福田 一行氏|カバー株式会社 取締役CTO

慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2005年からソニー株式会社にて放送局向けシステムの設計を担当。2008年から、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社にてCTOとしてソーシャルメディア向けの広告システム、キャンペーンシステムなどを担当。2016年からカバー株式会社にて、VTuber配信アプリの開発を担当。

カバー株式会社について

── 御社の事業内容を教えて下さい。

カバーは世界で活躍するVTuberを多数輩出する「ホロライブプロダクション」の運営とVTuber展開によって得た、業界屈指のVTuberプロダクションと熱量の高いファンコミュニティにより、グッズ販売等のマーチャンダイジングやライセンス/タイアップといったIPとしての多面的な事業展開しております。

メインのホロライブプロダクションは、86名(2024年5月時点)のタレントが所属しており、日本のみだけではなく、インドネシアや英語圏など世界に向けて事業を拡大しております。また新規事業としてメタバースプロジェクト「ホロアース」の開発を進めており、現在はベータ版として(2024年5月現在)一部の機能をリリースして楽しんでいただいております。

福田さんのキャリア

──  当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。

小学生の頃は、大人しく基本的に真面目だったと思います。運動は苦手でしたが、絵を描くことやレゴを使って物を作ることが非常に好きでした。あとは、基本的にゲームばかりしていましたね。スーパーファミコンでジャンルを問わず、いろいろなゲームをしていました。

中学生の頃から授業でパソコンに触れる機会が増えてきました。授業の一環でホームページを作る機会があり、初めてHTMLでホームページを作成しました。「こんなに簡単に作れるんだ」と知り、そこからインターネットや技術に興味を持ち始めました。私は卓球部に所属していましたが、パソコン部の友達に色々と教えてもらったり、生徒会にも所属していたので、生徒会の先生にパソコンの使い方を一通り教えてもらえたりするなど、学ぶには良い環境でした。

高校に進学してからも、人との出会いに恵まれていました。高校では合唱部に所属していましたが、合唱部の先輩がWebに非常に詳しい方で、合唱部用のホームページも作っている人でした。例えば、掲示板やチャットスペースなどを作り、その中で部活の友達とやり取りできるようにしていました。私もそれを学びたかったので、色々と教えてもらい、掲示板の改良などを行っていました。

── 慶應義塾大学の環境情報学部に進学後、Web系ベンチャー企業でエンジニアとしてアルバイトした件について教えてください。

慶應義塾大学の環境情報学部は、当時先進性があったので、せっかくならそこでWebについて学びたいと思い、進学先を決めました。実は、エンジニアとしてアルバイトを始めたのも人との出会いがきっかけでした。大学では卓球のサークルに所属していたのですが、そのサークルの先輩に「働いている会社でアルバイトをしてみないか」と誘われ、始めたのがきっかけです。

── アルバイトではどんなことをされましたか。

1年生の頃から卒業まで、複数の会社で主にPHPを使って、サイトの掲示板やクリニックの予約システムのデータベース設計から開発、クリエイターのポートフォリオサイトの設計から開発などを行っていました。またアルバイトを辞めるタイミングでは、大学の後輩を連れてきて、その後輩に教えたり、引き継ぎなどの対応も担っていました。

── 慶應義塾大学卒業後〜ソニー株式会社に入社するまでの経緯を教えてください。

卒業後は、ソニーに入社しました。元々ハードウェアとソフトウェアが好きだったので、メーカーの会社は一通り受けました。その中でもソニーは、ハードウェアが強く、ソフトウェアやWebサービスにも関わることができそうだと思い、ソニーを選びました。入社後は、BtoBメインのビジネスで放送局のシステムを担当しました。当時、TVが地デジに切り替わるタイミングでしたので、各放送局に対してデジタル化のための機材の納入や、その放送局向けのシステム開発に関わりました。

── その後、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社のCTOとして参画した経緯を教えてください。

当時、ブログが流行っていて、ブログのイベントに色々と参加していました。そのイベントの中で、元アジャイルメディア・ネットワークの徳力さんと出会い、「ちょっとウチの会社を手伝ってもらえないか」とお話をいただきました。ベンチャーで働いてみるのはどんな感じか知りたかったので、まずはお手伝いのような形で関わることになり、アジャイルメディア・ネットワークの「個人が影響力を持てる・活躍できる、その活動を応援する」という事業に共感し、正式にジョインすることに決めました。参画した当初はエンジニア2人でブログ向けの広告システムを開発していました。その後、Twitter(現X)などソーシャルメディアが盛り上がっていく中で、そこに対するシステム開発や自社でメディアを作っていかなければならないタイミングでエンジニア組織を作り始め、最終的には、5〜10名ほどのエンジニア組織となりました。

──  これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。

アジャイルメディア・ネットワーク時代に、とあるクライアントさんの案件でキャンペーンサイトを作ったのですが、それを使ってくれたユーザーが1日で数十万人もいて、かなり反響もあり色々と面白かったです。数十万人というトラフィックを一気に受けなければならないけどサイトは止められないという状況で、どう対応するかというところを頑張った結果、全員ちゃんと使える持っていけたこと、そして結果として広告大賞もいただけたのが非常に良かったです。

──  谷郷さんとカバー株式会社を創業するまでの経緯を教えて下さい。

代表の谷郷とは、前職で主催していたスタートアップ向けのピッチイベントの中で知り合いました。谷郷は登壇側で、私は運営側でした。偶然にも、谷郷と私の家が近所で、休日にたまにすれ違うこともありました。私がエンジニアであることもあり、アプリのベータ版をちょっと触って感想を聞かせてほしいという感じのコミュニケーションを取っていました。

その後、私はアジャイルメディア・ネットワークを辞めて、会社を立ち上げました。その中で新規事業として、ハードウェア周りで何かやれないかと模索していました。当時IoTという文脈でメーカーブームで、私もすごい興味があったので、色々なイベントに参加していましたが、大体参加するイベントには谷郷もいるみたいな感じでした(笑)。

イベントで色々とハードデバイスを触っていた中で、一番可能性を感じたのはやはりVRのヘッドマウントディスプレイでした。当時Oculusが出始めたころで、「これがスマホの次のプラットフォームになるのでは」と谷郷と議論していく中で、一緒にやってみようかという話になりました。

最初は、Tokyo VR Startupsというアクセラレーションプログラムがあり、そこに谷郷と二人で入り、半年間でVRのプロダクトを作ることをしました。2017年の3月までには何かしらのプロダクトをリリースすることを決め、取り組んでいました。

 

カバー株式会社 創業

── 創業後、どのようなことに取り組みましたか。苦労したことや良かったことなどもありますか?

2017年2月頃に予定通り、VRの卓球ゲームを作りリリースしました。VRというプラットフォームにコンテンツが提供されることが期待される中で、VRの中での体験が特に良かったのはスポーツ系のコンテンツであり、その中でも自分の経験をそのまま使える卓球を取り入れることが魅力的だと考えました。そのため、スポーツの文脈でVR卓球ゲームを作ってみることから始めました。

苦労した点としては、何のコンテンツを作るのかという部分でした。全くVRなどを作ったことがなく、体験したこともなく、市場にもまだ出回っていないため、どういったものが受け入れられるのかがわからない状況でした。それでも試行錯誤しまくりながら、毎日作っては棄ててを繰り返し、谷郷とも衝突しながらも、2人で必死に取り組みました。最終的には納得いく結果には至りませんでしたが、とりあえずやり切ることができて、VR卓球ゲームを完成させることができたことは、非常に良かったと思います。

実際、結構な数のユーザーが楽しんでくれているようで、反響も良かったです。自分は元々ゲームを作った経験がなかったため、初めてのゲームとしてリリースできたことは自信に繋がりました。

── 事業のピボットについてお聞かせください。

そうですね。VR向けのゲームもいくつか試作しましたが、VRヘッドマウントディスプレイが一般に普及するまでにかなりの時間がかかることが想定されました。そのほかに、当時ライブ配信が世の中にたくさん出てきそうだという点と、キズナアイさんが海外も含めて30万人以上が登録するチャンネルになっていたので、バーチャルなタレントも受け入れられそうだと思いました。そして、バーチャルタレントとリアルタイムライブ配信を組み合わせたら面白いのではと考え、アクセラレータープログラムの途中でVTuber事業にピボットしました。

── VTuber事業「ホロライブ」が大ヒットした裏側をお聞かせください。

動画ではファンに接触する機会が限られますが、ライブ配信の魅力はファンとより多くの時間を共有できることにあります。ライブ配信では毎日配信したり、1日に何度も配信したりすることができ、そのたびにファンとのコミュニケーションの機会が増えます。動画では一方向のコミュニケーションが主でしたが、ライブ配信ではコメントで双方向のやり取りができるため、インタラクティブなコンテンツとして非常に効果的であると感じます。

── 現在の福田様の業務内容を教えて下さい。

中長期の開発計画に関わる部分が全体の8割程度を占めており、採用に関わる活動が1割程度です。また、手を動かす実務に関わる活動は1割程度です。私自身の本部の干渉範囲は、メタバース事業本部、クリエイティブ制作本部、CTO室などの範囲を見ています。他の各本部は、本部長やメンバーが主体的に活動しています。

現在のエンジニア組織について

── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。

私の干渉範囲ですと主にVTuber事業とメタバース事業があります。メタバース事業は独立しているのでわかりやすいですが、大体メンバーが130人近くいます。その中で、エンジニアは40人ほどです。

もう一方のVTuber事業では、さらに分かれています。まず、実際の配信を行うチームがあり、おおよそ30人ほどエンジニアがいます。配信全体でいうと難しいですね、、クリエイティブ制作本部があり、3Dや2Dなどを制作するチームと、スタジオを運用するチームが含まれます。また、アプリなどの開発チームもあり、大きく分けて3つのグループに分かれます。それに加えて、プロジェクトマネージャーなどのメンバーもいるので、これらを合わせると240人近くになります。あとは、CTO室には、私を含めて7名のメンバーがいます。

そのほかに『ホロプラス』というファンコミュニティアプリもあります。これは私の管轄ではなく経営企画室で新規事業として行われており、エンジニアは現在10人ほどいます。

── 現在のエンジニア組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)がありますか。

開発組織というか開発領域で言えば、VTuberという比較的新しい技術を扱うことができるのは面白い点です。特にモーションキャプチャーやライブ配信といった側面では、スマホゲームとは異なる技術を活用できるので、より豊かな表現が可能です。

この領域は広範であり、新しいことに挑戦したいという観点から見ると、多くのチャンスがあります。また、スマホゲームの場合は大規模な開発となり、自分が活躍できる範囲が狭まったり、ユーザーに提供するまでに時間がかかるという点があります。一方、配信の形態では、ユーザーの反応をすぐに受け取ることができ、そのフィードバックが得られるのも魅力です。それに加えて、VTuberコンテンツ自体が現在盛り上がっており、日本だけでなく海外のファンにも届けられる可能性がある点が魅力です。同様に、メタバースの領域でも同じことが言えます。メタバースも新しい領域であり、ゲーム開発に近い側面もありますが、単にゲーム開発だけでなく、メタバースならではの新しい仕組みを構築する必要があります。日本ではこれまでリアルタイムのゲームのようなMMOに近いタイトルを提供する企業が少なかったため、このような領域での新しい技術は学びが多いです。実際、ユーザーや海外の人が興味を持っていることがわかります。日本のアニメが海外で人気があるように、VTuberも海外でも受け入れられる土壌が増えてくると思うので、今後も積極的に頑張っていきたいです。

一方で課題もあります。新しい領域では、正解が明確ではなく、探求する必要があります。また、VTuberなどの領域では、メタバースやファンクラブアプリなどのプロダクトに焦点が当てられた縦型の組織になっており、エンジニア同士の連携が不足していることがあります。そのため、CTO室が情報を横断的に共有し、開発のノウハウを蓄積したり、コーディングスキルを向上させるためのガイドラインを導入したり、勉強会を開催するなど取り組んでいます。

── 現在の開発チームの取り組みを教えてください

配信側では、いくつかのプロダクトが分かれています。まず、スタジオで使うアプリの開発があります。これは、光学式のモーションキャプチャーを使用して全身の動きを捉え、どのような表現が可能かを追求するものです。次に、自宅で使うアプリの開発があります。こちらはフェイストラッキングを中心に、簡単にいつでも気軽に配信ができる仕組みを提供するものです。このように、方向性が異なる二つのプロダクトを開発しています。

今後の目標

VTuber事業に関しては運用を安定させ、新しい開発ができる体制を整えることが重要なので、新規開発が可能な体制を構築していきます。

メタバース事業については、まずはしっかりとリリースすることが重要です。その一方で、会社全体としてはVTuberやメタバースを含めて、エンジニアの技術向上を図り、開発がプロダクトやサービスを牽引できるレベルの成果を出せるようにしていくことが目標です。

── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)

最も合うのは、『3:インベンター』です。やはり、VTuberやメタバースといった新しい領域では、既存の技術も活用しなければなりませんし、新しい技術も取り入れる必要があるのでチャレンジできるような方が良いですね。反対に合わないのは、一部『5:ストラテジスト』かもしれません。計画通りにいかないことが多々ありますので柔軟に対応できることも重要です。

── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。

私たちは未知の領域に対して挑戦しているので、新しいものや新しい技術に対して物怖じせずに取り組み、まずは手を動かしてくれる人と一緒に働きたいです。

より具体的にいうと、VTuberやメタバースを含めて、グラフィック表現に関しては共通して取り組むべき課題です。新しい表現方法を模索するエンジニアの方には、ぜひ当社に来ていただきたいと思っています。

また、メタバースがメインではありますが、リアルタイム通信に関しても注目しています。日本ではこの分野の人材が不足している中で、経験のある方や新たなチャレンジを望む方を歓迎します。リアルタイム通信のプロトコル部分まで深く関わりたいという方は、ぜひサーバーサイドエンジニアとしてご応募ください。