あらゆる製品やサービスにソフトウェアが組み込まれる今、その品質は、私たちの暮らしや事業を支える見えない基盤になっている。
ソフトウェアテスト・品質保証を軸に事業を展開するバルテス株式会社で、取締役 兼 R&D事業部 事業部長を務める村上 崇 氏。数学への興味を原点に制御系SEとしてキャリアを始め、数々の修羅場を乗り越えながら、テスト自動化の第一人者として社内で存在感を高めてきた。
AIを前提に開発プロセスが変わるなか、ソフトウェアテストの役割はどう変わるのか。AI時代の品質保証、開発組織、求める人材、そして「AIを持つ企業」への展望を伺った。
バルテス株式会社 取締役 兼 R&D事業部 事業部長 村上 崇 氏
大手SIerでシステム開発やソフトウェア検証に約20年間携わったのち、2017年にバルテスへ入社。テスト自動化を起点に、チームづくりやプロダクト開発を推進し、2023年10月に取締役へ就任。現在はR&D領域を率い、AIを活用した開発・品質保証の高度化、新技術やサービスの企画・開発に取り組んでいる。
バルテス株式会社

ソフトウェアの安心を守る「最終関門」
── まずは、御社の事業内容について教えてください。
当社は、ソフトウェアテストを主な事業としています。現在は、さまざまな製品やサービスにソフトウェアが組み込まれていますが、それらを世の中に出しても問題がないか、リリース前に検証することが当社の最も大きな事業です。
そのほか、グループ会社ではソフトウェア開発やデザイン制作なども行っており、グループ全体でIT領域を幅広く手がけています。
── 村上さんから見た、バルテスの事業の魅力を教えてください。
私たちは、ソフトウェアの品質を支える会社です。ここでいう品質とは、単にバグがないことではありません。ユーザーにとって価値があり、安心して使えるかどうかまで含めた「ソフトウェアそのものの質」だと考えています。
例えば、エレベーターで4階のボタンを押したのに8階へ行ってしまったら困りますよね。普段は当たり前だと思っている動作も、適切にテストしなければ保証できません。
私たちは、ソフトウェアを安心して世の中へ出すための「最終関門」のような存在だと思っています。
数学からプログラミングへ。制御系SEとして歩み始めたキャリア

── どのような幼少期を過ごされましたか。
子どもの頃から、算数・数学だけは得意でした。中学、高校でも数学が一番得意で、大学も数学だけで受験できるところを選びました。
そろばんを習っていたこともあり、計算が速かったんです。また、数学は「なぜそうなるのか」を理解できれば、あとは問題を解けます。暗記することが比較的少なかったのも、自分に合っていたのだと思います。
私が大学に入学したのは1993年です。1995年にはWindows 95が登場し、そこからインターネットが普及していきました。数学科でもプログラミングに触れるようになり、その流れで新卒ではSIerに入社しました。
── プログラミングには、大学時代から興味を持ち始めたのでしょうか。
きっかけは卒業研究です。数学科の場合、卒業論文というよりも卒業研究という形になるのですが、そこでプログラミングに取り組みました。
自分の中では、数学とプログラミングは少し似ています。数学の証明問題のように、論理を組み立て、順序立てて進めていく点はプログラミングと共通しています。当時はそこまで深く考えていませんでしたが、振り返ってみると、自分の得意なことを活かせる領域だったのだと思います。
── 前職では、どのような仕事を経験されましたか。
最初は、マテリアルハンドリング、いわゆるマテハン領域の制御系SEをしていました。自動倉庫で、コンベアやクレーンを制御するシステムを開発し、およそ5年間その仕事に携わりました。
自分が作ったプログラムが画面の中だけで動くのではなく、実際にコンベアやクレーンを動かすところまで見られたのは、非常に良い経験だったと思います。
その後は、フィーチャーフォンの検証を担当しました。端末に搭載されていたJavaの評価に加え、FeliCaのチップやGPS機能の検証にも携わりました。どちらかというと、エンジニアでも敬遠しがちな難しい領域を多く担当していましたね。
── 数多くの「修羅場」も経験されたそうですね。
肉体的に過酷な現場もあれば、プロジェクト上の修羅場もありました。
マテハン領域の仕事では、磁石を焼く炉のすぐそばで、エアコンも椅子もない環境のなか、長時間にわたって現場対応したことがあります。真冬の冷蔵倉庫で作業し、外へ出たときに暖かいと感じたこともありました。
そうした経験があるので、オフィスに椅子があり、エアコンが効いているだけで、「本当に恵まれているな」と感じますね。
問題が起きたプロジェクトの「火消し」も数多く任されました。どう表現するのが適切かは分かりませんが、「とりあえず村上を入れておけば大丈夫だろう」と思われていたのかもしれません。何も知らないプロジェクトに、突然入れられることもありました。
テスト自動化を武器に、一般社員から取締役へ
── 前職には約20年間在籍されています。バルテスへ転職したきっかけを教えてください。
前職の本社は東京にありましたが、私はUターンで福岡に戻り、最終的には現地のメンバーをまとめる役割を担っていました。福岡のメンバーは4名ほどで、それぞれ顧客先に常駐していました。ただ、離れた拠点で働いていたため、自社内でコミュニケーションを取りにくい状況でした。
そのようななかで知人から声をかけてもらったことが、バルテスへ転職するきっかけです。福岡のメンバーと直接コミュニケーションを取りやすくなることに加え、一つのプロジェクトに閉じず、幅広いことへ挑戦できる点にも魅力を感じました。最終的には二つ返事で入社を決めました。
前職とバルテスのメンバーが同じ顧客先に常駐していたこともあり、私の名前は以前からバルテス社内で知られていたようです。私はどちらかというと声が大きいほうなので、良くも悪くも、さまざまな噂が伝わっていたのかもしれません(笑)。

── 2017年の入社当時は、どのような仕事を担当されていたのでしょうか。
最初は「クルー」という一般社員の立場で入社し、主にテスト自動化や負荷テストに取り組みました。
前職でもテスト自動化をはじめ、エンジニアでも敬遠しがちな領域を数多く担当していました。その経験を活かせる仕事でしたね。
── そこから取締役に至るまで、どのようなステップがあったのでしょうか。
「テスト自動化」というキーワードが大きかったと思います。
最初は一人で取り組んでいましたが、やがてチーム化することになり、自動化チームのマネージャーになりました。その後、取り組みをプロダクト化しようという話が生まれて副部長になり、さらに複数のプロダクトを生み出していくなかで部長へと役割が広がりました。
管理職になる前、当時の事業部長から「プロダクトについてプレゼンしてほしい」と言われたことがあります。通常のミーティングだと思って参加したところ、社長を含めた役員が全員そろっていて、「そういう場だったのか」と驚きました(笑)。
それでも、普段と変わらず淡々と説明しました。その場をきっかけに、役員の方々にも名前を覚えてもらえたのではないかと思います。
── 2023年10月に取締役へ就任されています。就任時に期待されたミッションについて教えてください。
就任時に、明確なミッションを個別に伝えられたわけではありません。ただ、取締役になった後、それまで強く意識していなかった中期経営計画を改めて確認したんです。
そこには、人月で売上を立てるビジネスだけでなく、それ以外の方法でも収益を生み出せる仕組みをつくる必要性が掲げられていました。計画を改めて見て、その中心を担うことが自分に期待されているのだろうと理解しました。
── ご自身では、どのような点が評価されて取締役に選ばれたと分析されていますか。
「このことなら村上に聞けば分かる」という認識が、社内で定着していたことだと思います。
そのきっかけはテスト自動化でした。「自動化」という言葉が出ると、自然と私の名前も挙がるようになったんです。その認識が現場から管理職、役員へと広がり、役員が参加するミーティングにも呼ばれることが増えていきました。
自分に発信力があるとはあまり思っていませんし、人前で話すことが得意なわけでもありません。ただ、エンジニアとしての考えを持ち、それを発信してきたことは、一つの理由かもしれません。
社外で登壇する機会もありましたが、やると決まったら腹をくくるのは早いほうです。決まった以上は、開き直ってやり切る。それくらいですね。
品質×AI×セキュリティ。R&Dから新しい価値を生み出す
── 現在、R&D事業部はどのような体制になっているのでしょうか。
R&D事業部には、「AI技術推進部」と「プロダクト開発部」があります。
プロダクト開発部では、開発、品質保証(QA)、カスタマー領域のメンバーが、プロダクトごとにチームを組んでいます。自動化ツールや管理ツールなど複数のプロダクトを展開しており、マネージャーがそれぞれ複数のプロダクトを担当しています。
AI技術推進部では、AI技術の活用を進めています。開発にはグループ会社のメンバーも関わっており、東京、福岡、大阪の各拠点を横断してチームを組んでいます。
── 離れた拠点間では、どのように連携していますか。
アバターを使って参加するオンラインオフィスを導入しています。コロナ禍に入った2020年前後から継続して利用しており、基本的なコミュニケーションや作業は、その環境で円滑に進められています。
一方で、私たちの部門ではでは週3日出社というルールも設けています。出社とリモートには、どちらにも一長一短があります。対面のほうが仕事の質を高めやすい部分もありますが、現在の働き方に合わせて組織やプロセスを変えていく必要もある。その間で試行錯誤しているところです。
── R&D事業部長として、どのような部分に魅力を感じていますか。
事業全体の軸は品質ですが、R&Dでは、AIをはじめとする新しい技術と、これまで培ってきた品質の知見を組み合わせ、新しいものを生み出せます。
新しい技術を、そのまま既存事業へ適用できるとは限りません。ただ、そこに何か一つ要素を加えたり、別の技術と組み合わせたりすることで、新しい価値に変わることがあります。
私の管轄にはセキュリティ領域も含まれています。新しい技術と品質、セキュリティを組み合わせながら、さまざまな可能性を形にできることが大きな魅力です。
── 現在、特に注力している取り組みを教えてください。
中期経営計画にもつながる取り組みとして、品質に関するプラットフォームの構築を進めています。当社が持つ複数のプロダクトを、シームレスにつなぐ構想です。
例えば、AI仕様書インスペクションツール「QuintSpect(クインスペクト)」で解析した内容を、生成AIテスト設計ツール「TestScape(テストスケープ)」へとつなげていく。これまで人の手で行っていた受け渡しをAIが中継できるよう、MCP対応を進めています。
人が作業することを前提とした仕組みから、AIが担うことを前提とした仕組みへ、大きく舵を切っています。

AI駆動開発で見えた、「人がボトルネックになる」という課題
── 「AIネイティブ化」に向けて、開発プロセスも変えているのでしょうか。
最も大きいのは、AI駆動開発への移行です。AIを中心に据え、開発プロセス全体を組み替えました。
設計、実装、テストといった工程を、どこまでAIに任せられるかを検討し、基本的にはAIでアウトプットを出しています。その一方で、「この工程だけは必ず人が確認する」というレビューゲートを設けています。
AIを使えば、動くものを非常に速く作れます。ただ、それを世の中に出せる品質まで高めるには、そこから時間がかかります。
そこで、「QA4AI」、つまりAI機能をどのような基準で評価するかという考え方が重要になります。AIが意図していない処理をしていないかも、確認しなければなりません。
もう一つの課題が、暗黙知の言語化です。特定の人しか知らない知識をAIも活用しながら抽出し、できる限りドキュメントとして残す取り組みを進めています。
── 「人がボトルネックになっている」ともお話しされていました。
スキルよりも、量の問題です。
これまでは人がコードを書いていたため、10名ほどの開発組織でもレビュー量に大きな問題はありませんでした。しかし、AIを使い始めたことで、プルリクエストの数が何十倍にも増え、人の目ではすべてを確認し切れなくなっています。
AIによって開発組織全体が高速化した結果、もともと弱かった部分まで一気に顕在化しました。高速化による弊害が出ているともいえます。
入社歴を問わず、試した技術をプロダクトへつなげる
── 開発組織の強みや魅力について教えてください。
きちんと意見を発信すれば、入社歴に関係なく、新しいことへ挑戦できる点です。
AI技術に関するニュースが出れば、メンバー同士ですぐに共有します。新しい技術を試して、「こういうことができそうです」という段階でも、アイデアを挙げてもらえれば、「では、実際に作ってみよう」と動き始めます。
月に1回、AI技術に関する共有会も開催しています。社長を含む役員へ新しい技術やアイデアをプレゼンし、可能性を感じたものはプロダクト化へ向けて進めます。
毎月二つから三つほどのアイデアが、私や部長の指示ではなく、メンバーから自然に上がってくる。それが今の組織の良いところだと思います。
── 一方で、組織として改善すべき課題はありますか。
プロダクトの品質に対する考え方を、組織全体でそろえることです。
例えば、エラーメッセージに「処理に失敗しました」と表示するだけでは、ユーザーは次に何をすればよいのか分かりません。そのため、「失敗した事実だけでなく、次に取るべき行動まで書きなさい」と伝えていますが、言葉だけでは十分に浸透しないことがあります。
人に繰り返し伝えるだけでは限界があるため、仕組みとして品質を担保しなければなりません。AIは指示された内容を反復して実行することが得意なので、レビューの一部をAIに担わせることも検討しています。
これは若手だけの問題ではありません。途中から参画するビジネスパートナーの方も含め、誰が参加しても一定の品質を保てる仕組みをつくる必要があります。
AI時代のテストは、「実行」から「判断」へ
── テスト領域では自動化やAI活用が進み、将来的には人が関わる場面が少なくなるのでしょうか。
仮にAIがすべてのテストを行い、「問題ありません」と判断したとして、それだけで安心して世の中へ出せるかという問題があります。
現時点では、「AIが問題ないと言ったから大丈夫」という説明は通用しません。AIが作成したドキュメントについて、「AIが出力したものなので、内容は把握していません」とは言えないのと同じです。
そのため、私たちの仕事も、人が手を動かしてテストを実施することから、AIや自動化ツールによる検証結果を確認し、最終的に良いか悪いかを判断することへ変わっていくと思います。
その判断には、「何を検証し、なぜ問題ないといえるのか」を論理的に説明できる根拠が必要です。テストの知見と、事実を裏付けるデータに基づいて判断する役割は、しばらく人に残るでしょう。
一方で、人が手を動かして検証する作業は、早い段階でAIや自動化へ置き換わっていくと思います。
── スタートアップを中心に、プロダクトを早く市場へ出すことが重視されています。テストの重要性をどのように考えていますか。
バグがあっても品質の良いプロダクトはありますし、反対に、バグがなくても品質の悪いプロダクトもあります。バグの有無と品質は、必ずしもイコールではありません。
重要なのは、利用した人が価値を感じられるプロダクトになっているかどうかです。要件どおりの機能があり、正しく動いていても、使いにくければ、ユーザーにとって価値がないかもしれません。
一方で、自分が作ったものは動きを理解している分、「これくらい確認すれば大丈夫だろう」と判断が甘くなりやすい。そこで重大な不具合が発生し、お客様へ迷惑をかけたり、データを消失させたりすれば、言い訳はできません。そうした事態を防ぐために、テストがあります。
自分が作ったものを客観的に評価し、品質の高い状態まで持っていけるエンジニアは、本当に優秀だと思います。「おそらく動くだろう」と考えていたとしても、きちんと検証し、エビデンスを残す。やるべきことを確実に実行できる人には、大きな安心感があります。
テストの重要性を端的に表すなら、「何かが起きたときに、責任を持って説明できますか」ということだと思います。
── テストを設計するためには、どのような知識が必要なのでしょうか。
非常に幅広い知識が必要です。
書かれた手順どおりに操作して、OKかNGかを判定するだけでなく、テストそのものを設計するには、開発、インフラ、セキュリティ、機能など、さまざまな領域を理解しなければなりません。
考えられるすべてのケースを実施すれば、何十万件、何億件という規模になりかねません。その中から、「例えば、1,000件のテストで品質を保証するには、どこを確認すべきか」を設計する。そこには、広範な知識と判断力が求められます。
私自身も、すべてを完璧にできるわけではありません。関係者と会話しながら温度感を捉え、「ここを重点的に確認すべきではないか」と、毎回緊張感を持って判断しています。
求めるのは、学び続け、技術を価値へ変えられる人
── AI時代に、バルテスで活躍できるのはどのような人でしょうか。
高い技術力を持っていることも魅力ですが、現時点の技術力以上に、継続して学べることを重視しています。
私自身、大学が提供している講座を受講したり、セミナーに参加したりしています。メンバーも同じように学んでいるため、「これを受講したい」「この分野を学びたい」と、自ら行動できる方が合うと思います。
コミュニケーション能力については、最低限の意思疎通ができれば十分です。研究者気質で、人前で話すことが少し苦手な方でも、1対1でコミュニケーションを取れるのであれば問題ありません。
ただし、研究だけを続けたい方よりも、研究成果を実際のプロダクトや価値へつなげたいという意識を持っている方を求めています。技術をどのように社会や事業の価値へ変えるかまで考えられるかどうかが、大きな違いになると思います。
人材面では、AI関連のAPIを利用できるだけでなく、機械学習をはじめとする基礎的な仕組みまで理解しているメンバーも増やしていきたいですね。
「AIを使う企業」から「AIを持つ企業」へ
── 最後に、今後実現したいことを教えてください。
まずは、中期経営計画に掲げる品質プラットフォームを実現し、プラットフォーマーになることです。これは、必ず達成しなければならないミッションとして取り組んでいます。
もう一つは、外部企業のAIに依存するだけでなく、自分たちの管理下にあるAIを持つことです。
現在は、Anthropicの「Claude」やOpenAIの「GPT」など、外部企業が提供するAIに頼っている部分があります。ただ、外部モデルは提供終了やバージョン変更によって挙動が変わることがあり、自分たちではコントロールできません。
個人であれば、AIを使いこなすことが価値になると思います。しかし、企業はAIを活用するだけでなく、AIそのものを持たなければならない。それが私の考えです。
その一環として、バルテスグループでは滋賀大学との産学連携を進めています。ローカルLLMを含む自社生成AI基盤や、AI時代の品質基準に関する研究にも取り組んでいます。
「AIを持つ企業になる」。それが、私に課せられたもう一つの隠れたミッションだと思っています。



