蟻塚 正樹氏|株式会社Seibii 執行役員CTO

京都大学卒業後、CTCに入社。その後、DeNA、ラクスル、LeapMind、PKSHA Technology、DROBEと様々な企業にてエンジニアとして従事。2021年12月に株式会社Seibiiに入社。現在は執行役員CTOとして活躍中。

株式会社Seibiiについて

── 御社の事業内容を教えて下さい。

知識のない方がイメージしやすい形で説明しますと、当社のサービスは「整備士版のUberEats」のようなものです。具体的には、Web上で車の整備や修理を依頼したいお客様からの依頼を受けて、当社のプラットフォームで稼働している整備士が工場やお店ではなく、お客様のご自宅に伺って整備や修理の作業を行うサービスを運営しています。

当社のサービスは一見シンプルに見えますが、裏側は非常に複雑です。例えば、法人のお客様からまとまった依頼を受けることもありますし、故障修理には部品が必要です。そのため、実際に整備士が現場に行くだけでなく、部品の準備やリスク管理など、さまざまな準備が必要です。このように多くの要素が絡み合うため、複雑なオペレーションが求められます。

当社はこの複雑さを解消するために、DXやソフトウェア開発力を武器に取り組んでいます。

蟻塚さんのキャリア

──  当時はどんな子供(幼少期〜高校)でしたか。

福井の田舎で育ったので、すごくのんびり過ごしていました。のんびりしていたこともあって、勉強はあまりせず、ゲームばかりやっていました。ただ、目標を立てて取り組むことは好きだったので、部活動には真面目に取り組んでいました。卓球部に所属していて、中学校から高校まで取り組んでいました。

── 高校を卒業後、京都大学に進学されましたが、その頃からエンジニアを目指していたのでしょうか?

実は、そういったストーリーはなく、全然違います。ゲームばかりやっていたので、将来のことをあまり考えていませんでした。ただ、ゲームといえばプログラマーというイメージがあり、当時はITバブルの時期でもあったので、「これからはITだよね」という漠然とした考えで進学しました。

── 大学ではどんなことを学ばれたのですか?

京都大学の情報学科に入り、コンピュータサイエンスを学びました。しかし、入学してからカルチャーショックを受けました。というのも、周りには高校の頃からプログラミングをやっているような濃い人たちが多く、私はレベル1の状態で、いきなりレベル50の人たちと一緒に学ぶことになりました。そのため、自分がこの環境でやっていけるのか不安になりました。

── 2009年の4月にCTCに入社されていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

ここもあまり良いストーリーではないのですが、当時の周りの人たちはコンピュータが本当に好きで、趣味でプログラミングをしているような人が多かったんです。私は勉強としてやっていましたが、趣味でやっている人には絶対に勝てないと思いました。

そのときに、自分が好きなことをやらない限り絶対に成功できないと思いました。しかし、自分が好きなことは何だろうと考えたときに、特にありませんでした。いろいろ考えた結果、分析が好きで、その分析をもとに意思決定するのが好きだと気付きました。それで、そういう仕事をしたいと思い、最初はファンドマネージャーになりたいと思ったんです。

ただ、株式投資の知識は一切なく、知識もゼロの状態で「やりたいです」と突撃しましたが、普通に落ちました(笑)。就職活動がうまくいかなかったので、自分の持っているカードを考えると、コンピュータサイエンスを勉強しているのでそれを活かせるかなと、少しネガティブな気持ちでSIerに入社しました。

SIerでは上流工程の仕事がメインですが、天邪鬼な私は「上流工程をやるなら下流工程も学ぼう」と思い、24歳のときに初めて自分でプログラミングを勉強し始めました。それが思った以上に面白くて、そこから能動的に勉強し始めました。

──  その後、複数のとキャリアを歩んでおりますが、それぞれの経緯とどのようなことに取り組んだか教えてください。

SIerに入った後、自分でプログラミングを勉強するうちに、逆にSIerの仕事が合わないと感じるようになりました。自分でコードを書きたいと思い、第二新卒としてディー・エヌ・エーに入社しました。そこがプログラマーとしてのキャリアのスタートです。ちょうどその頃はソーシャルゲームバブルの時期で、ディー・エヌ・エーではガラケーのソーシャルゲームを作っていました。最初のプロジェクトでは4人でゲームを作り、それが何百億円も売り上げるような成功を収めました。しかし、その後、新規タイトルの立ち上げでは連続して失敗し、それが自分にとって大きなショックでした。

失敗を通じて、ビジネスの成功には最初のスタートが重要だと学びました。その考えからラクスルに転職し、物流プラットフォーム「ハコベル」の立ち上げをリーダーとして担当しました。

ハコベルではいろいろなことを経験しましたが、会社の方向性と自分のやりたいことが少し違っていたので、もっと自分がやりたいことに挑戦したいと思い、AI系のスタートアップに転職しました。ここでは機械学習を学び、新しい技術を使って何かを作りたいと考えました。

その後の2社では本当は機械学習エンジニアとしての業務をやりたかったのですが、未経験で転職したのでやりたい業務ができず、プライベートで勉強しながら過ごしました。その中でも、パークシャでは、ソフトウェアエンジニアとしてですがボイスボットによる音声対話サービスを開発し、プロダクト化することに成功しました。

最後に、機械学習エンジニアとしてオファーをもらったので、DROBEに入社し、機械学習を使ったサービス開発に取り組みました。ここでは、スタイリストが選ぶ服をリコメンドする機能を開発し、入社1ヶ月で実用化することができました。

──  これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。

やはり、新規サービスで三連続で失敗した経験が一番印象に残っています。失敗を通じて、どうすれば物事がうまく進むのかを考えるようになりました。この経験から学んだことは多く、今でもゼロからの立ち上げをする際にその感覚が活かされています。

──  その後、株式会社Seibiiに入社するまでの経緯を教えて下さい。ちなみに最初からCTOとしてに入社でしたか?

いえ、最初はイチ社員として入りました。前職では機械学習エンジニアとして仕事をしていたのですが、最初の1ヶ月では結果を出すことができましたが、その後は成果を出すのに苦労をしました。0から1の導入のフェーズでは成果が出やすいのですが、その後の精度改善のフェーズはビジネスインパクトを出すのが難しくて、私はもともとあまり勉強をする方ではないので、機械学習エンジニアとしてのキャリアは自分に向いているのか疑問に感じました。最新の技術をキャッチアップし続けるのに疲れを感じてしまい、違うチャレンジをしようかと思いました。

機械学習へのモチベーションが下がっていたこともあり、プライベートで株式投資にハマっていました。株式投資に関して1,000時間ほど勉強し、日々の開発業務がどう企業価値向上やビジネスインパクトに繋がるのかを解像度高くイメージできるようになりました。その経験から、マネジメントにも興味を持つようになり、マネジメントに挑戦しようと思って転職活動を始めました。

Seibiiを選んだ理由は、大きな会社を作りたいという思いがあり、そういう条件に合致する会社を探していたからです。また、会社の経営メンバーがソフトウェアに詳しかったり、ミッションに共感できたりしたことも大きな要因です。

マネジメント経験がゼロだったので、イチ社員として入社しました。

株式会社Seibii 入社

── 実際に入社後、どのような流れでCTOに就任となったのですか?

入社してから4ヶ月ほどでマネージャーのロールを任されました。7月には執行役員になりました。1年後にはCTOの肩書きを使っていいと言われました。

── Seibiiには元々CTOの役割の方がいなかったのですか?

そうです。創業初期にはVPoEを担当していた方がいたのですが、私が入社する1年前に退職されていました。

── 入社後に苦労した点や良かったことは何ですか?

苦労した点としては、自分の得意不得意を理解してもらうことが難しく、自分のバリューを発揮するまでに時間がかかりました。信頼を得るのは大変だと感じました。

良かった点としては、最初の頃は若手のエンジニアが多かったのですが、彼らが非常に優秀で助けられました。例えば、リプレース作業を若手主体で進めてもらったことがあり、人に期待すると結果を出してくれることを実感しました。

── 信頼を獲得する上で工夫された点はありますか?

そうですね、私は全然得意ではないのですが、ひたすら真摯に取り組むことが大事だと思っています。また、相手の良い点を見つけて認めることも重要です。過去にはできていなかったことですが、それが一番大きなポイントだと感じます。

── 現在の蟻塚さんの業務内容を教えて下さい

はい、クォーターごとにやっていることが変わるので、毎回少し違っています。現在は採用に1割から2割程度の時間を割いています。開発には1割から2割程度です。残りの時間は、次の大きなジャンプを実現するためにどうすれば良いかを考えることに使っています。

── 株式会社Seibiiの事業の魅力をお聞かせください。

魅力としては、やはりオンリーワンのビジネスを展開している点だと思います。裏側が非常に複雑であり、5年間かけて少しずつ培ってきたものです。このため、他の企業が簡単に真似できない仕組みになっています。また、我々の強みの一つはソフトウェア開発力であり、この力を活かして事業を伸ばしていけると考えています。

他に類を見ないビジネスであるため、常に新しいことを考えなければなりませんが、その分、多くの考える機会があることが面白いところです。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

はい、現状エンジニアは10名弱ほどいます。インフラに近いサービス基盤を担当するエンジニアが1名、アプリケーション基盤の横串的な部分を担当するエンジニアが1名、残りのメンバーは今年は一つの事業にフォーカスするために1チームに6名程度が属しています。他にもジョイントベンチャーがあり、そこに1名派遣しています。

── 組織内にマネージャーもいますか?

そうですね、基盤のマネジメントを担当するマネージャーと、プロダクト開発を担当するアプリケーションエンジニアを担当するマネージャーが1名ずついます。

── エンジニアの働く環境を教えてください。

エンジニアは基本的にリモートで働いています。たまに出社する程度です。オフィスにもエンジニアの席がないので、ほとんど出社しません。3ヶ月に一度、全社で集まる機会がありますが、それ以外はリモートです。

── ビジネスサイドとの連携やコミュニケーションはどのように取っていますか?

コミュニケーションのために設計された会議体を設計しており、そこで基本的に業務が回るようにしています。また、SlackやHuddleを活用しています。意図したわけではないですが、エンジニアメンバーのslackへの返信は比較的早いので、リモートでも問題なくコミュニケーションを取ることができています。

── Seibiiさんは、整備士の方も社員としていらっしゃるので、直接話を聞けるのは大きいですね。

はい、整備士の声を直接聞くことができるのは非常に大きいです。外部の整備士さんとも良好な関係を築けているので、生の声を聞きながら改善できるのは大きな強みです。

── 現在の組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)がありますか。

良い点としては、整備士バックグラウンドのメンバーなど多様な職種のメンバーがいるせいか、会社全体が非常にフラットで上下関係がないことが挙げられます。他社では技術負債の返却を行う際に経営会議で承認を取るようなケースも聞いたりしますが、私たちの場合、そうした制約はほとんどなく、自由度が高く取り組めることが良い点です。寧ろやりすぎないように、私がストップをかけているような状況です。

課題点としては、技術的に面白いことをビジネス価値に繋げることがまだ十分にできていない点です。私自身、機械学習の技術をビジネスに活かせる可能性を感じていますが、まだ十分にチャレンジできていません。技術的にチャレンジングなことを企業価値に繋げるチャンスをもっと作りたいと思っています。

今後の目標

そうですね、シンプルに事業がうまくいくことだと思っています。そのために二つの目標があります。一つは、時価総額が高い会社になること。もう一つは、整備業界にとってなくてはならないサービスになることです。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)

そうですね。『8:セージ』以外を除いて、ほとんどのタイプが活躍できると思います。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

この事業は一人の優秀な人がいれば成功するというわけではなく、チームで取り組む必要があります。素直で前向きに取り組むマインドセットを持った人と一緒に働きたいですね。