「子育て世代を支えるオンライン診療」CTOが語る技術とビジョン

成川 喬朗 氏|ジークス株式会社 取締役CTO

名古屋大学 情報学部卒。2019年にジークス株式会社を共同創業し、CTOに就任。創業当初はAI関連の受託開発を中心に事業を展開し、画像処理やシステム開発の実績を積む。2023年6月にオンライン診療サービスを正式リリースし、現在はプロダクト開発の指揮を執るとともに、技術選定やエンジニアチームの成長にも注力している。モダンな技術スタックを活用し、効率的かつスケーラブルなプロダクトを目指しながら、子育て世代を支えるヘルスケアソリューションの提供に取り組んでいる。

ジークス株式会社について

はい、私たちは小児向けオンライン診療サービス『あんよ』を提供しています。このサービスでは、在宅の医師と患者さんをオンラインでマッチングし、診療を受けていただけます。その後、患者さんが近くの薬局を選び、お薬を受け取れる仕組みです。


共働きでお忙しい家庭や、小さなお子さんを育てていらっしゃるご家庭を主なターゲットとしています。病院に行く時間が取れない方でも、診療時間を短縮し、より気軽に医療を受けられる体験を提供したいと考えています。

現在は愛知県、岐阜県、東京都で医療法人と提携し、サービスを提供しています。そして、2024年11月からは神奈川県、千葉県、静岡県、大阪府でも新たに提携を開始しました。これからも提携する医療法人を増やし、サービス提供エリアを全国に広げていく計画です。

アプリ自体は全国どこからでもご利用いただけます。ただ、小児医療に関しては各自治体が設定している『子供医療証』の適用範囲が、現在提携している7つの都府県に限られています。そのため、それ以外の地域では診療費を一度お支払いいただき、その後、自治体に申請して返金手続きを行っていただく必要があります。

成川さんのキャリア

そうですね、ゲームが好きな少年だったと思います。友達とよく一緒にゲームで遊んでいました。その中で、少しずつコンピュータに触れる機会が増えていったのかなと感じています。

父親の影響が大きかったと思います。父は本職が建築業だったんですが、趣味でパソコンを自作したり、家庭内にLinuxサーバーを立てたりしていました。その影響で、私も一緒にパソコンの組み立てを教わったりしていましたね。Linuxサーバーについては当時、分からないことも多かったんですが、近くで見ているうちに自然と触れる抵抗感がなくなったのかなと思います。

後者ですね。現役のときは別の大学を第1志望にしていたんですが、不合格になってしまいました。その後、浪人生活を経て、成績をある程度伸ばして、難易度的に自分に合いそうな大学を選んだという感じです。

はい、もともとコンピュータに関わる仕事がしたいと思っていたので、情報学部という学科名に惹かれました。『これだ!』と思ってすぐに決めましたね。

村上とは学部・学科が同じだったんですが、入学当初は全く話す機会がありませんでした。お互い面識もなかったんです。ただ、学部のLINEグループで『サービスを作りたい人を募集します』という投稿があって、それをきっかけに初めて関わるようになりました。それが2018年の10月頃だったと思います。

はい、村上は当時から起業やサービスに強い意欲を持っていました。ただ、正直に言うと、私はその頃は起業にあまり興味がなくて、どちらかというと『サービスを作る』という行為そのものに興味がありました。そういった違いはありましたが、少しずつ関わりが増えていった感じですね。

サービス作りが先ですね。その後にインターンを始めました。当時、私は飲食店などのアルバイトをしていたんですが、プログラムを書いたりサービスを開発するような仕事をやりたいと思っていました。でも、そういった仕事がなかなか見つけられなくて。そこで村上に『何か紹介してくれない?』と相談し、インターン先を紹介してもらったんです。村上との出会いがなければ、今の自分はなかったかもしれませんね。

ジークス株式会社 創業後

最初は医療関連ではなく、社会でお金の流れを学ぶために受託開発をメインに取り組んでいました。具体的には、愛知県内の企業数社からAI関連の案件を受け、開発を行っていました。ジャンルとしては、画像処理に関する案件が多かったです。今ではLLM(大規模言語モデル)や自然言語処理がトレンドですが、当時は画像処理が注目されていた印象です。そういった技術を活かしてさまざまなプロジェクトを手がけました。

大学生の立場で、50代くらいの企業の方々と直接やり取りする機会があったことですね。アルバイトでは経験できないことで、社会のリアルな一面を知る良い機会になりました。また、契約関連の知識、たとえば業務委託契約や秘密保持契約について学べたことも貴重な経験でした。

はい、医療をやりたいという想いはもともと代表の中にありました。ただ、最初は受託開発や産業系で収益を上げてから医療に進出しようと考えていました。

ある企業の代表の方とお話しする機会があり、『医療をやりたいなら、今やったほうが良いんじゃないか』というアドバイスをいただいたことがきっかけです。そのとき、『本当にサービスを作りたいなら、早めに医療分野にフォーカスするべきだ』と言われて計画を見直し、医療分野に進むことを決めました。

最初からオンライン診療を目指していたわけではなく、初めはQ&A形式の医療相談サービスを展開していました。それを進めた後、2023年の6月頃にオンライン診療へと方向転換しました。それまでに何度も実証実験やシミュレーションを重ね、しっかりと準備を整えた上でリリースしました。

いくつかありますが、大きなものを挙げると2つです。1つ目は予約が全然埋まらなかったことですね。医師が待機しているのに患者が集まらなくて、『今日も予約が0件でしたね』と話すのが本当に辛かったです。自分が作ったものが使われていないと感じるのは特に苦しい時期でした。

2つ目は、医療分野特有の規制やルールが多いことです。処方や診療に関する法的な制約をクリアしながらサービスを形にしていく必要がありました。その部分では、チーム内でかなり議論を重ねながら進めましたが、非常に大きな壁でしたね。

地道な努力の積み重ねでしたね。たとえば、公園に出向いて親子連れに、『何かお困りのことはありませんか?ぜひ予約してみてください』と声をかけることもしていました。その結果、少しずつ効果が出てきました。
『試しに使ってみます』と言ってくださった方が予約を入れてくださり、その方が今でも継続して利用してくださっているケースもあります。本当にありがたいことです。

最近の業務では、診療数の増加に伴ってオペレーション業務にかなり時間を割いています。特に、現在は人員を探している最中なので、診療を円滑に回すための業務が全体の約5割を占めています。

残りの時間の配分としては、開発業務が約3割、チームメンバーのマネジメントが1.5割、そして作業全般が0.5割程度です。

開発業務の内訳は、不具合対応が約2割、新規開発が約4割、既存システムの改善が約4割という感じですね。

ありがたいことに、最近では多くのアクティブなユーザーにサービスをご利用いただいています。特に子育て中の方々は本当に忙しいですよね。そんな方々の通院時間や待ち時間、薬の受け取り時間を削減できて、少しでも生活が便利になっていると感じています。

また、実際にユーザーさんから『使っています』といった声をチャットでいただけることがあり、それがすごくやりがいに繋がっています。

もう一つ、このサービスの魅力は、未然に防げた病気やトラブルがあるかもしれないという点です。人の生活のマイナス面を少しでも減らし、より良い方向に導けることが、この事業の本質的な魅力かなと思います。

現在の開発組織について

現在はフルタイムエンジニアが1人、副業メンバーが3人という構成で運営しています。最初は私1人でスタートしましたが、徐々にメンバーが増え、今では全員がフルスタックで対応できる体制になりました。

プロダクトは患者向け、医師向け、管理者向けの3つに分かれていますが、統一した技術スタックで開発を進めています。

ただし、現状の『私1人+副業メンバー』という体制では限界が見え始めているため、正社員の開発メンバーを積極的に採用していきたいと考えています。特に、カルテ機能を自社で開発・提供する計画があるため、専任のリーダーやチームが必要になると思っています。将来的には10人から20人規模のエンジニアチームを目指しており、理想としては1年後にその規模に成長させたいと考えています。

村上はエンジニアではありませんが、初期から役割分担が明確だったので、特に衝突はありませんでした。技術面は私、ビジネス面は村上と、お互い干渉しすぎることなく進められています。

議論はもちろんありますが、建設的な話し合いができているので、そこが大きな強みだと思います。

良い点としては、まず技術選定にTypeScriptを採用しており、プロジェクト全体の95%がこれで構築されていることですね。TypeScriptが分かれば、モバイルアプリもWebアプリも作れる環境なので、技術の互換性が非常に高いです。一部のアプリ画面をそのままWebアプリに転用できるほどで、組織としての強みだと感じています。
また、アウトプットの品質を担保する仕組みも整えており、たとえばStorybookを作成して、『こういうケースではこう表示される』というカタログのようなものを用意しています。これが品質を高いレベルで保つのに役立っています。さらに、Next.jsやExpo、GraphQLなど、モダンな技術を採用している点も魅力的です。エンジニアの技術的な好奇心を満たす環境が整っていると思います。

一方、課題としては、効率的な仕組みを構築できた反面、プロジェクト独自の生態系が形成されている部分があります。そのため、新しく入ってきたメンバーがキャッチアップするのに多少時間がかかるのが現状の課題ですね。特に、プロジェクトの全体像や、なぜその技術選定をしたのかといった背景を理解するのに時間が必要です。その点を改善するための取り組みを進めていきたいと考えています。

今後の目標

そうですね、目標としては、まずプロダクトをスケールさせることが第一だと考えています。そのためには、スケーラビリティを高め、自立して運用できる仕組みを整えることが重要です。

具体的には、オペレーションの強化やカスタマーサポートの仕組み作りですね。現在はチャットで寄せられる質問に対応していますが、その品質を一定に保てる体制を構築したいと思っています。また、エンジニアチームのスケールアップも欠かせません。

私自身、もともとマネジメントが得意ではありませんでしたが、改善を重ねながらチーム全体の成長を目指しています。さらに、プロダクトが属人的になっている部分を解消し、ドキュメントを整備して誰でも理解しやすい形にすることで、自立運用が可能な仕組みを作りたいと考えています。

個人的には、『こういうふうに作ってみました』と自ら考え提案をしてくれる方と働きたいですね。設計が非常に重要だと考えているので、その設計次第でプロダクトの将来が大きく変わると思っています。将来の負債が増えるのか、それとも改善が楽に進むのか、それは設計次第です。

常に『こうしたほうが良い』と考えながら提案してくれる方は、本当に頼もしい存在です。プロダクトの成長や安定した運用に直結しますので、そういった視点を持つ方にぜひジョインしていただきたいと思います。

これまでシステムや技術面について多くお話ししましたが、組織の雰囲気やソフトな面についても少しご紹介したいと思います。

うちのチームは本当に仲が良くて、和気あいあいとした雰囲気が特徴です。経営陣との距離感も近く、密なコミュニケーションを取りながらプロダクトを進めたい方にはぴったりの環境だと思います。

最初は友達の延長のようなノリで始めた部分もありますが、今ではしっかりと『ヘルスケア企業』としての覚悟を持ち、子育て世代を支えるというビジョンに全員が共感しています。このビジョンに共感してくださる方に、ぜひジョインしていただきたいですね。