物流業界における“最後の課題”に向き合うトラボックス株式会社。
同社でVPoEを務める橋本将吾氏は、楽天、Speee、千株式会社といった環境で、プロダクトと組織の両面から価値創出に向き合ってきました。
そしていま、テクノロジーだけでは解けない“リアルな現場”に踏み込み、業界そのものの構造変革に挑んでいます。本記事では、キャリアの原点から、トラボックス入社の背景、開発組織づくり、そして物流業界の未来までを伺いました。
橋本 将吾 氏|トラボックス株式会社 VPoE
幼少期にパソコンと出会い、高校時代にエンジニアの道を志す。キャリア初期はSES企業で官公庁向けシステム開発に従事した後、よりユーザーに近いサービスづくりを求めて楽天へ転職。楽天市場の開発を経験したのち、Speeeでは新規事業の立ち上げや組織づくりに携わり、事業・プロダクト・組織の各領域で経験を積む。その後、千株式会社にてVPoEとして採用、組織設計、技術体制の強化を推進。2025年12月にトラボックス株式会社へ参画し、現在はVPoEとして開発組織づくりを担いながら、物流業界における本質的な課題解決を目指している。
トラボックス株式会社

事業内容|物流DXと金融サービスの二軸で展開
── まずは事業内容からお伺いできますでしょうか。
はい。我々トラボックスは、大きく二つの軸で事業を展開しています。
まず前提として、トラボックスは1999年創業で、すでに25年以上続いている会社です。現在でいうと26期目にあたり、いわゆる老舗企業の位置づけになります。
一つ目の事業が、創業当初の物流マッチングから始まり、運送会社や荷主のお客様の利便性向上を目指すサービスとして進化を続けている物流DXのプラットフォームです。創業事業である求荷求車サービスは、荷物を運んでほしい「荷主」と、荷物を運びたい「運送業者」をつなぐサービスで、主に中小の運送会社様にご利用いただいています。こちらは現在も当社の主力事業として継続しています。
そして二つ目が、ここ数年で立ち上げた新規事業です。もともと運送会社様の課題を見ていく中で、「資金繰り」に関する悩みを抱えている中小企業が非常に多いことが分かってきました。さらに、それは運送会社に限らず、すべての業界における多くの中小企業に共通する課題であることにも気づきました。
そこで、この資金繰りの課題を解決するサービスを再設計し、より汎用的な形に抽象化したうえで、「Finto」という事業として提供しています。内容としては、売掛金や後払いを活用して資金調達の選択肢を広げる金融サービスが中心です。
このように、トラボックスでは、物流領域におけるDXプラットフォームと、そこから派生した全業界向けの金融サービス、この二つを主軸として事業を展開しています。
── ちなみに、シェアとしてはナンバーワンなのでしょうか?
まず前提として、物流業界は非常に広く、セグメントごとに多くのプレイヤーが存在しています。そのため、業界全体でのシェアを一概に比較するのは難しいという背景があります。
その中で、我々が展開している「求荷求車」の領域においては、創業から長く続けていることもあり、一定のシェアや存在感はあると認識しています。ただ、トラック業界全体で見ると、まだまだ成長余地は大きいと考えています。
一方で、金融サービスについては、ここ数年でかなり進捗してきています。特に一部の領域では、GMV(流通総額)も一定規模まで伸びてきており、手応えを感じている状況です。
キャリアの原点|幼少期から楽天・Speee・千で培った事業と組織の視点

── 続いてキャリアについて伺いたいと思います。幼少期から前職までのご経歴を簡単にお聞かせいただけますか?
はい。幼少期は兼業農家の家庭で育ちました。
最初にコンピューターに触れたのは小学生の頃で、当時の担任の先生が、今でいうとかなり珍しいパソコン好きの方だったんです。教室に自前のパソコンを置いてくださっていて、朝や放課後にそれを触らせてもらっていたのが原体験ですね。
そこから継続的にパソコンに触れる環境があり、エンジニアとして生きていくと決めたのは高校生の頃です。
── かなり早いですね。
そうですね。その後、専門学校に進学し、最初は中小企業のSES企業に就職しました。官公庁向けのシステム開発に携わっていたのですが、ユーザーの顔が見えないことや、自分自身が使うサービスでもないことに違和感があって、「誰が使うのか」「誰が喜ぶのか」が見えない点に、ものづくりとしての物足りなさを感じていました。
そうした背景から、「自分や身近な人が使うサービスをつくりたい」という思いが強くなり、自社開発企業への転職を決意しました。その最初の転職先が楽天グループです。入社時には「楽天市場以外は考えていません」と伝えて、楽天市場の開発に携わることになりました。
── ユーザーとしても使っていたサービスですもんね。
そうですね。当時の日本における代表的なインターネットサービスの一つでしたし、メガベンチャーとしても数少ない存在でした。そこで約3年ほど、さまざまな開発経験を積ませていただきました。
ただ、その中で「ゼロからサービスを立ち上げたい」という思いが強くなっていきました。楽天はすでに数千万ID、流通額も数兆円規模の巨大サービスだったので、新規サービスを出しても初日から多くのユーザーが集まる環境です。それが本当に自分の実力なのか、という疑問もありました。
そこで、「無名の環境でゼロから価値を生み出したい」と考え、次のキャリアへ進みました。
そして入社したのが、Speeeです。当時はまだ創業4期目で、Webコンサル事業が中心でしたが、経営陣の「自社サービスをつくりたい」という意志が強く、そこに共感して入社を決めました。
在籍中は、複数の新規サービスの立ち上げに関わり、トータルで5つほどのサービスを立ち上げたと思います。現在もいくつかは事業として継続していますし、一方でうまくいかなかったものもありました。成功・失敗の両方を経験しながら、事業づくり・プロダクト開発・組織づくりを一通り経験できた約7年間だったと思います。
ただその中で、「業界そのものを変える」というレベルのインパクトまでは手応えを持てていなかったという課題感もありました。DXや情報整理といった価値は提供できていたものの、業界構造そのものを変革するには至っていないと感じていました。
その後、より社会的インパクトの大きい領域を求めてキャリアを模索する中で、千株式会社に出会いました。
入社を決めた背景には、個人的な関心もありました。結婚して間もない時期で、将来の子育て環境について調べた際に、保育園や幼稚園の現場が非常にアナログであることに気づいたんです。連絡帳の手書きや日々の記録など、先生・保護者ともに大きな負担がかかっている状況でした。
一方で、同社は保育園・幼稚園向けの写真販売サービス(はいチーズ!フォト)を展開しており、一定のDXは進んでいたものの、本質的な課題解決にはまだ踏み込めていない状態でした。構造的に「サービスが多少不便でも使われる」状況があり、組織として課題解決能力を高める余地があると感じました。
そこで、「この領域に本気で取り組むのであれば関わりたい」と考え、入社を決めました。入社後は、プロダクト開発だけでなく、組織づくりや戦略面まで幅広く関わりました。在籍期間は約5年半で、ちょうど入社タイミングがコロナ禍の初期だったこともあり、非常に難しい局面からのスタートでした。
ただ、その後は事業も大きく成長し、売上は入社前の約4〜5倍まで伸長しました。また、顧客価値を継続的に改善できる組織へと進化し、自分がいなくても回り続ける状態まで持っていくことができたと感じています。そうした節目を迎えたタイミングで、新たな挑戦に進むことを決断し、前職を離れました。
── 前職では、組織づくりにもかなり注力されていた印象があります。
そうですね。千での5年間を振り返って、何に一番力を入れていたかと聞かれたら、間違いなく採用だと思います。今の会社でも、そこは一貫しています。
最初の数年で取り組んだのは、マネージャー層の採用でした。当時はメンバー層が中心の組織だったので、まずは組織を支えるマネージャー層をしっかり採用しようと、2〜3年かけて取り組みました。
その結果、組織は徐々に大きくなっていきましたが、次に見えてきた課題は技術面、特に技術戦略の部分でした。私はVPoEとして、主に組織面や戦略面を担っていた一方で、技術面をさらに強化する必要があったんです。
そこで、前職でCTOとしてジョインいただいた竹澤さんにお声がけしました。株式会社アイスタイルやヤフー株式会社などで技術をリードされてきた、本当に経験豊富な方です。社会課題や会社の状況をご説明したうえで共感いただき、参画していただきました。
その結果、VPoEとCTOの体制が整い、組織面と技術面の両方をしっかり築くことができました。そこが、「自分がいなくても組織が前に進める状態をつくれた」と感じられた大きな要因の一つだったと思います。
トラボックス入社の背景|物流業界の“最後の課題”に向き合う理由
── トラボックスでも、全体を束ねるハイレイヤーの存在が求められていたのですね。
前職を辞めるとき、最初から「転職しよう」と決めていたわけではありませんでした。選択肢としては大きく二つあって、一つは、千に残って組織づくりではなく事業側により深くコミットしていく道。つまり、VPoEという役割を離れて、事業をつくることに集中するキャリアです。
もう一つは、別の業界に移る選択肢でした。日本ではDXが進んでいないと言われますが、実際に見渡すと、開発組織やプロダクトに課題を抱えている業界はまだまだ多い。その中で、幼保業界については、千に加えてコドモンやユニファといったプレイヤーも存在し、「この業界はこの先、より良くなっていくだろう」と思えたんです。
そう考えたときに、他の業界に挑戦するのもありだと思いました。そして、自分のこれまでのキャリアを振り返ると、ECの領域に長く関わる中で、「物流は最後の課題だ」と感じ続けていたことを思い出しました。
買い物体験は、画面上ではどんどん便利になっています。検索しやすく、比較しやすく、スムーズに決済もできる。でも、エンジニアとしてコントロールできるのはそこまでなんです。商品を買ったあと、安心・安全に、早く届くかどうかという体験には、なかなか踏み込めない。だからこそ、物流という領域には20代の頃からずっと関心がありました。
そのうえで、物流やファイナンスといった業界を見ていく中で、自分の中に一つの軸がありました。それは、単にSaaSを提供するだけでは、本質的な社会の課題解決には届かないのではないか、ということです。
── そこはかなりはっきりしていますね。
そうですね。少し極端に聞こえるかもしれませんが、たとえば、先生たちがWebサービスを使ったからといって、子どもが泣き止むわけではない。トラックドライバーがマッチングサービスを使ったからといって、荷積みや荷下ろしが楽になるわけでもない。社会の課題を本気で解こうとするなら、技術だけではなく、人の手も含めてどう解決するのかを考えなければいけないと思っています。
千もそうでしたし、トラボックスにも、そうした本質的な課題に向き合う姿勢があると感じました。そこが、自分がやりたいことと重なったんです。
実は、トラボックスを自分で調べて見つけたわけではなくて、キャリアを考えていたタイミングでスカウトをいただいたのが最初のきっかけでした。
── トラボックスとはどのように出会ったのですか?
実は、トラボックスを自分で調べて見つけたわけではなくて、キャリアを考えていたタイミングでスカウトをいただいたのが最初のきっかけでした。トラボックスの代表である皆川からスカウトサービス経由で直接連絡をいただきました。毎月いろいろなスカウトをいただくのですが、その中でトラボックスを見たときに、「物流の会社なんだ」と興味を持ったんです。
さらに見ていくと、Visionalグループであることも分かって、より面白そうだなと思いました。そこからまず話を聞いてみよう、というのが最初の入り口です。
その後、自分でも物流業界全体を調べてみました。他にどんな会社があるのかも見たうえで、最終的に「やはりトラボックスがいい」と思えた。それが入社を決めた経緯です。
── スカウトが来たあと、最初にお会いしたのは代表の方だったのでしょうか。
そうですね。最初の面談は皆川とお会いして、いろいろ話を伺いました。時期としてはちょうど1年前くらい、3月から4月あたりだったと思います。まだ千に在籍していて、まさに次のキャリアをどうするか考えていた時期でした。
そこから、皆川だけでなく、事業部長の石田や、メンバーの野田ともお話ししました。どんな人たちが働いているのか、どんな課題があるのか、何を実現したいのか。一通りお話を聞きながら、理解を深めていきました。
一方で、前職ではVPoEとしての立場もありましたし、引き継ぎも必要でした。そのため、千に正式に退職の意向を伝えたのは夏頃、7月から8月あたりです。その後、しっかり引き継ぎの期間をとり、最終的には11月末で退職し、12月にトラボックスへ入社しました。
── 改めて、トラボックスに入社を決めた理由を教えてください。
大きく三つあります。
一つ目は、Webだけで完結せず、リアルの世界をどう変えるかに向き合っていることです。単にWebサービスをつくれば解決する、という発想ではなく、現場そのものの課題に向き合っている。その姿勢に惹かれました。
二つ目は、そのための選択肢を取れる企業基盤があることです。リアルの課題を解決しようとすると、BPOのように人の手を使うこともありますし、場合によってはデバイスや新しいオペレーションも必要になります。そうした取り組みには、当然ながらキャッシュが必要です。まだ小規模なスタートアップだと、どうしても実現可能性の議論に終始してしまい、本当にやりたいことに踏み込めないこともある。その点で、トラボックスには十分な選択肢があると感じました。
三つ目は、「ビズリーチ」などを運営するVisionalグループに属していることです。社会の課題解決には、現場からの改善だけでなく、ときには業界団体や制度、規制との向き合いも必要になります。法律やルールを変えることが必要になる場面もある。そうしたときに、トップレベルの意思決定者や業界のキーパーソンと接点を持てる環境があることは大きいと感じました。
この三つをすべて満たしている会社は、実はあまり多くありません。実現のための「選択肢」があり、さらに「社会を変えるための信頼」と「志」がある。その意味で、トラボックスはかなり珍しい存在だと思いましたし、トラボックスがVisionalと本気でこの領域に挑むことに可能性と面白さを感じました。
── トラボックスで働く人たちについては、どのように感じていますか。
そこもすごく面白い点だと思っています。トラボックスには大きく二つの事業がありますが、それぞれで組織のキャラクターがかなり違うんです。
一つ目の本体事業であるトラボックスのサービスは、20年以上積み上げてきた実績があります。その分、サービス品質への責任感やプライドを持ちながら、お客様に真摯に向き合っているメンバーが多い。非常に堅実で、チームとしての強さを感じます。
一方で、新しく立ち上がっているFintoのチームは、まるでシリーズAのスタートアップのような勢いがあります。若いエネルギーがあって、挑戦する空気が強い。ひとつの会社の中に、こうした異なるキャラクターの組織が共存しているのは、とても面白いですね。
加えて、Visionalグループの一員ではありますが、いわゆる大企業的な堅苦しさや“しきたり”のようなものは、いい意味であまりありません。一方で、グループとしての基盤やアセット、たとえばグループウェアなどは活用できる。この「いいとこ取り」ができているのも、トラボックスの魅力だと思っています。

開発組織づくり|“つくれる組織”から“課題を解ける組織”へ

── 実際に入社されるタイミングで、何か明確なミッションを与えられていたのでしょうか。
「これをやってほしい」「あれを進めてほしい」といった形で、明確に限定されたミッションがあったわけではありません。代表の皆川をはじめとした経営メンバーは、いい意味で「将吾(橋本)さんが必要だと思うことを、自由度高くやってほしい」というスタンスでした。
そのため、自分なりに幅広く、業界を良くするために必要だと思うことに取り組んでいます。実際に入社して3〜4か月ほどですが、やりたいことが多すぎて、何から手をつけるべきかを整理しながら進めている状態です。
もちろん一つひとつ着手はしているのですが、「これもやった方がいい」「あれも進めたい」と思うことが本当に多い。ただ、現時点では自分一人で見ている範囲も広いため、そこは今後の採用ともつながってくる話だと思っています。
実際、組織の上流設計のようなテーマだけでなく、かなり細かな実務まで自分で巻き取ることもありますし、組織のビジョンづくりのようなところにも携わっています。本当に幅広く関わらせてもらっている感覚ですね。
── 現在どのようなことに取り組まれているのか、もう少し具体的に伺えますか。
大きくは、組織面と事業面の二つに分けてお話しできます。
まず組織面、特に開発組織に関しては、中心にあるのは採用です。採用には大きく二つの軸があります。一つ目は、やりたいことに対して、実装する量とスピードがまだ追いついていないという課題への対応です。事業として実現したい構想や、お客様に届けたい価値、つくりたい機能はかなり蓄積されてきている一方で、それを実現する組織体制がまだ十分ではない。なので、まずはエンジニア採用を強化しています。
もう一つは、単純に人数を増やすだけでは足りないという点です。トラボックスは上場企業グループの一員でもありますし、ファイナンス領域も含めて、お金に関わるサービスも扱っています。その中で、インフラやセキュリティに関する知見や体制は、引き続き強化が必要な部分だと認識しています。つまり、守るべき領域に必要なスキルを持つ人材の採用も重要なテーマです。
さらに、開発組織においては文化づくりにも取り組んでいます。もともと、事業ごと・チームごとの縦の繋がりが比較的強い状態がありました。そこで今は、開発メンバー全員が集まり、1か月の成果発表や課題共有を行う場を月1回設けています。
これは前職でも実践していた取り組みですが、効果を感じていたので、現職でも早い段階で取り入れました。横のつながりをつくり、「同じ会社の中で一緒にサービスをつくっている」という感覚を醸成することを狙っています。
事業面では、大きく二つあります。一つ目は、運送業界の企業データベースをしっかり構築していくことです。トラボックスは運送業界に対して20年以上サービスを提供してきていますが、実は業界全体として「どんな企業が、どのような事業を行っていて、どんな課題を抱えているのか」が十分にデータ化されていません。
世の中では「運送会社は約6万社ある」といった数字が語られますが、その実態がどれだけ明確に把握されているかというと、まだまだ不十分です。だからこそ、まずは業界の実態を構造的に把握できるデータベースをつくる必要があると考えていて、そこを主導して進めています。
もう一つは、トラボックス自体をもっとオープンなサービスにしていくことです。運送業界にはさまざまなシステムが乱立しているため、それらをどうつなぎ、どうすれば皆が使いやすく、アクセスしやすく、データも共有しやすい状態をつくれるかを考えています。業界全体の効率化や集約を支えるような連携のあり方を模索しているところです。
── 開発組織全体の体制についても教えてください。
まず、本体事業であるトラボックスのサービス側には、大きく3〜4つの開発チームがあります。たとえば、運送会社向けのサービスをつくるチーム、グロースやWebマーケティングを強化するチーム、社内システムに関わるチーム、さらに大手顧客向けのエンタープライズ領域を担当するチームなどです。
── 縦割りになりやすい構造でもあったんですね。
そうですね。どうしてもその構造上、縦割りになりやすい状態はありました。だからこそ、横のつながりをつくって、「一つの会社の中で一緒にサービス開発をしている」という文化をつくっていこうとしているところです。
少なくとも、先ほどお話しした成果発表や課題共有といった場については、事業の境目なく、一緒に行っています。
── 文化づくりを進める中で、抵抗感やハレーションのようなものはありましたか。
そこまで大きなハレーションはありませんでした。むしろメンバーというより、事業部長のような立場の人の方が、「どこまで一緒にするのか」を気にする傾向があったと思います。
ただ、私自身も、何もかも一つにまとめようとは考えていません。まずは、成果発表や課題共有のような「共有した方が良い部分」から一緒にしていく。一方で、開発プロセスや技術文化、開発サイクルのような部分は、事業ごとに違っていてもいいと考えています。
なので、「どこまでを揃えるのか」「どこから先は各事業に任せるのか」は、事業部長とも事前にすり合わせたうえで進めています。
── かなり早い段階で着手されている印象があります。
正直に言うと、自分の感覚では、まだやりたいことの2〜3割くらいしか進んでいません。ただ、「もうそこまで進んでいるんですね」と見えるのだとしたら、それは比較的早く着手できているのかもしれません。
それができた理由の一つは、すでに現場に自走できるメンバーや、実質的にリーダー・マネージャーとして動ける人たちがいたことです。だから、初動を早く切ることができました。
実際、12月に入社して、1月から2月にかけては主要メンバーと毎週1on1を実施していました。そこで、それぞれのキャラクターや、どんなことをやりたいのかを把握していったんです。そのうえで、2月から3月にかけて、徐々に新しい会議体や文化づくりの施策を立ち上げていきました。
私だけでなく、メンバーの皆さんも協力的だったことが、スムーズに進められた大きな要因だと思います。
── 開発組織としての強みや改善点についても伺いたいです。
強みからお話しすると、まず個々の実装力が高いメンバーが多いと感じています。そこは、今の組織の明確な強みの一つだと思います。
一方で、昨今は単純に「実装ができるエンジニア」だけが評価される時代ではなくなってきています。これはトラボックスに限らず、エンジニアリング全体の話でもありますが、「誰のために、何を、なぜ作るのか」を見定める力、つまりWhatやWhyを踏まえて考えるエンジニアリングの重要性が高まっています。
その観点でいうと、まだ伸ばせる余地はあると感じています。だからこそ、私自身がメンバーに対して、ビジネス理解やプロダクトマネジメント、顧客課題の捉え方といった、純粋なエンジニアリングスキル以外の部分も含めて伝えていきたいと思っています。
同時に、そうした視点を持てる人材を採用によって増やしていくことも、今後の重要なテーマだと考えています。
── 少し体制の話に戻るのですが、今後の組織構想についてはいかがでしょうか。
今は私がVPoEとして社長直下にいて、その下に大きく二つの事業部があります。それぞれの事業部長が、PdMやPOの責任者に近い動きをしている形です。
その各事業の中に、それぞれPdMと開発メンバーが所属していて、現在はそうした構造になっています。
そのうえで今後は、事業組織とは別に、トラボックス全体としての開発組織をしっかり立てていきたいと考えています。つまり、事業部組織と開発組織がそれぞれ独立して機能しながら、連携できる形をつくっていくのが、目先の大きな動きです。
── 今はそのための下準備を進めている段階なのですね。
そうですね。段階的にそこへ移行していくイメージです。
── AI活用についても伺わせてください。
AI活用については、大きく社内活用とプロダクト活用の二つに分けて考えています。
まず社内活用でいうと、エンジニアがClaudeをはじめとした生成AIを開発に使うのは、すでにかなり進んでいます。これは今、多くの会社で起きていることだと思います。
そのうえで、もう一歩進んでいると感じるのは、非開発のメンバー、つまりビジネス職のメンバーにも活用が広がっている点です。マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、エンジニア以外の職種でもAIを使う頻度が増えてきています。
私は、少数精鋭でどれだけ生産的に事業を回せるかが、これからの組織づくりの重要なテーマだと考えています。たとえば、100人規模の会社で1万社を支えるような組織をつくれたら面白い。そのためには、AIを社内に浸透させることが欠かせません。
実際、一部のマーケティングメンバーは、エンジニア以上に生成AIを使ってアウトプットしているケースも出てきています。組織の規模感としても、こうした活用が浸透しやすいタイミングでもあるので、そこは意識的に進めています。
一方で、プロダクトへのAI実装については、事業によって温度感が異なります。ファイナンス領域に関しては、今後どんどん取り込んでいく想定です。たとえば、請求書のデータ化や、企業情報と請求書内容の整合性確認、不正や反社リスクのチェック、与信調査など、AIと相性の良い領域は多くあります。
ただ、トラボックス本体のサービスについては、もう少し段階を踏む必要があると考えています。理由は二つあって、一つは、20年分のデータがまだ十分に整理されていないこと。もう一つは、ユーザーである運送会社の現場にとって、まだWebサービスを使いこなすこと自体がハードルになっているケースもあるということです。
そうした状況で、いきなりAIエージェントのような高度な機能を前面に出しても、ユーザーにとっては飛躍しすぎてしまう可能性がある。ですので、まずは社内での分析や業務効率化からAI活用を進め、その先にプロダクトへの実装を考えていくのが現実的だと思っています。
── 経営陣との連携はどのようにされているのでしょうか。
そこは本当に距離が近いです。社長がすぐ隣に座っていて、事業部長も目の前にいるような環境です。いわゆる社長室のようなものがあるわけではなく、同じフロアの中に自然にいる状態なので、かなりライトにコミュニケーションが取れます。
「ちょっと今いいですか」と立ち話で相談したり、「これを進めたので見てもらえますか」とその場で話したりすることも多いです。あらためて仰々しい会議体を組んでいるというより、日常的な対話の中で連携している感覚ですね。そこは非常にやりやすい環境だと思っています。
今後の展望|物流業界全体の課題解決に踏み込んでいく
── ここからは今後の展望について、改めて伺ってもよろしいでしょうか。
まず本体のトラボックスについては、案件のマッチングにとどまらず、物流業界にあるさまざまな課題を解決していきたいと考えています。ファイナンス領域もその一つですし、業界内に乱立しているシステムをつないでいくような取り組みも重要なテーマです。
また、物流業界には、まだデータ化されていない情報が非常に多く残っています。現場では、電話と紙の伝票を使いながら配車を行うケースも多く、「今この状況ですがどうですか」といったやり取りが日常的に行われています。こうしたアナログな環境が、今も当たり前に存在しています。
だからこそ、単純にWeb画面を提供するだけでは解決にはなりません。長年最適化されてきた現場に対して、インターフェースを大きく崩さずにどうデータ化し、どう技術で支援していくのか。そこにこそ価値があると考えています。
さらに、業界構造そのものにも向き合っていきたいと思っています。多重下請け構造や非効率な業務により、赤字でも仕事を引き受けざるを得ない企業が多く、そのしわ寄せがドライバーに集中し、担い手不足を招くという悪循環が生まれています。
最終的には、運送会社が適正な利益を確保し、持続可能な形で事業を営める状態をつくること。それがこの業界を本当に良くしていくためのゴールだと考えています。
ユーザー理解の進め方|現場に入り、直接声を聞く文化
── 今お話しいただいたようなリアルなユーザー理解について、トラボックスではどのように取り組まれているのでしょうか。
ユーザーの声を直接聞くことは、非常に重視しています。既存ユーザーや運送会社の経営者、配車担当の方々をお招きし、オフラインで交流会やインタビューの場を設けています。
物流業界は、オンラインだけでは信頼関係を築きにくい側面があるため、実際に会って話すことが重要です。開発メンバーやPdMも同席し、「どんな課題があるのか」「どこに困っているのか」を直接聞くようにしています。
加えて、現場に足を運ぶことも重視しています。配車業務の様子を見たり、CSへの問い合わせ対応を体験したりと、実際の業務に触れる機会を設けています。こうした一次情報をもとに、プロダクト改善につなげていくことを大切にしています。
この取り組みはもともとあった文化でもありますが、現在はオンボーディングの一環としても取り入れ、入社後に現場理解を深める仕組みとして定着させています。
── ここから採用の文脈にもつなげていきたいのですが、現在どのような方を求めているのか、また、どのような方が文化的にマッチしやすいのかを伺いたいです。
まず一つ目として、私たちは対面でしっかり事業をつくっていくこと、そしてコミュニケーションを重ねながら前に進めていくことを大切な文化としています。代表の皆川も含めて、「仲間と事業をつくっていく」ことを重視しています。
ですので、近い距離で仕事をすることに価値を感じられる方や、単にチャットだけで完結するのではなく、現場を見て、隣のチームの忙しさや困りごとも感じながら、一緒に事業をつくっていくことに共感いただける方は、非常に合うと思います。
もう一つは、エンジニアリングに対する考え方です。私たちは、単にコーディングができる、あるいは技術を深掘りできるスペシャリストであることだけを求めているわけではありません。もちろん、それも大切です。
ただ、それ以上に重視しているのは、顧客がどのような課題を抱えていて、それをどう技術で解決するのかを考えられることです。技術を目的ではなく手段として捉え、顧客課題の解決にフォーカスできる方は、とてもマッチすると思います。
── ちなみに、開発環境についても伺いたいです。
そこは整理してお伝えすると、トラボックスとFintoで共通している部分として、サーバーサイドは基本的にKotlinとSpringで統一しています。
フロントエンドについては、トラボックスがVue.js、FintoがReact.jsを採用している形です。ここは事業ごとに違いがあります。インフラは基本的にAWSです。全体としては、このあたりが主要な技術スタックになっています。一部、新しい機能や画面で試験的にNext.jsを使うことはありますが、ベースとなる構成は今お話しした通りです。
採用メッセージ|正社員・業務委託を問わず、価値観の合う仲間を広く募集
── 採用の文脈で、ほかに発信しておきたいことがあればぜひお願いします。
二点あります。
まず一つ目は、エンジニア採用ついてです。お伝えした通りですが、リードエンジニアやインフラエンジニアなどの募集を積極的に募集しています。
また、私たちは正社員採用だけでなく、業務委託の方も積極的に受け入れています。
その際に大事にしているのは、雇用形態にかかわらず、共通の価値観や文化にフィットするかどうかです。実際に、業務委託として参画した方が、その後正社員に転換した事例もすでに複数あります。ですので、「いきなり正社員はハードルが高いけれど、まずは業務委託で3か月、6か月関わってみたい」という方も、十分に歓迎したいと思っています。
もう一つは、今日はエンジニアを中心にお話ししてきましたが、採用はそれだけではありません。事業としては、営業責任者、マーケティング領域のPMM、デジタルマーケティング人材、PdM、営業マネージャーなど、さまざまなポジションで積極的に採用を進めています。
少しでも関心を持っていただける方がいれば、ぜひ接点を持てたら嬉しいですね。



