CTOが見るSODAの未来:グローバル展開と技術課題への挑戦

林 雅也 氏|株式会社SODA 執行役員CTO

2020年10月にSODAへ入社し、Webエンジニアとしてスニーカー&トレカフリマ「SNKRDUNK(スニダン)」のグロースに注力していました。2022年1月より、SODAのVP of Engineering兼エンジニアリングマネージャーとして組織作りやエンジニア採用などエンジニアリングマネジメント領域に注力しています。2023年10月より執行役員 CTOに就任。

株式会社SODAについて

弊社SODAは「スニーカーダンク」、略して「スニダン」とも呼んでいるプロダクトを運営しています。いくつかの事業領域を抱えていますが、一番大きな部分はCtoC(消費者間取引)のフリマのマーケットプレイスの提供です。一般的なフリマとは異なり、特定の商品カテゴリーに特化した「バーティカル」なプラットフォームである点が特徴です。

まず名前の通りスニーカーを中心に取り扱っていますが、最近はトレーディングカードのカテゴリーも急成長しています。特に、ポケモンカードやワンピースカードなどが人気で、このカテゴリーの需要が高まっているのを感じます。このように、スニーカーやトレーディングカードといった特定の商品カテゴリーに特化したCtoCのフリマプラットフォームとなっています。

こうした特化をしている理由として、取り扱っている商品にはいくつかの共通点がありますが、最大の理由は「偽物が出回るリスクが高い」ということと「単価が高い商品が多い」ことです。例えば、購入した商品が偽物だった場合、購入者が気づかずに使い続けてしまうこともあります。そこで、私たちは全ての取引商品を一度お預かりし、自社で真贋鑑定を行っています。偽物と判定された場合は取引を中止し、本物と判定された商品のみを購入者に届けるというプロセスを徹底しています。こうした厳格な鑑定システムが、我々のプラットフォームの大きな特徴となっています。

林さんのキャリア

小学校の頃の記憶はあまり鮮明ではないのですが、中学生頃からパソコンに触ることに夢中になり始めました。また、ルービックキューブに熱中したり、シミュレーションRPGのゲームをよくプレイしていました。特に『ファイアーエムブレム』のような、ただ戦うだけでなく、キャラクターをマス目上で動かしながら戦略を練って進めるようなゲームが好きでした。ゲームをしながら知識を増やし、強くなっていく過程が楽しく、どんどん上達していくことに魅力を感じていたと思います。

そうですね。しっかりとしたサービス開発、つまりソフトウェアエンジニアとしてサービスを作り始めたのは大学生の後半頃からです。私は兵庫県の明石にある明石高専という5年制の学校に通っていました。入学し、5年制を修了した後、大学に編入するか就職するかを選べる学校です。高専では1年生の時からC言語の授業があり、プログラミングに触れるのはそこが初めてでした。

実はそういうわけではありません。パソコンを触るのが好きで、掲示板を見たり書き込んだり、好きな漫画の情報をネットで調べたりするのが日課でした。その過程でタッチタイピングも自然に覚え、パソコンに触れる機会が増えていったという感じです。高専に入学したのも、プログラミング授業が「面白そうだよ」という話を聞いた程度の動機でした。そのため、プログラミングに特別な興味があって入ったわけではなかったんです。

正直に言うと、特に明確な理由があったわけではありません。高専からの大学編入は通常5年生の夏に編入試験があり、その試験内容は数学、英語、物理など一般的な大学入試の科目に加え、情報工学や電気磁気学などの専門科目が出題されます。卒業論文や研究も控えているため、試験は少し早めに夏に行われるのが一般的です。4年生になってから、どの大学を受験しようか、どんな勉強が必要かを本格的に考え始めました。

ちょうどその頃、相性の良い先生に出会ったこともあり、物理の成績が大幅に伸びました。それまで得意科目は数学と英語だけでしたが、物理も上達したことで「この3教科で戦えば東京大学も狙えるのでは?」と思い、チャレンジしてみることにしたんです。特に「東大で何かを学びたい」という具体的な目標があったわけではありませんが、せっかくなら入れるところを目指してみようと思いました。

チャレンジすると決めたからには全力で取り組み、2015年に編入試験に合格し、東京大学に進学しました。

実は、大学に入る前にプログラミングの経験はあったものの、サービスやプロダクトを自分で作る経験はありませんでした。そんな時に、大学の友人から「ハッカソンに出てみないか」と誘われ、初めてWebサービスを作るチームに加わりました。4人でアイディアを出しながらサービスを作る初めての経験で、とても楽しく感じました。この時、「ソフトウェアエンジニアとして、こういったものを仕事にするのはありかもしれない」と思うようになったんです。

それ以降、エンジニアとして成長できる面白い環境で働きたいという気持ちが強くなり、できるだけ幅広くいろんな会社に応募してインターンに挑戦していきました。

そうですね、一番印象に残っているのはサイバーエージェントでのインターンです。そこで初めて「自分はソフトウェアエンジニアとして本格的に仕事をしているんだ」という実感が湧きました。大学生の技術力ではまだできることが限られていたため、一般的なインターン生向けのプロジェクトに取り組むことが多いのですが、サイバーエージェントでは実際に運用されているサービスの機能追加の一部を任せてもらいました。サポートを受けながらとはいえ、リアルな業務に近い体験ができたことは非常に貴重でした。

また、その時にお世話になったトレーナーやチームリーダーの方は今でも強く印象に残っています。大学生の自分にとって「この人は本当に優秀なエンジニアだ」と感じさせる存在で、ソフトウェアエンジニアリングの本質を教えてくれる、とても刺激的な経験でした。

その経験があったからこそ、新卒でサイバーエージェントを選ぶ決め手になりました。インターンの段階で「ここなら楽しく働けるし、エンジニアとして成長できる」と感じたことが大きかったです。

そうですね、友人が起業する際に開発を手伝った経験はありますし、今でもサイバーエージェント時代の友人が起業する際に開発をサポートすることはあります。ただ、自分自身が何かを立ち上げたいという気持ちは不思議とあまり湧かないんです。良いのか悪いのか分かりませんが、起業への強い意欲は持っていません。

また、組織拡大の方針にも魅力を感じました。当時は前任のCTOが1人でフルタイムの開発を担当し、副業メンバーが数人いる体制、私は初めてのフルタイムジョインのエンジニアでした。そしてもっとエンジニア組織を拡大していくために採用を強化していく方針がありました。小さい規模からの組織作りにも興味があったので、そうした面でも「面白そうだな」と感じたことが決め手になりました。

株式会社SODA 入社後

エンジニアとしてのシステム開発自体は、副業の時と大きく変わったわけではありません。副業の時から大きな機能開発を任されており、ちょうど正社員になった直後には第1弾のCMが放映され、そのための負荷対策という大きなタスクもありました。ただ、それは偶然正社員になったタイミングでの出来事だっただけで、特に大きく変わった点ではありません。

一番大きな変化は、採用や組織作りに関わるようになったことですね。開発業務よりも組織面での変化が大きかったと感じています。当初は「VPoE」や「EM」といった役割が求められていたわけではなく、自然に「エンジニアを増やして組織を拡大していこう」という流れができていました。会社もまだ組織として整っていないフェーズだったので、明確な体制があったわけではなく、漠然とした期待を背負っていたように思います。

はい、そうです。VPoEといった役割の名前自体は知っていましたが、具体的な内容は最初はよくわからなかったですね(笑)。代表や元CTOも「VPoEってよく聞くけど何だろう?」という感じでした。エンジニアの人数が15人ほどになると、チーム内の把握が難しくなり、レビュー依頼が来ても、何を開発しているのか把握するのに時間がかかるようになり、徐々に生産性が低下してきたんです。そこで「VPoEのような役割が必要なのでは?」と考え、自分が興味を持っていたこともあり、「VPoEやEMのポジションを自分がやってもいいですか?」と提案しました。代表や元CTOも「よくわからないけど、やってみて」という感じでスタートしました。

今でもエンジニアリングは好きで、コードを書く機会があれば積極的に取り組みたい気持ちはあります。実際に友人の会社を手伝ったり、週末にコードを書くこともあります。しかし、それ以上に会社や事業を成長させることに興味が湧いてきたんです。大規模な環境にいることで、自分の市場価値向上や成長につながると感じていました。

また、元CTOがVPoEにはあまり関心がなかったので、「自分がやるしかないかも」とも思いました。元々組織作りに興味があったので、必要であればエンジニアリングに戻れるという柔軟な考えを持って進めたこともあり、あまり深く悩まずに踏み出すことができました。

そうですね、まず一つの大きなきっかけは、前任のCTOが退職されることになり、「CTOポジションを誰かが担うべきでは」という話が出たことです。自然な流れで「林が適任では?」という話になりました。また、VPoEとして組織作りに注力してきたことも背景にあります。特に、エンジニアが1人や2人だった時期から今の50人規模にまで拡大する過程で、代表を含むメンバー全員が私の貢献を認識してくれており、「CTOは林で良いのでは」という決定に至ったんだと思います。

確かにCTOを置かない選択肢もありますが、事業の性質やエンジニアの採用方針を考えると、CTOがいないことはマイナスになると感じます。例えば、技術的な戦略は事業の成長やプロダクトの改善に非常に重要です。戦略的に技術課題に取り組まないと将来的に苦しくなるので、優秀なエンジニアを採用しつつ、技術面を支えるためにもCTOの存在は欠かせないと考えています。

最近はVPoEポジションを新設しようとしているところです。現在、EMが5人おり、組織がある程度大きくなってきました。その中でも特に優秀なメンバー1人にVPoEの役割を任せたいと考えています。彼は私よりも経験豊富で、組織作りのスキルも高いため、VPoEを任せることで、組織をさらに強化できると期待しています。採用や育成、評価、開発プロセスの改善、組織デザイン、チーム体制の構築などを任せ、年末から年明けには正式なVPoEとしての役割を持っていただく予定です。

一方で、私は最近は技術戦略により多くの時間を割くようになっています。具体的には二つの大きなロードマップを進めており、一つはモジュラーモノリス化によるシステムの分割です。現在、巨大なモノリスシステムが絡み合い、開発の生産性が低下しているため、技術的負債を解消するプロジェクトが進行中です。

もう一つは、レガシーなコードベースを新しいアーキテクチャや書き方に改善していくことです。この二つのロードマップには専用のチームがあり、それぞれの進行を見守りながら、次の一手や技術戦略の方向性を決めることが私の主要な役割となっています。

そうですね、元々は私や当時のメンバーが関わっていましたが、エンジニア組織はこの3〜4年で1〜2人から急激に50人まで増えたこともあり、全体を俯瞰すると、比較的新しく入ったメンバーも多く含まれています。組織としての歴史が浅い部分がある中で、各エンジニアが手を加えた結果、コード全体を把握している人は少なくなっているんです。

私自身も4年弱在籍していますが、3年以上在籍しているメンバーでも、すべてのコードベースを知っているわけではありません。時には「こんなコードがあったんだ」と驚くこともありますし、「こういう実装でこの機能が実現されていたのか」と新たな発見も多いです。全体が超複雑なプロダクトなので、把握できていない部分もありますね。

これからは、そうした部分を一つ一つ紐解きながら改善していく必要があります。

SODAにジョインした際、「成長している大規模な事業に関わることがエンジニアとしての成長に繋がる」という点が大きな魅力でした。今でもその感覚は変わりませんし、エンジニアにとって非常に刺激的な環境だと思っています。

SODAの事業の魅力は、何といっても成長が続いていることです。かつては日本市場でシリーズAの資金調達をしながら急成長を遂げましたが、今ではグローバル展開のフェーズに突入しています。日本ではスニーカーカテゴリーで高いシェアを確立し、次の成長を求めるには難しい局面になりつつありますが、トレーディングカードやアパレルといった新しい分野にはまだ大きな可能性があります。とはいえ、事業をさらに成長させるには、日本国内だけでなく、アメリカや中国など海外でプロダクトを展開し、成長させていくことが重要な事業課題となっています。

こうした難易度の高い環境でエンジニアとして働くことは非常に面白く、また、CTOとしても「どのようにグローバルなプロダクトを支えるシステムを構築するか」といった戦略的な挑戦に取り組むことに大きなやりがいを感じています。戦略を描き、それを実行に移す過程は非常に充実した経験を得られる場だと感じています。

現在の開発組織について

現在、開発組織は全体で約50名です。開発チームは大きく6つに分かれており、そのうち4つが日本市場向け、2つが海外展開向けです。具体的には、各チームがプロダクトの機能開発、既存機能の改善、そしてシステムの裏側の強化など、さまざまな側面からユーザーに価値を提供しています。日本と海外でシステムをある程度分けているのは初期の立ち上げ速度を上げるためでしたが、今後はグローバルなシステムとして開発していけるよう部分的に統合するなどを検討しています。

また、開発チームの中に、SRE(Site Reliability Engineering)やEM、QAエンジニアなどの専門的な役割も存在しています。

「エントランスブック」は、SODAで働くエンジニア候補者に向けて会社のビジョンや開発体制を伝えるための資料です。VPoEとして採用に本格的に取り組む際、まず最初に着手したのがこのエントランスブックの作成でした。現在は「SODAエンジニアリングブログ」と合わせて、検索結果でも上位に表示されるようになり、候補者にとってもSODAの魅力を伝えられる重要なツールになっています。

良い点としては、VPoEとして組織の仕組み化していくことに注力してきたことです。大きな人数の中でも、それぞれ小さなチームに分かれ、各チームでスクラムを組んで、開発プロセスを進めるイベントなどを中心に開発プロセスを回していきながら、チーム開発をしていくことがかなり定着してきています。チーム全体がこの仕組みに対して高い意識を持って取り組んでくれているので、プロダクト開発が安定して進んでいるのは大きな強みです。

一方、課題としては、組織寄りの施策に注力してきたため、技術面へのフォーカスが少し不足していた点です。スニーカーダンクのサービスも開始から6年が経過していますが、大規模な技術的負債を解消するプロジェクトは今までほとんど走ってきませんでした。小さな改善は進めてきましたが、より根本的な改善が行われていなかったため、少しずつ課題が顕在化しています。これは私自身の反省点でもありますし、組織としての課題でもあると感じています。

今後は、現在進行中の技術戦略をさらに推進し、テックリードを中心に組織全体が技術戦略にもっと積極的に向き合える体制を作っていく必要があると考えています。

今後の目標

まず、短期的な目標としては、VPoEへの権限移譲に伴う組織戦略への注力です。中長期的には、プロダクトのグローバル展開を通じて事業をさらに成長させていきたいと考えています。そして、技術戦略にももっと向き合い、技術負債の解消を含むプロダクトの改善に積極的に取り組むことが重要です。この三つが今後の大きな目標です。

そうですね、今お話しした目標に面白そうだと感じてもらえる方と一緒に働きたいと思います。そして、その中でも「自分がやってやるぞ」と思える人、または「私なら貢献できる」と考える人に来てほしいですね。

技術戦略に関しては、6年も運営しているサービスにかなりの負債が溜まっている状況です。しかし、それを事業成長に繋げるためには、この部分をしっかりと改善していく必要があります。コストパフォーマンスよく素早く改善できるのはここまでで、ここまでできれば事業成長を今後も支えられるのではないかと、一緒に考えていきたいです。

また、グローバル展開に関しては、プロダクトマネージャーや事業責任者とのコラボレーションを強化していく必要があります。技術戦略をうまく動かしていくには、そうした方々との対話が重要です。エンジニアに限らず、プロダクトマネージャーやデザイナー、事業責任者などとのコミュニケーションを大切にし、小さな改善でも大きな改善でもしっかりと対話しながら、事業成長に技術で向き合える人を非常に求めています。