「あなたの家族像が実現し続けられる社会へ」というビジョンを掲げ、家族のライフイベントにおける意思決定を支援してきたコネヒト株式会社。
同社が運営する「ママリ」には、妊娠・出産・子育てに関する多くの悩みや体験が日々寄せられている。そこに蓄積されるのは、単なるデータではなく、日本の家族が今まさに直面しているリアルな声だ。
2026年、同社CTOに就任した野澤哲照氏は、AIとデータを武器に、その声を社会の価値へと変えていく挑戦を進めている。
今回は、野澤氏のキャリアの原点、コネヒト入社後の歩み、CTO就任の背景、そしてAIネイティブな組織づくりと今後の展望について伺った。
野澤 哲照 氏|コネヒト株式会社 CTO
長野県出身。山梨大学工学部コンピューターメディア工学科を卒業後、SIerにSEとして入社。ERPパッケージの導入・開発・保守に携わる。モダンな技術や機械学習への関心から、データ分析コンペティションの「Kaggle」などを通じてPythonやデータ分析の知識を深め、2019年にコネヒト株式会社へ機械学習エンジニアとして入社。
以降、機械学習、データ基盤整備、エンジニアリングマネージャー、プロダクトマネジメントなどを経験し、CTOに就任。
- 家族の意思決定を、ITの力で支える
- インターネットで人がつながる面白さを知った学生時代
- コンピューターを学ぶために工学部へ。学園祭実行委員で経験した企画運営
- 新卒でSIerへ。周囲を良くするために動いた5年間
- モダンな技術への関心から、機械学習エンジニアへ
- 未経験からの挑戦。入社前から進めたキャッチアップ
- ママリのコミュニティとデータに感じた可能性
- 機械学習エンジニアから、マネージャー、PdM、そしてCTOへ
- CTO就任の背景。AIとデータを武器に事業を伸ばすフェーズへ
- AIネイティブ化に向けた開発組織の変化
- AIネイティブとは、AI前提で仕事と組織を再設計すること
- 個人の生産性だけでなく、チーム全体の生産性をどう上げるか
- 風通しの良さと素直さが、変革の土台になる
- AIに任せる領域と、人が担うべき領域
- データを社会の価値に変え、家族の生活に還元していく
- 必要なのは、ユーザー志向と前提を疑う姿勢
コネヒト株式会社

家族の意思決定を、ITの力で支える
── 改めて、コネヒト株式会社の事業内容について伺ってもよろしいでしょうか。
コネヒトは、「あなたの家族像が実現し続けられる社会へ」というビジョンを掲げている会社です。家族のライフイベントにおける意思決定を、ITの力でサポートしていくことを目指しています。
また、ここ2年ほどでは、自治体や官公庁向けの支援にも取り組んでいます。社内では「ソーシャルコネクト」と呼んでいるのですが、「ママリ」だけではなく、より社会の中に入り込み、社会構造や社会の雰囲気そのものを変えていくような事業も展開しています。
インターネットで人がつながる面白さを知った学生時代

── 野澤さんご自身のキャリアについても伺いたいです。学生時代は、どのようなお子さんだったのでしょうか。
小学校の頃は、ずっとスポーツをやっていました。
長野県出身なのですが、野球とスイミング、あとはスピードスケートをやっていました。スピードスケートは東京だとあまり聞かないかもしれませんが、長野では比較的やっている人が多いんです。
親も「やりたいことは何でもやってごらん」と背中を押してくれるタイプで、いろいろ挑戦させてくれました。野球はそのまま高校卒業まで続けたので、学生時代はかなりスポーツに打ち込んでいたと思います。
── インターネットやITについては、いつ頃から興味を持たれたのでしょうか。
中学生の頃に、ちょうどインターネットが一般家庭にも普及してきたんです。うちにもパソコンが1台来て、それが今のキャリアにつながっている気がしています。
当時、メールはすごく革新的だと思っていました。遠くにいる人と家にいながらコミュニケーションが取れることが、すごいなと感じていたんです。
それで、クラスの人たちからメールアドレスを集めて、メールマガジンのようなものを配信していました。最近見つけた面白いフラッシュ動画などを送って、翌日それがクラスで話題になるのが楽しかったですね。
そこから、インターネットが好きだな、すごい技術だなと思うようになりました。
── それが、野澤さんにとっての原体験だったのですね。
そうですね。当時はそこまで深く考えていたわけではないのですが、同じクラスになったメンバーと、何か楽しいことができたらいいなと思っていました。
その感覚で、自然と行動に移していた気がします。
コンピューターを学ぶために工学部へ。学園祭実行委員で経験した企画運営
── その後、大学は山梨大学工学部のコンピューターメディア工学科に進学されています。進学時点では、もともとインターネットへの興味があったのでしょうか。
まさにそうです。インターネットやコンピューターの中身を知りたいという思いがありました。何を学びたいかと考えた時に、コンピューターかなと思い、学部や学科を選んだ記憶があります。
授業では、アルゴリズムやC言語など、興味のある領域はすごく楽しく、積極的に学んでいました。
── サークルでは、どのような活動をされていたのでしょうか。
学園祭実行委員に入っていました。大学で年に1回開催される学園祭の企画や運営を行う団体です。かなり大きい団体で、100人くらいいたと思います。僕は特別企画部という部に所属していて、4年生の時に部長を務めました。
特別企画部は、主に芸能人のアサインを担当する部門でした。仲介業者の方々とやり取りをしながら、「予算はこれくらいで、こういう方を呼びたいです」と相談し、企画を形にしていくようなことをしていました。
新卒でSIerへ。周囲を良くするために動いた5年間
── その後、新卒でSIerにSEとして入社されています。なぜSIerを選ばれたのでしょうか。
ざっくり言うと、システム開発に携わりたいという思いがあったからです。
多くの人に使ってもらえて、生活や仕事を支えるようなサービスをつくりたい。人の人生を少しでも豊かにできるものに関わりたい。そうした観点で会社を探していた記憶があります。
もう一つの理由は、その会社の本社が長野県にあったことです。
当時、少し長野県に戻りたい気持ちもあり、長野に拠点のあるIT企業をいくつか受けていました。その中でも、入社した会社はお会いした方々の雰囲気がとても良かったんです。
自分のやりたいことも実現できそうだと感じ、入社を決めました。ただ、実際の配属は東京になってしまったんですけどね(笑)。
── SIerでは5年ほど、ERPパッケージの導入、開発、保守に携わられていたとのことですが、それ以外に記憶に残っているエピソードはありますか。
良くも悪くも、古い文化が残っている会社だったんです。情報共有やコミュニケーションの仕方、使っているツールなども、かなり前時代的なところがありました。そこに一度メスを入れようとしたことがあります。
たとえば、「Slackを入れましょう」と提案したり、ナレッジを蓄積するためのサービスを導入しようとしたりしました。そのあたりは、かなり活動していた記憶があります。
── 社内の推進活動をされていたのですね。中学時代のお話とも少しリンクするように感じます。
そうですね。会社を良くしていきたいという思いもありましたし、周りで一緒に働く人たち、いわば半径10メートル以内の人たちが、もっと幸せになるといいなと常に思っていました。
── まさにコネヒトさんのビジョンにもつながる考え方ですね。
そうですね。そこに役立ちそうなことは、割と行動に落とせていたのだと思います。
モダンな技術への関心から、機械学習エンジニアへ
── その後、ERPの領域を経て機械学習やAIの領域に興味を持ち、コネヒトさんに機械学習エンジニアとして入社されています。なぜ機械学習やAIに興味を持たれたのでしょうか。
コネヒトに入社したのは2019年3月なのですが、その前から、IT系のイベントにはよく参加していました。平日の夜などに、いろいろなイベントへ行っていたんです。
前職では比較的古い技術を使っていたこともあり、イベントでさまざまな話を聞く中で、もう少しモダンな技術に触れたいという思いが強くなっていきました。
そこから自分で勉強を始めました。
何を勉強しようかと考えた時に、「こういうサービスを作りたい」というところから逆算して調べていくと、機械学習という技術があることを知りました。さらに、それはPythonという言語で使えそうだと分かり、そこがスタートだったと思います。
サービスを作りたいという思いと、モダンな技術に触れたいという両方の思いがきっかけとなり、Pythonなどを勉強し始めました。コネヒトに入社する1年ほど前から、そうした活動をしていました。
── そこから、機械学習エンジニアとしてキャリアを積んでいこうと思ったのは、いつ頃だったのでしょうか。
勉強を始めて半年ほど経った頃だと思います。
その頃にKaggleに出会いました。Kaggleはデータ分析のコンペティションプラットフォームなのですが、実際にコンペに出たり、Kaggleのコミュニティに入っていったりする中で、「これを仕事にするのは楽しそうだな」と思うようになりました。
── コネヒトさんに転職しようと思ったきっかけについても伺えますか。
大きく二つあります。
一つは、当時CTOだった島田さんの存在です。島田さんは機械学習を大学で学んでいたので、その直下で学べる環境がすごく良いなと思いました。
もう一つは、中学校時代のエピソードにもつながるのですが、コミュニティや、インターネットを通じて人がつながることに、もともと強い関心があったことです。
ママリもコミュニティのサービスです。そのため、自分の興味関心の輪の中にあるサービスだと感じました。
この二点が大きかったですね。
当時はまず、機械学習の仕事ができることを最優先に転職先を探していました。事業会社だけでなく、コンサル寄りの会社などもいくつか受けていました。
その中で、自分がやっていきたい方向性や、やりたいことに一番合っていたのがコネヒトでした。

未経験からの挑戦。入社前から進めたキャッチアップ
── 機械学習エンジニアとして入社されていますが、機械学習の実務経験はなかったということですよね。最初はどのような感覚でしたか。
最初は不安でした。
当時、自分としてはかなり勉強していました。もともと学ぶこと自体がすごく楽しかったので、前職にいた頃から、コネヒトのメンバーと会うたびに「今週はこんなことをしました」と話していた記憶があります。
内定をもらってから入社するまでの期間も、週1回くらいコネヒトのオフィスに行っていました。入社までに最低限必要なことを学ぶために、当時CTOだった島田さんや、前任の永井と、機械学習やインフラ面について話をしていました。
開発者としての期待値はある一方で、機械学習の実務は未経験だったので、そのギャップを入社までになるべく埋めようとしていました。
僕自身としても、入社前にディスカッションできる機会をいただけたのはかなりありがたかったです。わざわざ週に1回、1〜2時間ほど時間を取ってもらっていたので、不安がすべて消えたわけではありませんが、一定は解消されていきました。
また、Kaggleのコンペに出ていたこともあり、当時、島田さんからは「Kaggleで得た知見をプロダクトに活かしてほしい」と言われていました。
入社後は、会社が抱えている課題に対して、Kaggle上の似たようなコンペで上位になっていたソリューションを参考にしながら、「こういうアプローチでやってみましょう」と提案するような動きをしていました。

ママリのコミュニティとデータに感じた可能性
── 実際に入社して、ユーザーコミュニティの熱量やデータ量については、どのように感じましたか。
かなり生々しい声が多いと感じました。
長文で投稿されている方も多いんです。僕がそれまで慣れ親しんできたSNSは、Twitter(現在のX)のように短文でやり取りするものが多かったのですが、ママリではもちろん短文もある一方で、悩みや深い相談をびっしり書いている投稿もあります。
それをきちんと読んで、回答してくれるユーザーさんがいることに驚きました。
ほとんどインセンティブがないにもかかわらず、深刻な悩みに対して丁寧に回答してくれるユーザーさんがいる。そのことがすごいなと思いましたし、改めて良いコミュニティだと感じました。
── データ量もかなり多かったのでしょうか。
そうですね。多かったです。
Q&Aの投稿データも多いのですが、特に検索ログのデータが非常に多いです。今もそうですが、検索ログはかなり蓄積されています。可視化してみると、子どもの生年月日のデータに紐づいたさまざまなログがあることが、個人的に面白いと感じました。
たとえば、妊娠10ヶ月から出産までの期間に、特定の検索クエリが一気に増えることがあります。子どもの成長とともに、家族がどのようなことに悩んでいるのかが、検索ログから見えてくるんです。そのあたりはすごく面白いと思いました。
── データには、傾向が出るものなのでしょうか。
出ますね。子どもの月齢が1ヶ月違うだけでも、検索されるクエリはかなり変わります。データ分析が好きな人であれば、無限に見ていられるようなデータだと思います。
ユーザーさんのお子さんの年齢でいうと、妊娠期から3歳くらいまでがボリュームゾーンです。一方で、子どもが大きくなって、たとえば自分の子どもが5歳になった方が、これから妊娠・出産を迎える方に対して回答者として関わってくれるケースもあります。そういうユーザーさんも多い印象です。
一応、ママリポイントという仕組みはあるのですが、直接的に金銭的価値があるものではありません。なので、ほぼノーインセンティブでコミュニティが形成されているんです。
── それでコミュニティが成り立っているのは、すごいですね。
機械学習エンジニアから、マネージャー、PdM、そしてCTOへ
── ここからは、コネヒト社内でのキャリアについて伺いたいと思います。入社後、どのような変遷をたどってこられたのでしょうか。
2019年に機械学習エンジニアとして入社して、2023年頃までは機械学習エンジニア一本でやってきました。
その後、1年ほどエンジニアリングマネージャーを務め、続いてプロダクトマネージャーも一度経験しました。そして現在に至る、という流れです。あとは、データエンジニア的なこともやっていました。全社向けのデータ基盤の整備などにも携わっていましたね。
CTO就任の背景。AIとデータを武器に事業を伸ばすフェーズへ
── ここから今回のCTO就任の背景について伺いたいです。前任の永井さんは、コネヒトの技術力を高めていく役割を担われていたと理解しています。今回、野澤さんにバトンタッチされた背景として、社内ではどのようなお話があったのでしょうか。
背景としては、市場環境の変化や、昨今のAIを含めた技術トレンドの加速がありました。
永井は、技術力を伸ばしていくことや、組織基盤を固めることにフォーカスしてきました。そのフェーズから、今度はAIやデータを中心に、中長期で事業を作り、成長させていくフェーズに入っていく。
そう考えた時に、CTOという役割自体を再定義する必要がありました。
これからのコネヒトにおけるCTOは、AIやデータを武器にして事業を伸ばしていくことが役割になる。そういった文脈で、引き継ぎの話がありました。
── 就任のお話は、いつ頃あったのでしょうか。
1月中旬でした。よく覚えています。永井とは仲が良く、よくご飯に行ったりしていたのですが、その中で、「僕のキャリアでも、コネヒトかはさておき、どこかのタイミングで経営に携わってみたいと思っている」という話は、何度かしていました。
ただ、僕の中では、永井がCTOを丸3年くらいは務めるのかなと勝手に思っていたので、今回の打診はタイミング的に予想外でした。
それもあり、打診を受けた時は二つ返事で「やります」とは言えなかったです。
僕自身、コネヒトに来て丸7年くらい経っていました。そろそろ次をどうしようかと考え始めてもおかしくない時期だったんです。そのタイミングで「CTOをお願いしたい」と言われて、このオファーを受けるのであれば、少なくとも、もう何年かはコネヒトにコミットしたいと思いました。だからこそ、少し考えたいという気持ちがありました。
もちろん、気持ちはほぼ受ける方向でしたし、永井が言ってくれたからこそ応えたいという思いも強かったです。ただ、その点だけは考えさせてくださいと返事をしました。最終的には、1月中に返事をしました。
AIネイティブ化に向けた開発組織の変化
── CTO交代とは別に、開発チーム全体、組織全体としてはどうだったのでしょうか。AIネイティブというテーマを掲げて進めていくことに対して、開発組織にはどのような変化がありましたか。
これから変化していこうとしている、というのが大前提としてあります。
ちょうど3月、4月頃から、ママリの新機能実装を進めていて、それが5月中旬にリリースされました。その開発では、人間がコードを書く割合をかなり減らし、コーディングエージェントにコードを書かせる取り組みも行いました。
これまで自分たちが手を動かしてきたことの中で、AIに委任できるものは積極的に委任していく。そして、開発プロセス自体をもう少し再設計していこうという話を、エンジニアたちともしています。
社内でも、エンジニア組織はAIに比較的慣れ親しんでいます。まずはそこでいくつか事例を作り、それを徐々に会社全体へ広げていくことに取り組もうとしています。
── 現在の開発組織についても伺いたいです。新しく開発本部ができたというお話がありましたが、もともとの体制と現在の体制について教えていただけますか。
もともとは、3月まで一つの開発部があり、その部長兼CTOが永井でした。
4月からはシニアのメンバーも入ってきてくれたので、開発本部として体制を整えました。現在は開発組織の中に部が2つあり、それぞれに部長がいる形です。
一つは、ママリのグロースを担当する部です。もう一つは、ソーシャルコネクト、つまり自治体や官公庁向けのプロジェクトを推進する部門です。大きくはこの2つに分かれています。
レポートラインとしては、この2つの部を永井が見ています。僕は、全社的にAI化を推し進めることや、データを使った事業づくりにコミットする立場です。もちろん開発組織と切り離されているわけではありませんが、もう少し全社的な視点から全体最適を考えるポジションです。
なので、僕が開発組織を細かくマネジメントするというよりは、そこはある程度永井に任せています。そのうえで、僕はAIネイティブ化や、データを活用した事業づくりにコミットしているイメージです。
── 開発組織は、だいたい何名くらいの体制なのでしょうか。
現在は15名ほどです。
AIネイティブとは、AI前提で仕事と組織を再設計すること
── 改めて、野澤さんが考える「AIネイティブ」について伺いたいです。新機能開発でAIコーディングを活用されているというお話もありましたが、今後、AIに対してどのような取り組みをしていくのでしょうか。野澤さんにとってのAIネイティブ、そして会社にとってのAIネイティブとは何か。それがコネヒトの事業やママリにどうつながっていくのかを伺えればと思います。
AIネイティブとは何か?については、いろいろな言われ方があると思います。僕の中では、AIを前提に、仕事の流れや組織構造、意思決定のあり方を再設計することだと考えています。
今は、多くの業務や組織が、人間前提で構築されているはずです。ただ、そこにAIが入ってくると、人間のフローをそのまま当てはめるだけではうまくいかないと思っています。
だからこそ、AIがいることを前提に再設計する必要があります。さらに、その改善ループを回していくことで、AI自体も育っていく。そのような環境を作れることが、AIネイティブなのではないかと思っています。
社内でも伝えているのは、既存の業務フローの一部をAIに置き換えるだけではない、ということです。
たとえば、A、B、C、Dという業務フローがあった時に、BとCをAIに置き換えるという発想ではなく、そもそも業務フロー自体を再設計する。結果として、A、Bだけのフローになるかもしれない。途中のフローを削ることもできると思っています。そういった形で、業務や組織を再設計できる人を増やしていきたいです。
そのためには、社内の評価制度にも手を入れる必要があると思っています。AIを使いこなし、AIと一緒に働くスキルを持っている人を、しっかり評価できる制度にアップデートしていこうとしているところです。
個人の生産性だけでなく、チーム全体の生産性をどう上げるか
── AI前提で再設計していく中で、難しさを感じている点はありますか。
難しい点はいくつかあります。
エンジニアリングの話でいうと、個人の開発生産性はすごく上がっていると思います。コネヒトにおいてもそうですし、世の中全体で見てもそういった企業は多いと思います。
一方で、チームとしての生産性は、個人の生産性の上がり幅に比べると、まだそこまで上がっていないと感じています。
たとえば、個人のコーディングはAIを使うことでかなり速くなります。ただ、その後のレビューを人間が行っていると、そこで詰まってしまう。結果として、デプロイしてユーザーさんに届けるまでのスピードはあまり変わらない、ということが起きます。
これはコネヒトでも起きているので、開発プロセス全体の中で、どこまでをAIに任せるのかは、もっとチャレンジしていく必要があります。
もう一つは、限られた予算の中で、どのAIに投資するかです。今は、1週間後には新しいAIツールやサービスが出てきて、「これが良さそうだ」となることが定期的に起こります。そのため、一つに絞って全ベットしづらい。結果として、いくつかのツールを並行して使う状況になっていて、そこも悩ましいポイントです。
さらにもう一つは、AIのガバナンスです。これは各社が困っているところだと思いますが、AIを使う社員の利便性と、どこまでガバナンスをきっちりやるかの間には、トレードオフがあると思っています。そのバーをどこに置くのかは、課題としてあります。
── そうした課題に対して、すでに着手していることはありますか。
レビューや開発プロセスの再設計については、ちょうどいろいろ試し始めています。現場のメンバーもさまざまな取り組みを試してくれているので、少しずつ進んでいる感覚はあります。
また、それをビジネス側にどう展開していくかも考えています。ビジネス側のメンバーにも、自分の業務フローをAIにどう委任していくか、いろいろ挑戦してほしいと思っています。僕が就任してからは、ClaudeなどのAIツールを一部のビジネスメンバーにも使ってもらうようにしました。
それまでは主にエンジニアが使っていたのですが、ビジネス側にも広げ、業務を委任することにチャレンジしてみてほしい、という形で進めています。
ただ、ツールを配っただけだと使う人と使わない人に分かれてしまいます。そこをどう浸透させるか、全体のベースをどう上げていくかは課題です。
ハンズオンも行っていますが、それだけでは難しいので、いろいろ試していく必要があると思っています。現在の業務フローは、みんなが慣れ親しんでいるものです。それを一度壊して置き換えるとなるとストレスがかかりますし、カロリーも使います。進みづらい理由はすごく分かります。
そのうえで、どう推進していくかを考える必要があります。それも含めて、AIネイティブな組織づくりだと思っています。
風通しの良さと素直さが、変革の土台になる
── 反対に、組織として良い意味での特徴はありますか。
すごくざっくり言うと、良い人が多いです。
ここで言う良い人とは、たとえば「これをやってみたら」と伝えた時に、自分の中で良いと思えばすぐに行動できる人のことです。素直な人が多いとも言えるかもしれません。
ビジネス側とのコミュニケーションも、比較的スムーズに進みます。そこはコネヒトのすごく良いところだと思っています。中途で入社した人から話を聞くと、「今まで勤めた企業の中で一番風通しが良いです」「こんな会社があるんですね」と言われることもあります。
中にいると、それが一般的だと思ってしまい、あまり気づきづらいのですが、外から来た人の話を聞くと、これは一つの強みであり、良いところなのだと感じます。
── だからこそ、設計の部分をうまく進めていく必要があるのですね。
そうですね。 前向きに物事を受け止め、行動に移せる人が多い組織だからこそ、評価制度などをきちんと設計することで、一人ひとりが迷わず行動し、力を発揮できる環境をつくれるのではないかと思っています。
AIに任せる領域と、人が担うべき領域
── AIネイティブを目指している組織だからこそ伺いたいのですが、AIネイティブを掲げる一方で、「ここは人がやるしかない」と考えている領域はありますか。
ビジネス側でいうと、顧客との折衝や商談に関しては、直近数年は人間がやっていくのだろうと思っています。逆に言えば、それ以外の多くはAIに代替できるのではないかとも思っています。開発面でいうと、エンジニアリングの使いどころが徐々に変わっていくと考えています。
例えば、AIが自律的に良い品質のアウトプットを出せるような環境を、エンジニアリングで整えていくことに軸足が移っていく、みたいなことが起こってきていると思います。
── 現在、コネヒトの開発組織として使っているAIや、注目しているAIは何になりますか。
一番使われているのはClaudeです。特に開発組織では多く使われています。
全社的な話でいうと、Geminiを使っている方が多いです。また、社内のナレッジツールとしてNotionを使っているので、Notion AIも使っています。僕個人としてもNotion AIは好きで、比較的よく使っています。
今後については、もちろんいろいろなツールを使っても良いとは思うのですが、ツールが増えるとその分、社内ナレッジが分散してしまうデメリットもあります。
そのため、ある程度いくつかに絞って進めていくことになると思います。今でいうと、Claude、Gemini、Notion AIあたりを軸に、しばらくは推進していくのではないかと考えています。
データを社会の価値に変え、家族の生活に還元していく
── 今後、CTOとしてどのように組織や事業を見据え、組織成長・事業成長を目指していきたいと考えていますか。
僕がチャレンジしたいこととして一番大きいのは、データをビジネス価値に変えることです。
データをビジネス価値に変えられるということは、そこに需要があり、誰かから求められているということでもあると思います。そこに取り組んでいきたいという思いが強くあります。重複する部分もありますが、ママリに寄せられるユーザーさんの声は、一つひとつが日本の家族のリアルな声でもあると思っています。
日本の家族が今、どのようなことに悩んでいるのか。コネヒトは、その声が一番蓄積されているデータ企業だと僕は思っています。そのデータを、社会や自治体、あるいは家族向けの商品開発をしている企業にしっかり届けていく。そうすることで、新しい商品開発や、新しい自治体の子育て支援制度につながっていく可能性があります。
最終的には、コネヒトのデータから得られたものが、生活者の暮らしに役立つ。そういったループを作れると、一番良いなと思っています。そこまで実現していきたいですね。
必要なのは、ユーザー志向と前提を疑う姿勢
── それを実現するために、今どのような人が必要なのかについても伺いたいです。
一番は、ユーザー志向を持った方と一緒に働きたいです。今は、コーディングエージェントなども登場し、いろいろな人がいろいろなサービスを作れるようになっています。
だからこそ、ただサービスや機能を作るだけではなく、それが実際にユーザーさんの課題解決につながっているのか、体験向上につながっているのかが、より重要になっていくと思います。
ユーザーの視点に立って、「これはこういう課題を解決するものです」と考えられる。そして、それを体験や機能に落とし込める。そういった思考性を持った方と一緒に働きたいですね。
また、AIネイティブな組織を目指していくうえでは、前提を疑うことが大事だと思っています。今まで当たり前に存在していたものを、一度疑って見てみる思考性です。目の前にあるものが、必ずしも正しいとは限らない。そう考えたうえで、自分でいろいろと試し、先ほどの話にもあったように、業務や仕組みを再設計してみる。
そういった姿勢を持った方と、一緒に働きたいと思っています。
── コネヒトさんでは、ユーザー視点や事業ドメインへの理解がある方は非常に相性が良いのではないかと思います。そういったユーザー視点を持つ方にとって、コネヒトで働くメリットや、「ここに来れば成長できる」と言えるポイントはありますか。
他社さんがどれくらい同じような環境なのかは把握できていない部分もありますが、コネヒトではエンジニア発の施策やアイディアが、実際にプロダクトへ落とし込まれることもあります。
PdMとエンジニアの距離も近いですし、ママリでは現在、エンジニア出身のメンバーがPdMを務めていたりします。そのため、お互いに意見を言いやすい環境や文化があります。
ユーザー視点に立った時に、「こういう機能や体験を届けられた方が良いのではないか」とフラットに話せますし、実際に「それは良いね」となれば、チームとしてきちんとコミットする文化があります。
自分が良いと思っているものを発信しやすく、それが実際にユーザーへ届く可能性がある。そこは、コネヒトならではのポイントだと思います。



