川尻 智樹氏|株式会社おてつたび リードエンジニア
筑波大学卒業。新卒で楽天株式会社に入社し、エンジニアとして楽天トラベルおよび楽天チケットのサービスに携わる。楽天での協業プログラムを通して開発をサポートした経験をきっかけに、2020年2月に株式会社おてつたびに1人目のエンジニアとして入社。現在はリードエンジニアとして開発チームの責任者を担う。
株式会社おてつたびについて
── 御社の事業内容を教えて下さい。
弊社は「おてつたび」というサービスを提供しています。「おてつたび」は、「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、短期的に人手不足に悩む地域の方々と、お手伝いをしながら旅を楽しみたいユーザーをマッチングするサービスです。例えば、農家さんや宿屋さんが繁忙期にだけスポットで人材が必要な場合に、弊社を通じて募集をかけ、旅人側は現地で働きながら空き時間に旅も楽しむというものです。働いて得た報酬は、地域で使ってもらうなど地域経済に還元することも意識しています。つまり、トラベリングと人材業界がミックスされたようなサービスを展開しています。
── 実際にサービスサイトを拝見させていただきましたが、無料で宿泊もできるのですね。
はい、そうです。受け入れ先の方には弊社のサービスを利用していただくために、基本的に宿泊先は受け入れ先の負担で提供しています。事業者さんにとっては少し負担になりますが、ユーザーさんにとっては現地での宿泊場所が確保されるので非常に魅力的なポイントとなっています。
── この「おてつたび」を利用して地方に出向くユーザーも多いのでしょうか?
そうですね。弊社のサービスは、ユーザーにとって、知らない地域へ行くきっかけ作りの場にもなっています。実際、ユーザーの約半数が、今まで行ったことのない地域を訪れています。これにより、「おてつたび」を通じて新たな地域や人々との出会いが生まれています。
川尻さんのキャリア
── 当時はどんな子供(小学校〜高校)でしたか。
思い出しながらお話しますね。私の実家は兼業農家を営んでおり、その影響もあって、おてつたびにはとても共感を持っています。幼い頃から稲刈りなどの農作業が日常の一部だったので、何かを手伝うのが当たり前の環境で育ちました。また、父が、私が通っていた中学校の教師でした。ですから、普通の家庭とは少し違った環境で育ったと言えます。親が教師だと、周りの目を常に気にしながら過ごすことが多かったです。今振り返ると、結構真面目にやっていたように思います。
また、周りの目を気にしながらも、私は新しいものやことに興味がありました。既存のコミュニティや友人を大事にしながらも、新しい人との出会いや新しい取り組みに対して興味を持ち続けてきました。特に地元・徳島県を出る前は、関東や東北の人々の生活や考え方にとても興味を持っていました。その結果、私は筑波大学に進学し、そこで新たな人間関係を築くことができました。
── なるほど、新しいことへの好奇心が原動力だったんですね。
そうですね。新しいものやことを知ることが好きで、好奇心を満たすためにどんどん挑戦してきました。これが、現在の私の仕事や生き方にも繋がっていると思います。
── 筑波大学~1社目の会社に入社するまでの経緯を教えてください。
私は高校時代は文系でしたが、大学進学の際に何を目指したいかがまだ決まっていませんでした。選択肢を狭めたくないと思い、文理混合の情報学部がある筑波大学に進学して、4年間の中でやりたいことを見つけようと考えました。大学では、様々な分野の授業を受けながら、たくさんの授業刺激を受けました。特にプログラミングの授業に非常に興味を持ち、これを4年間で終わらせるのはもったいないと感じました。そこで、プログラミングのスキルを生かせるエンジニアを目指すようになりました。
── 楽天を選ばれたきっかけは何ですか?
エンジニアを目指すと明確に決めたのは大学3年生くらいでした。そこから短期インターンや就職活動を始め、ベンチャー企業や大企業の選考を受けました。正直、実務経験がない状態で、いきなりベンチャー企業で何でもやるのは難しいと感じました。まずは、大企業である楽天に入り、開発組織やサービス運用の経験を積みたいと思いました。幸いにも楽天から内定をいただき、入社することができました。
── 楽天でのキャリアのスタートはどのようなものでしたか?
最初は楽天トラベルに所属していました。楽天トラベルは開発だけで100名以上のメンバーがいて、インドを始め海外にもチームがある大きな組織でした。私はその中で、マイクロサービスのAPIや認証機能のバックエンドエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後、より小さなチームで多くの裁量を持って働きたいと考え、社内異動で楽天チケットに移りました。
楽天チケットはグループ内の別会社で、元々はベンチャー企業だったこともあり、楽天トラベルとは全く異なる環境でした。ここでは、フルスタックエンジニアとして、チケットの購入や発券を行うシステムの開発に携わりました。ユーザーがコンビニでチケットを発券できないトラブルの解決など、ビジネスサイドと密にコミュニケーションを取りながら、非常に多くの経験を積むことができました。
── これまでのキャリアの中で一番印象に残った出来事はありますでしょうか。
楽天トラベルでは、大規模な開発組織で働くことの大切さや課題を学びました。プロダクトマネージャーやデザイナー、QAエンジニアなど、多くのステークホルダーと連携してプロジェクトを進める中で、各役割の重要性やコミュニケーションの難しさを実感しました。これらの経験は、現在の開発組織を構築する上で非常に役立っています。大規模な組織での経験が、小規模なチームでの効率的な運営とスケールする際の組織計画に役立っていることを実感しています。
── その後、株式会社おてつたびに入社するまでの経緯を教えてください。
楽天トラベルに所属していた頃、楽天チケットへの異動が決まっていた時期に、今後のキャリアについて悩んでいました。大企業での安定した生活も良いのですが、ユーザーとの距離が遠いことや地元への思いが強くなってきました。そんな時、上司から楽天のソーシャルアクセラレーションプログラムを紹介されました。このプログラムは、有志の社員が業務外で興味ある会社と協業するもので、非常に興味深いものでした。プログラムには10社ほどが参加しており、その中におてつたびも含まれていました。代表の永岡のプレゼンテーションを聞いて、地元や兼業農家としての背景に共感し、自分のエンジニアリングスキルが貢献できるのではないかと思いました。この出会いが、おてつたびに参加する決定的なきっかけとなりました。
当時、おてつたびは永岡が一人で運営しており、ペライチのサイトで応募を受け付けていました。応募後の運用は、永岡が直接連絡を取って対応していたのが現状でした。私はエンジニアとして、プロダクトを作りたいと思ったこと、またプロダクトローンチを経験できることにも興味を持ちました。そこで、他のメンバーとともにプロジェクトに参加しました。エンジニアは私だけだったので、ベータ版のサイトをローンチするまでの半年間、全面的に担当しました。プロジェクトが終わった後も、永岡一人では運営が難しいと感じ、ボランティアとしてサイトの保守や改善を続けました。
その後、永岡から「一緒に続けませんか?」という自然な流れでの提案がありました。私はそのままボランティアとして関わり続けましたが、中途半端な状態で関わるのが嫌だったので、全力で取り組むためにフルタイムでおてつたびに参加する決意を固めました。
株式会社おてつたび 入社
── 入社後、どのようなことに取り組みましたか。
入社時にはまだベータ版の状態で、サービスは人力で運営されていました。入社後も引き続きサイトの改善や新機能の開発に取り組み、本リリースに向けて全力でサポートしました。
具体的には、人力で行っていた作業を自動化することに注力しました。マッチングプラットフォームとして必要な機能を整備し、求人を出すところから応募者のプロフィール管理、受け入れ先の農家や旅館などの事業者が見られる管理サイトの構築、参加者の勤怠管理、労務管理といった部分を開発しました。これにより、手作業を減らし効率化を図りました。
── 具体的にはどのような苦労がありましたか?
そうですね、インフラの設定などは前職での経験が少なかったので苦労しました。データベースやインフラの部分も自分で手を動かしながら進める必要がありました。初めてのことが多かったので、先輩のエンジニアやAWSの担当の方に教えてもらいながらなんとか進めていきました。リリース自体は入社から1年以内、には行うことができました。
── 一人でやられていた中で、その他に苦労した点や良かった点はありますか?
苦労した点としては、すべての領域をカバーする必要があったことです。設計しても後々変更が必要になる可能性が高い中で、最適な設計を見つけるのが大変でした。しかし、その経験が現在の開発に非常に役立っています。また、他の領域にも関わることで広い視野を持つことができたのは良かった点です。
── 当時、永岡さんとはどのように仕事を進めていたのですか?
永岡と私、そしてもう一人のビジネス側の社員である土居の3名体制で進めていました。永岡からの要望を直接受け取り、即座にサイトに反映する形で進めていました。
── スモールチームでの進め方について教えてください。
スモールチームでの開発は、要望が出たらすぐに対応する形で進めていました。初期段階では、手書きのワイヤーフレームを使ってデザインを行い、その場で設計と開発工程を決めて進めました。柔軟に対応できる環境だったので、スピーディーに開発を進めることができました。
── 現在の川尻様の業務内容を教えてください。
現在の業務内容は、採用が1割、中長期計画が3割、残りの6割が開発実務やコーディング作業になっています。正直、採用にもっと投資したいと感じていて、今後その割合を増やしたいと思っています。現在は開発責任者としての立場ですが、プレイングマネージャーとしても、実装にも深く関わりながら、タスク管理や中長期的な計画を立てています。人数がまだ足りないため、どうしても両立が必要です。
── 株式会社おてつたびの事業の魅力をお聞かせください。
弊社のサービスで地域を旅することはもちろんですが、それ以外の用途で利用されるようになりました。例えば職業体験の場として、旅館や農家など、興味のある現場を知るための使い方もできます。また、リタイア後のライフワークとして利用していただくことも増えてきました。60歳定年を迎えた後に、生きがいとして「おてつたび」を利用している方も多いです。お手伝いの可能性は無限大で、多種多様な使い方ができるのが大きな魅力の一つだと思っています。
日本国内は、世界と比べると小さいにもかかわらず、関西と関東、沖縄など、地域ごとに全く異なる文化や習慣があります。普通の旅行だけでは伝わらない魅力的な文化を、デジタルの力を借りずに、地元の人々と一緒に時間を共有することで、深く理解することができます。これは、単なる旅行の形を超えて、人生経験や成長にも繋がります。そういった点で、「おてつたび」は新しい旅の形というよりも、人生を通じての学びや社会貢献として利用できるのが魅力です。
── シニア層のユーザーが増えているとのことですが、他のユーザー層についても教えてください。
はい、弊社のユーザーメインはもちろん20代から30代の若い方々ですが、最近はアクティブシニア層も増えてきています。60代以上の方々が元気で体力もあり、定年後に何をしようかと考えている中で「おてつたび」を利用しています。お手伝いを通じて社会貢献に繋がる点が、この層にとっても魅力的なようです。これにより、第2の柱としてシニア層の利用が増えているのが現状です。
現在のエンジニア組織について
── 現時点の組織体制や人数を教えて下さい。また何故そのような組織体制にしているかその理由もご説明いただけますか。
現在、エンジニアは私を含めて5名で、そのうち3名は業務委託です。他にはプロダクトマネージャー(PdM)が土居、デザイナーが2名おり、プロダクト開発のチームはこの10名で構成されています。1年半ほど前に今の体制になりました。特にデザイナーが加わったのは最近のことです。
以前は全ての業務をエンジニアだけで対応していましたが、ユーザー数の増加やプロジェクト規模の拡大に伴い、効率が悪くなってきたため、明確にPMとエンジニアの役割を分けました。要求要件定義から実装までを一人のエンジニアが担うのは効率的ではなくなったのです。また、デザインについてもエンジニアが個別に判断して行っていたため、ページごとにデザインが統一されないという問題が生じていました。このままではスケーリングが難しいと感じたため、PdM、デザイナー、エンジニアの役割を明確に分ける体制に移行しました。
── なるほど、役割分担を明確にすることで効率化を図ったのですね。その結果、どのような改善が見られましたか?
役割分担を明確にしたことで、各自の専門性を発揮しやすくなり、プロジェクトの進行がスムーズになりました。特にデザインの統一感が向上し、ユーザーエクスペリエンスが改善されました。また、PdMが要件定義を担当することで、エンジニアは実装に集中できるようになり、開発速度も向上しました。
現在の体制でしばらくは進める予定ですが、今後の成長に伴い、さらに人員を増やしていく計画です。特に採用にもっと力を入れ、優秀な人材を確保していきたいと考えています。より大きなプロジェクトにも対応できる体制を整え、サービスの品質向上を目指していきます。
── 現在の開発組織は、どのようなことに取り組んでおりますか。
現在の開発組織では、サイトのリニューアルに取り組んでいます。以前は、ブランドの統一性やユーザーエクスペリエンスの改善に点で取り組んできましたが、ユーザーが会員登録から申し込み、そしておてつたびに参加するに至るまでの流れにおいて、仕様の一貫性の欠如や設計の不十分な部分が多く見受けられるようになりました。これ以上は応急処置では対応しきれないと感じ、約1年半前からサイトの土台を作り直すリニューアルプロジェクトを進めています。
── 現在の開発組織の良い点(特徴や魅力的なところ)と課題点(ここを改善すればもっと良くなるなど)があれば、お聞かせください。
まず、良い点についてですが、ユーザーやビジネスサイドとの距離が非常に近いことです。ビジネスメンバーが隣にいて、直接顔を合わせて話せる状況なので、新しい案件の獲得や失注の原因などがリアルタイムで共有されます。プロダクトに必要な機能や改善点もその場で議論できるため、エンジニアが納得して開発に取り組めます。これにより、エンジニア自身が自分ごととしてプロジェクトに関わり、積極的に改善提案ができる環境が整っています。ウォーターフォール型の開発ではなく、アジャイルでフラットな関係の中で、迅速にアップデートを行える点が非常に魅力的です。
課題点としては、開発人員が不足していることが挙げられます。半年ほど前から採用を進め社員数は倍増し、現在14名になりましたが、ビジネスサイドの人数が増えたため、多くの意見や要望が集まってきて、それに対応するのが難しくなっています。私自身が窓口となって管理しているため、ボトルネックになる場面も増えてきました。今後は、私が安心して任せられるエンジニアを採用し、開発スピードを上げるとともに、私がもっと別の業務に時間を割けるようにしたいと考えています。
── 川尻さん自身は、今後どの方向にキャリアを進んでいきたいと考えていますか?
私自身は、より経営に近い立場で、技術戦略を立てていきたいと考えています。将来的にはCTOのような役割を担い、技術面での意思決定を行いたいです。もちろん、技術的なキャッチアップや現場に関わることも続けていきたいですが、長期的な視点でビジネスと技術を結びつけていくことに力を入れていきたいと思っています。
今後の目標
そうですね。まずはリニューアルを早期に完了させることが最優先です。リニューアル後は、事業の成長に寄与するプロダクトを作り上げ、新しいことへの挑戦に完全に投資できる状態を目指します。そのためには、安定した基盤を築き、次のステップに進むための準備を整えることが重要です。
── グロースウェル社のEQ診断でいうとどのコンピテンシーに当てはまる方と一緒に働きたいですか?もしくは今の開発組織に必要なタイプはどれにあたりますでしょうか?(図の中からお選びください)もちろん、全てのタイプが必要だとは思いますが、お答えください。
今は成果を出すことに注力しているので、デリバラーのタイプが必要だと思います。これまでは「何でもやります」というスタンスの人が必要でしたが、組織が大きくなる中で、それぞれがプロフェッショナルとして役割分担を進め、成果をどんどんデリバリーできる自走式の人材が求められるようになりました。反対に、ガーディアンのタイプは現時点ではマッチしないですね。大きな組織であれば必要ですが、現状では合わないと思います。
── 最後にどのような人と一緒に働きたいか教えてください。
新しいことに挑戦できる意欲のある人と一緒に働きたいです。エンジニアとしてプログラミングだけをするのではなく、プロダクト全体をより良くするための提案や、ユーザーの困りごとに対して積極的に手助けできる人が理想です。また、自分自身の意見をしっかり持ち、協力し合える姿勢を持つ方と一緒に成長していきたいです。