野間 悠磨 氏|サンゴテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO

2020年にサンゴテクノロジーズを創業。2022年4月にはTapNowのiOS版、8月にAndroid版をリリースし、本格的にサービス提供を開始。2023年2月には、SBIインベストメント、East Ventures、アドウェイズ・ベンチャーズを引受先とした第三者割当増資により、シードラウンドで総額1億円の資金調達を実施。

サンゴテクノロジーズ株式会社 について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

当社の事業は大きく2つに分かれています。1つ目は、日本に本社を構え、ベトナムに子会社を持つという体制です。日本側のチームは約3名、ベトナムのチームには10数名のメンバーが所属しており、ベトナムが主要な拠点となっています。

まず1つ目の事業は、受託開発のラボ型開発です。具体的には、日本のお客様向けにWebソフトウェアやアプリケーションを開発する際、ベトナムでエンジニアチームを編成して提供する形態となります。

2つ目の事業は、当社が開発・運営しているSNSアプリ「TapNow」です。このアプリは、Z世代やα世代といった若年層に特化した新しいSNSプラットフォームです。

野間さんのキャリア

──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

小学生の頃の私は、かなり落ち着きがない子どもでしたね。授業中に立ち上がったり、自分の好きなことばかりしていたりと、親や先生には手を焼かせていたと思います。親が呼び出されることも多く、学校で問題を起こすこともしばしばありました。ただ、言い換えれば、活発で好奇心旺盛な子どもだったとも言えるかもしれません。

小学校1年生からサッカーを始め、中学校、高校と続けました。中学に進む頃には少し落ち着いてきて、特にサッカーに真剣に取り組んでいましたね。中学時代は「もっと上を目指したい」という強い気持ちがあり、サッカーに熱中していた時期でした。

印象に残っているのは、中学校の国語の授業で「10年後の自分へ」という手紙を書いたことです。その手紙が実際に10年後、私が25歳の頃に届いたんですよ。当時は忘れていましたが、そこには「将来自分の作品が世の中に出て、エンターテインメントの世界でやっていきたい」という夢が書かれていて、それが今のキャリアに繋がっているのかなと思います。

もうひとつ印象的だったのは、ライブドア事件などがニュースで取り上げられた頃です。私はまだ中学生で詳しいことは分かりませんでしたが、若い人たちが試行錯誤しながら大企業に挑んでいる姿に強く影響を受けました。それ以来、「いつか自分もジャイアントキリングをしてみたい」と思うようになりましたね。

高校時代は勉強があまり得意ではありませんでしたが、途中で「このままではまずい」と思い直し、勉強に取り組み始めました。結果として、周囲には追いつかなかったものの、なんとか大学に進学することができました。

──  アドウェイズに入社されたのは、中学時代から抱いていた「世に何かを出す」という思いの延長にあったのでしょうか?

はい、その通りです。広告業界に興味を持っていたのは、何か自分の作品やサービスが世の中に広がることに関心があったからです。自然と広告業界に目を向けましたが、同時に「時代の流れに乗る」ためでもありました。

私が入社した2012年当時、インターネット広告業界は急速に成長していましたが、テレビや新聞、雑誌などの伝統的な広告媒体の影響力がまだ大きい時代でした。インターネット広告は「これから来る」という認識があったものの、学生の間ではそれほど注目されていなかったんです。そんな中、これから成長が期待される業界に身を置くことで、自分が周囲に遅れを取っていると感じていた部分を埋められるのではないかと考えました。

大学時代、優秀な同世代と比べて自分が下の方にいるなという実感があったので、その差を埋めるために、成長が見込まれる業界で自分を鍛えたいと思ったのです。ベンチャー企業と広告業界の組み合わせが自分にとって成長の場になると感じ、アドウェイズを選びました。アドウェイズを選んだ決め手のひとつは、採用プロセスの速さでした。私は新卒の採用面接を大学3年生の時に受けており、他の企業を受ける前にアドウェイズで内定が決まったので、すぐに入社を決めました。

── その後、東京の本社勤務を経て、上海支社で駐在、さらにベトナムで社長を務めたと伺っています。それぞれの経緯や取り組みについて教えていただけますか?

アドウェイズに入社してからは、最初は東京本社でアフィリエイト広告を扱う部署に配属され、営業をしていました。自社サービスを持っているのは素晴らしいことですが、1~2年続けるうちに、同じ商品を同じトークで営業することに次第に飽きを感じるようになりました。「もっと広い分野に触れたい」という思いが強くなり、物足りなさを感じるようになったのです。

入社当時、アドウェイズは社員数が約300人でしたが、私が勤めていた頃には1000人近くまで急成長していました。その結果、なかなか上に行くにも時間がかかりそうだと考えるようになりました。そんな時、社内の全体メールで「中国の支社で人手が足りないから誰か行けませんか?」という募集がありました。

その時は中国語も英語も話せなかったので、最初は自分には関係ないと思ってスルーしていましたが、先輩に相談した際、「上が詰まっていると感じるなら中国に行ってみたら?」と言われました。それをきっかけに「行ってみよう!」と本気で決意し、すぐに「行きたいです」と返事をしました。中国の社長との面談では「中国語も英語も話せませんが、営業経験と意気込みで頑張ります!」と伝えると、社長が「面白いから来てみてくれ」と言ってくれたんです。

こうして中国での駐在が始まり、営業範囲が広がり、様々な挑戦ができる環境が整っていました。しかし1年ほど経つと、また「何か新しいことをしたい」という気持ちが芽生えてきました。それで、昔からの「自分のプロダクトを作って世に出したい」という思いを思い出し、社内で何度もプレゼンを重ねました。

その結果、社長から「じゃあ、中国でプロダクトを作ってみよう」と言われ、プロデューサー的な立場でいくつかのプロダクトをリリースすることができました。これは大きな経験となりました。

そして、3年目に差し掛かる頃、「次は東南アジアに挑戦したい」という気持ちが強くなりました。中国市場の難しさを感じながらも、海外での経験が自分の成長につながると考え、ベトナムやタイ、シンガポールで新しい挑戦をしたいと思うようになりました。結果として、ベトナムの現地法人の社長として着任することになりました。

── 言語の壁について、どのように対処したのでしょうか?

実は中国での駐在時には、それほど言語の壁に苦しむことはありませんでした。当時の日系企業の多くでは、マーケティング担当者が日本人だったので、日本語だけで十分に仕事が進んでいたんです。もちろん、生活に必要な簡単な中国語は少し覚えましたが、ビジネスシーンで中国語を使うことはほとんどありませんでした。

しかし、ベトナムに移ることが決まったときに、言語の問題が一気に大きくなりました。アドウェイズのベトナム拠点には約30人の現地スタッフがいて、彼らは英語かベトナム語しか話せませんでした。さらに、私の前任の社長は完璧な英語を話せる方だったので、コミュニケーションはすべて英語で行われていたんです。

ベトナムに着任した時、彼らから見れば「社長なのに英語が話せない」という状況で、最初は完全にコミュニケーションが取れませんでした。「これはまずい」と感じ、そこから必死に英語の勉強を始めました。英語が話せないと、指示も出せず、依頼もできないという状況だったので、まさにサバイバル状態で覚えていった感じです。本当に、喋れないとどうしようもないという切羽詰まった状況が、英語を習得する大きな動機になりました。

── サンゴテクノロジーズ株式会社を創業するまでの経緯を教えてください。

ベトナムに行く前の話から繋げると、私は自信満々でベトナムに渡ったんです。中国でのプロジェクト開発の成功体験があったので、「自分ならできる」と思っていました。しかし、ベトナムに到着してから半年後、会社として東南アジアから撤退するという決定が下されたんです。予算削減や市場の事情があり、現地のスタッフを解雇しなければならない状況に追い込まれました。

ベトナムではレイオフに関する法的規定がなく、全員に自主退職をお願いしなければならず、しかも英語が十分に話せない私がその交渉をしなければなりませんでした。これは本当に精神的に厳しい経験でした。彼らは同じチームで戦ってきた仲間でしたが、私が解雇を伝える役目を負うことになりました。その後、未払い金の回収も担当することになり、片言の英語で交渉に挑みました。結果的には全ての清算を終えましたが、この経験で自分の自信は完全に打ち砕かれました。

一度、上海に戻って仕事を再開しましたが、心の中ではずっとベトナムでのリベンジを考えていました。そこで、上海にいる間に仲の良かった共同創業者の松井に「ベトナムに戻って自分で会社を作りたい」と相談しました。その時点で、会社の戦略や方針に従うだけでは、自分のやりたいことができないと強く感じていたんです。

また、サラリーマンとしてプロダクトを開発する中で、「世界中の人々が使うサービスを作りたい」という野望がありましたが、日系企業の限られた予算の中ではその実現に限界を感じていました。それで、自分で会社を作り、資金調達をして自由にプロダクトを作りたいという強い思いが芽生えたのです。

サンゴテクノロジーズの登記は2020年ですが、実際には2019年頃からプロジェクトとして動き始めていました。ベトナムで少しずつエンジニアを雇い、受託開発をスタートしていました。サラリーマンを続けながらプロジェクトを進めていたのが、創業に至る背景です。

サンゴテクノロジーズ株式会社 創業

Tap Now サービス動画

── 最初は、どのようなことに取り組みましたか。

まず、サンゴテクノロジーズを創業してからの話ですが、実はその時点で私はサラリーマンを続けていました。アドウェイズを辞めて外資系のアメリカのスタートアップに転職して、日本支社で働いていたんです。その会社はスタートアップとして成長途上で、規模は300人程度。グローバル展開が前提のビジネスモデルだったので、日本支社といえどもグローバルに活動しないと成り立たないという環境でした。私はそこでグローバル企業のやり方を学び、それをサンゴテクノロジーズに持ち帰り、組織の仕組みやカルチャーを取り入れていきました。

受託開発をしながら、余ったエンジニアのリソースを使って、いくつかプロダクトも同時進行で開発していました。思いついたアイデアを形にして、実際に動かしてみたり、、試行錯誤の繰り返しでした。その中の一つが「TapNow」です。

TapNowが生まれるきっかけの一つが妻との会話でした。妻はSNS、特にインスタグラムやツイッターを昔から使っていて、「最近、投稿することが少なくなったんだよね」という話をしていたんです。最初はアクティブに投稿していたけど、今は見る専になっている。なぜそうなるんだろうという疑問が湧いてきたんです。

その後、社内で松井や他のメンバーとディスカッションを重ね、この現象について深く掘り下げていきました。SNSが嫌いになったわけではないし、アプリ自体に問題があるわけではない。でも、なぜ投稿が減り、見る専になってしまうのか。そんな議論から「これが原因なんじゃないか」という答えが見つかり、それを具現化したのが「TapNow」だったんです。

── TapNowの開発実態について伺いたいのですが、野間さん自身も開発に手を動かされたんでしょうか?

TapNowに関しては、私自身は開発の手は動かしていないですね。元々、私はエンジニアではなかったんですけど、ベトナムにいた頃から「このままじゃダメだな」と思って、エンジニアリングの勉強を始めました。松井や他のメンバーにも教えてもらいながら、自分でも手を動かせるようにはなったんですが、あくまで基礎的な部分です。プロのエンジニアほどのスキルはありませんが、コードの読み書きくらいはできるようになったという感じです。

ただ、私がやっていたのは主にWebアプリケーションの開発だったので、TapNowのようなモバイルアプリケーションの開発に関しては、またゼロから勉強するのは大変だと思い、そこは専門家に任せることにしました。共同創業者のベトナム人のビンはスーパーエンジニアでして、TapNowの最初の開発をお願いしました。

── ビンさんが、CTO的な役割を担っているんですか?

そうですね。一般的に言うと、松井とベンの二人がテクノロジーサイドをリードしている形です。松井はより上流の部分に強く、全体的な技術の指揮を執っているので、彼がCTOです。そしてビンは、実際の開発や技術面でのリードを担っていて、現在はCDO(Chief Development Officer)という形でやっています。

── シードやアーリーフェーズの企業ではエンジニア不足に苦労するケースが多いと思いますが、その点は問題なかったのですね。

そうですね。私もアドウェイズ時代からプロダクトを作ってきて、リードできるエンジニアがいないと話が進まないということはよく分かっていました。だからこそ、松井やビンのような優秀なエンジニアに出会えたのは非常にラッキーでしたし、彼らがいるならやらない手はないという感覚でした。

── TapNowの事業の魅力を野間さんの目線で教えてください。

私自身の視点で言うと、これまでキャリアの大半はBtoBのプロダクトを作ってきました。BtoBは予算もあり、ビジネスとしての面白さもあるのですが、エンドユーザーが実際に使っている姿を見ることが、私にとっては大きな魅力です。

中学生の頃に書いた手紙にもあるように、世の中の多くの人が使ってくれていることや、少しでも世の中を変えたという実感が持てるものを作りたいという気持ちはずっと持っていました。それが、今TapNowを通じて実現できていると感じています。

例えば、電車に乗っていてたまたま前に座っていた女子高生がTapNowを使っていたり、居酒屋での会話の中でTapNowの話題が出たりする瞬間が一番嬉しいです。以前、会食で相手の方が冗談半分で店員さんに「TapNow使ってますか?」と聞いたら、店員さんが「めちゃくちゃ使ってますよ!」と答えたことがあり、その瞬間がすごく嬉しかったですね。

ビジネス的な観点ではないかもしれませんが、そうした瞬間に「TapNowを作ってよかったな」と心から思います。それが私にとって一番の魅力です。

現在の組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

現在、正社員としてフルタイムで働いているメンバーは、日本とベトナムを合わせて約16名です。さらに、業務委託のメンバーがロンドン、アメリカ、そして日本で働いています。全体を合わせると、正社員も含めて総勢20数名ほどのチームです。

── エンジニア組織の規模感はどれくらいですか?

エンジニア組織は現在12名ほど在籍していますが、その中でTapNowに直接携わっているのは4人ほどです。受託開発の部分もあるため、エンジニア全員がTapNowに関わっているわけではありません。

── 現在の開発組織の主な取り組みについて教えてください。

TapNowに関しては、まだ小規模なチームなので、幅広い領域にわたって様々な取り組みを進めています。最近はマネタイズのテストを繰り返し実施している段階です。これはユーザーに大きな変化を感じさせるものではありませんが、広告の配置やユーザー行動データをもとにしたA/Bテストを通じて、効果的な手法を模索しています。

また、新機能の開発にも取り組んでおり、ユーザーファーストの視点を大切にしながら地道に進めています。

── 現在の組織の良い点と課題点について教えてください。

まず、組織の良い点についてですが、エンジニアがほとんどを占めているため、経営や営業に関わっているのは私を含めて2~3名だけです。エンジニアの多くはベトナムのメンバーで、彼らは非常に真面目で、静かなオタクタイプが多いですね。静かではありますが、やるべきことをきちんとこなしてくれる、信頼できるチームです。

また、創業メンバー全員が30歳を超えてから初めての起業であり、過度な野心を持たず、フラットな関係が築かれていることも強みです。スタートアップ業界は浮き沈みがありますが、私たちのチームはそうした波に左右されず、安定した大人の雰囲気があり、安心して働ける環境が整っています。

組織のビジョンについても、外向きの目標を掲げるよりも、内向きに「誇りを持って働ける会社」を作ることに重きを置いています。一緒に働くメンバーがこの会社で働くことを誇りに思えるような環境を作り、それが外部にも良い影響を与えると信じています。採用時には「人徳」も重視しており、それが私たちの採用基準の一つです。

一方、課題点としては、まだ大きな壁に直面しているわけではないものの、エンジニア組織の拡大に伴うチームビルディングが今後の課題になると考えています。現在は小規模なチームで1つのプロダクトに集中していますが、組織が拡大するにつれて、チームをどのように分割し、効率的に運営していくかが課題になるでしょう。各機能ごとにチームを分け、その統括をどう配置するかなど、まだ具体的な計画が立っていない部分が多いので、これが将来的な課題です。

今後の目標

短期的な目標としては、アクティブユーザー(MAU)を100万人に到達させることが最重要課題です。現時点ではまだ倍以上の差がありますが、日本の国産SNSの先輩企業であるパラレルさんが最近100万人を突破したので、私たちもまずはそこを目指しています。このMAU100万人という目標を達成すれば、国産SNSとして最大級の規模に達することになります。これが短期的な最重要課題です。

中期的な目標としては、TapNowのグローバル展開をさらに本格化させたいと考えています。現在は日本がユーザーの大半を占めていますが、次に多いのがベトナムです。また、TikTokのようにバイラルでユーザーが増加した国としてはブラジルがあります。TapNowがすでに海外でも一定の成功を収めていることが確認できているので、これを基にさらにグローバルでの成長を加速させたいと考えています。TapNowが他の国々でも通用するプロダクトであることを証明していきたいですね。

── どのような人材と一緒に働きたいと思いますか?「人徳」というキーワードがありましたが、他に求める要素はありますか?

我々の会社はグローバルでの成長を目指しているため、日本で働く場合でも、グローバルな視点を持ち、グローバルな環境に柔軟に対応できる人材が求められます。言語の壁に関しても、私自身がかつて英語が話せなかったので恐縮ですが、言語ができなくても、海外の人とコミュニケーションを取ることに抵抗がない方が理想です。社内では英語でのやり取りが日常的に行われているので、英語でコミュニケーションが取れることが必要です。

また、技術的なスキルや言語能力だけでなく、やはり人柄やカルチャーフィットが最も重要です。誠実で、正しいことを正しく言える人、そしてチームの一員として協力しながら働ける方と一緒に成長していきたいと考えています。