えば、激務でした。特に最初の1年は相当ハードでしたね。
ただその分、若いながらも大手企業のエース層・重役の方と向き合わせて頂きながら、構造化思考やプレゼンテーション、ビジネスを見る視点を徹底的に鍛えられ、凄まじい速度で成長ができた実感も強いです。
業界を横断して課題に向き合い、「考え抜く」ための知的耐久力と、本質に対するアンテナが身についた時間だったと思います。
Amazonで得た「顧客起点」
── その後、Amazonへ転職されていますね。
コンサルではプロジェクトリーダーまで経験しましたが、次第に「提案まで」であることに物足りなさと不安を感じるようになりました。自分の考えが本当に正しかったのかを、最後まで責任を持って確かめたい。そう思い、事業会社への転身を決めました。
Amazonを選んだのは、あえて難易度の高い環境に身を置きたかったからです。
実際、社内政治やグローバル調整は想像以上でしたが、その中で日本発のアイデアをグローバルに通せた経験は、大きな財産になっています。
キャリアを形づくった出会い
── 印象に残っている出来事はありますか。
一つは、社会人1年目に出会ったコンサル時代の上司です。
「どんな会社にいるかより、どんな人間になりたいかが大事」
この言葉は、今のキャリア観の原点になっています。
もう一つは、Amazonで手がけたオフラインイベントの経験です。
初めてエンドユーザーの反応を目の前で見て、「顧客起点で考える」姿勢が腹落ちしました。正直「顧客のために」という言葉は、よく聞く言葉だと思いますが、実際のお客様の前で中途半端なことは(当然ですが)出来ない、というのをまざまざと感じましたね。
これらの経験は、今エスマットでプロダクトや組織に向き合う姿勢に、そのままつながっています。
エスマット参画の決め手
── エスマットに参画されたきっかけを教えてください。大学時代から代表の林さんとはつながりがあったと聞いています。
実は、私がAmazonに転職したときの面接官が林だったんです。大学時代は研究室が一部重なっていたものの、当時はそこまで親しい関係ではありませんでした。ただ、Amazonで約1年半一緒に仕事をし、その後も彼の独立後に定期的に近況を共有する関係が続いていました。
林が独立後に取り組んでいた初期のEC事業には、個人的にはですが、正直あまりピンと来ていませんでした。
ただ、Amazon時代に二人で関わっていた「定期おトク便」の体験と、スマートマットの発想が結びついた瞬間に、大きな可能性を感じたんです。
在庫量が分かれば、最適なタイミングで補充できる。この仕組みは、BtoB領域でこそ社会課題に踏み込めると感じました。
実物ができ、BtoCからBtoBへと使われ方が変わっていく過程を見ながら、「このプロダクトは、今の価値以上に進化できる」と思えたことが、参画を決めた一番の理由です。
当時は40歳前後で、「これからはアウトプットで価値を出すフェーズ」だと考えていました。プロダクトに責任を持つ覚悟を決め、エスマットに参画しました。
── 林さんから、なぜ誘ったのかは聞いていますか。
詳しくは聞いていません(笑)。
ただ、Amazonで一緒に仕事をする中で、お互いの仕事ぶりはよく分かっていました。情報学のバックグラウンドやコンサル・Amazonでの経験を含めて、総合的に見てもらえたのかなとは感じています。
── 最初はCPOとしての参画だったのですね。
はい。会社側からの提案でした。当時は林が代表とCPOを兼務していましたが、限界が来ていて、ずっと探していたそうです。AmazonでPdMをやっていた流れで、自然につながった形でした。
── 志賀さんとも大学が同じですよね。
研究科は近かったですが、当時はほとんど話したことがありません。入社前に林から改めて紹介され、そこから関係が始まりました。

入社後に最初にやったこと
── 実際にエスマットに入社されてから、まずどのようなことに取り組まれたのでしょうか。
一番最初に取り組んだのは、プロダクトの位置づけを言語化することでした。
機能や顧客を丁寧に理解しながら、「なぜこの機能がお客様にとって価値があるのか」を一つひとつ整理していったんです。
当時は、「このプロダクトは何なのか」を誰もが明確に説明できる状態ではありませんでした。
特にクリニック向けの利用が中心だったため、現在の価値を整理すると同時に、将来どう進化させるのか、その全体像を描く必要がありました。
その中で、私が中心となって議論したのが、製造業へのシフトです。既存顧客向けに機能を深掘りするのか、それともビジョンに立ち返り、より大きな社会変革につながる業界から攻めるのか。かなり大きな意思決定でした。議論を重ねた結果、製造業に向かう道筋をロードマップとして描き切りました。あわせて、「要望が出たから作る」のではなく、まず目指す姿を定義し、そこから逆算して積み上げる。ロードマップの作り方そのものも見直しました。
一番苦労したのは「組織」
── 入社当時、特に苦労されたことは何でしたか。
一番苦労したのは、組織です。入社して最初に感じたのは、表向きの前向きさと、内側の空気とのギャップでした。
ベンチャーでホワイトスペースに挑む以上、失敗したら次に進めばいい。そうしたチャレンジングな文化が必要だと感じていましたが、文化は簡単には変わりません。結果として、組織づくりにはかなりの時間をかけることになりました。
── 当時の組織規模はどれくらいだったのでしょうか。
2022年1月時点で約70名でした。
ただ、事業規模に対して人数が多く、生産性が高い状態とは言えなかったため、まずは適正規模への見直しが必要でした。さらに、クリニック・BtoCから製造業へと軸足を移す中で、求められるケイパビリティも変わっていきました。ボトルネックに手を打つ中で入れ替わりも起き、規模の最適化と中身の強化を同時に進めてきました。
── どれくらいの期間がかかりましたか。
大きな論点が整理できるまでに、約2年かかりました。今はようやく、採用にも本腰を入れられる状態になり、組織としての強さも出てきた実感があります。
現在の業務内容について
── 現在の業務内容について教えてください。
現在は、CPOとしてのプロダクト企画に加え、エンジニアリング、カスタマーサクセス、既存営業まで、複数の本部を横断して見ています。採用や評価にも関わりながら、プロダクト単体ではなく、組織全体をどう前に進めるかを考える役割が増えています。
── 最初から執行役員だったのですよね。
はい。執行役員として入社し、現在は取締役です。
ただ、肩書きにはあまり興味はなくて、どれだけ責任を持ち、価値を出せているかの方が大事だと思っています。
エスマットの事業の魅力
── エスマットの事業の魅力を教えてください。
大きく二つあります。
一つ目は、完全なホワイトスペースであることです。「ありそうでなかった」プロダクトで、実質的な競合はほとんどいません。
二つ目は、エンタープライズの最前線と最初から向き合えていることです。
代表の林と志賀が、一社一社と本気で向き合い、時間をかけて信頼関係を築いてきた。その結果、業界の最先端を見ながらプロダクトを磨ける環境があります。
── 共同創業者のお二人の存在も大きいですか。
それは間違いないですね。得手不得手を補い合いながら、何とかバランスを取り続けている。共同代表としては、かなり稀有な二人組、だと思っています。
現在の組織体制
── 現在の組織体制について伺ってもよろしいでしょうか。
現在は、約50名の組織です。内訳は、プロダクトチームが約10名、バックオフィスが10名、残りが営業を中心としたビジネスチームという構成です。
── 2022年当時から体制は変わっていますか?
大枠の構成は変わっていませんが、ビジネスチームの中身は大きく変わりました。
もともとはSaaS企業で一般的なTHE MODEL型の分業体制でしたが、現在はエンタープライズ向けのアカウント営業、いわゆるソリューション営業へと少しずつシフトしています。
一気に変えられるものではないので、無理をせず、時間をかけて移行している最中です。
いま注力している2つの柱
── 今、特に力を入れている取り組みは何でしょうか?
一つは、営業のあり方をTHE MODEL型から、エンタープライズ向けのソリューション営業へ転換することです。特に、売り方の改革ですね。定型的な提案ではなく、お客様ごとにカスタマイズした提案ができる体制を目指しています。
もう一つは、在庫管理の枠を超える新しいプロダクトづくりです。
「在庫管理が楽になる」だけでなく、これまで解決できなかった課題に踏み込む。
そのための“在庫管理外”のプロダクトを、スマートマットと連動する形で第二の柱として育てています。
── 組織の良い点と課題を教えてください。
良い点は、サイズ感がちょうどよく、前向きな風土が醸成され始めていることです。新しく入ったメンバーのやり方を、周囲が自然に取り入れる文化も少しずつ根づいてきました。
一方で課題は、リモート中心の働き方です。
効率は高いものの、直接顔を合わせた方がよい場面もあり、コミュニケーションの濃度には改善の余地があります。
現在は、出社とリモートを組み合わせたハイブリッド体制で、ランチ施策なども取り入れながら、試行錯誤を続けています。
目標と採用
── 今後の目標について教えてください。
これは今後も変えるつもりはありませんが、社会課題に向き合い続けることです。
お金を稼ぐだけなら、もっと簡単な事業はいくらでもあります。
それでも、なぜエスマットなのか。
なぜ、「スマートマットクラウド」という、ありそうでなかった重量計なのか。
このプロダクトは、社会にきちんと貢献できる、意外と珍しい存在だと思っています。
ここを曲げてしまったら、この会社の存在意義はなくなってしまう。
最終的には、工場を建てる際には、最初からスマートマット前提の棚が組み込まれている。
そんな「当たり前」「なくてはならない」存在になることを本気で目指しています。
── 採用についても教えてください。
CXOやCOO候補のポジションを前提にすると、このプロダクトはまだ売り方が確立されていません。 新しい価値に気づいてもらい、そこから一緒に売り方をつくっていく仕事です。
だからこそ必要なのは、ビジョンへの共感と、結果が出るまでやり切る姿勢。この二つは絶対条件です。
決まった型をなぞれば成果が出る仕事ではありません。売り方や、場合によってはプロダクトの在り方そのものまで踏み込み、試行錯誤できる方とご一緒したいですね。
── プロダクト領域についてはいかがでしょうか。
プロダクトは、まだ正解も、最終形も見えていない領域です。
だからこそ、「自分が使うならどうしたいか」を想像力を働かせて、まず作って試せる人と相性が良いと思っています。
特に今は、生成AIの進化が非常に速い。じっくり考えるより、まず作る。ダメなら切り替える。
このスピード感を持てる方に、ぜひ参画してほしいですね。
── 今後求めているのは、どのようなエンジニアですか?
今、一番欲しいのは”スピード感のあるテックリードレベルの方です。
仕組みが複雑だからこそ、技術選定や方針を「これでいこう」と決め切れる存在が、開発スピードを大きく左右します。
── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
私たちのビジョンは、
「モノの流れを、超スマートに。」です。
サプライチェーンを、デマンドチェーンへ。企業単位ではなく、バリューチェーン全体を支える存在になる。社会に本当に意味のある変化を起こしたい。 そう思う方と、ぜひ一緒に挑戦したいですね。



