「セキュリティは武器になる」SecureNavi技術本部長・飯田康介氏が描く次世代の情報セキュリティ戦略

現在、新規事業も含め4つのプロダクトを開発しており、主力となっているのは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証とプライバシーマーク(Pマーク)取得支援です。さらに近年では、ISMSのクラウドセキュリティ対応にも力を入れています。

ISMSやPマークは単に取得すればよいというものではなく、適切に運用することで、企業全体の情報セキュリティレベルが大きく向上するという特長があります。私自身、前職のエンファクトリーでISMSの認証取得を経験しましたが、認証を得ているという事実自体が、サービスの信頼性を高め、ビジネスの後押しになることを実感しました。

たとえば近年、企業の活動において、セキュリティ面のチェックが非常に厳しくなっています。その中で、ISMSやPマークを取得していることは、「きちんと管理されている会社だ」という評価につながりやすい。つまり、情報セキュリティへの取り組みが、売上や契約獲得に直結する時代になってきているのです。

私たちSecureNaviが目指しているのは、まさにその考え方を前提とした世界――
「セキュリティに取り組めば売上が上がる世界」を実現することです。

当日のオンラインインタビューの様子

中学ではバレーボール部に所属していましたが、それ以上にテレビやアニメが好きで、ジャンプ黄金期の『スラムダンク』なんかを夢中で見ていた時代でした。

同級生たちは東京電力や古河電工、九州電力、北陸電力など、電力・重電系の企業に進む人が多かったですね。

でも、私の転機になったのは研究室の教授の趣味的な活動でした。その先生は本当にものづくりが好きで、自作PCを組み立てたり、研究室内のネットワークやメールサーバー、Webサーバーを構築したりといったことを学生にも実践させるようなタイプだったんです。

なぜか私がすべてを担当することになり、ネットワークやメールサーバー、Webサーバーを構築することを一から学び、実際に作業していく中で、「これを仕事にできたら面白いかもしれない」と心から思うようになったんです。

周囲の友人たちは研究室経由で就職などに進んでいきましたが、私は自力でリクナビなどを使って就職活動をしていました。

実はその前に入った会社は不動産系の企業で、社内SEのようなポジションだったんです。ただ、そこでの業務は自分がやりたかったこととは少しズレていて、「やっぱりWebサービスに関わりたい」という気持ちが強くなっていきました。

改めて転職活動をしていく中で出会ったのがカービューでした。当時はまだ上場前で、これから大きくなっていきそうなフェーズにありましたし、面接のなかでインフラ周りにも触れられる環境があると聞いたことで、「ここなら裏側まで広く関われる」と確信しました。

終身雇用が崩れたと言われる時代のなかで、「同じ会社に居続けることのほうがリスクではないか」と感じていた一方で、転職に対して良いイメージがあったわけでもなく、葛藤を抱えていた時期もあります。

はい。ちょうどそのタイミングでご縁があってオールアバウトに入社しました。カービューやこれまでの経験が評価され、リーダーとして参画することができました。その後しばらくして、「もう一度スタートアップのような環境で挑戦したい」と思うようになり、セプテーニ・ベンチャーズに転職しました。

セプテーニでは、社内起業制度のような仕組みがあり、事業プランを持った人がチームを結成してスタートアップのように事業を立ち上げる仕組みがありました。たまたまそのタイミングで事業責任者の方と出会い、「カービューやオールアバウトでの経験が活かせる」と声をかけてもらったんです。

これまで、リーダー的な立場は何度か経験していましたが、プロダクトのトップとして全責任を持って推進するのは初めてでした。「ここでの経験は確実に自分を成長させる」と思い、飛び込みました。

最終的に事業自体はセプテーニに譲渡され、私は社内で広告入稿システムの開発を担当することになりました。このときに、ドメイン駆動設計やスクラム開発など、モダンな開発プロセスを初めて本格的に経験し、エンジニアとしての基礎が固まったと感じています。

そこで、CTOとして約1年半かけて、ドメイン駆動設計やスクラム導入による全面リプレースを実施しました。人生で初めて自分が中心となって技術方針・組織設計をリードした経験だったので、非常に大きな意味を持つ時間でした。

採用、人事制度設計、バリュー策定、評価制度、リモートワークの導入など、バックオフィス領域まで幅広くカバーしました。第一子が生まれる時期でもあったので、「リモートを前提とした働き方」を制度として整備したのも印象的な経験です。

当時はちょうど、Yahoo!をはじめとする各種Webサービスが急成長していた時期で、世の中がどんどん便利になっていく一方で、「この便利さは、どうやって裏側で支えられているんだろう?」という好奇心がありました。

もちろん、自宅でもLinuxサーバーを立てたりして少しは触っていたんですが、カービューの現場で見た“本物のスケール感”はまったく別物でした。たとえば、月間トラフィックが5億PVを超えるような大規模なサービスをどうやって支えているのか。実際に現場に入ってみると、ラックいっぱいに並んだサーバー群、冷えたデータセンターの空気感、冗長構成されたネットワーク……どれもが新鮮で、驚きの連続でした。

「こうやって落ちないサービスがつくられているんだ」と、まさにWebの“裏側”を初めてリアルに体験できた瞬間でしたね。

ただ、今はなかなかきっかけが掴めていないのが正直なところです。例えば商工会議所の青年部のような地域組織にフリーランスとして参加できると聞いたこともありますが、「どうやって入ればいいのか」「どこからアプローチすればいいのか」と、模索中という段階です。

私が学生や社会人になりたての頃は、Googleも使えなかった時代でした。調べ物をしようにもインターネットに頼れず、本を探すしかありませんでしたが、欲しい専門書は地元の本屋には置いていない。東京に出て、紀伊國屋でやっと手に入れる……そんな時代だったんです。

それが今では、検索すれば情報にすぐ辿り着ける。遠隔でも学べる。仕事もできる。ITの発展によって、生活も、学びも、仕事のスタイルも劇的に変わりました。

特に印象的だったのが、ISMSやPマークの運用に対する課題意識です。私自身、前職のエンファクトリーでISMSの認証取得を自分で主導していたことがあり、そのときの苦労やジレンマがあったんですね。

ただ、当時はちょうど子どもが生まれた直後ということもあり、転職には慎重になっていたんです。でも、妻に相談したところ、「今までの働き方を見ていたら、ここは挑戦してみたらいいんじゃない?」と、あっさり背中を押してくれて。

加えて、育児との両立を気にして「半年ほど入社を遅らせられませんか?」と井崎に相談したら、「育休使えばいいじゃないですか」と即答してくれて……。その柔軟さも含めて、「ここなら本当にやっていける」と思えたんです。

ただ復職してすぐに、「HerokuからAWSへのインフラ移行をやってほしい」という話がありまして。もともと一部のDBはAWSにあったのですが、サービス全体としてはHerokuをメインに使っていたんです。それを全面的に移行する必要が出てきたんですね。復職してから約1ヶ月半ほどで全て移行するという、かなりタイトな初仕事でした。

当時、エンジニア採用の経験者が社内におらず、カジュアル面談からスクリーニング、選考フロー設計、メール対応まですべて自分でやっていました。同時に部門長としてミーティングにもフル参加していたので、日中はほぼ会議で埋まっていました。夜に採用業務を進めることも多かったです。

もう一つは、情報セキュリティという領域に本格的に関われていることです。これは自分自身のスキルアップにもつながりますし、SecureNaviとして「情報セキュリティへの取り組みが売上に貢献する世界をつくる」という大きなビジョンにも直結しています。

現在は技術本部長としてのマネジメントを中心に、中長期の技術戦略の策定に注力しています。直近では、会社全体の事業計画が大きく動いたタイミングもあり、それにあわせて技術面からどう支えるかを構想・実行していくことが主なミッションになっています。

全体的な業務の割合で言うと、技術戦略が約5割を占めていて、残りの3割ほどはブランディング活動にあたっています。

SecureNaviはまだまだ知名度が高いとは言えないフェーズにあり、採用においてもブランディングが重要だと考えています。その一環として、エンジニア向けのテックブログの立ち上げや、「テックバリュー」と呼ばれる、社内でエンジニアリングに特化した価値観の言語化などにも取り組んでいます。

また、AI関連の領域にも並行して関わっており、現在はプロダクトへのAI組み込みを進めている技術戦略室の室長も兼務しています。社内の開発生産性を高めるためのツール活用(たとえばCursorなど)にも取り組んでおり、現場の改善も継続的に進めています。

採用については、カジュアル面談から一次選考までは部長やリーダー陣に任せ、最終面接以降を自分が担当する体制を敷いています。割合としては全業務の1割程度になりますが、候補者の価値観やカルチャーフィットを丁寧に見ていくフェーズとして、大切にしています。

「日本国内で初めて、セキュリティコンプライアンスという新しい市場を開拓している」という点に、非常に大きな可能性を感じています。

多くの人が“セキュリティ”と聞いてイメージするのは、ウイルス対策ソフトやファイアウォール、ログ分析といった、いわゆる理系的なセキュリティだと思います。ただ、SecureNaviが注力しているのは、そうした“システムのセキュリティ”ではなく、組織構造や運用体制に焦点を当てた“文系のセキュリティ”です。

この分野では、たとえばISMSやPマークなどの認証を取得し、それをしっかりと運用することで、結果的に顧客や取引先からの信頼につながり、売上にも貢献するという仕組みが成り立ちます。

海外ではすでにユニコーン企業も生まれている市場であり、日本でも今後必ず成長する分野だと確信しています。このように、まだ誰も本格的に手をつけていない領域にチャレンジできるという点が、SecureNaviで働くことの大きな魅力ですね。

SecureNaviサービス紹介動画

現在、SecureNavi全体の社員数は90名を超える規模になりました。私が入社した当時は15名ほどでしたので、まさに景色が変わるほどの急成長を実感しています。エンジニアに限っても、業務委託を含めると22名規模にまで拡大しており、当初と比べて約3〜4倍の組織規模になりました。

技術本部の中では、大きく4つの部署に分かれています。1つ目が私が管掌する「技術戦略室」で、新しい技術の導入検証や中長期の技術戦略の立案を担うチームです。2つ目が「基盤開発部」で、SecureNaviや今後立ち上がる複数のプロダクトのインフラやセキュリティ領域を横断的に支える、いわゆるSRE部門にあたります。3つ目が「プロダクト開発部」で、SecureNaviのロードマップに基づいた機能開発を中心に、顧客価値を直接届ける役割を担っています。そして、4月には新たに「プロダクトデザイン部」も立ち上げ、組織としての領域分担と専門性の向上を図ってきました。

まずは、外部への発信強化を意識しています。テックブログの開設に加え、登壇機会の拡充や外部企業とのセミナー共催など、社外に向けた情報発信を積極的に始めています。そういった対外発信の土台として、社内での「技術戦略」や「テックバリュー」の言語化も進めており、SecureNaviの開発組織としての立ち位置や考え方を明確に示せるような準備を進めています。

良い点としては、採用時にカルチャーフィットを何よりも重視していることもあり、プロダクト愛が強く、プロダクト志向のメンバーが多い点が挙げられます。開発を進める上で、なぜこの機能が必要なのか、顧客にどんな価値を届けるのかという議論が自然と生まれる文化が根づいているのは、大きな強みだと感じています。

一方で課題としては、長らく少数精鋭体制だったこともあり、個の力に依存した働き方がベースになっていたという点です。現在のように組織が3倍規模になると、2人で完結していた開発プロセスや判断基準では回らなくなる場面が増えてきました。いまはまさに「個からチームへ」シフトするフェーズにあり、チーム単位での最適化に向けたプロセス整備や意識づけに取り組んでいるところです。

また、ハドルやGoogle Meetを活用して、いつでも気軽に質問できる環境も意識的に作っています。ペアプロやモブプロも積極的に取り入れており、時間が合うタイミングで一緒に開発しながら学び合える機会を増やしています。

今後の目標・採用

セキュリティというのは、どうしても「コスト」として見られがちです。たとえ重要性が理解されていたとしても、コストという視点になると稟議が通らなかったり、後回しにされてしまう。けれど本来は、セキュリティにしっかりと取り組むことで顧客や取引先からの信頼が得られ、結果的に売上やビジネス拡大にもつながるはずです。

大きく3つの柱を設けています。

1つ目は「セキュリティファースト」という考え方です。業界標準を上回るセキュリティ水準を社内に浸透させ、外部にも示していく。その信頼が、やがて受注や売上につながることを実証していきたいと考えています。

2つ目は「AI共創」です。もはや「AIを使うかどうか」ではなく、AIと人がどのように融合し、新たな価値を創出するかが問われる時代です。AIエージェントとともに働く感覚を前提に、プロダクトへの組み込みや開発プロセス全体でAIを活用し、生産性と創造性の両立を目指しています。

3つ目は「セキュリティプラットフォーム構想」です。セキュリティを中心に据えた経済圏を構築していく、いわばセキュリティのインフラ企業になるというビジョンです。SecureNaviを基点に、周辺のシステムやプロダクトと連携し、より包括的なセキュリティ価値を提供していく予定です。

特にスタートアップフェーズでは、うまくいかないことも多いです。そんなときに「自分は何ができるか」を前向きに考えて動ける人、周囲に良い影響を与えてチームを前進させてくれるような人と働きたいです。