田中 裕介氏|株式会社Ashirase 共同創業者 取締役 CTO
東京理科大学大学院応用生物化学科卒業。SCSK株式会社にてRTOS開発や自動運転制御開発などに従事。その後、CTOとしてETC株式会社に入社し、様々なプロジェクトで上流から下流工程までを担当。株式会社Ashiraseを共同創業し、取締役CTOとして主にソフトウェア開発を担当する。
株式会社Ashiraseについて
── 御社の事業内容を教えて下さい。
視覚障がい者向けの歩行支援ナビゲーションサービス「あしらせ」を提供しています。このサービスの主な目的は、視覚障がい者の方々に対する歩行支援です。デバイスを左右の足に装着し、普段の靴のように履くだけで使用できます。デバイスには振動モーターが内蔵されており、これを使って視覚障がい者をナビゲートします。
従来のナビゲーションは画面のGUIや音声案内が主流ですが、「あしらせ」は振動という新しいインターフェースを採用しています。振動のテンポで、曲がり角など、次のアクションが必要になるまでの距離を、振動する位置でどの方向に曲がるのか、などを示しています。
田中さんのキャリア
── 当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。
幼少期から高校生まで、ずっとサッカーに夢中でした。中学では関東大会に出場し、神奈川県のトレーニング選抜にも選ばれました。高校もサッカー推薦で進学し、まさにサッカー一筋の生活でした。でも、高校の途中でサッカーをやめたとき、手元に何も残らず、どうしようかと本当に悩みました。勉強は大嫌いで、サッカー以外のことには全然興味がなかったので、この時期はまさに「サッカー少年」でした。
高校生の頃、中学時代に通っていた塾に再び行く機会があって、そこで大学の偏差値が載っている資料を見たとき、「もっとやれるはずだ」と感じて、受験勉強を決意しました。それまで勉強が嫌いだったのに、一気に勉強に取り組むようになりました。
最初は東工大を志望していましたが、国公立は文系科目が必要なので、残り時間的に難しいと感じました。最終的には上智大学か東京理科大学を目指すことにしました。理系を選んだ理由は、暗記科目が苦手で興味が持てなかったため、自然と理系に進むことになったんです。
── 東京理科大学・大学院〜SCSK株式会社に入社するまでの経緯・取り組みを教えてください。
大学院卒業後、SCSKに入社しました。その理由は、大学時代にお世話になった師匠の影響が大きかったからです。その方は個人で飲食店を経営するフリーランスで、自分の名前で食べていける姿が非常にかっこいいと思いました。会社の看板ではなく、自分の名前で生きていけるようになりたいと考え、さまざまな業界で幅広い知識を身に着けたいと思いSIerを選びました。そこで初めて本格的にプログラミングを始めました。
SCSKでは、最初に配属された部署がQINeSというリアルタイム車載用OSを作る部署でした。数ヶ月間その部署で働いた後、HONDAに常駐して、自動運転の制御ではなくシミュレーターの構築に携わりました。その後、HONDAの自動運転研究部門に入り、自動運転の研究に従事しました。
── その後、CTOとしてETC株式会社に参画した経緯・取り組みを教えてください。
その後、ETCにCTOとして入社しました。HONDAで働いていたとき、HONDAの委託先の営業の方との飲み会で、将来起業したいという話をしました。その営業の方は過去に起業経験があり、その際の師匠を紹介してくれました。その師匠はETCのオーナーで、一部上場企業の社長経験もある方でした。私はそのオーナーのもとでビジネスや技術について学ぶことができると感じ、ETCに入社しました。
ETCは小さな会社で、社員は2人しかいませんでした。オーナーから「何のポジションがいいか」と聞かれ、特に希望はなかったのですが、「CTOでいい」と言われました。「肩書きが人を育てるから」との言葉でCTOに任命されました。
── これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。
ETCのオーナーとの出会いですね。80歳という年齢にもかかわらず、頭の回転が非常に速い方で、その存在にとても驚かされました。会社としても黒字経営を続けており、そのビジネスの才能に感銘を受けました。
オーナーとの出会いは、私のキャリアにおいて非常に大きな影響を与えました。年齢を感じさせないその知識と経験の深さ、そしてビジネスを成功させるための洞察力は、私にとって非常に印象深いものでした。オーナーから学んだことを活かし、自分もこのような存在になりたいと強く思うようになりました。
── その後、創業メンバーとして株式会社Ashiraseを設立するまでの経緯を教えて下さい。
HONDAに派遣されて自動運転の研究をしていた時期に、代表の千野と同じ部署で一緒に働くことになりました。Ashiraseの前身になる活動を千野は始めており、その活動が非常に魅力的に感じられました。私も将来的に起業を考えていたため、「混ぜてほしい」と頼みましたが、出会ったばかりでひととなりなど分からない部分が多かったため、最初は断られました。しかし、1ヶ月ほどしてから「一緒にやってみる?」という返事をもらい、一緒に活動を始めることになりました。
その後、ETCに1年半ほど在籍していましたが、HONDAでスピンアウトプロジェクトの話が持ち上がり、それをきっかけに起業するチャンスが訪れました。千野とはその間ずっと一緒に活動していたため、自然な流れで「一緒に創業しよう」という話になりました。特に深く考えることなく、「千野とであればうまくいくだろう」という信頼があったので、すぐに決断しました。
株式会社Ashirase 創業
── 創業後、どのようなことに取り組みましたか。また苦労したことや良かったことなどあれば教えてください。
創業してからの苦労は数え切れないほどありましたが、特に大変だったのは、それまでのキャリアで一つの製品やサービスを作り上げる経験がなかったことです。ソフトウェア開発を担当するのは自分一人しかおらず、どうやってそれを実現するかが大きな課題でした。
最初はデバイスを動かすことから始め、一生懸命コードを書いていました。ほぼ一人でマンパワーで取り組んでいましたが、外注も使いながら、そのコントロールも含めてほとんど自分で行っていました。
リリースしてユーザーに提供したのは2023年3月で、それが一つの形になったタイミングだと思います。そこまでに約1年半ほどかかりました。
創業して良かった点として、ユーザーに対してサービスを提供する経験ができたことが挙げられます。それまで一度もサービスを作ったことがなかったので、少しでも形にできたことは大きな成果です。ユーザーから感謝されることや、新しいことができるようになったという声を聞くことは、とても良い経験になりました。
また、プロダクトを作る上で、ユーザーを第一に考え、そのニーズをソフトウェアやシステムに落とし込む過程を経験できたことも大きな収穫でした。いろいろなことを学び、多くの経験を積むことができたので、とても良かったと感じています。
── 現在の田中さんの業務内容を教えて下さい。
業務の割合は時期によって変動しますが、まず、採用関連が全体の20%から30%程度を占めています。次に、マネジメント業務も同じく20%から30%を占めています。開発には約40%の時間を費やしており、残りの10%はその他の業務にあてています。具体的には、補助金の申請や中長期計画の策定、どの開発項目を優先して進めるかの決定などが含まれます。これらの業務は時期によって重点が変わりますが、バランスを取りながら進めています。
── Ashiraseの事業の魅力をお聞かせください。
私たちのサービスは特定のニーズに応えるものであり、まだまだ改善の余地はあるものの、現時点でユーザーの皆様に満足していただいています。競合他社の製品と比較しても、有償サービスとして提供しているため、サポート面で充実しており、ポジティブな声を多くいただいています。
具体的なユーザーの声を紹介すると、以前は単独での歩行が難しく、常にヘルパーが必要だった方が、私たちのサービスを利用することで自分一人で外出できるようになったケースがあります。この方は、現在では自分一人で旅行に行ったり、日常的に自由に外出できるようになっています。このように、サービスを利用することでユーザーの行動や生活が大きく変わり、ポジティブな方向に進んでいることが実感されています。
現在のエンジニア組織について
── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。また何故そのような組織体制にしているかその理由もご説明いただけますか。
我々の開発チームは、バックエンド、スマホアプリ、ファームウェア、ハードウェアといった多岐にわたる分野での開発を行っており、一般的なアプリと比較すると、広範囲な領域を開発しています。ハードウェアチームはCDOの徳田を含む4名で構成されており、ファームウェアチームには2名が所属していますが、週3回の勤務形態を取るメンバーやたまに手伝ってくれる方を含めると最大で4名が関与しています。スマホアプリのメイン開発者は4名、バックエンドチームは現在2名。また、バックエンドとスマホアプリの両方を兼務しているメンバーが1名おり、私は、最も優先度が高い項目を中心に開発しています。
── 現在の開発組織は、どのようなことに取り組んでおりますか。
我々の開発チームは、ハードウェア、ファームウェア、スマホアプリ、バックエンドの4つの分野でプロジェクトを進めています。各チームが独自の取り組みを持ちながらも、視覚障がい者にとって使いやすい製品の開発という共通の目標に向かって連携しています。
ハードウェアチームは、新しいデバイスの開発に全力を注ぎ、クラウドファンディングで発表したモデルの主に次期モデルの開発に取り組んでいます。ファームウェアチームもこの新デバイスを動作させるためのFW開発に取り組んでいます。スマホアプリチームは、ユーザーの位置情報と方位情報の精度向上を目指し、デバイス内のセンサー情報とスマートフォンの情報を融合させています。また、視覚障がい者に最適なナビゲーション機能の開発を進めており、特にシンプルでわかりやすいルート案内の実現に力を入れています。Googleマップのような一般的な地図サービスでは満足できない視覚障がい者のニーズに応えるため、ユーザーの特性に合わせたルート作成を行っています。バックエンドチームは、これらのプロジェクトがスムーズに動作するようサポートし、データの処理や管理に取り組んでいます。
このように、各チームはそれぞれの専門分野でプロジェクトを進めつつ、全体として視覚障がい者にとって使いやすい製品の開発を目指して協力しています。
── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。
ファームウェアとハードウェアの両方を手がけている会社はあまりありません。これが我々の大きな特徴であり、非常に面白い点です。エンジニア目線で言うと、幅広い領域に携わることができる点が魅力ですし、ビジネス視点で言うと、多くの領域で内製化しており、ユーザーからのフィードバックや自分達の想いを迅速に提供できる点 が非常に良いと思います。
さらに、全員がユーザー視点に立って意見を取り入れながら開発を進めていることも特徴です。エンジニア本位ではなく、ユーザー本位であることが会社全体の強みです。チームはオンラインとオフラインの両方で活動しており、エンジニアも積極的にユーザーと関わっています。視覚障がい者のユーザーの方々の生活や歩行の実際を理解するために、ユーザーとのコミュニケーションを大切にしています。これにより、ユーザーに寄り添った製品を開発することができています。
課題としては、品質保証のプロセスや開発プロセスをよりブラッシュアップすることで、さらに強い開発チームになると感じています。
今後の目標
世界で唯一無二のナビゲーションの会社になることです。
── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。
『1:サイエンティスト』と『5:ストラテジスト』と『7:デリバラー』がマッチすると思います。現状だと『4:ガーディアン』はアンマッチですね。
── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。
最後までやり遂げようという責任感があり、ポジティブであること。そして、やはりユーザーに対して良いものを作りたいという強い意志を持っている方と働きたいです。