小林 悟史 氏|ブルーモ証券株式会社 / 取締役CTO

新卒からフリーランスエンジニアとして活躍し、Fintechベンチャーでは役員として複数金融システムの立ち上げをリード。個人プロジェクトとして政治資金データベースを開発・公開|東大情報理工修士 / IPA未踏クリエーター

ブルーモ証券株式会社について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

私たちブルーモ証券株式会社は、「投資をみんなのものに」というミッションを掲げており、その実現のために「ブルーモ」という投資アプリを提供しています。このアプリは米国株および米国ETF専業の長期資産形成に特化しており、現在はこのアプリ一本でサービスを展開しています。

ブルーモアプリには大きく二つの機能があります。一つはポートフォリオ投資機能で、もう一つはコミュニティ機能です。

ポートフォリオ投資機能では、通常の証券会社のように株を1株単位で購入するのではなく、例えばNASDAQ連動ETFを50%、Appleを30%、NVIDIAを20%というように比率で指定し、好きな銘柄を好きな割合で組み合わせてポートフォリオを作成できます。日本円を入金すれば作成したポートフォリオの比率に沿ってアプリ内で自動的に両替や買い付けが行われ、リバランス機能も備えています。これにより、目標とするポートフォリオの比率に応じて市場の動きに対応した調整がワンタップで可能です。

コミュニティ機能では、他の投資家のポートフォリオを参考にすることができます。ユーザーランキング機能があり、例えばこの人は15%や20%値上がりしているが、どのようなポートフォリオで投資しているのかを見ることができます。さらに、弊社が提供する公式ポートフォリオやモデルポートフォリオもいくつか用意しており、これらの情報を参考にしてお客様自身が自分なりのポートフォリオを組むことができます。

小林さんのキャリア

──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

出身は埼玉県で、典型的なベッドタウンで育ちました。小中学校は地元の市立学校に通い、その後は私立の高校に進学しました。普通のわんぱくな子供で、サッカーやバスケをして遊んでいました。中学時代は卓球や陸上など、さまざまなスポーツに挑戦していました。少し飽きっぽい性格だったため、多くのことに手を出していた感じです。

現在のキャリアに繋がるエピソードとしては、父が電気メーカーに勤めていたことが大きかったです。当時、家庭にパソコンがあるのは珍しい時代でしたが、父の仕事の関係で家にはノートパソコンやデスクトップパソコンがありました。使わなくなったパソコンをおもちゃ代わりに使うことができ、キーボードをカチャカチャするのが楽しかった記憶があります。

高校時代には、自分のパソコンを持つことができました。当時はダイヤルアップ接続の時代で、インターネットやiモードが普及し始めた頃でした。パソコンでインターネットを使ったり、携帯電話を持ったりすることで、インターネットやコンピュータの世界に慣れ親しむことができました。

ただ、プログラミングを本格的に始めたのはもっと後のことです。幼少期や高校時代は、あくまでパソコンに触れる機会が多かったという程度で、プログラミングに深く関わるようになったのは大学に入ってからでした。

──  早稲田大学に進学した理由は、既にエンジニアになると決めていたからですか?

いや、そのときは全くエンジニアになるとは思っていませんでした。典型的な理系学生で、国語や社会の成績はそれほど良くなかったのですが、数学や英語などの理系科目は得意でした。早稲田や慶応なら目指せるかなという感じでした。

早稲田を選んだのは、埼玉から通いやすかったからです。慶応の理工学部は神奈川にありますが、早稲田は高田馬場にあり、アクセスが良かったのも決め手でした。

入学当初は電気電子情報工学科を選びました。電磁気学や発電などを学ぶ学科で、多くの学生が東京電力などの電力会社に就職していました。実際に入ってみてから、それを知りました。当時は物理が好きだったので、自分の得意分野である電気工学を学びたいと思ったのが理由です。

電気電子情報工学科では7割が電磁気学や回路理論のような理論物理系を中心とした勉強でしたが、残りの3割が情報学やプログラミングでした。大学で初めてプログラミングに触れ、自分にはこちらの方が適性があると気付いたのです。これが大学時代の大きな転機となりました。

── その後、東京大学大学院に進学されたのは何がきっかけだったのでしょうか?

正直なところ、半分はモラトリアムでした。大学時代はバンド活動に熱中していて、あまり勉強していなかったんです。理系の学生は大学院まで進学するのが当たり前という雰囲気もあったので、親に頭を下げてもう2年間猶予をもらうことにしました。

当初は早稲田大学の大学院に進学しようと思っていたのですが、外部受験という選択肢があることを知り、挑戦してみることにしました。結果、早稲田大学・東京工業大学・東京大学を受け、早稲田大学と東京大学に合格したので東京大学に進学することにしました。

── 大学院ではどのような研究をされていたのですか?

修士論文のテーマはIT防災でした。JAXAなどと共同で、首都直下地震を想定した防災・減災プロジェクトに取り組んでいました。私たちの研究室では防災とITを絡める研究が盛んで、そのテーマを最終的に私が引き継いだ形となりました。

具体的には、大災害が起きたときの情報共有の問題に取り組みました。従来は紙の地図に避難所や被害状況を書き込む方法が主流でしたが、情報が現場に伝わりにくく、効率的な対応が難しいという課題がありました。そこで、情報技術を使ってリアルタイムで情報を共有し、より効率的な防災・減災活動ができることを目指しました。

── その後、就職ではなくフリーランスエンジニアの道に進まれた理由は何でしょうか?

少し経緯をお話ししますと、実は東大の大学院修士を取るのに2年半かかりました。本来は2年で取れる予定だったのですが、少し遅れてしまったため、当初内定をもらっていた野村総研に入社できなくなり、再び就職活動をすることになりました。

再就職活動では、1回目は大企業を中心に見ていたので、2回目はベンチャー企業を中心に見ることにしました。東大や早稲田や慶應の学生向けにベンチャー企業を紹介してくれるメディアを通じて、いくつかのスタートアップを知り、スタートアップの世界に興味を持ちました。当時のスタートアップはまだ発展途上で、システムやエンジニアの待遇もそれほど良くなかったのですが、逆にそれが自分でもできると感じさせるものでした。

もう一つの大きなきっかけは、2009年に未踏事業に採択されたことです。これは経済産業省が所管するIPA(情報処理推進機構)が主催する人材発掘プロジェクトで、私はその年に採択され、プロジェクトに参加しました。プロジェクトで得られる資金が新卒の初任給と同程度だったため、それなら就職せずにフリーランスとして活動してもいいのではないかと思い、フリーランスエンジニアとしての道を選びました。

その後、6年ほどフリーランスエンジニアとして様々な案件を手がけていました。

── 現在のエメラダに創業メンバーとして参加されたのはどういった経緯でしょうか?

大学院の同級生がエメラダを創業し、その直後に声をかけてもらいました。仲の良い友人だったので、一緒に何かをやることに魅力を感じ、業務委託として手伝い始めました。ちょうどフリーランスとして一人でやれる範囲の限界を感じ始めていたころだったので、優秀なメンバーと共に大きなことを成し遂げたいと思うようになり、正式に社員として参加することにしました。

── 実際にエメラダでは最終的に執行役員まで昇進されたとのことですが、どのような業務を担当されていたのか教えていただけますか?

エメラダでは主に三つのプロジェクトに取り組みました。一つ目は「エメラ・エクイティ」という株式投資型クラウドファンディングのサービスです。このサービスを提供するためには証券業のライセンスが必要で、その取得を経験したことが今に活きています。

二つ目は「エメラダ・バンク」というオンラインレンディングのサービスです。これは銀行での対面融資をオンラインで実行するもので、当時、私たちが融資を実行するサービスでした。

三つ目は「エメラダ・マーケットプレイス」です。現在では名前が変わっているようですが、2019年にリリースしました。これは電子決済等代行業のライセンスを取得し、法人版の家計簿のようなサービスを提供するものでした。

この三つのプロジェクトを進める中で、私の大学院の同級生であり創業メンバーの一人が最終的に会社を去ることになりました。私も迷いましたが、自分が選んだ船だと思い、残ることに決めました。最終的に、エメラダ・バンクとエメラダ・マーケットプレイスの開発をリードし、執行役員に就任しました。

── その後、退任されて再びフリーランスとして活動されたのですね。どのようなことをされていたのか教えてください。

そうですね、この期間はやりたいことを自由にやっていました。その一つが政治資金データベース作成です。政治資金の分野はまだデジタル化が進んでおらず、多くの課題があることに気づきました。またAIを学ぶ題材としても適していると感じ、政治資金収支報告書の解析に取り組みました。フリーランスとしては、産直ECサイトの開発なども手がけました。

── 現在の会社に入る前のキャリアの中で、一番印象に残った出来事や出会いはありますか?

もう一つは、エメラダでの経験です。スタートアップの成長に伴う良い面、悪い面、内部のいざこざなど、実際に多くのことを体験しました。複数のサービスを次々に立ち上げる中で、一つのことに集中する難しさも感じましたが、この経験が現在に生かされていると感じます。

── その後、ブルーモ・インベストメント株式会社(現:ブルーモ証券株式会社)を創業するまでの経緯を教えてください。

経緯としては、フリーランスとして新しいプロジェクトを探していた時に、たまたまTwitter(現:X)で中村からメッセージが来たことがきっかけです。エンジニアなのでスカウトのメッセージはよく来るのですが、中村のメッセージは非常に真摯で、信頼できる印象を持ちました。実際に会ってみると、彼のキャリアやビジョンに共感でき、彼の熱意に引かれるものがありました。

私自身も少しは投資をしていたので、もっと使いやすい投資サービスがあればいいなと思っていました。また、ブルーモのミッションを別の側面で見ると「正しい投資を広める」というテーマがあり、それに強く共感しました。投資に関しては怪しい情報商材や詐欺まがいの情報が蔓延している中で、正しい情報を提供し、健全な投資文化を築きたいという思いがありました。

政治資金データベースのプロジェクトは非常に重要で続けたいと思っていますが、それは急がなくても大丈夫だと感じました。ブルーモのプロジェクトは今がチャンスだと思い、2年前にこのプロジェクトに全力を注ぐ決意をしました。

ブルーモ証券株式会社 入社

── 最初は4人ぐらいのスタートで、優秀なメンバーが集まってスモールで進んだという記事を拝見しました。実際に創業後、どのようなことに取り組んだのかをお伺いしたいと思います。

はい、創業メンバーは4人で、それぞれ全く異なる分野の専門家でした。代表の中村が経営全般を担当し、吉岡が金融の事業開発、具体的には証券会社のライセンス取得に関するビジネス面を細かく詰めていきました。デザイナー兼ブランディングディレクターの三島は、ブランドやミッション・バリューの策定からロゴのデザイン、アプリのデザインに至るまで担当しました。私はシステム開発を担当し、それをアプリとして実装する役割を担いました。

創業時点で私は、リードエンジニアが最低でも4人必要だと考えていました。それぞれのリードエンジニアの下に二、三人のメンバーエンジニアがいる体制を目指していました。そのため、当初からエンジニア組織を12~15人規模にするイメージを持っていました。

開発は一人では不可能なので、まずは知り合いのエンジニアを集め、パートタイムでもいいからチームを作りました。そして、4人のリードエンジニアを見つける旅が始まりました。その旅はまだ終わっておらず、特にバックエンドエンジニアのリードエンジニアがもう一人必要です。

創業直後から今でも苦労しているのは、リードエンジニア級の人材を探すことです。それが最も大きな課題でしたが、逆に優秀なメンバーが集まったことで、非常に質の高いプロダクトを迅速に開発することができました。初期の4人は、各自の専門知識とスキルをフルに活かしてプロジェクトを進め、効率的にスタートを切ることができました。

── 現在の小林さんの業務内容を教えてください。

現状では開発業務にかなりの時間を割いていますが、採用にも時間を使っています。ざっくりとした配分ですが、採用が約3割、開発が3~4割、インフラ関連の業務が2~3割、残りが事務的な作業やコミュニティ活動といった感じです。

具体的には、自分が担当しているチームのバックエンドの管理画面機能や審査、入出金などの機能開発とチームメンバーのコードレビューに時間を費やしています。また、最近はインフラ関連の課題が大きく、人手が足りないため、インフラについてのディスカッションに時間を割いています。

コミュニティ活動としては、Rubyなど弊社が採用している技術に関連する勉強会に参加したり、未踏事業の活動に参加しつつたまにスポンサーもしたり、LT(ライトニングトーク)を行ったりしています。これらの活動に1割程度の時間を使っています。

── ブルーモ証券株式会社の事業の魅力をお聞かせください。

機能面では、ポートフォリオ投資機能が特に魅力的です。これはありそうでなかった機能で、自分で銘柄を選び、少額で分散投資ができる点が大きな特徴です。例えば、以前はNVIDIAの株を1株買うのに株式分割前だと約20万円ほど必要でしたが、少額での分散投資が可能になったことは非常に有利です。

また、他の投資家の状況が見れるというのも大きなポイントです。Twitter(現:X)などで「自分のポートフォリオはこうだ」と発信している人たちもいますが、それが本当に正確な情報なのか、より詳細な部分がどうなっているかといった疑問を持つことがあります。その点、ブルーモでは実際の投資家の行動を見られるようにすることで、信頼性が高まります。

現在のブルーモアプリは、投資機能として必要最低限の要素を備えつつ、他の投資家の情報を参照できる点が非常に優れています。これにより、ユーザーは他の投資家の行動を参考にしながら、自分の投資戦略を立てることができます。ユーザーからも好評をいただいており、この点がブルーモアプリの大きな魅力だと思っています。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

現在の開発組織は大きく四つのチームに分かれています。まず、モバイルアプリの実装とそれに繋がるサーバーの開発を担当するアプリチームがあります。このチームはFlutterでiOSとAndroidのアプリを作るエンジニアと、サーバー側をRuby on Railsで構築するエンジニアで構成されており、フルタイム社員が4人と一番人数が多いチームです。

次に、私が担当するAdminチームはバックエンドの社内システムを管理しています。ここでは審査や入出金の確認、他のシステムとの連携を担当しており、フルタイムメンバーは私一人で他は業務委託のメンバーが3〜4人います。

三つ目のチームは証券基幹システムチームで、実際の株取引を行うシステムをGo言語で開発しています。ここには正社員が2名、業務委託メンバーが1〜2名います。

最後にインフラチームがあり、インフラの管理を担当していますが、正社員は1名で、業務委託メンバーをアサインしにくいため、私とバックエンドのリードエンジニアが兼任しています。

このように、アプリチーム、Adminチーム、証券基幹システムチーム、インフラチームの四つのチームで構成されています。

── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。

まず良い点としては、私たちの企業のバリューとして「自由と責任」を掲げています。ざっくり言うと、やるべきことをしっかりやっていれば、好きなことを自由にやっていいという方針です。これは簡単そうに見えて実行が難しい部分もありますが、しっかりと責任感を持って自分の担当領域にコミットするメンバーが揃っています。そのため、非常に良いチームが構成されています。

一方で課題点としては、まだ一人の担当領域が広く、特定のメンバーに負荷が集中していることです。このため、無理をしているメンバーも少なからずいます。特定の人への負荷を軽減するためにも、優秀なエンジニアの追加が必要だと感じています。

私自身も、担当領域が広がっているため、最近はコードレビューや本番運用での手作業が多く、全体を俯瞰して見ることが難しくなっています。開発組織を率いるCTOとして、もう少し全体を見渡せるようにしなければならないと感じています。

今後の目標

そうですね、まず短期的な目標としては、このブルーモのアプリで1年以内に実装したい項目がいくつかあります。具体的には、積立投資機能を来月か再来月にリリースする予定です(2024/7/30にリリースをしております。※本取材は2024年6月)。現在、この機能は実装の最終段階にあり、長期の資産運用において積立投資は非常に重要な機能です。ユーザーからの要望も多く、これを確実にリリースすることが目標です。

次の大きな目標としては、新NISAに対応することです。2024年から始まった新NISAへの対応も重要な項目であり、しっかりと対応していきたいと考えています。他にも、セキュリティ強化や二段階認証など、ユーザーからの細かな要望に応えていく予定です。これらの機能が揃えば、投資プロダクトとして必要な機能が一通り揃った段階になると思いますので、まずはそこを目指します。これが1年以内の短期目標です。

中長期的な目標としては、デジタル銀行構想を進めていきたいと考えています。貸金や決済などの分野にも進出し、ブルーモアプリの投資機能を拡充させつつ、新たな可能性を見出していきたいです。また、リアルなコミュニティ活動にも力を入れ、例えばカンファレンスやイベントでのスポンサーシップなどを通じて、エンジニアのコミュニティを広げていきたいと思っています。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。

どのタイプも必要な要素を持っているとは思いますが、特に重要なタイプを挙げるとすれば、デリバラーのようなタイプで、しっかりと実装したものを世に出し、運用まで責任を持てる人です。

逆に、現状の組織に合わないタイプとしては、「誰かの指示のもとで働きたい」というタイプの人です。私たちの組織には明確な上長という概念があまりなく、各チームリーダーはいますが、その人が指示を出すというわけではありません。自主的に動ける人が求められる環境ですので、指示待ちタイプの人は現状ではマッチしにくいかもしれません。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

今のブルーモのメンバーは非常に理想的なメンバーが揃いつつあると思っています。大切なのは、「自由と責任」というバリューを実行できる人です。具体的には、しっかりと当事者意識を持ち、ブルーモのアプリは自分が作っているのだという強い意思を持って働ける人です。

自分が手がけたプロダクトに誇りを持ち、「このブルーモアプリは自分が作ったんだ」と自信を持って言えるような人と一緒に働きたいです。そのような思いを持った人が加わることで、さらに強いチームを作り上げていきたいと考えています。