坂井 奈央氏|フリーランス広報
約20年の広報経験。ガジェット系から無形商材まで幅広い分野でメディアリレーションやPR戦略を構築。CRISPやマイベストといった注目企業で広報基盤の確立を手掛け、現在はフリーランスとして複数の企業をサポートしている。
坂井さんのキャリアについて
── 早速キャリアについてお伺いしますが、まず広報歴とフリーランス歴について教えていただけますか?
広報歴は約20年になります。本格的に広報の業務を始めたのが20年弱前なので、振り返ると長い時間やってきたなと感じますね。また、副業などを含めたフリーランスの活動は約7年ほどになります。
── 20年のご経験があるとは、非常に頼りになる存在ですね。
ありがとうございます。でも、20年続けるのは決して簡単ではありません。特に女性が長く働き続けるにはさまざまな壁があると感じています。産休や育休でメディアの方が異動したり退職したりすることもありますし、広報活動のトレンドも絶えず変化していますから…。
広報業界は確かに女性が多い職種ですが、私と同年代や先輩で長く続けている方が少ないのは、やはり少し寂しいですね。
── 学生時代についてもお聞かせください。高校から大学、そして新卒での最初の会社について教えていただけますか?
高校時代はバドミントン部に所属していて、結構強い学校だったんです。全国大会を目指して毎日バドミントン漬けの日々でした(笑)。引退後、ようやく受験勉強を始めたものの、厳しい部活から解放されて自由な時間が増えた途端、ついつい遊びたくなってしまって…正直、勉強に集中するのが難しかったですね。その結果、何校も受験に失敗してしまいました。
── それは大変でしたね。その後、どちらに進学されたんですか?
最終的には立教女学院の短大に進学しました。短大では英語を専攻し、ほとんどの先生がネイティブスピーカーだったため、授業も日常会話も英語漬けでした。宿題も英語で提出しなければならず、かなり苦労しましたね(笑)。
── 海外での進学やキャリアを考えたことはありましたか?
正直、全く考えていませんでした(笑)。当時はキャリアについて深く考えることもなく、自分が何をやりたいのかも見えていなかったんです。しかも私が短大を卒業する頃は就職氷河期で、就職先がなかなか決まらず、先生に相談して泣きついたこともありました。最終的には銀行系の会社に推薦で入社することができました。
── 最初のキャリアはメガバンクでの勤務だったんですね。
はい、最初はメガバンクの投資信託部門で働いていましたが、わずか3ヶ月ほどで「ここでは長く続けられないかもしれない」と感じました。周りには頼りになる女性行員の方も多かったのですが、この経験を通じて「これからどんな働き方をしたいか」を初めて真剣に考えるようになりました。
── そういった経験をされる方、結構いらっしゃいますよね。
そうですね、入社してから「自分に合わない」と気づく方は多いと思います。特に若いうちは様々なことに挑戦できるので、とにかく行動してみるのが大切だと思っています。私も思い切って銀行を辞め、その当時はまだ自分が何をやりたいのかはっきりしていませんでしたが、友人が広告代理店で働いていたこともあり、その話を聞いて私もチャレンジしてみたいと思うようになりました。そして転職先に選んだのがジュエリーブランドの会社で、そこでマーケティング部に配属され、初めてプロモーションや広告、そしてPRに触れることになりました。
── なるほど。そこから現在のキャリアの基盤が築かれていったのですね。
そうですね、本当にここでキャリアの基盤ができました。基礎から丁寧に教えてくれる上司がいて、マーケティングの考え方や広告表現、PRの基本などをしっかり学ばせていただきました。後半にはプロモーションよりもPRに力を入れるようになり、メディアとのやり取りも多く経験しました。
── ジュエリーブランドの会社にはどれくらい在籍されていたのでしょうか?
約3年ほど在籍しました。ただ、ジュエリーは高級商材で市場もニッチだったため、アプローチできるターゲットが限られていました。もう少し幅広い層にアプローチできる一般商材に携わりたいと考え、転職活動を始めました。そして紹介されたのが、セールス・オンデマンドという会社で、当時はアイロボット社のルンバを輸入販売する代理店でした。
── 当時はまだルンバの認知度も低かったのではないでしょうか?
そうですね、当時は「おもちゃのような掃除ロボットがあるらしい」と言われていて、ロボットといえば人型のイメージが強かったですね。でもルンバは優れた人工知能を搭載し、非常に高い清掃能力を持つロボット掃除機でした。店頭で販売サポートをしていると、年配の方から「こんなものがあると人間が堕落する」と言われたり、「これはCDプレーヤー?」と質問されたこともありました(笑)。
── 逆に、やりがいを感じた部分もあったのでは?
そうですね。ルンバの素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらいたいと強く思いました。そんなときに会社から「広告もいいけど、PRをやってみないか」と提案され、私もすぐに「PR広報をやりたいです」と返事しました。これが大きな転機でしたね。もしプロモーションを選んでいたら、今のキャリアとは全く違う方向に進んでいたかもしれません。
── 今だったら、プロモーションの道も選んでいたかもしれませんか?
いえ、私はやはり広報を選ぶと思います。今ご縁のある方々の多くは、広報でなければ繋がれなかった方々ですし、その財産は本当にプライスレスですね(笑)。
── セールス・オンデマンドではどれくらい在籍されていたのですか?
10年から11年ほど在籍していました。おそらく最も長く勤めた会社です。素晴らしい上司に恵まれて、マーケティングからPR戦略の展開まで、非常に丁寧に指導していただきました。特に、マーケティング戦略をPR戦略へと変えていく手法を学べたことは、貴重な経験でした。
── その後のキャリアはどのように進まれたのですか?
大手企業での経験を積みたいと思い、知人の紹介で大手企業に広報として入社しました。大手では学ぶことも多かったのですが、アウトプットよりも社内調整に多くの時間がかかり、物事の進むスピードが遅いと感じました。何かを進めるにも何度もミーティングを重ねなければならない環境が少し合わず…。そこで、もう一度スタートアップやベンチャーのスピード感のある環境に戻りたいと考え、次に選んだのがCRISPでした。
── CRISPにはどのようなきっかけで入社されたのですか?
Wantedlyで求人を見つけたのがきっかけです。正社員として入社し、社長の宮野浩史さんの「社会を変える」という熱い思いに共感しました。その思いを広めたいと感じ、特に飲食DXの分野で広報としてサポートしたいと思いました。CRISPは今でも業界で注目される面白い会社だと思います。また、CRISPでは副業が許可されていたので、この頃から副業も始めましたね。
── 副業を始めたきっかけについてもお聞かせいただけますか?
もちろんです。もともと副業は考えていなかったのですが、知人から「PRの副業を探している会社がある」と紹介を受けました。その会社がとても興味深かったため、「サポートさせてもらいます」という形で関わり始めました。実際にやってみると非常に楽しく、「PRは、情報のネタを多く持っているほど強みになる」と感じましたね。
── 確かに、広報は情報量やアクセスできる範囲が広いほど有利ですよね。
はい。様々な経験を積むことで、日本国内の市場動向が見えてきますし、グローバル展開を目指す企業のサポートをする中で、世界の最先端の動きにも触れることができます。広報は情報とコミュニケーションが鍵となる職種なので、自社の情報だけでなく、競合や市場全体の動きも把握しておく必要があります。実際、メディアの方にお会いしても、自社のPRをするより雑談をしていることの方が多いですね(笑)。
── その後、バルミューダに入社されたとのことですが、なぜ興味を持たれたのでしょうか?
バルミューダのブランディングやマーケティング、そして商品の見せ方に非常に興味がありました。自分のスキルをさらに磨きたいという気持ちが強く、オファーを受けて入社しました。ただ、数ヶ月で退社し、再びCRISPに戻ることになりました(笑)。
── その後、マイベストに入社されたのですね?
はい、実はCRISPを辞めるつもりはなかったのですが、マイベストからオファーをいただいていて、「一度オフィスツアーだけでも」と誘われたのがきっかけで見学に行きました。
── オフィスツアーではどのような印象を受けたのでしょうか?
オフィスや倉庫を実際に見て驚きました。検証用の商品を保管する倉庫や、毎月数千万円分の商品を買い入れる体制を目の当たりにして、「ここには大きな可能性があるのに、あまり知られていないのがもったいない」と感じたんです。自分がその価値を広める役に立てるかもしれないと思い、入社を決めました。
── 実際に入社されてからはいかがでしたか?
約1年間在籍していましたが、マイベストはとてもアグレッシブで魅力的な部分が多かったですね。私が1人目の広報担当だったため、マイベストらしい広報基盤作りに力を入れていました。テレビや新聞の取材を獲得すると、社内全体で喜んでくれる様子がとても印象的でした。ただ、その頃から、私も自分の働き方について悩み始めていたんです…。
── 働き方について悩まれていたというのは、どのようなことでしょうか?
娘が中学生になり、部活動が始まったことでワークライフバランスを取るのが難しいと感じ始めました。娘の活動を応援したい気持ちが強くなり、どうするべきか悩んでいる時に、バルミューダ時代にお世話になった尊敬する元上司に相談しました。すると、「40歳を過ぎたら、これからの生き方についてしっかり考えた方がいいよ」と、何気ない一言をいただいたんです。その言葉がとても胸に響き、「自分ももっと私生活を充実させられる働き方をしたい」と強く思いました。そして、自分で時間をコントロールできるフリーランスの道に進むことを決意しました。
── 本格的に、副業や一時的な活動ではなく、フリーランスとしてのキャリアに振り切ったわけですね?
はい、そうなんです。ありがたいことに、フリーランスを始めてからはメディアの方々から広報を求めている企業をご紹介いただくことが多く、一度も仕事が途切れたことがありません。さまざまな会社と関わる面白さは、フリーランスになって本当によかったと毎日実感しています。ただ、フリーランスだからこそ不安になることもありますよ(笑)。
── なるほど。今も複数の案件を抱えていらっしゃるのですか?
はい、おかげさまで現在は5社以上のサポートをさせていただいています。フリーランスとして柔軟な働き方を目指していましたが、実際には忙しくさせていただいています(笑)。
── すごいですね!5社ともなると、情報の整理や対応も大変そうですが、どのように管理されているのでしょうか?
ありがとうございます。実はかなりアナログな方法で管理しています。各社のPR課題や強みをしっかり理解し、自分なりに整理しています。具体的には、担当者の方や社長、役員の方々に直接ヒアリングし、「PRの課題は何ですか?」と伺い、その内容をMacBookのメモ機能で会社ごとにまとめています。毎日そのメモを読み返して内容を頭に入れ直し、案件ごとの切り替えをしています。
ハード/ソフト面に関する質問
── 趣味や興味関心についてもお聞かせください。
はい、この質問を見て「自分にはどんな趣味があるだろう」と少し考えてしまいました(笑)。好きな音楽を聴きながら中央線沿線やまだ行ったことのない場所を歩くのが好きですね。気になるパン屋さんやお店を見つけたら、つい衝動買いしてしまいます(笑)。あとは料理も趣味で、最近はTikTokで見つけたレシピを作るのにハマっています。家族は少し迷惑しているみたいですが…。
── おすすめのカフェや飲食店などはありますか?
はい、CRISPが運営する「クリスプ・サラダワークス」のサラダが大好きで、今でもよく食べています。食べるだけで健康になった気分になれるんです(笑)。おしゃれすぎるカフェは逆に緊張しちゃうんです。個人的にちょっと「おじさんっぽい」と言われるかもしれませんが、ルノアールは仕事が快適にできるので、本当におすすめです!
── 得意な領域や業界を教えてください。
電気系の分野で長年メディアリレーションを築いてきたので、ガジェット系やIT系の分野が得意ですね。今でもその分野のメディアやライターの方々とは、仕事以外でも仲良くさせていただいています。最近では有形商材よりもWEBサービスのような無形商材を扱うことが多くなりましたが、無形商材はユーザーメリットを分かりやすく伝えるのが難しい分、やりがいも感じています。
── 現在関わっている企業もその分野が多いのでしょうか?
そうですね。ただ、今サポートしている5社のうちガジェット系は1社のみで、残りの4社はそれぞれの企業ニーズに応じたサポートを行っています。
── 広報をやっていて良かったことや苦労したことについてお伺いしてもよろしいでしょうか?
広報をしていて良かったのは、多くの人と繋がれることです。ひとつひとつの出会いが貴重な財産だと感じています。Cuvalさんとの出会いもそうですが、広報という職種は本当に多くの人と繋がる機会が豊富ですね。一方で、苦労については…どんな仕事にも大変な部分はあると思いますが、私はあまり「大変だな」と感じることはないんです(笑)。
── 企業のPRを行う際に、正社員や業務委託に関わらず、意識されていることはありますか?
まず、「不義理をしないこと」を大切にしています。メディアとの関係だけでなく、今の時代はPRが直接ユーザーとコミュニケーションを取る場面も多いため、ユーザーに対しても真摯に向き合い、不義理にならないよう心がけています。
── 業務委託で参画される際に、意識していることはありますか?
そうですね、企業のフェーズによって広報のニーズや役割は大きく異なるので、その企業が求める広報の役割や課題をしっかり把握することを意識しています。また、自分が広報としてその会社にジョインすることで、どのような価値を提供できるかを常に考えています。
── 業務委託で参画される際に意識していることについて、先ほど少し触れていただきましたが、正社員ではない立場としてどのような点を意識されているか、改めてお聞かせください。
プロとして参画している立場ですが、その会社の広報やマーケ担当者が成果を上げられるような進め方を心がけています。ご一緒するPRチームの中には広報経験が浅い方や入社1~2年目の方もいらっしゃるので、広報の基礎スキルはもちろん、その企業のカルチャーや広報担当者個々の特性を活かしつつ、成長や成果につながるよう支援しています。
── どのような環境にやりがいやモチベーションを感じますか?
孤軍奮闘するよりも、チームで働ける環境にやりがいを感じます。人間は一人では生きていけませんし、チームの存在はとても重要だと思っています。業務委託という立場であっても、仲間として一緒に迎え入れてくれる環境があると、よりモチベーションが高まりますね。
── どのような人と一緒に働きたいと感じますか?
そうですね、一言で言えばユーモアのある人と働きたいですね。淡々と仕事を進めるだけの会社もありますが、ユーモアがある方が良いアイデアが生まれやすいですし、ゴールを目指すプロセスを楽しみながら共有できるのが理想です。
PR・今後について
── 今後チャレンジしてみたい業界や興味のある分野について教えてください。
考えてみたのですが、分野として特に決めているわけではなく、今もこれからも価値のある人材でありたいと思っています。基盤として「広報」は変わりませんが、マーケティングや人事、ユーザーなどと密接に連携し、統合的なコミュニケーション戦略を構築するクロスファンクショナルな活動をしていきたいです。
── 最後に坂井さんにとって「広報」とは何ですか?
「広報」の定義は著しく変化していると感じます。今やSNSをはじめ、さまざまな情報伝達手段があり、必ずしもメディアに頼らずに情報を伝える方法が増えました。広報とは、ユーザーや社会とのエンゲージメントを高め、誠実な情報発信を通じて、ファンや味方になってくれる人を増やしていくことだと思っています。