榎原 詩陽 氏|ITフリーランスコンサルタント/法人代表
2019年よりエンジニアとしてキャリアを開始し、インフラ・クラウド領域を中心にシステム設計・構築から保守運用までを経験。大手ファームにてITコンサルタントとしても活動し、上流工程からプロジェクトマネジメントまでを幅広く担う。技術とビジネスの両軸に精通し、要件定義・プロトタイピングから開発・運用まで一気通貫で対応可能な“つくれるコンサルタント”として独立。現在は法人を設立し、フリーランスの枠を超えてチームでの価値提供を志向している。クラウド、ブロックチェーン、生成AI、セキュリティ分野に関心を持ち、幅広い技術知見とキャッチアップ力を強みに、変革志向の企業を支援している。
榎原さんのキャリアについて
── まずは、これまでのキャリアについて簡単にお伺いします。エンジニアとしてのご経験や、コンサルタント、フリーランスとしてのキャリア歴を教えてください。
2019年に大学を卒業し、同年からエンジニアとしてキャリアをスタートしました。エンジニアとしての実務経験は約3年、その後はITコンサルタントとして約4年間の経験があります。
正社員としての勤務期間は2019年から2024年10月頃までで、その間に副業という形でフリーランス活動も一部行っていました。独立後は本格的にフリーランスとして活動しており、これまでのフリーランス歴はトータルで約1年程度になります。
── では、エンジニアになるまでの背景を伺っていきたいと思います。幼少期から中学・高校、大学、そして1社目に入社するまで、どのような経験をされてきたのでしょうか?
幼少期は少し変わっていたかもしれません。1人で世界地図を眺めて農作物や鉱物資源のランキングを見たり、分厚い時刻表を使って「1日でどこまで行けるか」をシミュレーションしたり。いま振り返ると、ちょっと変わった子どもだったなと思います(笑)。でも、そういった数字や図表を見るのが好きだったんですよね。
中学・高校でも理科や数学が好きで、自然科学系に進みたいという思いから北海道大学の薬学部に進学しました。人の役に立つ仕事がしたいという想いがあり、「薬をつくることで社会に貢献したい」と考えたのが当時の目標でした。
大学3年から研究室に配属され、免疫系の研究に取り組みました。実際にマウスを使った実験なども行い、そのまま大学院に進学して製薬会社で研究職に就くことを目指していたのですが……。
── そこからエンジニアの道へ進まれることになりますね。
はい。研究を進めるなかで、薬が世に出るまでのプロセスに触れる機会がありました。新しい分子を見つけてから、臨床試験などを経て薬として認可されるまでに20〜30年かかる。そして成功確率も非常に低い。1万個の候補から1つ薬になるかどうか、という世界です。
「この道を進んでも、本当に人の役に立てるのか?」と考え始めていた頃、研究室のデータ解析を自動化しようとVBAやPythonを独学で触ってみたんです。全員が手作業でやっていた作業を効率化できて、すごく面白いと感じたんですよね。最初は「早く家に帰ってアニメの『キングダム』が見たい」っていうモチベーションでしたけど(笑)。
── なるほど(笑)。それがきっかけでエンジニアへの道を志したんですね。
そうですね。プログラミングに触れて、「これを仕事にしたい」と思うようになりました。
── では、1社目のコスメディアに入社された経緯を教えてください。
就職活動を始めたのが大学4年の夏頃で、正直かなり遅めのスタートでした。もともと大学院に進むつもりだったので、大手企業の選考はほとんど終わっていたんですよね。
ただ、自分としては「エンジニアとしてちゃんとキャリアが積める会社ならどこでも良い」と思っていたので、選り好みせず、内定を早くいただいたコスメディアに入社することにしました。
── 実際に働いてみていかがでしたか?
入社後はJavaの研修が3ヶ月あり、その後は希望していたクラウド(AWS)関連の業務を担当しました。配属先には優秀な方も多く、学びの多い環境でしたね。割と早い段階から一人前として任せていただけるようになったのも良い経験でした。
── エンジニアとしてキャリアをスタートされたあと、ITコンサルタントへと転向されていますが、そのきっかけを教えてください。
エンジニアという仕事自体は、自分に向いていると思いますし、実際に面白さも感じていました。ただ一方で、エンジニアの役割って「お客様の要件に基づいて、正確に設計・実装を行うこと」が重視されるじゃないですか。自分のアイデアや発想が求められる場面はそれほど多くなくて、そこに少しフラストレーションを感じるようになったんです。
もっとクライアントと近い距離で、1から一緒にものづくりをしていく。いわば“伴走者”として関われるような立場を目指したいと思ったのが、ITコンサルタントを志した理由です。
── そして転職先として選んだのが、EYストラテジー・アンド・コンサルティングだったと。
はい。EYストラテジー・アンド・コンサルティングはまさにそうしたクライアントとの近さが実現できる環境でした。実際に配属されたのも、エンドクライアントと直接関われるプロジェクトだったので、志していた通りの働き方ができました。
ただ、最初のプロジェクトが完全に英語環境だったので、それは想定外でしたね……。
── いきなり英語プロジェクトにアサインされたんですか?
そうなんです(笑)。もちろん、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの面接でも英語は問われると知っていたので、面接対策としてはかなり準備して臨みました。ただ、「プロジェクトで英語を使うとしても、少しずつ慣れていければ」と思っていたんです。でも実際には、初回の配属からがっつり英語で……。かなり苦労しました。
── どうやって乗り越えたんですか?
最初は会議についていくのもやっとでした。相手が何を言っているか分からないし、自分の発言もままならないので、あらかじめ話す内容を原稿にまとめて読む、みたいな形でやっていました。
業務時間外にはオンライン英会話を活用して勉強したりもしていましたし、何より助けになったのは、当時のマネージャーの存在でした。
インド出身の方だったんですが、すごくフレンドリーで、チームメンバーとよく飲みに連れてってくださったりなど、仕事以外の場面でも親しくしてくださいました。そのようなコミュニケーションを通して徐々に英語力が身についていきました。
── 半年ほどである程度キャッチアップできたとのことですが、その経験は今に活きていますか?
はい。まだペラペラというわけではありませんが、プロジェクトでの実務に必要なやり取りは十分にこなせるようになりましたし、結果的には最初から英語環境に飛び込んだことが良かったと思っています。強制的にでもやらざるを得ない状況に置かれたことで、短期間でキャッチアップできたと思います。
フリーランス転向の背景と、独立前後のキャリア変遷
── フリーランスとしてのキャリアについて伺っていきます。最初はEYストラテジー・アンド・コンサルティングで働きながら、副業的にフリーランスとして活動されていたのでしょうか?
いえ、もともとは副業という形ではなく、会社を完全に辞めてフリーランスとしてスタートしようと思っていました。ただ、当時担当していたプロジェクトが予想以上に長引いていて、私以外に対応できる有識者もいなかったことから、「副業という形で残ってくれるならありがたい」と声をかけていただいて。条件が合えばという前提で、しばらくの間は並行して活動することにしました。
── ありがとうございます。では、フリーランスとして独立しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
一番大きかったのは、「もっと100%お客さんのために働ける環境に身を置きたい」と感じたからです。会社員として働いていると、当然プロジェクトの業務以外にも、新人教育や社内手続き、時には人事関連の仕事まで関わる機会があります。そういったタスクも大切ではあるのですが、私はもっと現場に深く関わって価値を出していきたいという気持ちが強くて。
また、自分が良いと思った提案があったとしても、会社の方針に合わないと却下されてしまう場面も少なくありませんでした。そうした制約の中で動くよりも、自分自身の判断で動き、お客さんに直接価値提供できるスタイルを選びたいと思い、フリーランスという働き方を選びました。
── 実際にフリーランスとして最初の案件は、どのように獲得されたのでしょうか?
営業活動はいろいろ試しました。LinkedInを使ったり、エージェントに登録したり、知人に「仕事ない?」と聞いてみたり。結果的に、一つ目の案件はエージェント経由で参画することになりました。
── これまで経験された業界やプロジェクトには、どのようなものがありますか?
業界で言えば本当に幅広くて、官公庁や金融機関といった大規模・高規範な現場から、スタートアップのような小規模なチームまで、様々なプロジェクトに携わってきました。
特に印象に残っているのは、日本酒を海外に輸出しているベンチャー企業とのプロジェクトです。クライアントを含めても7〜8人規模という小さなチームでしたが、その分密度の濃い関わりができました。私自身がフロントに立って要件定義やプロジェクトマネジメントを担い、グローバルに散らばるエンジニア3〜4名と連携を取りながら、全体をリードしていくようなポジションでした。
ハード/ソフト面に関する質問
── まずは、最近の興味関心について教えていただけますか?エンジニアやコンサルタントとしての仕事以外でも構いません。
最近は筋トレにハマっています。もともとは運動不足解消が目的で始めたのですが、意外にもすごく楽しさを感じて。せっかくなので、ボディビルの大会に出てみようかなと思うようになり、今は体を大きくすることに集中しています。それに合わせて健康や栄養にも関心を持つようになり、日々新しい知識を取り入れて生活に反映させています。
── ボディビル大会に向けて準備中ということですね。大会はいつ頃にある予定ですか?
大会は10月か11月あたりを予定しており、それに向けて体を仕上げています。
── では、業務に関する今後の興味関心についても伺いたいと思います。
今後のコンサル業務において特に注目しているのは生成AIですね。これからの時代に大きな影響を与える技術だと思っていますし、自分自身でもキャッチアップして、それを業務に積極的に取り入れていきたいと考えています。
── 最近、クライアントから生成AIに関する相談などはありましたか?
直近では、コーディングの生産性を上げたいという要望があり、GitHubのCopilotを導入しようというプロジェクトに取り組んでいます。生成AIを活用して生産性向上を図る事例としては、非常に面白い取り組みですね。
── コンサルタントとして仕事をする中で、どのような立場の方々とメインで関わっているのでしょうか?
基本的には、エンドクライアントのシステム部門の担当者とやり取りすることが多いです。課長や部長といった上級者とも時々ディスカッションを行うことがありますが、日常的には担当者レベルでのやり取りが中心です。
── 小規模なクライアント、例えばベンチャー企業などの場合はどうですか?
ベンチャー企業だと、社長やCxO(最高責任者)などが直接関わってくることが多いですね。その分、非常に迅速な意思決定が行われることもありますし、フラットな関係でコミュニケーションを取ることができます。
── コンサルタントとしての技術を磨くために、何か実践していることはありますか?
はどうですか?
私は常に情報に対してアンテナを張り続け、幅広い分野の情報を積極的に取り入れるようにしています。特に、自分が興味を持たない分野にも積極的に触れることで、偏りのない視野を持つよう心がけています。
── 具体的に最近取り組んでいることはありますか?
最近では、健康や栄養に関して全く興味がなかったのですが、知人に勧められて話を聞いてみたところ、とても興味が湧きました。それをきっかけに、自分の生活に取り入れるようになっています。こういった新たな興味が湧いた分野では、まずは業界全体の概要を把握し、その中で気になるポイントをさらに深掘りしています。時には論文を探したり、関連する本を読んだりして、知識を深めています。
── 得意な領域や業界について教えてください。
ハード面で言うと、クラウドは長く取り組んできた領域なので、自信があります。自分で手を動かしてインフラ環境を構築できる“作れるコンサルタント”という点は、多くの現場で評価いただいています。コーディングの経験もあるので、いわゆるフルスタックで1からシステムを作りきることができるのは、自分の大きな強みです。
業界としては、金融領域に関わってきたことが多く、業務知識もある程度理解しています。また、個人的な関心でブロックチェーンの技術にも触れており、自分で仮想通貨(トークン)を発行したり、簡単な取引所を構築した経験もあります。決済や金融系のプロジェクトには、関心もスキルも強く持っています。
── プロジェクト参画時、こだわっていることはありますか?
まず重視しているのは、プロジェクトマネージャー(PM)のスタイルを理解することです。PMには大きく分けて「リーダーシップ型」と「自主性重視型(放任型)」の2タイプがいると感じていて、自分がどちらのタイプと一緒に働いているのかを把握することがスタート地点になります。
そのため、最初の1〜2週間は、週1の1on1やこまめな会話の機会を自分から提案して、コミュニケーションを密に取るようにしています。忙しい中でも時間を作ってくださる方は多く、そこは遠慮せずお願いするようにしています。
また、PMのタイプを見極めるために、過去のプロジェクトでのトラブル対応や、現状の課題意識をヒアリングするのも効果的です。加えて、全体会議などでの他メンバーとの接し方を観察することで、間接的なヒントも得ています。
── その上で、注意していることは?
ITプロジェクトは誤解や齟齬で大きなトラブルに発展することがあるので、「言葉」の使い方にはとても気を配っています。特に文章でのやり取りでは、解釈が一通りにしか取れないような表現を意識すること、口頭だけではなくドキュメントに残しておくことを徹底しています。
── これまでで特に難しかったプロジェクトや、印象に残っている現場はありますか?
EYストラテジー・アンド・コンサルティングでの最初のプロジェクトが特に印象に残っています。社内メンバーは全員外国籍で英語が飛び交う中、クライアント側は元プロスポーツ選手というカリスマ経営者。ビジネス面では非常に優れている方でしたが、システムリテラシーは高くなかったため、こちらが「実装が難しい」と感じるような要望も「当たり前にできるはず」と思っておられました。
── そのような状況、どうやって乗り越えたのでしょうか?
とにかく根気強く丁寧に説明することに尽きました。技術的な背景や実装の難易度などを惜しまずに共有していくことで、最終的には納得いただけました。相手の理解度に合わせて、言葉や伝え方を柔軟に変えていく必要性を強く感じた経験です。
── 似たようなケースは他にもありましたか?
官公庁の案件などでも同様です。特に地方自治体などではシステムに詳しい方があまりおらず、技術的な話をいかに噛み砕いて伝えるかが重要になります。銀行などのシステム部門は逆に技術的知識があることが多いので、伝え方のスタンスも現場によって調整が必要だと日々感じています。
── どのような環境にやりがいやモチベーションを感じますか?
前例をなぞるのではなく、ゼロから新しいものをつくっていくような現場に強く惹かれます。チームでアイデアを出し合い、未知の価値を生み出していくプロセスには大きなやりがいを感じます。
── どのような人たちと働きたいですか?
困難や課題に直面したときでも、前向きに向き合って解決しようとする人たちと一緒に仕事がしたいです。トラブルが起きたときに、誰かのせいや環境のせいにしてしまう人もいますが、それでは前に進めません。一旦はそうした感情を脇に置いて、どうすれば解決できるかを共に考えてくれる人と仕事をするのが理想です。
── 興味のある業界や、今後チャレンジしたい分野はありますか?
最近では、生成AIやサイバーセキュリティ領域に関心を持っています。直近のプロジェクトでもセキュリティ系の案件に携わっており、今後さらに知識と経験を深めていきたい分野です。
PR・今後について
── ご自身をPRするとしたら、どのような点を挙げられますか?
最大の強みは、エンジニア出身であることです。上流工程からリリースまで、実際に自分で手を動かしてプロダクトを作り上げてきた経験があります。コンサルタントやPMの中には、開発経験がないまま提案だけを行うケースも多いですが、私は「机上の空論で終わらない」ことを前提に提案できるタイプの人間です。
また、ブロックチェーンや生成AIのような未経験領域であっても、自分で試しにプロダクトを開発・リリースしてきた実績があります。キャッチアップ力の速さや、プロトタイピングによる提案の具体化には自信があります。
たとえば、クライアントが「BIツールでデータ分析したい」と言えば、まずはPower BIやTableauでダミーデータを使った画面を即座に用意して見せる。そうしたスピード感と実行力が、喜ばれることも多いですね。
── 今後の取り組みや目標について教えてください。
現在はフリーランスとしてコンサル業務を行いながら、法人としての体制づくりにも取り組んでいます。今後は、チームでの対応力や専門性を高め、より大きな価値提供ができる組織として成長させていきたいと考えています。
── どのようなチームを構想されていますか?
私自身、フルスタックでの開発や上流の要件定義まで一貫して対応できますが、特定技術や業務領域に深い専門性を持つパートナーと連携することで、より質の高いアウトプットが可能になると考えています。
具体的には、技術に強みを持つエンジニアや、特定業界に精通したコンサルタントなど、互いのスキルを補完し合えるチームを構築したいと思っています。そうした体制を通じて、クライアントにとって実践的かつ価値ある提案・成果物を届けられるよう取り組んでいきたいです。