スタートアップの挑戦と成長:CPOが語るmiiveの未来

林 謙吾氏|株式会社miive CPO

新卒でリクルートホールディングスに入社。リクルートキャリアにて採用管理サービスや人事評価サービスなどの新規事業開発を経験したのち、LINE社にてスポットワーカー向けサービス「LINEスキマニ」の立ち上げとグロースにプロダクトマネージャーとして従事。2021年4月よりmiiveに参画、CPOとしてプロダクト全般を統括。

株式会社miive について

弊社の事業は、VISAカードとスマートフォンアプリを組み合わせた新しい福利厚生プラットフォーム「miive」を提供しています。具体的には、企業が自社の人事課題や経営課題に応じて福利厚生制度を設計・運用できるサービスです。

使い方としては、企業が従業員に対して与えるポイントをチャージし、従業員はそのポイントを弊社のVISAプリペイドカードを使って、自由に利用できる仕組みです。弊社の特徴として、VISAカードの利便性がもちろんありますが、それに加えて、企業の目的に応じた柔軟な制度設計が可能な点が大きな強みです。

例えば、毎月5,000円のポイントを従業員に付与する際、3,000ポイントを食事に使ってほしい、残りの2,000ポイントは学びやスキルアップに使ってほしいといった具合に、企業の課題や人事的な目標に合わせたカスタマイズが可能です。しかも、このような制度を非常にシンプルな運用で実現できるのが、弊社のサービスの大きな特徴だと思っています。

林さんのキャリア

小学校から高校卒業まで、ずっとバスケットボール部に所属していました。どちらかというと勉強よりも部活中心の生活を送っていましたね。部活ではキャプテンや副キャプテンを務めることが多く、チームをどう運営していくか、どうやって勝つかということを常に考えていました。そうした経験が、今のキャリアにもつながっていると感じています。チームで一緒に取り組む感覚が強く、これが私の基盤となっています。

幼い頃からインターネットが身近にありました。当時、メイプルストーリーなどのオンラインゲームをプレイしていて、インターネットやITに興味を持っていました。中学生の頃には、将来こういったことを仕事にできたら面白いなと思っていて、進路を選ぶタイミングで情報工学を選びました。

正直なところ、あまり多くの企業を選んでいたわけではないんです。元々は大学院に進学する予定でしたが、夏休みに研究を進めつつ、ちょっとお金も稼ぎたいなと思っていました。そのタイミングで、リクルートが2ヶ月のインターンで40万円の報酬を出すプログラムを実施していて、興味を持って応募したところ、インターンに通りました。

そのインターンを通じて、実際に業務を体験し、東京で社員の方々と面談する機会がありました。その中で、研究も面白いけれど、事業を通じて社会に良い影響を与える仕事の魅力を感じました。最終的にリクルートの選考を受けて内定をもらい、大学院を中退して入社することに決めました。

インターンでは、4人のチームで与えられたお題に基づいて事業内容を考え、実際に動くプロトタイプを作り、2ヶ月後に発表するという形式でした。このインターンをきっかけに入社した同期も多くいましたので、選考的な意味合いも強かったと思います。

リクルートでは、最初に配属されたのはリクルートキャリアでした。実は、あまりエンジニアとしてのキャリアを進めるつもりはなかったんですが、結果的にエンジニアとして配属されました。最初の1年間は、リクルートキャリアの新規事業部で、プロダクトを作るためのエンジニアリング業務に従事していました。新しいプロダクトを立ち上げるために、実際に開発の実務を担当していました。

その後、リクルートテクノロジーズに移動した後も、引き続きキャリア関連の業務を担当していましたが、住まいカンパニーの新規事業にも少し関わることになりました。ここではエンジニアとしての業務に加え、プロジェクトマネージャー(PM)としても活動していました。基本的にやっていることはエンジニアリングやPMですが、扱う領域が異なる形で経験を積んでいました。

2020年7月にLINEに転職しました。当時の状況としては、2020年4月にコロナ禍が始まり、緊急事態宣言が出たタイミングでした。それまで私はリクルートの新規事業部で、プロジェクトマネージャー(PM)やエンジニアリングに関わっていましたが、新規サービスをクローズすることになり、「次に何をしようかな」と考えるようになりました。

その時、リクルート内でいくつかの選択肢を提示されましたが、どれもあまりピンと来なかったのが正直なところです。リクルートでの仕事の進め方はある程度理解していましたし、他の大規模なプロジェクトに関わったとしても、やることはある程度見えていました。ですので、社内での異動も考えつつ、外部でのキャリアを模索することも選択肢の一つかなと思い始めました。

そのタイミングで、自分がリクルートでやりたくてもできなかったこと -特に、日常的にキャリアについて考えられるサービスを作りたいという思いが強くありました。リクルートでは、転職をする時だけ転職サイトに登録し、エージェントを利用するという流れが基本です。しかし、エージェントは営利企業なので、いかに良い条件で転職させるかが重視され、転職させないという選択肢があまりないと感じました。もっと日常的にキャリアについて考え、選択肢を提供できるようなサービスが必要だと感じていたんです。

そんな時に、LINEがチャットツールとして日常的に接触できるプラットフォームであり、かつHR領域にも進出していることが目に留まりました。日常的に接触できる企業で、HR関連のサービスを展開している会社という点で、当時の私にとってLINEが一番魅力的に映りました。そこで、LINEに応募することを決めました。

全然狙い通りではなかったんです。本来はもっと中途採用の領域や、転職サイト関連の業務をやりたかったので、正直意図していない配属でした。ただ、意図していなかったとはいえ、面接の際にLINEの課題として、LINEバイトのアクティブ率向上について改善案を考える機会がありました。その面接課題で、LINEバイトのアクティブ率を上げるために日常的にLINEバイトを使ってもらえるような「単発バイト」サービスの提案をしたんです。

その提案内容が、実はLINEのHR事業部内でで既に検討されていたものと重なっていて、「こいつ社内の情報を知ってるんじゃないか?」と疑われるくらい、ちょうどマッチしたんですよ(笑)。その結果、希望していた中途採用の領域ではなく、「LINEスキマ二」の初期開発プロジェクトにのプロジェクトに配属されました。

私が提案した内容は、単発バイトのサービスに近いものでしたが、既にLINEバイトの中で検討されていた企画だったので、そこに配属されることになりました。やりたかったこととは違っていたものの、LINEバイトの改善には重要な意味があることは理解していたので、「やるべきことだな」と納得して取り組み始めました。

そうですね、今までのキャリアを振り返ると、社会に出る前からも含めて、全体的に良い経験が多かったなと思います。その中でも、特に印象に残っているのは、LINEでスキマバイトのプロジェクトに関わっていたときの経験です。

私はずっとエンジニアのバックグラウンドがあり、サービス内の改善や技術的なアプローチで問題を解決できると考えていました。特に、LINEスキマバイトでは、キャンセル率をいかに下げるかが大きな課題でした。マッチングサービスなので、ユーザーが実際に働いてくれないと収益が発生せず、お客さんにも迷惑がかかってしまいます。そのため、キャンセル率を下げることがプロジェクトの重要なミッションとなりました。

最初は、テクノロジーを使ってうまく改善できるのではと思っていましたが、実際にはそれだけでは十分な効果が出ませんでした。そこで、ユーザーの属性や行動パターンをより深く理解する必要があると気づきました。サービスを利用するユーザーの中には、当日キャンセルをしても何とも思わない方もいて、そうした違いを踏まえたアプローチが求められたんです。

最終的に効果があったのは、応募者に前日に電話をして「明日働きますか?」と確認するという、非常にシンプルな方法でした。特に、何度も働いている方には「この人が言うなら行こうかな」というように、人間関係が鍵になることも分かりました。機械的な通知よりも、個別に声をかけることで、結果的にキャンセル率が大幅に下がったんです。

この経験を通じて、ユーザーの行動や属性に応じた柔軟な対応が必要だと学びました。現在の仕事でも、この教訓を生かし、常に人間の感覚を大切にしながらサービスを提供しています。

正直に言うと、もう少し前のことなので記憶が曖昧な部分もありますが、すぐに正式に入社したわけではなく、1年ほど副業として関わっていました。きっかけとしては、もともとmiiveと直接の関わりがあったわけではなく、YOUTRUST経由で声をかけていただいたのが大きな理由です。

サービス自体にも魅力を感じていましたし、特に福利厚生に関しては自分自身もLINEに在籍していたとき、Yahooとの合併の際に感じたペインポイントがありました。例えば、Yahoo側のカフェテリアプランのようなポイント型福利厚生が導入されたのですが、直感的に操作できない部分があったんです。そのときに感じた違和感や不便さは、miiveが解決できるのではないかと共感しました。

さらに、miiveは福利厚生に留まらず、その先のHR全般に広がる可能性を持っている点も魅力的でした。福利厚生からスタートしつつ、将来的には社員が入社した後も長く働き続けられるようなサポートを提供する、HR領域全般に広がるサービスの奥行きに引かれて、副業として関わり始めました。

正直、LINEにいたときは不満もなく、辞めることを現実的に考えていたわけではありませんでした。続けていく選択肢も十分にありました。ただ、miiveの事業は、30年間ほとんど変わっていない領域に変革をもたらすというミッションに挑戦しており、それに強く惹かれたんです。若い創業者たちが情熱を持って取り組んでいる姿を見て、彼らが挑んでいることがとても尊敬に値すると思いました。

その上で、LINEで安定した生活を続けるよりも、彼らと一緒に挑戦する方がかっこいいと思い、最終的に入社を決めました。彼らがやっていること自体、そして業界の変革に挑む姿勢が、自分にとっても大きな刺激になりました。もし、創業メンバーがもっと年齢が上で、ある程度経験を積んでからのタイミングであれば、もしかしたら入社しなかったかもしれません。

株式会社miive 入社後

そうですね、まず最初に取り組んだのは、セールス以外の業務を基本的に全て引き受けたことです。当時、専属でサポートを担当する人がいなかったため、プロダクトの導入後のサポートやフォローも私が全て対応する形でした。プロダクトに関わる部分で、漏れがちな業務やこぼれているタスクを拾い上げて対応していたという感じです。開発以外のところでは、ほぼ全てのタスクに関わっていたんじゃないかなと思います。

苦労した点は、挙げるときりがないですね(笑)。特に、リクルートやLINEでの経験では整った環境で仕事をしていたため、スタートアップの現実とのギャップに苦労しました。副業で関わっていた時はあまり感じなかったのですが、正社員として入社すると、整備されていない部分が多く、すべて自分で対応しなければならない状況がありました。リクルートやLINEでは他の担当者がいたり、基盤が整っていたので、その違いを埋めるのに苦労しましたね。

そうですね、入社当時、栗田から「miiveのプロダクトマネジメントをしっかりと構築してほしい」というミッションが与えられていました。プロダクトやプロジェクトがスムーズに進むための環境を整えることが求められていたんです。私はその中で、必要だと感じたことを自主的に拾い上げて対応していきました。なので、与えられたミッションを達成するために自発的に動いていた部分が大きいですね。

現状、プロジェクトマネジメント業務(PM)としては全体の3割くらいのリソースを割いています。これが主な業務ですね。また、サポート業務に2割ほど時間を使っています。その他、直近では外部とのアライアンス、例えばクーポンやVISAの決済情報を先に処理してもらうといったプロジェクトに3割程度のリソースを割いています。

残りの2割は、miiveの導入企業が増えてきていることもあり、今後の長期的な事業計画やプロジェクトの方向性を考える時間に使っています。これまでは目の前の課題に集中していましたが、今後はもう少し長期的な視点で事業全体を見据えることが必要だと感じています。

そうですね、miiveの魅力はVISAカードを使ったサービスがメインにありながらも、実際のコアはそこではないという点です。miiveは企業の経営課題や人事課題、さらには組織全体の課題に対して、その会社に合った制度を、工数を低く抑えて簡単に運用できるように提供できるところが非常に大きな強みだと思っています。

これは他の競合企業にはないユニークな部分であり、miiveの最大の魅力だと思います。また、今後は蓄積されたデータを活用して、HR領域やコンサルティングに近いサポートも提供できる可能性があります。例えば、データをもとに組織の改善やHR戦略に対して具体的な提案を行えることは、miiveならではの強みです。

私自身、商談に同席したり、ログや動画を見たりして感じたのは、企業ごとに抱える課題が全く異なるという点です。同じ制度や施策でも、その背景や目的が全く異なる場合が多く、その企業のニーズに合ったサポートを提供しないと、意味のないものになってしまいます。そのため、適切にコンサルティング的なアプローチを取ることや、プロダクト上で課題を選択する機能を活用することで、必要な制度を提供できるのがmiiveの大きな魅力だと感じています。

現在のエンジニア組織について

現状、開発やプロジェクトに関わっている正社員は4名です。さらに、フルタイムの業務委託メンバーが3名、副業的に関わっているメンバーが2名います。また、デザイナーが1名加わっているという体制です。まだ少数精鋭で動いている組織ですね。

組織体制としては、エンジニアについてフロントエンドやバックエンドといった厳密な役割分担はせず、各メンバーが得意な領域を持ちながら、全領域をカバーできるようにしています。この柔軟性を持った体制が、現在の組織の特徴です。

現在、miiveは正式リリースからまだ2年も経っていないこともあり、機能が十分に整っていない部分が多くあります。そのため、直近では機能開発に注力し、ユーザーに対してより価値を提供できるようにしています。

また、miiveは設立して4年ほどの会社であり、当初はエンジニアリングに特化したチームではなかったため、技術的な負債も少なからず溜まっています。現在は、中長期的な視点でその技術負債をどのように解消するかをテックチームで検討し、適切なタイミングで改善を進めていく予定です。

良い点としては、miiveのエンジニアチームやプロジェクトチーム全体で、自分の意見をしっかり持ち、それを言い合える文化が根付いていることです。決まったことに対しても、各メンバーが自分ごととして捉え、議論の中で最適な方向に柔軟に切り替えることができるのは非常に大きな強みだと思います。

さらに、エンジニアチーム内では、勉強会のような形式ではなく、お互いに知らないことを教え合い、知識を補い合う場が日常的にあります。この文化は、今後組織が拡大していく上でも非常に重要な要素だと感じています。

一方で、課題点としては、プロダクトの改善や機能拡充において、まだ手が回っていない部分が多いと感じています。開発リソースが限られているため、優先順位をつけて取り組んでいますが、もしリソースがもっとあれば、実現できることはまだまだ多いですね。少数精鋭で動いているため、どうしても手が届かない部分が出てしまうのが現状です。

今後の目標

短期的な目標としては、miiveというプロジェクトが市場にしっかり受け入れられ、より多くのお客様の課題解決を実現していくことです。そのために必要な機能開発も含め、これは短期的に必ずやらなければならない目標です。

一方、中長期的な目標としては、miiveが働く人々を本当に支えるプラットフォームになりうると考えています。現在は福利厚生を切り口にしていますが、将来的には福利厚生に限らず、働くことや生活をサポートできるプラットフォームとして成長したいと思っています。そして、やむを得ない離職や転職がない世界を目指したいと考えています。

miiveは多様な方々にサービスを提供しているため、組織内でもダイバーシティを大切にしています。さまざまな背景や考え方を持ったメンバーが必要です。その上で、チームの状態を良好に保つためには「スーパーヒーロー」のような存在が重要だと思っています。そういった方がチームにいることで、全体がうまく機能するからです。

逆に現時点のフェーズにおいては、4の「ガーディアンタイプ」の方はmiiveで十分にパフォーマンスを発揮するのが難しいかもしれません。

これは少し個人的な意見になりますが、miiveは柔らかくて優しいプロダクトを目指しているため、周りの人を支えたり、必要なときには周りから支えられるような人と一緒に働きたいと思っています。

また、プロジェクトチームとしては、まだ正解が定まっていない部分が多いので、正解を探りながら進めていける人が必要です。私が指示したからその通りに作るのではなく、各メンバーが自分の考えを持ち、積極的に発信していくような方が理想です。自分ごととして捉え、しっかりと自分の意見を持って行動できる人と一緒に働きたいと思います。