スポーツと介護の領域で、コンピュータビジョンによる「世界一」を狙う。
研究で終わらせないCVを、プロダクトとして実装し続けるのが株式会社Sportipだ。
Cuvalでは、同社テックリードの井上優希氏・砂原由宇氏に、技術・組織・プロダクトのリアルを聞いた。
井上 優希氏|株式会社Sportip テックリード
東京工業大学大学院修了。画像処理を専門とし、新卒で株式会社リコーに入社。研究所にて3次元復元などの研究開発に従事する。その後、株式会社Preferred Networksへ転職し、自動運転領域を中心に、実応用に近いコンピュータビジョン技術の開発を経験。現在は株式会社Sportipのテックリードとして、iPadのLiDARを活用した身体形状計測などの基礎技術開発から、SaaSプロダクト「Sportip Pro」の全面リニューアルまでを牽引している。
砂原 由宇氏|株式会社Sportip テックリード
東京大学在学中より、数学基礎論・関数型プログラミング・組み込み・ロボティクスなど、理論と実装を横断的に探究。新卒で株式会社Preferred Networksに入社し、自動運転およびSaaS領域のプロジェクトに約6〜7年間従事する。株式会社Sportipには副業として参画後、正社員としてジョイン。リハビリ・介護向けプロダクト「リハケア」をはじめ、信号解析・音声解析・プロダクト実装を横断的にリード。現在はプロダクトリニューアルの中核として、仕様整理から実装、業務委託メンバーのオンボーディングまで幅広く担っている。
株式会社Sportip

事業内容|動作解析をコアに、すべての人に最適な指導を届ける
── まずは、御社の事業内容から伺ってもよろしいでしょうか。
井上:
株式会社Sportipは、動作解析をコア技術としたプロダクトを提供している会社です。指導や動作の解析・評価を行うサービスを展開しており、現在は姿勢や歩行といった、人が動く際の基本的な動作を主な対象としています。
事業としてはSaaS事業を中心に、他社との共同事業なども行っていますが、いずれも姿勢解析を軸とした共通のコア技術をベースにしています。
「すべての人に最適な指導を届ける」というミッションのもと、その実現に向けて複数の事業を展開しています。
── SaaSとしては、どのようなプロダクトがあるのでしょうか。
井上:
SaaSプロダクトは大きく2つあります。
一つがトレーニングジム向けの「Sportip Pro」、もう一つが介護事業所やデイケア施設向けの「リハケア」です。
対象とする業態は異なりますが、いずれも同じ動作解析技術をコアに据えている点は共通しています。
キャリアの原点

── では、キャリアについて伺っていきます。まずは砂原さんから、幼少期について教えてください。
砂原:
最初にパソコンやプログラミングに触れたのは小学2年生の頃です。最初はレゴ® マインドストームをNQCでプログラムしてみたりしていました。 また、自分の部屋ができたタイミングで、父がお下がりのパソコンをくれたのがきっかけで「ゲームを作ってみたい」と思い、Visual Basic 6.0を触り始めたのを覚えています。
その後はJavaやC#など、主にWindows系の技術を独学していました。ただ、作り始めても最後まで完成させきれず、「一通り学べたから良しとする」ことも多かったですね。
── 中学・高校時代はいかがでしたか。
砂原:
中学・高校では電子工作に強く惹かれるようになりました。秋葉原で部品を買ってきて組み立てたり、組み込み系にも触れ始めました。高校では物理部に所属し、実験室を自由に使える環境で、基板のエッチングや回路設計まで一通り経験しました。PICマイコンでアセンブリを書くことも多く、低レイヤの考え方はこの頃に身についたと感じています。
── 続いて井上さんにも伺います。幼少期はいかがでしたか。
井上:
最初にパソコンに触れたのは小学3年生くらいです。親が仕事で使っていたパソコンを横で触らせてもらっていました。
文書作成ソフトにあるマクロ機能を見つけ、「文字を書くと勝手に動く」ことが面白くて、誰に教わるでもなく触り始めたのが最初のプログラミング体験ですね。
── かなり早い段階からですね。
井上:
小学6年生頃にはレゴ® マインドストームでも遊んでいました。プログラムを書いて転送すると、その通りに動く仕組みがとにかく楽しかったです。同じ頃にDelphiの開発環境も購入し、「自分で動かせるもの」を作ること自体に夢中になっていました。
中学以降はWeb系に興味が移り、PerlやPHPを独学で勉強しました。高校時代にはPHP製の英語チャットアプリを日本語化して公開することもあり、「作ったものを誰かに使ってもらう」感覚を意識し始めました。
キャリアの分岐点|大学進学と専門性の形成
── 井上さんは、大学進学についてどのように考えていましたか。
井上:
技術全般に興味があり、特に「ロボットを作りたい」という思いが強かったので工学部を志望しました。地元が栃木だったこともあり、「東京に出たい」という気持ちもありましたね。東京工業大学を受験し、最終的に電気情報系に進学しました。
入学後は世界が一気に広がった感覚がありました。ものづくり系のサークルに入り、さまざまな活動をしている仲間と出会ったことで、視野が大きく広がりました。
── どのようなサークルだったのでしょうか。
井上:
鳥人間コンテストに出場するサークルです。私は機体には乗らず、尾翼の電子制御や飛行ログの取得を担当していました。
その後、画像処理の研究室に入り三次元復元の研究をする中で、「これは面白い」と感じたことが、大学院に進んだ一番の理由です。
── 砂原さんの大学進学についても教えてください。
砂原:
高校時代に.NETやLINQに触れ、リアクティブプログラミングや関数型プログラミングに興味を持ちました。そこからCoqに出会い、プログラミングと論理学が密接につながっている点に惹かれました。
受験勉強中に数学基礎論の本を読んだことをきっかけに数学寄りの分野にも関心が広がり、結果的に数学科へ進学しました。
大学では物理研究会で基礎論を学ぶ一方、NHK学生ロボコンに出場するサークルにも所属しました。
ロボットでバドミントンをする企画では通信周りを担当し、Bluetooth通信の安定性検証など、実装量の多い経験を積みましたね。
キャリアの形成|新卒からSportip参画まで
── まずは砂原さんから、新卒のキャリアについて教えてください。
砂原:
きっかけは、サークルの先輩がPreferred Networks(PFN)にいると聞いたことでした。当時とても有名で、「面白そうな会社だな」と感じ、修士2年の頃にインターンへ応募しました。
博士課程に進むことも考えていましたが、就職活動を先延ばしにしているうちにM2の冬になり、「拾ってください」とお願いしたところ、本当に拾ってもらえました。
入社後は6〜7年ほど在籍し、自動運転やSaaS領域など、さまざまなプロジェクトを経験しました。
── 井上さんは新卒でリコーに入社されていますね。
井上:
画像処理の研究室に所属していたので、就活でも画像処理に関連する企業を中心に見ていました。修士課程の春頃に内定をいただき、「ここで就活は終わりでいいか」と思い、リコーに入社しました。
入社後は事業部を経て研究所に異動し、3次元復元などの研究に携わりました。画像処理を扱える点では良い環境でしたが、より専門性を高めて活かしていきたいと、入社2年目の頃にPFNへの転職を決めました。
── PFNとの接点は学生時代からあったのですね。
井上:
学生時代に一度PFNを見学したことがあり、その縁で入社2年目の頃に声をかけてもらいました。何度か見学する中で「やっぱり面白そうだな」と感じ、転職を決めました。PFNでは砂原と同じ自動運転系プロジェクトに携わり、最終的には私の方が先にPFNを離れる形になりました。
Sportipへの参画|「自社プロダクト」と画像処理の可能性
── Sportipに参画するまでの経緯について教えてください。
井上:
シニアマネージャーの小林は大学の学科・研究室の同期で、リコーにも一緒に入社した長い付き合いの仲です。彼が先にSportipに転職していて、「どう?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
ちょうどPFNでのプロジェクトが一区切りついたタイミングで、社内で別プロジェクトに進む選択肢も、外に出る選択肢もある中で考えました。その結果、「やっぱり面白そうだな」と思い、Sportipへの転職を決めました。
── 決め手は何だったのでしょうか。
井上:
これまでずっと画像処理に取り組んできたので、画像処理が本当にコア技術になっている会社であれば、自分のバリューをより発揮できると感じていました。実際、ここまで画像処理を中核に据えている会社は多くないので、「ここだな」と思えたのは大きかったですね。
副業から正社員へ──技術と将来性への確信
── 砂原さんは、どのようなきっかけで参画されたのでしょうか。
砂原:
きっかけは井上から声をかけてもらったことです。
Sportipが取り組むスポーツや介護の領域は、コンディショニングやコンピュータビジョン(CV)の観点で見ると、まだ「ちゃんとCVをやる」だけでも十分に差別化できる余地があると感じました。
話を聞く中で、その可能性は現実的だと思えましたし、将来性も感じました。また、井上がコードをしっかり見ていることから、「技術的にもちゃんとしている会社だな」という安心感もありましたね。
ネガティブな理由は特になく、「面白そうだからやってみよう」という気持ちで、まずは副業として関わり始めました。その後、正社員として入社し、現在で約1年になります。
入社後の取り組み|副業から正社員へ、最初に向き合った仕事
── 正社員として参画後、最初に取り組んだことを教えてください。
砂原:
最初に担当したのは、「リハケア」の機能実装です。
信号解析に関するR&Dの検討結果をもとに、「この解析結果をプロダクトに落とし込んでほしい」という依頼を受けました。具体的には音声解析を行い、その結果をユーザー向けに日本語で分かりやすくフィードバック表示する機能を実装しました。あわせてFlutterでUIの調整も行い、実装全体を一通り担当しました。
入社から1〜2ヶ月ほどでリリースまで持っていけたので、最初の仕事としてはかなり頑張ったと思います。
── 入社当時、苦労した点はありましたか。
砂原:
当時はスプリントや開発マネジメントが十分に整っておらず、仕様も曖昧でした。進めながら少しずつ整えていく、という感覚でしたね。
一方で良かったのは、ユーザーとの距離が非常に近いことです。PFNでは大企業向けPoCが多く、ユーザーを身近に感じる機会は少なかったのですが、Sportipではプロダクトを使う人の顔が見える。その感覚は想像以上に面白かったです。
── 最初からテックリードだったのでしょうか。
砂原:
そうですね。タイトルはテックリードでした。
経営面の助言も期待されていましたが、そこは正直まだまだで(笑)、技術面でできることは何でもやる、というスタンスで関わっていました。
入社初期の取り組み|研究からプロダクトへの挑戦
── 井上さんは、入社後どのような仕事に取り組まれましたか。
井上:
私もタイトルはテックリードでしたが、当時は役割が明確に定義されておらず、入社をきっかけにポジションができた、という感じでした。
最初は研究寄りの業務として、iPadに搭載されているLiDARセンサーを使い、身体の形状を取得・復元する技術開発に取り組みました。体の周囲を撮影し、「ウエストが何センチか」といった数値を計測できるようにするのが最初の仕事です。
── 大変だった点は?
井上:
「1センチ程度の精度で測りたい」という要求ですね。画像やLiDARでその精度を出すのは難しく、かなり苦労しました。
ただ、当時は技術開発を担えるエンジニアがほとんどいなかったので、進め方も含めて自分で決められる裁量が大きかった。そこは非常にやりがいがありました。
── 現在の業務内容について教えてください。
井上:
大きく二つあります。一つは、SaaSプロダクト「Sportip Pro」のリニューアル開発で、既存アプリを全面的に書き換えています。
もう一つは、新しい価値を生み出すための基礎技術開発など、研究開発寄りの取り組みです。
砂原:
僕は主にプロダクト開発を担当しており、「Sportip Pro」リニューアルに伴う機能実装が中心です。
デザインチームが価値設計や画面デザインを、サイエンスチーム(理学療法士)が専門的なフィードバック内容を整理し、それらを実装可能な仕様に落とし込むのが役割です。
PMや業務委託の方と連携しながら、フロントエンドとバックエンドのインターフェース設計、バックエンド実装を進めています。

事業の魅力|CVを“真面目にやる”余地が大きい領域
── 改めて、事業の魅力を教えてください。
砂原:
技術的には、まだ試したいことが本当にたくさんあります。
スポーツ科学の分野でコンピュータビジョン(CV)を「真面目にやる」取り組みは、まだ十分に手を付けられていない領域です。
だからこそ、新しいことを試せば面白いものが作れるし、うまくいけば明確な差別化につながる。最終的には、「数字的な根拠を持って、ここが良い」と言えるプロダクトを作れる余地が残っています。
また、「健康」に関わる事業である点も大きいです。
健康に無関心な人はいないので、結果的に全世界の人に関わり得るプロダクトになる。そのスケール感も、この事業の大きな魅力だと感じています。
開発組織について
── 現在の開発体制について教えてください。
砂原:
現在、正社員エンジニアが3名、業務委託の方が7名ほどおり、R&Dも含めると、開発に関わっている人数はおよそ10名です。
正直なところ、本当は正社員エンジニアをもっと増やしたい、というのが率直な気持ちですね。
もしこの話を聞いて「来たい」と思ってもらえたら、とても嬉しいです。
── 開発組織として、今主力で取り組んでいるものは何でしょうか。
井上:
今は「Sportip Pro」のリニューアルが最優先事項です。
このリニューアルを完了させることに、開発リソースを集中しています。実際に進めると想像以上に難しい部分も多く、現在はようやくゴールも見えてきてリリースし、皆様へ届けられる日も近いと思います。
開発組織の強み|スピードと品質を両立する仕組み
── 組織の強みについて教えてください。
砂原:
一番の強みは、コードベースの健全性を非常に重視している点です。
井上がいることで、「コードにこだわる」という文化がしっかり根付いています。
コードをきれいに書くことは単なる美学ではなく、変更容易性を高め、結果的にアウトプットのスピードを上げることにつながります。「スピードとクオリティを両立する」という考え方を、実際に実践できている点は大きな強みですね。
それを支える仕組みも整ってきています。たとえばAIレビューの導入やオンボーディングの整備です。業務委託の方が入る際も、簡単な説明のあと、モノレポの手順に沿ってセットアップを進めてもらいます。
おおよそ1日ほどで環境構築が終わり、すぐにコミットできる状態になる。これは、コードベースが整理されているからこそ可能だと思います。開発プロセスとしても、 CI → AIによる一次レビュー → 僕と井上でのレビューという流れが定着しています。 「正しいコードを、正しい変更として積み重ねる」プロセスが仕組みとして機能している点が、組織の生産性につながっています。
── 一方で、課題点はいかがでしょうか。
砂原:
課題は、ほぼ採用に集約されます。週次のミーティングでも、常に「人が足りない」という話をしていますね。
やりたいことはたくさんあるのに、着手できなかったり、後ろ倒しになってしまったりする。代表の高久から「こんな面白い話がある」と相談を受けても、「今は手が回らないですね」と返さざるを得ないことも多いです。
リサーチ寄りの取り組みなど、本当はもっとやりたいことはありますが、根本的には人手不足が原因で、そこまで手が回っていない。これが、現時点での一番大きな課題ですね。
AI活用の現在地|「まずAIに読ませる」文化を全領域へ
── AI活用について、他にも取り組まれていることはありますか。
井上:
コードレビューでは、すでにAIによる一次レビューを運用していますが、今はコード以外のドキュメントにも同じ考え方を広げています。
人が書いたものをそのまま人に渡すのではなく、「人 → AI → 人」 という流れで、まずAIに読ませてクオリティを上げてからレビューする形です。コードではこのフローがかなり定着してきましたし、Notion上のドキュメントでも徐々に実践できるようになってきました。今後は、さらに適用範囲を広げていきたいですね。
会社・事業の目標|CV × スポーツ科学 × 介護で「世界一」を目指す
── 会社として、事業としての目標について教えてください。
井上:
Sportipには4つのバリューがあり、その中に「世界一」という言葉があります。世界一のプロダクトを目指す、というのは外せない目標ですね。
コンピュータビジョンとスポーツ科学、そして介護を融合させた領域は、世界的に見ても、まだ十分に取り組まれている分野ではありません。だからこそ、この領域であれば世界一を狙えるのではないか、という感覚があります。
私自身はコンピュータビジョンを専門にしてきましたし、砂原もPFN時代からCVに取り組んできました。
さらに社内には、理学療法士の博士が在籍するサイエンスチームもあります。この体制で進んでいけば、「世界一」は現実的に狙えると考えています。
求める人物像|「強いエンジニア」と、EMという重要ポジション
── 今後、どのような人が必要で、どんな方がフィットしそうでしょうか。
砂原:
一言で言うと、「強い人」が欲しいです。
技術選定の場面で「なぜそれを選ぶのか」を言語化でき、妥当な技術的判断ができる人。
その判断を積み重ねて、良いプロダクトを作っていける人ですね。それに加えて、常にユーザー視点で「本当に必要なものは何か」を問い続けられること。顧客価値にきちんと結びつく思考ができる人は、何人いても困らない、というのが正直な気持ちです。
── ポジションとしては、いかがでしょうか。
井上:
正直、どのポジションも必要ですが、特に今重要なのがEM(エンジニアリングマネージャー)です。これまで開発組織の中で、マネージャーという役割がほとんど明確に存在していませんでした。
現在は私自身がマネジメントをかなり担っていて、それを切り離したい、というのが本音です。
「世界一を本気で目指す」のであれば、研究や技術の深掘りに、もっとリソースを割く必要がある。そのためにも、開発組織をしっかり支えてくれるEMの存在が、今まさに必要だと感じています。



